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11-8 オーフェルス(その8)

第2部 第64話です。

宜しくお願いします。


<<登場人物>>

キーリ:本作主人公。転生後、鬼人族の両親に拾われるも英雄達に村を滅ぼされた。魔法の才能は無いが独自の理論で多少は使えるようになった。冒険者ランクはC。

フィア:キーリ達パーティのリーダー。正義感が強いが、重度のショタコン。実はレディストリニア王国の第一王女だったが、出奔して今に至る。

アリエス:帝国出身貴族で金髪縦ロール。剣、魔法、指揮能力と多彩な才能を発揮する。筋肉ラブ。

シオン:小柄な狼人族でパーティの回復役。攻撃魔法が苦手だが、それを補うため最近は指揮能力も鍛え始めた。フィアの被害者。

レイス:パーティの斥候役で、フィアをお嬢様と慕う眼鏡メイドさん。お嬢様ラブさはパない。

ギース:パーティの斥候役。スラム出身。舌打ちが癖でいつも不機嫌そうな顔をしている。

カレン:弓が得意な猫人族。パーティの年少組でアリエスと仲が良い。スイーツ以外の料理は壊滅的。

イーシュ:パーティのムードメーカー。鳥頭。よく彼女を作ってはフラれている。気は良く、色々とひきずらない性格。

ユキ:キーリと共にスフォンにやってきた少女。性に奔放だがキーリ達と行動を共にすることは少なく、その生活実態は不明。

ユーフェ:猫人族の血を引く貧民街の少女。表情に乏しいが、最近は少しずつ豊かになった気がする。

エリーレ:レディストリニア王国軍人。かつてレイスと共にフィアのお世話をしていた。

ファットマン:子爵位を持つ貴族でオースフィリアの徴税官。金に関してゲスい。





 三人は揃って鼻を押さえながら二階へと向かっていた。キーリとギースは眉間に皺を寄せてしかめっ面。シオンは真っ赤な眼で涙を滲ませていた。


「あー、クソッタレ……まだジンジンしやがる」

「気配を消してたのが仇になりましたね……」

「話聞くのに夢中で完っ全に廊下側のこと忘れちまってたな……」


 階段の隅っこを登りながら、途中でまたポタリと雫が落ちる。それを見たキーリはマントの中に展開した影から布を取り出して二人に手渡す。


「すみません」

「注意散漫だったのは俺もだしな。それに血をボタボタ垂れ流しちまうと、誰かに気づかれるかもしれねぇからな。

 けどその甲斐はあったぜ」


 キーリが口端を釣り上げて笑い、シオンも「ええ」と頷き返した。


「ファットマン子爵が王城の女性に出しているという手紙……恐らくはその中に毒が同封されているんでしょう。その先でどういうふうにして実行されているのかは分かりませんが、まず子爵が実行犯の一人であることに間違いはないかと」

「ンなら粉末か錠剤ってところか」

「あのブタ野郎が城に居ねぇ時にはもう一人の将軍とやらが手紙を出してんだろうよ。ラブレターに偽装するたぁ、中々体張ったやり口だな」

「貴族の恋文ともなれば、使用人が気づいてもおいそれと吹聴はできませんしね」

「あの配達員が口の軽い野郎で助かったな」

「アイツらの子爵に対する馬鹿にしっぷりを見るに、相当不満も溜まってんだろうよ」

「ともかく、まずは子爵の部屋を探してみましょう。もしかすると解毒剤があるかもしれません」


 シオンの提案に頷き、キーリ達は二階の部屋を探して歩いた。階段から反時計回りに進んでいき、物音を立てないよう慎重に部屋を調べていく。部屋の前で耳をそばだて、中に人の気配がすればメイドや使用人が出入りするのを待って忍び込む。気配がなければそのまま部屋に入り、鍵が掛かっている場合はキーリの影を使って開けていった。

