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9-2 影に光を(その2)

第2部 第50話です。

宜しくお願いします。


<<登場人物>>

キーリ:本作主人公。転生後、鬼人族の両親に拾われるも英雄達に村を滅ぼされた。

    魔法の才能は無いが独自の理論で多少は使えるようになった。冒険者ランクはC。

フィア:キーリ達パーティのリーダー。正義感が強いが、重度のショタコン。

アリエス:帝国出身貴族で金髪縦ロール。剣、魔法、指揮能力と多彩な才能を発揮する。筋肉ラブ。

シオン:小柄な狼人族でパーティの回復役。攻撃魔法が苦手だが、それを補うため最近は指揮能力も鍛え始めた。フィアの被害者。

レイス:パーティの斥候役で、フィアをお嬢様と慕う眼鏡メイドさん。お嬢様ラブさはパない。

ギース:パーティの斥候役。スラム出身。舌打ちが癖でいつも不機嫌そうな顔をしている。

カレン:弓が得意な猫人族。パーティの年少組でアリエスと仲が良い。スイーツ以外の料理は壊滅的。

イーシュ:パーティのムードメーカー。鳥頭。よく彼女を作ってはフラれている。

ユキ:キーリと共にスフォンにやってきた少女。性に奔放だがキーリ達と行動を共にすることは少なく、その生活実態は不明。

ユーフェ:猫人族の血を引く貧民街の少女。表情に乏しいが、最近は少しずつ豊かになった気がする。





「というわけで、これが皆を……殺しかけてしまった魔法の正体だ」


 言葉が出ない。それはシオンを始め、他のメンバーも同様。フィアは信じられない、と切れ長の目を見開き、アリエスの口からは「あり得ない、ですわ……」と途切れ途切れの言葉だけが漏れていた。


「悪かったな、今まで隠してて。だからそんなに睨むなって、イーシュ」

「別に睨んでねぇっての」


 そう応えながらもイーシュは憮然とした表情だ。珍しく眉間に深い皺を寄せて、本人には自覚は無いのかもしれないがキーリを見る眼は厳しい。


「どうせテメェはすぐに忘れんだから怒るだけ無駄だろうが」

「けどよ、やっぱムカつくじゃん? こんな大事なこと今まで黙ってたとかよ。俺ら仲間なのにさ」

「でも……確かにこんな話、おいそれと出来るものじゃないというのは分かります。けど……すみません、キーリさんの言う事は本当なんでしょうけど、常識を根本から打ち砕かれた気分です」

「俄に信じられねぇのは当たり前だ。たぶん世界でもこのことを知ってる人間なんて、それこそ数えられるくれぇしかいねぇだろうしな」


 額に手を当てて疲労を感じさせる息を吐くシオン。五大神教の教えは今や世界の根本だ。すぐに「はい、そうですか」と信じてもらえるとはキーリも思っていない。


「……はぁ、世の中には知らなくても良いことがあるとは聞くが、これはとんでもない爆弾だな」

「フィアは信じてくれんのか?」

「当たり前だ」フィアは気持ちを落ち着けるため、傍らのカップを手に取った。「信じられない、というのが正直なところだが否定する理由が無い。現に私は何度もキーリが影を操るところを見ているし、エルミナ村のあんな魔法など他の種類の魔法には作り得ないものだからな」

「ワタクシもまだ信じられないですけれども信じざるを得ないのですわね。

 ……五大神教の人間が聞いたら卒倒しますわ、きっと」

「それか、口封じに殺されるかもな」

「そんな! そんなことっ」

「あり得ないと思うか?」


 逆に問い返され、カレンは返す言葉を失った。カレンとて前の世界で歴史を学んできた人間である。宗教が原因となって争いが生じた例など枚挙に暇がない。闇神の存在を謳うなど完全に異端である。ただでさえ、影や闇というのは人に不安や恐怖をもたらすのだ。「人心を乱す」、「既存の神々に対する冒涜」などなど、弾圧の理由には事欠かない。


「で、だ」ギースが頭を掻きながら話を切り替える。「その闇神魔法ってのは、具体的に何ができんだ? さっきみてぇに黒い靄だか影だか良く分かんねぇモンを操るしか能がねぇのか?」

