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3-4 壁を壊すのに必要な回数は(その4)

第3部 第14話になります。

宜しくお願いします。


初稿:17/12/27


<<<登場人物紹介>>>


キーリ:幼い体で転生後鬼人族に拾われるも村が滅ぼされた事で英雄への復讐を誓って、冒険者となった。国王殺害の濡れ衣を着せられ逃亡生活中。

フィア:パーティのリーダーで王国の王女。国王殺害犯としてキーリ、レイスと共に逃亡生活真っ只中。末期のショタコン。

レイス:フィアに付き従うメイドさん。フィアと共に一緒に生活中。

アリエス:帝国貴族の筋肉ラブな女性。剣も魔法も何でもこなす万能戦士。

カレン:弓が得意な猫人族で、キーリと同じく転生者。キーリとは異父兄妹になる。

ギース:スラム出身の斥候役。不機嫌な顔で舌打ちを連発する柄の悪さが売り。意外と仲間思い。

シオン:狼人族の魔法使い。頑張りやさんで、日々魔法の腕を磨く。実家の店がパーティの半拠点状態。

イーシュ:パーティのムードメーカー。勉強が苦手で三歩歩けばすぐ忘れる。攻撃より防御が得意。

ユキ:キーリと一緒にやってきた性に奔放な少女。迷宮核を自ら作り出したりと不思議な力を持つが正体は不明。

ユーフェ:スラムで住んでいた猫人族の少女。フィアに雇われた後、家族として共に過ごしていた。時々不思議な勘の鋭さを見せる。

シン:王国南部のヘレネム領を治めるユルフォーニ家の嫡男。キーリ達を匿っている。





「――なるほど、ここ最近ずっとお悩みだったのはそういう訳だったのですね」


 並んで座り、イーシュの話を聞き終えてマリファータは合点がいったと頷いた。


「ああ……情けねぇけど俺一人だとどんだけ悩んでもどうすりゃいいのか分かんねぇんだ」

「ですけどイーシュさんは十分強いと思いますし、技術的にも私よりずっと上です。そんな私がアドバイスだなんて……」

「頼む! 硬いモンスター相手だと剣の技なんてあんまり役に立たねぇし、他の仲間みたいに腕力も強い訳じゃねぇ。でも仲間に頼りっぱなしなのも悔しいし、このままじゃダメなんだ。

 マリファータさんは一人で強くなる旅をしてきたんだろ? どうすりゃもっと強くなれるか、なんか良い案知らねぇかな?」

「そうですね……」


 イーシュの頼みにマリファータは腕を組んで頭を悩ませる。彼女は「案の一つですが」と前置きしてすぐに思い浮かんだ考えをまず口にする。


「武器の質を見直してみる、というのは如何でしょうか? イーシュさんもCランクですし、数打ちの武器ではもう役不足だと思うんですが」

「……そっちはもう手を付けたんだよ」


 今のイーシュの剣はそれなりに値の張った代物だ。歴史に名を残したり世に広く名が広まるような名剣ではないが、スフォンに工房を構える小さいが腕の良い職人に頼み込んで丹念に鍛えてもらったそれなりの逸品である。だからこそDランクレベルのモンスターには十分なダメージを与えられている。だがCランクや、Dランクでも硬いモンスターを相手にするとそれでも力不足感は否めない。

 マリファータの勧めるように武器のレベルをもう一段上げる、というのはイーシュも確かに考えた。以前に臨時でパーティを組んだ新米が、自身に似合わぬレベルの武器を嬉しそうに見せびらかせていたのを冷やかした時に「これは未来の自分への先行投資です!」と頭良さげな事を言っていた。それをきっかけにイーシュ自身も身の丈に合わない武器を先に手に入れるのもいいかもしれない、とその時は思ったのだが、一晩寝て改めて考えた時にそれは違うと思って止めたのだった。


 ――それじゃ頼り切りになるのが仲間から武器に代わっただけで、今と変わらないままじゃないのか?


 イーシュ自身が強くなりたいのであって、武器で強くなったとしてもそれで自分が納得できないのであれば意味がない。故にマリファータの提案を、イーシュは申し訳ないなと思いながら却下した。


「確かにそうかもしれませんね。となるとですが……」


 マリファータも本気で勧めたわけではなかったのだろう。あっさりとイーシュの意見を受け入れて「むむむ……」と唸りながら頭を再び捻り出す。

 けれどもイーシュはもう既に少しだが楽になっていた。内に溜まっていたものを吐き出したからだろう。強くなりたいという思いは凄くあるが、さっきまでの性急さを求める気持ちは薄れていた。

 それでも多少は落胆もある。彼女なら何か妙案の一つや二つ授けてくれるかもと勝手な期待をしていた。だが事はそう上手くはいかないらしい。そも、そんなに簡単に強くなれるはずもないのだから。

 話を聞いて、親身になって頭を悩ませてくれるだけありがたい。落胆を押し隠しつつもそう言い聞かせてイーシュは話を終わらせようと腰を浮かしかけた。と、ちょうどその時、「あ」とマリファータが軽く手を叩いた。