 使用人用の部屋もあったが、それらの幾つかは働く貴族や官僚の部屋であった。だがいずれもファットマンの部屋ではないようで、探索も空振りに終わる。


「ここも外れか……」


 廊下を行き交う使用人たちに見られないよう慎重に外に出ながらキーリはぼやく。登ってきた階段からちょうど反対側に位置する大窓から外を見下ろせば、城の広大な庭で常備軍らしき兵士達が鍛錬を行っていた。いざという時にこちらから逃げるのは得策じゃねぇな、と思いながら背伸び。気を取り直して次の扉へとキーリは手を掛けた。


「ちっ、ここも鍵掛かってやがる」


 面倒な鍵開けをしなければならないことに舌打ちしつつもキーリは影を作り出そうとする。だがギースが「その必要はなさそうだぜ」と声を掛け、明後日の方に視線を投げかけた。

 シオンと二人でそちらを振り向けば、部屋の主らしき人物が息を切らせながら懸命に走ってきていた。


「やっとビンゴか」


 やってきたのはファットマンだった。今にも死にそうな程に息を荒げ、真っ青な顔で脚をもつれさせながら部屋の前に立つと、震える手でガチャガチャと何度も鍵穴に鍵を差し込もうとして失敗していた。それでもやっとの思いでドアを開けて中に入ると、キーリ達が忍び込む前に勢い良くドアが閉められた。

 危うく手を挟まれそうになって一瞬ヒヤリとするもかろうじて引っ込めて回避。鍵は掛けられていなかったため、ゆっくりと扉を開けていけばドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。


「居ねぇぞ?」

「奥にも部屋があるみたいですね」


 徴税官という重職を任されているからか、部屋の中の作りはこれまでに覗いた他の貴族や官僚の執務室よりも豪華だ。専用の執務机が用意され、床にはふわふわとした絨毯。そして奥には休憩用だろうか、もう一つの部屋らしきものがあり、そこから騒がしい音が響いてくる。


「何やってんのか知らねぇけど、好都合だ」

「そうですね、今の内にこちらの部屋を調べてしまいましょう」


 念のためもう一度闇神魔法を掛け直し、三人はなるべく集まって部屋を漁っていく。執務机の引き出しの中や本棚。絨毯を剥がしてみたり、チェストの中身を外に出したりしながら調べていく。天井の照明の裏や椅子、ソファに不審な箇所は無いかと丁寧に探していくものの、毒物やそれに類するもの、或いはファットマンが実行犯だと示すような証拠などは見当たらない。


「そっちは何かあったか?」

「んにゃ。高そうな酒とか金勘定のメモとかンなのばっかだな。引き出しの二重底から裏帳簿とかは見つかったがな」

「それはそれで重要な証拠ではあるんですけどね……」


 とりあえずキーリの影の中に帳簿も突っ込み、部屋全体を見回す。後は奥の部屋だけだが――


「どうすんだ? あのブタが関わってんの分かってんだからよ、いっそふん捕まえて無理やり口でも割らせるか?」

「力づくっていうのは避けたいですが……」

「今更だろ、ンなのは」

「後ろに居るのはステファンだからな。子爵を捕まえて、フィア達の前で『ステファンの指示で実行した』って言わせりゃ言い逃れもできねーだろうし、手っ取り早いかもな」


 幸いにしてここはファットマンの部屋だ。勝手に使用人が入ってくる事もないだろうし、多少強引な手段に出ても誤魔化す方法はいくらでもある。

 いよいよ強制連行も考慮し始めたキーリだったが、不意に気づいた。


「……中から気配がしねぇな」

「ああ? ……マジかよ」


 ギースがドアに耳を押し付けてみるが物音はしない。さっきまではあれほど騒がしく音を立てていたというのに、今は誰もいる様子がない。

 互いに顔を見合わせて頷き、ギースがノブを捻る。キィ、と微かな軋み音を立てて扉が開き、果たして、そこにはやはり誰も居なかった。

 この部屋はファットマンの私室を兼ねて居たのだろう。ベッドやローボードが設置されており、ベッドの上には彼の私服らしいものが乱雑に散らばっていた。また、部屋の隅には金庫らしいものがあり、今は空っぽの中身を晒していた。