「それが一番使い勝手が良いのは確かだけどな」


 ギースの言い方にキーリは鼻を掻いた。元々の気質だろうか、それとも育ちのせいかあまり闇神の存在に頓着は無いようだ。


「他にも光を遮ったりだとか、気配を断ったりだとかも出来るし、こんな風に」


 徐にキーリは影の中に手を突っ込んだ。本来ならば地面であるはずの場所に手がズブズブと吸い込まれていく光景にまたしてもフィアとユキを除く全員が眼を丸くした。そこから、道中の商人から買った果物を一つ取り出すとギースに投げ渡した。それはまだ購入したての時の瑞々しさを保っていた。


「影の中に色んな物を収納したりできる」

「……また一つ常識が崩れましたわ」

「まさかとは思うが、そん中に人間も収納してんじゃねぇだろうな?」

「そんな訳あるか。この中に入ったら人間は生きてられねぇよ。まあ、実を言うとこうして影の中に飲み込んで相手を殺すってのがこの魔法の本来の使い方なんだがな」

「……もしかしなくてもそれってヤバくね?」

「足元の影に吸い込まれるなど……とんでもない魔法ではないか」

「そうでもねぇよ」キーリは頭を振った。「飲み込むスピードは遅ぇし、生きた生物を飲み込むには相応に魔法を構築しねぇとダメだしな。発動には時間が掛かっちまうし、魔素も馬鹿みてぇに食うし、こうやって物を収納する以外には余り使い勝手はよくねぇんだ」

「それがエルミナ村で使用された魔法ということなのでしょうか?」

「いや、あれは完全に別物だ」


 レイスの確認をキーリは否定した。そして何処か言いづらそうに口を噤んで、軽く息を吐き出した。


「闇神魔法の本質はだな、その、侵蝕と『喰らう』事なんだと俺は思ってる」

「侵蝕? 喰らう?」


 首を捻るイーシュに首肯する。


「フィア。暗闇っていうと、どういう感情をイメージする?」

「そうだな……恐怖とか不安とかになるか? 後は寂しいとかだろうか」

「たぶんお前らも似たようなもんだと思うが、まあ基本的に『負』の感情だな。闇神魔法を使われるとそのネガティブな感情で心の中をジワジワと満たしていくんだ」


 キーリの説明に全員がハッとした。村でキーリの魔法が暴走した時、フィア達は途方もない恐怖に襲われた。不安感や絶望感といった暗い感情が心中を満たしていき、辛くて苦しかった。生きている、その事自体を悔やみそうな程にどうしようもなく苦しかった。


「もう一つの『喰らう』とは何でしょうか?」

「昏い感情で満たしていく反面で、闇神魔法は使い方次第じゃその昏い感情を取り去ってくれる。闇神にとって人間の悪意や絶望とかの負の感情は栄養みたいなもんだからな。

 今のが精神面に作用する側面だ。あの時……俺は全ての『存在』を喰らい尽くそうとした。つまりは――無かった事にしようとしたんだ」

「無かった、事、ですの?」

「そういえばあの時、ユキは『地図から消える』と叫んでたな」


 深い溜息をキーリは吐いた。


「あのまま魔法が発動していたら、あそこには何も残らなかった。村人も、宿泊客も、そしてお前らも。それどころか建物も木も草も、何一つ跡形なくこの世界から消えてた。残るのは巨大なクレーターだけだっただろうな」

「……凄まじい威力だな。そして恐ろしい。それほどなのか、闇神魔法というのは」

「あのクソッタレな黒い壁に囲まれた範囲を丸呑みってわけかよ。遺体も残らず消失するんだから、貴族共が喜びそうな魔法だな」

「貴族には限らないでしょうが……邪魔な存在を消したいと願う方々にとっては垂涎ものでしょう」


 フィアが眉間に皺を寄せ、ギースは舌打ちとともに顔をしかめた。レイスもキーリを厳しい眼差しで見つめてくる。

 しかしキーリは「いや」と大切な事を付け加えた。


「あの魔法の本質はそこじゃない……あれは存在そのものを喰らうんだ」

「……? すまん、キーリ。違いが良く分からないんだが」

「あのまま闇に喰われた場合、何も無かった事になるんだ。村は最初から無かった(・・・・・・・・)。飲み込まれた人は生まれても居なかった。誰の記憶からも消え去り、そこに居た事すら他の誰からも認識されないまま消えていくんだよ」