「そうだ。他の武器についても勉強してみるというのはどうでしょうか?」

「他の武器?」

「はい! 私の話で恐縮なんですけど、色んな武器を勉強することで戦い方の幅が広がりましたし、中には剣にも応用できる技とかもありました。何かきっかけが掴めるかもしれませんよ?」

「えっと……でも俺、剣以外苦手なんだよな」


 養成学校時代にも色んな武器を学ばされたし、道場でも多くの武器を扱ってる故にイーシュ自身もそれなりに練習した経験もある。だが自分で見てもお世辞にも剣以外の武器には才能の欠片もあるとは思えなかったし、今更剣以外の武器の取扱い方を本気で勉強する気にもなれなかった。


「別に武器じゃなくても良いんです。魔法なんてどうですか? 使い方次第では剣よりも強力な攻撃手段になります。養成学校の入学時に測ったと思いますけど、イーシュさんの魔法の特性はどういったものですか?」

「あー……ごめん、忘れちまった」


 魔法については、学校で習い始めて早々に諦めていた。何を言っているのか全くもってちんぷんかんぷんで、ひたすら暗号を聞かされているようで苦痛だった記憶しかない。おかげで肝心の魔法に関しては全てが忘却の海に置き去りになっている。


「そう、ですか……あ、でしたら」


 少し落ち込んだマリファータだったが、直後に何かを思い出したらしく立ち上がった。そして見上げたイーシュの手を掴むと彫像の方へ引っ張っていく。


「お、おい!」

「すみません、ちょっと来て下さい」


 イーシュに有無を言わせない勢いでずんずんと前へと進んでいく。


「司祭様、すみません。あのお部屋をお借りしてもよろしいですか?」

「ああ、マリファータ。構わないよ。あまり頻繁に使われると困るけれど、そちらの御方もお悩みのようだからね。その代わり他の物には触れないでおくれよ? ああっと、分かってると思うけれど、中は暗いから気をつけて」

「ええ、お気遣いありがとうございます」


 帰ろうとしていた司祭を呼び止めて許可をもらうと、マリファータは彫像に向かって右奥にある部屋の扉を開けた。

 中は司祭の言葉どおり真っ暗で足元も覚束ない。しかしマリファータは慣れた手つきで扉の直ぐ側にある灯りを点ける。そして二人の目の前に現れたのは地下へ潜る階段だ。最初の数段は明るく照らされているが、先は光が届かない程に暗い。


「足元に気をつけてくださいね」

「どこに連れてくってんだよ?」

「ふふ、内緒です」


 いたずらっぽく笑って口元に指を当てるマリファータ。イーシュとしては肩を竦めながらも従うしかなさそうだ。

 やれやれ、と彼女の後ろに付いて階段を降りるが、階段はすぐに終わった。そしてそこにはもう一つ小部屋があり、そちらの照明を点けると中は倉庫のようだったが何かしらの作業をする部屋でもあるのだろう、作業台の端に工具が整理されている。

 マリファータは物置棚に置かれていた水晶球を取り出した。台座の部分には手のひらを乗せる部分があり、各指の先にはランプのような小さな玉がついている。


「あれ? これって……なんだっけ? 見覚えあるんだけどな……」

「これは魔法特性を調べるための道具ですね。イーシュさんが見覚えがあるのは、恐らく養成学校入学時に使ったからだと思います」

「あー、言われてみりゃ確かにそうかも」

「はい。というわけでここに手を置いて下さい。古いですけど、キチンと動くことはこの間確認してますから大丈夫ですよ」


 マリファータに促されるが、イーシュは気が進まない。魔法の才能などありそうも無いし、今更学びたくもない。今でもシオンの広げている魔法書を見るだけで頭がクラクラしてくる。

 それでもせっかくマリファータが準備してくれたのだ。調べるだけ調べてみるか、と微笑む彼女の顔を見ながら台座に手を置いた。

 するとじわり、と五本指の先全てが仄かに様々な光を発し始めた。赤、青、白と色とりどりに光り徐々に強くなっていくが、やがてそれも光っているとハッキリ分かる程度のところで止まった。

 とりあえず全く才能が無かったわけじゃないらしい、と無感動に自身の特性を示す光から視線をマリファータに移す。だがイーシュとは対照的に、ぱぁと嬉しそうに笑っていた。


「す、凄いです! 全属性で特性が『2』あるなんて……!」

「『2』って下から2番目だろ? 使えるったってどうせ大したことねーんじゃねぇの?」

「そんな事ありません! 確かに魔法使いとしてやっていくには心もとないですけれど、それでも複数で2あれば、懸命に磨けば一端の魔法使いにはなれます。それに光神魔法の属性もあるなら大きな武器ですよ!」

「なんで?」

「光神魔法の才能がある人は少ないんです。加えて光神魔法は他の魔法と違って同じランクの魔法よりも一段威力が高いんです。だから光神魔法で『2』であれば、他の魔法だと『3』に相当すると思って下さい」