「おいおい、まさか逃げたってんじゃねぇだろうな?」

「でも実際に居ませんね。ここ以外に入口は無いですし、一体どうやって……?」

「どっかに出口があるはずだ」キーリは部屋を見回した。「気配は感じねぇし、この部屋には居ない。あのデケェ体で隠れてるって事もねぇだろうし、隠し扉みてぇのがあるのかもしんねぇ」


 入ってきた扉を除けば唯一の出入り口であろう窓を開け放ち下を覗き込んだ。傍に木の枝はあるが、とてもあの巨体を支えられるようなものでもなく、窓から数メートルはある地面にもそれらしい痕跡は見当たらない。

 ここに至って姿を隠す理由はない。キーリは魔法を解除し、三人で部屋の中をひっくり返して回った。

 ベッドのシーツを剥ぎ取り、ベッドそのものもひっくり返す。サイドボードの中身も全部放り出し、散らかっていた部屋を更に散らかしていくも気に留める様子はない。シオンだけは丁寧に片しながら探していくも、それを上回るペースでキーリとギースがあらゆるものをばらまいていくため溜息が思わず漏れた。


「あ」


 と、何気なくシオンがベッド脇にある机の引き出しを開くと、底板が外れた。恐らくは半分既に外れかかっていたのだろう。板を取り外してみると、そこには書きかけの手紙があり、うっすらと赤い粉末が入った包み紙が幾つか見つかった。


「ありました! ありましたよキーリさんっ!」

「よしっ、お手柄だ、シオン!」


 手紙の文面を読んでいけば、最初に「薬」を送る旨が書かれており、だが後半に行くにしたがって口説き文句らしき内容が大半を占めていた。


「マジで恋文も送ってやがったのかよ、あのブタは」


 単なるカモフラージュかと思いきや、王城での受け取り役に本気で恋をしていたらしい。贅沢をさせてやる、だとか、好きなものを好きなだけ買ってもいい、だとか物で釣ろうとしていたようだが、それとて市民から巻き上げた不正財産である。呆れてものも言えなかった。


「ともかく、これで証拠は手に入れたな」

「ええ。署名もされていますし、もう言い逃れはできないと思います」

「ンならさっさとブタを見つけんぞ」


 俄然やる気を出し、荒らす――もとい、ファットマンを探す腕にも力が入る。

 何から何まで片っ端から隠れた出入り口を探し続け、だがこちらの方は一向に見つかる様子がない。誰かが部屋を訪ねてくることはまだ無いが、あまり時間を掛けすぎるとファットマンを探して他の貴族や誰かがやってくるかもしれない。次第に焦りが募っていく。


「んあ?」


 徐々に溜まってきた鬱憤を晴らすように乱暴に物を放り捨てていたギースだったが、突如声を上げた。

 彼が動かそうとしているのは床から天井まで伸びる大きな本棚だ。以外にも読書家なのか、本は隅から隅までぎっしりと詰まっている。

 その本棚を押しのけようとギースは腕に力を込めたが、ピクリともしない。横着して、本が入ったままどかそうとし、しかしギースが腰を落としてどれだけ踏ん張っても微動だにしなかった。


「……お前ってそんな貧弱だったっけ?」

「諦めて本を出してから動かしましょうよ」

「うっせぇ! ちょっと待ってろ!」


 シオンの提案も拒否し、ギースは意地でもどかしてやろうと顔を真赤にして力を入れる。それでも全く動かず、聞こえてくるのはキーリの溜息とシオンの苦笑い。いよいよギースは癇癪を起こした。


「このクソッタレがっ!」


 本棚を壊さんばかりに、ギースは青筋を立てて思い切り蹴りあげた。斥候という役割方、純粋な膂力ではパーティ内でも下の方ではあるが、彼も立派な冒険者である。十分な威力を持った蹴りが適当に放たれ、本を支える棚板部分を下から蹴り上げる形となって「バキリ!」という、「終わった」音を奏でた。