 誰かが息を飲む音がした。


「……親や兄妹も、誰も気づかないのか?」

「キチンと発動すれば、という但し書きが付くけどな。存在を喰らわれたら親は子供を産んだことさえ忘れ、子供が居たという事実が無かったと世界が改変される。その事に気づけるのは発動した本人と、後は人知を超えた存在――いわゆる神や精霊だけだろうよ」

「そんな……」

「五大神教の連中が闇神を加えなかった理由がよく分かるってもんだ」


 ギースの零した感想に他の彼らも無言で応じる。言葉にこそしないが、心情としては同じだ。

 彼らの気持ちはよく分かる。死は恐ろしいものだ。だが死すら意識されない、生きた証すら無くなってしまうというのはそれ以上に遥かに恐ろしい。おぞましいだろう。

 だが、時として自分という存在を無かったものにしてしまいたい。誰にも気づかれずにひっそりと逝きたい。他者との関わりを断ち、ただの独りになりたい。そういう者も確かに存在する。いや、普段は意識していないし、普通に生きていれば気づくこともないかもしれないが、誰しもの心にそういった感情は存在する。それに触れた時、その孤独を受け入れるか、他者の存在を望むかは人それぞれではあるものの虚無を欲する気持ちはあるのだ。キーリはかつてその真理(・・)に触れたのだから。


(それに本当はアイツは――)


 キーリは闇神に対して否定的な雰囲気の中、何かを口にしかけた。だが口は動けど意志に反して声は出ない。無念そうに眼を閉じて溜息を吐き出す。キーリに出来たのは何処か寂しそうにフィアやアリエスを見つめるだけだった。


「……」

「どうしたんだ、シオン?」


 不意にフィアから声を掛けられてシオンは顔を上げた。キーリが話している間、ずっとシオンは黙って何かに思考を巡らせていたようで、ゆっくりと尻尾を揺らしていた。

 シオンは口元に当てていた手を下ろし、話を聞きながら考えていた質問をキーリにぶつけた。


「いえ、どうして五大神教は闇神を神として祀らなかったのかな、と思いまして」

「そんなの決まってんじゃん。悪い神様だからだろ?」


 直截なイーシュにシオンは苦笑いをしながら「そうかもしれません」と一応の肯定を返した。


「けれど、それでも闇神様を神の一柱に加えてもいいと思うんです。どちらかと言えばそちらの方が自然では無いでしょうか?」

「ふむ、どうしてそう思うんだ、シオン?」

「簡単に言えば、五大神教の教義では光神様を僕達を常に見守ってくださる主神として扱っていますよね?」

「ええ、そうですわね」

「でも、それって何からでしょうね?」


 学校で講師が生徒に尋ねるような口調だ。フィアは、シオンは教師なども似合うかもしれない、などと妄想しつつ平静を装って応えた。


「天災や疫病からではないのか?」

「悪人やモンスター、不慮の事故という事もありますわ」

「はい。僕も聖典を何度か読んでますが、フィアさんやアリエスさんが仰るような事が書かれています」

「何かおかしいのか?」

「具体的過ぎると思うんです」シオンは全員を見回していく。「基本的に光神様が他の炎神様や風神様と議論の様子だったり、光神様が大昔の偉人に言葉を授けたりする様子が描かれて、そこから光神様の教えを読み取っていく形式なんですけど、だいたいが抽象的に描かれているんです。なのに、民草を守るという段だけ今お二人が仰ったように具体的な事例が列挙されていました。

 もし闇神様がイーシュさんの言う通り悪い神様であれば悪い神様として登場させればいいんです。『天災や疫病は闇神が人々を苦しませるために引き起こしているのだ』といった風に描かれた方が僕にはしっくり来ます」