 彼女の説明にイーシュは驚いた。特性が「3」といえばシオンやアリエスにも匹敵する。ならば興奮した彼女が言うとおり大きな武器となるだろう。


(けどなぁ……)


 強引に連れられて調べはしたが、自分に魔法の勉強が続けられるとは思えない。才能はあるかもしれないが、理解できる頭があってこそだ。自分にとっては宝の持ち腐れでしか無い。


「イーシュさん」


 そんな彼の心情などお構いなしに、マリファータはイーシュの手を握ると真剣な眼で見つめてきた。


「このまま才能を眠らせておくなんてもったいないです。

 実は……私も光神魔法が得意なんです。剣ではもう私には無理ですけど、魔法ならイーシュさんのお役に立つことができます。今日から一緒に練習しましょう!」


 善は急げ、とマリファータは手を繋いだまま部屋を飛び出そうとする。彼女のその様子を見てイーシュは慌てて制止した。


「ちょ、ちょっと待ってくれって! 俺には魔法なんて……」

「できます! いえ、使えるようにしてみせます! 私を信じてください!」


 人に教えるのが好き、というだけあって彼女の眼はキラキラしていた。グイグイと迫る彼女に若干引き気味ながらもイーシュは何とか彼女を引き剥がした。


「お、俺には無理だって! マリファータさんも知ってるだろうけど、相当俺は頭わりぃし体を動かす方が性に合ってるから長続きしないって。養成学校で習ったことも自慢じゃねぇけどまぁっっったく覚えてねぇし……」

「大丈夫です。教え方には自信がありますから。使うだけなら、学者の方みたいに隅から隅まで理解する必要はありませんし、感覚的な部分も大きいですから練習すればイーシュさんも使えるようになります。絶対です!」

「けどなぁ――」

「イーシュさん?」


 マリファータは渋る彼の名を再び呼んだ。イーシュは逸していた眼を彼女に向け、少しだけ息を詰まらせた。

 彼女は微笑んでいた。だがやや細められた瞼の隙間から覗く彼女の瞳は笑っていない。その眼に見据えられ、イーシュは無意識に体を震わせたがそのことに気づかなかった。


「――強く、なりたいんじゃないんですか?」

「あ、ああ。強くなり……たい」

「できない言い訳ばかりして、強くなれると思いますか? その考え方こそが、イーシュさんが今、壁に当たって乗り越えられていない理由じゃないんですか?」


 耳が痛かった。

 普段彼女が優しいことを知っているからこそ、次々と厳しい言葉を投げかけられると余計に心が突き刺されるような思いだった。


「それとも悩んでいる自分に酔って、本気で強くなりたいと思ってないんじゃないですか? 仲間の人達に助けられても、それでいいと諦めてたりしませんか?」

「……そんなことねぇ」


 痛みを感じながらもイーシュはそれだけは否定した。グッと拳を握り、知らず伏せていた顔を上げた。そしてもう一度、自分の思いを口にする。


「――強くなりてぇ。それは本当だ」

「でしたら」マリファータは硬くなっていた表情を緩めた。「一度、本気でやってみませんか? できるできないはその後でも遅くないですから」

「そうだよな……ゴメン、やるだけやってみるぜ。俺には魔法なんて無理って思ってたけど、それも決めつけかもしんねぇよな。もう一度、本気で勉強してみるぜ」


 決意の篭ったイーシュの返事に、マリファータの瞼の奥の瞳にも柔らかさが戻った。


「ふふ、その意気で頑張りましょう。

 私の教え方は厳しいですから覚悟しておいてくださいね?」

「う……ま、まあよろしく頼むぜ」


 うろたえるイーシュを見てマリファータは楽しそうに笑った。桃色の髪が揺れて顔に掛かり、髪を掻き上げる。その仕草にイーシュの胸がドキリと鳴った。


「冗談です。そうですねぇ……全部の属性を勉強するのは難しいと思いますから、光神魔法に絞って教えますね? イーシュさんのお時間はどうですか? いつが良いとかはありますか?」

「……いや、迷宮に潜ってる時以外だったらマリファータさんが都合がいい時間を教えてくれれば俺が合わせるよ」

「わかりました。では早速今日の夜から座学を始めましょう」


 両手でポーズを取りながらマリファータは「頑張りましょうね、イーシュさん」と明るく声を掛けてくる。その姿を見て、イーシュの心が嬉しいような恥ずかしいような心地に襲われ、動けなくなった。


「どうしました?」

「い、いや! 別に!」


 様子がおかしいイーシュに向かって首を傾げるマリファータ。思わずイーシュは赤くなった顔を背けた。

 だがイーシュが眼を逸したその後ろ側で、マリファータは確かにほくそ笑んでいたのだった。





今回で2017年の更新は最後になります。

本年も長い物語にお付き合い頂き、誠にありがとうございました<(_ _)>

来年もまた、ゆっくりとした進みですが彼らの物語にお付き合い頂けましたら幸いです。


それでは良いお年を(・ω・)ノシ


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