 棚板ごと蹴り飛ばされた本が宙を舞い、バサバサと散らばっていく。渾身の蹴りを打ち放ったギースはすっきりしたと鼻を鳴らして溜飲を下げた。


「お前なぁ……」

「あ、あははは……」

「ちっ、別にいいだろうが。どうせテメェらだってこんだけ荒らしてんだ。まさか部屋を出ていく時にお行儀よく――」


 呆れるキーリとシオンを睨めつけて舌打ちしたギース。片眉を釣り上げたその時、「ゴゴゴゴ……」と地響きの様な低い音を何かが響かせ始めた。

 振り向けば、本が落ちて歯抜けになった本棚が少しずつ横にスライドしていく。壁にはいつの間にか長方形の穴が空いており、そこへ本棚が吸い込まれていった。そしてその後ろに現れたのは人一人が入れるようなスペースだ。

 ギースはキーリ達を振り返って誇るように鼻を鳴らした。


「こんな仕掛けが……」

「おら、蹴飛ばして正解だっただろうが」

「単なる偶然じゃねぇか」


 だが、偶然にしろ何にしろギースのお手柄だ。キーリはポッカリと空いたスペースへ向かう。一見何も無いが、床をなぞると取っ手のような物があり、それを慎重に引き開けた。

 途端、幾分ジメッとした湿り気を多分に含み、カビ臭い空気が鼻に入りキーリは顔をしかめた。小さな扉の向こうには石造りの階段。どうやら地下通路のようだ。


「また隠し通路かよ……」


 キーリはぼやいた。ギュスターヴもそうだったが、どうして金や権力を持った人間というのは秘密のお部屋が好きなのだろうか。この通路も古くから、それこそ築城当初から避難用にあるのかもしれないが、大抵はロクでもない用途で使われるのがオチである。

 後ろ頭をポリポリと掻き、キーリはランタンを影から取り出して階段を降りていく。階段そのものはそれほど長くはなく、高さもキーリやギースがギリギリ直立できる程度。石レンガでできた通路は緩やかな傾斜となっており、照明の類はなく、扉を開け放っているため階段はまだ見えるが、その先は夜目が効くキーリであってもランタンの光が届く範囲でしか見通せないほどに暗かった。


「こりゃ結構長そうだな。とはいえ、こっからあの野郎が逃げたのは間違いは無さそうだけどな」

「どこに繋がってるんでしょう? 外なのは確かでしょうが」


 少し先へ進んでみると、道は大きなカーブを描いていた。それはどこまでも続いているようで、足元も覚束ない暗闇の中だと、行先で何かに飲み込まれてしまうのではないかというような不気味さがある。


「どうすんだ? ブタ野郎を追いかけるか?」


 キーリとシオンは悩んだ。多少なりとも通路に灯りがあるならば走って追いかける事も出来るだろうが、この暗さでしかも曲がりくねっている道だ。走って追いかけることもできそうになく、幾らファットマンが鈍足とはいえ探し始めて結構な時間が経ってしまった。今から追いつくのは難しいそうだ。

 幸いにしてファットマンが関わっている証拠と、毒物そのものは見つけた。なら――


「……ここは一度他の皆さんと合流した方がいいかもしれませんね」

「だな。毒物をステファンに突きつけるか、或いはフィアとエリーレを通じて国王の毒殺疑惑を表沙汰にさせるか……とりあえず後はアイツらの仕事だろうよ」


 シオンの言葉に同意し、キーリは踵を返した。ゆらゆらとランタンの光が揺れ、覚束ない足元を照らしていく。

 開きっぱなしにしていた床扉をくぐり、荒れ果てた部屋へと戻る。そちらには目もくれず、執務室の方へと進んでいく。


「で、どうやって合流すんだ? お姫様はまだ辺境伯とこに居んだろ?」

「先にアリエス達とだろうな。さっきこの階を歩いてたのが見えたし、合図でも送ってこの部屋に連れてくるか」

「フィアさん達にはどうやって連絡します? 話が終わるのを待ちますか?」

「……いや、ユキに伝えてもらう」

「ユキさんに?」

「それこそどうやってだよ? あのアマこそ何処に居んのか分かったもんじゃねぇぞ?」

「まあ、なんだ。アイツと連絡を取る方法があるんだよ。ユキなら辺境伯に気づかれずフィアに情報を伝えられる」

「闇神魔法だとそんな事もできるんですか?」

「……ちょっち違うけど、似たようなもんだ」


 キーリは言葉を濁した。本当は魔法でもなんでもないが、広い意味で解釈すれば魔法とも言える。

 体液交換を交わしたユキとフィアは、言わば「繋がっている」状態だ。表層的な繋がりであるため流石に深いところの感情や考えを共有するのは無理だが、普通に会話するくらいの感覚で意識は伝わる。