「なるほど……確かにそう考えればわざわざ闇神を除外する必要はありませんわね」

「もっとも、描くのもおぞましい程に恐ろしい神様だった、という事もありえますので断言はできないんですけどね」


 考察はここまでだったのだろう。シオンは最後には困ったように眉尻を下げた。そして彼が向けた視線はキーリだ。


「キーリさんはどう思いますか?」


 その眼差しはキーリの見解に期待しているようだった。或いは、キーリならば何か知っているかもしれない、と思っているのかもしれない。だがキーリも五大神教に関する知識は乏しい。というよりも、出来るだけ関わり合いを避けていた面もあるため、シオンよりもよっぽど知らない。

 申し訳ないな、と思いながら首を横に振ろうとしたキーリだったが、その時、森の中から動く気配を感じ取った。そして口を閉じてじっと暗闇の中を注視した。


「敵襲、ですの?」

「さあな。ま、敵だとしても大した相手じゃなさそうだがな」


 ギース、レイスもほぼ同時にキーリの見ている方を振り返る。まだ距離があるせいか、相手は特別気配を隠す様子は無い。物音には気を遣ってるようだが、敵意などは隠しきれていなかった。何処に居るか、そういった感覚が鋭敏ではないフィアやイーシュでも丸わかりである。

 近づいてくるにつれて気配が徐々に薄くなっていくが、既に気づかれている以上今更な行為である。だが、向こうにはそうした意識は無いようで間抜けに思えてキーリは思わず脱力してしまう。


「おい、おっさん達。隠れてるつもりかもしれねぇけどよ、バレバレなんだよ」


 呆れながらも森の中に向かって声を掛けると「ガサガサッ」と音がした。だが誰一人出てこない。ここまであからさまな物音を立てておいて、それでもまだ隠れられていると思っているのだろうか。


「アリエス」

「承知してますわ」


 警戒するのも馬鹿らしくなり、アリエスは水神魔法で氷杭を作り出す。どうせ間抜けな野盗なのだ。とっとと倒してしまうに限る。

 問答無用なキーリ達の様子に流石に慌てたらしい。「ま、待てって!」と草むらから切羽詰まった声が聞こえてきた。

 そうして出てきたのはヒゲもじゃもじゃの大柄な男だ。口周りからもみあげにかけて濃いヒゲが良く日に焼けた顔の下半分を覆っていて、如何にも盗賊といった風貌である。


「こんな夜更けに何か用かよ、おっさん」

「へへっ、まあそう慌てんなって」


 口調では落ち着いた態度を装っているが額には冷や汗が滲んでいる。その眼はアリエスの作り出した氷杭を見て泳いでおり、ビビっているのが丸わかりである。フィアは軽く肩を竦めてアリエスに目配せし、魔法を解除させる。すると、男の体から緊張が取れてニヤリと笑った。