 本音を言えばユキの力を借りるのは癪だ。同時に、キーリはフィアがユキと繋がっている現状にも不快な疼痛を覚えた。ともすれば息苦しくもなりそうなそれを飲み干し、今はそれを必要なことだと受け入れる。キーリは軽く息を吐いて眼を閉じ、意識を集中させた。


「……こいつら、一体何者(なにもん)なんだろうな」

「こいつらって……キーリさんとユキさんですか?」

「他に誰が居るっつうんだよ」


 ギースが顎でキーリを指し示す仕草をする。小声で話しているからか、それとも意識を別のところに集中しているからか、キーリから反応は返ってこない。


「この野郎も闇神魔法だっていう訳わかんねぇ魔法使って、あの女はあの女でぷらっと現れやがったと思ったらいつの間にか消えてやがる。何考えてんだかさっぱり分かんねぇし、ンな女と今みてぇによく分かんねぇ方法で連絡とってやがるしな。気にならねぇ方がおかしいだろ?」

「ギースさんの仰りたいことは分かります。ユキさんは謎めいた方ですし、よく分からないところも多いですから。キーリさんも……この間、やっと色々と教えてくれましたけど、お二人の関係は聞いた事がないですし……長い関係だっていうくらいですもんね。

 でも、別にそれで良いんじゃないですか?」シオンはキーリの姿を見つめた。「キーリさんもユキさんも別に悪い人じゃないですし、分かんない事があったって良いじゃないですか。僕だって、ギースさんの事で知らない事なんていっぱいありますよ?」

「……自分の事を話すのは好きじゃねぇからな」

「でしょう? それと一緒ですよ。ユキさんは……まだ正直判断に迷う時もありますけど、少なくともキーリさんを尊敬してますし、信頼してます。だから、それで良いって思ってます」


 少し恥ずかしそうに笑って鼻頭をシオンは掻いた。けれども、真っ直ぐに疑いなくそう言い切ったシオンに、ギースはやや面食らってバツが悪そうに頭を掻いた。


「……お前、変わったな」

「そんな、全然です。まだ弱っちいですし、魔法ももっといっぱい練習しないと付いていけませんし、至らないところばかりです」

「そうじゃねぇんだけどな……ま、いい。変な話したな」


 頭一つ分は小さいシオンの頭を鷲掴みのようにすると、ギースはなんとなく頭を乱暴に撫で回した。


「――……、ふぅ……」

「何かよく分かんねぇけど、終わったってことでいいな?」

「ああ、後はユキがすぐ動いてくれっかだけどな。こればっかりは俺にはどうしようもねぇ」

「そうかよ」


 一体どんな会話が交わされたのか。大儀そうに溜息を吐いて疲れた様子を見せるキーリにシオンは心配そうに声を掛けた。


「大丈夫だって。それよりも、俺らは俺らで早いとこアリエス達と合流しようぜ。たぶん食堂で飯でもゆっくり楽しんでんだろうよ」

「わかりました。キーリさんの魔法で隠れて、こっそり近づいて声を掛けましょう」

「ちっ、こっちが散々探し回ったってのに、優雅に飯たぁ羨ましいこったな」


 ギースがぼやき、シオンが苦笑いを浮かべながら入口のドアを開こうとノブを握った。

 直後――


「シオンっ!!」


 キーリは唐突に叫び、シオンの体を引き寄せた。体を反転させてドアに背を向け、シオンの小柄な体を覆い隠す。

 その背に、ナイフが突き刺さった。




お読み頂き、ありがとうございました。

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