「さて……オメェらだな? エルミナ村で俺の団をめちゃくちゃにしてくれたのは」

「団? なぁ、エルミナにサーカス団とか居たっけ?」

「いや、居なかったと思うが?」

「もしかしてコメディ劇団じゃありませんの? ナイフを振り回してた芸人が居たような気がしますわ」

「誰が大道芸人だっ!! 盗・賊・団っ!! オメェらが全員ぶちのめしてくれただろうがっ!」

「そんなに怒ると血管が切れるぞ?」

「ネジが外れるの間違いだろ。いや、もう外れてるか」

「むにゃ……レイスお姉ちゃん、どうしたの……?」

「何でもありませんよ、ユーフェ。

 貴方が大声出すから子供が起きてしまいました。謝罪と賠償を要求します」

「っとと、嬢ちゃんすまねぇな……って何で俺が謝ってんだよっ!?」

「しらねーよ」


 顔を真赤にして地団駄を踏む男。どうやらエルミナ村を襲った盗賊団の頭らしいが、見かけに反して根は素直らしい。


「で、その盗賊団のお頭が一体こんな夜更けに何か用か? もうそろそろ寝る時間なんだ。用件は手短に頼む」

「へっ、用件は一つだ。大切な団員を大量に失っちまったんでな。オメェらに礼の一つでもしなきゃ気が済まないんだよ」

「分かった。じゃあ遠慮なく」


 キーリはスッと手を差し出した。


「……何だよ?」

「御礼の品。盗品の宝でいいからはよよこせ。なんなら有り金全部でも良いぜ。分割払いも可能だ」

「その礼じゃねぇよっ!! オメェらの命奪いに来たんだよっ!」


 頭の血管がいよいよブチ切れそうな勢いでツッコミを入れると、男はぜはーぜはーと荒く呼吸をして、サッと右手を上げた。

 すると周囲の草むらから一斉に影が立ち上がった。キーリ達の周囲をグルリと何重にも取り囲んでおり、ざっと見た限りで百人近い数だ。皆ギラついた目つきで、小さな下卑た笑い声も聞こえてくる。特にフィアやアリエスといった女性陣を見る眼は嫌らしく、劣情に塗れた妄想をしているようだ。それが丸わかりで、女性達は露骨に顔をしかめている。逆にユキは何故かワクワクしているが。


「へっへっへ……どうだ、ビビったか?」

「いや、全然」

「そう強がんなって、兄ちゃんよ。数ってのは力だぜ? 持ち物を全部置いていくなら男連中の命だけは助けてやるよ。女どもは後でたっぷりと楽しませてもらうがな」

「ひひ……あの胸のデケェ女は俺がもらうぜ」

「テメェ、ずりぃぞ! なら俺はあっちの勝ち気そうな赤髪の女だ。くく……気の強ぇ女の啼き声ってのがたまんねぇんだよな」


 既に興奮しているのか、方々から戦いの後の楽しみを想像して声が上がる。その様を耳にしてフィアは呆れた溜息を露骨に漏らした。


「気が早い事だ。もう勝った気でいるのか?」

「オメェらを追いかけて俺らも疲れてるんでな。できれば余計な争いは避けてぇわけだよ。どうだ? 降参するか?」

「どうする? 面倒だし、ユキを置いて俺らは別の場所で寝るか?」

「それで良いんじゃね? この女ならこんくらい余裕で食い尽くしちまうだろ」

「私は別にいいよ? こんな大人数で楽しめるなんてそうそうできないし」

「普通なら叱りつけるところだが……ユキならば、と思ってしまう私は毒されてるのか?」

「日頃の行いって大事ですわね」

「お言葉ですが、ユーフェの教育上そういった貞操観念を損なう事はお控えくださいませ」

「真面目な話、どちらにせよ、こういった連中を野放しにする事は私は許容できないな」

「ま、そうなるよな」


 キーリは頭を掻いて、盗賊連中に向き直った。


「ってなわけでだ。結論が出たぜ」

「ぜひ聞かせてもらいてぇな」

「テメェら全員ぶちのめす。以上」

「……へっ、バカな野郎だ。いいぜ、望みどおり――」

「なあ、おっさん。アンタの手下は今何人居るんだ?」

「――ぶち殺して、ってなんだ、もう命乞いは受け付けねぇよ」

「いやな、さぞおっさんが苦労して作り上げただろう盗賊団がどんくらいの規模かって気になってな」

「オメェ達が減らしてくれたからな。ま、それでも百一人だ。どうだ? すげぇだろう?」


 ニヤッと笑って男は得意げに胸を張った。たった一人で作り上げたとしては、中々の規模だ。だが――


「そうかよ、なら――」


 キーリの横を何かが猛烈な速度で通り過ぎていった。風を斬り裂き、氷の弾丸が頭の男の頬をかすめていった。そして背後で上がる悲鳴。


「――これで、九十八人だな。やったな。管理が楽になるぜ」

「オメェッ! 構わねぇ! 全員ぶち殺せ!!」


 目の前で仲間をやられ、いよいよ男が手下どもに命令を下した。その指示に呼応して一斉に雄叫びが上がり、一目散にキーリ達に襲い掛かってくる。

 普通なら絶望的な戦力差なのだが、対するキーリ達の顔は涼しい顔だ。


「では、皆。いつも通りでいこう。レイスとシオンはユーフェを頼む」

「女の敵はさっさと成敗してしまいましょう、アリエス様」

「ええ、せっかく筋肉を鍛え上げていますのに、あのような腐った性根しか持ち合わせていないなど嘆かわしくて見ていられませんわ」


 レイス達を残して、アリエス達は男たちの方へと風よりも疾く向かっていった。




お読み頂き、ありがとうございました。

気が向きましたら、ポイント評価、レビュー・ご感想等頂けると幸甚でございます<(_ _)>

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