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8-1 悲しみは宵闇に、想いは胸に(その1)

第2部 第44話です。

宜しくお願いします。


<<登場人物>>

キーリ:本作主人公。転生後、鬼人族の両親に拾われるも英雄達に村を滅ぼされた。

    魔法の才能は無いが独自の理論で多少は使えるようになった。冒険者ランクはC。

フィア:キーリ達パーティのリーダー。正義感が強いが、重度のショタコン。

アリエス:帝国出身貴族で金髪縦ロール。剣、魔法、指揮能力と多彩な才能を発揮する。筋肉ラブ。

シオン:小柄な狼人族でパーティの回復役。攻撃魔法が苦手だが、それを補うため最近は指揮能力も鍛え始めた。フィアの被害者。

レイス:パーティの斥候役で、フィアをお嬢様と慕う眼鏡メイドさん。お嬢様ラブさはパない。

ギース:パーティの斥候役。スラム出身。舌打ちが癖でいつも不機嫌そうな顔をしている。

カレン:弓が得意な猫人族。パーティの年少組でアリエスと仲が良い。スイーツ以外の料理は壊滅的。

イーシュ:パーティのムードメーカー。鳥頭。よく彼女を作ってはフラれている。

ユキ:キーリと共にスフォンにやってきた少女。性に奔放だがキーリ達と行動を共にすることは少なく、その生活実態は不明。

ユーフェ:猫人族の血を引く貧民街の少女。表情に乏しいが、最近は少しずつ豊かになった気がする。

エーベル:ユーフェの兄代わりだった少年。貧民街で殺害された。

ローラント:エルミナ村に行く時にキーリ達が世話になった行商人。







 キーリがアヤと静かな時を過ごし、フィア達が戻って来たところでその時間は終わりを迎えた。

 と言っても、酒に酔ったアヤがキーリを抱きかかえたまま眠ってしまったために実際はそれよりも早く終わっていた。他人から見れば、友人の親に抱きつかれた格好になるので、戻ってきたらイーシュあたりに激しくからかわれるんだろうなぁ、などと思いながら器用に立ったまま寝息を立てるアヤの寝顔を見ていた。

 諦めの境地で仲間の帰還を待っていたが、予想通りフィア達はキーリとアヤの姿を見て一瞬呆気に取られ、彼女たちに合流していたらしいイーシュは戻ってくるなりニンマリと笑った。そしてキーリを指差し、からかおうとしたのだが彼が口を開く前に同じく合流していたカレンから脇腹への一撃を受け沈黙。物言わぬ(むくろ)と化したイーシュを引きずって部屋に放り込むと、母親をキーリから引き剥がしていった。


「もう! お母さんったらまた昼間からお酒飲んで! キーリくんもゴメンネ? 絡まれてウザかったでしょ?」


 平静な態度で母親を部屋に運んでいく姿を見て、フィアやアリエスも無事に再起動を果たしたのだった。昨日今日で彼女らもアヤがカレンやカイトに抱きついている姿を目撃していることから、抱き癖があるのだろうと納得したらしい。

 母親を抱えたカレンに、キーリは眼だけで礼を述べ、カレンもまたウインクで「貸しだからね?」と応じてみせる。

   そうして何気ない一日を装ってから二日。あれ以来キーリとアヤの関係も、カレンとの関係も変化はない。これまでと変わらぬまま過ごし、この日、キーリはフィア達と共にエシュオンの町へとやってきていた。


 エシュオンはエルミナ村から山を一つ越えた場所にある、近郊で最も大きな町だ。共和国側からやってきた商人や旅人はエシュオンを経由してエルミナ村を通過していき、逆に共和国へ向かう人達はエルミナ、エシュオンの順に宿泊地として定める事が多い。その他にも王国東方都市の中継地点としての役割もあり、都市には及ばないものの宿場町としてそれなりの発展を遂げている。

 現にキーリ達が歩くメインストリートには多くの住人や宿客で賑わっており、同じ宿場としての役割を持ちながらも田舎特有ののんびりさを持つエルミナとはエネルギーが違う。

 だがそうした雰囲気の中を歩くキーリ達の表情は浮かない。それは、エシュオンに滞在していたローラントからもたらされた情報によるものだった。


「消えた行商人、か……」


 俯いて歩くフィアの呟きが喧騒にかき消されていった。彼女の声を聞きながらキーリは先程のローラントとの邂逅を思い起こした。




 フィア達がエシュオンにやってきたのは、エルミナ村の村長からの依頼であった。村長曰く、エシュオンからエルミナ村へ食料等を運ぶ定期便がやってきていない、また村へいつもやってくる行商人の姿が見当たらないとのこと。むろん村にも備蓄はあるし、村で自給している野菜や穀物で凌げるために緊急では無いが、念のためにエシュオンで何か起きていないか確認してきてほしいとの事だった。

 フィア達としても既にエルミナ村でする事はなく、訓練以外は暇を持て余し始めていたので、村の人々から良くしてもらったということもあり観光がてらここエシュオンへやってきたのであった。

 そんな彼らが頼ったのは、同じく行商人であるローラント。縁あって共にスフォンからエシュオンまでやってきた彼が未だにこの町に滞在しているかは不明であったが、一頻り町を探し歩いていると幸運にも次の町へ移動するために荷を積んでいた彼と遭遇する事ができた。


「皆さん! お元気そうで何よりです!」


 ローラントは声を掛けてきたフィア達を見て驚いたが、すぐにあの人好きのする笑顔を浮かべて彼らを歓迎してくれた。特にフィアを見たローラントは嬉しそうに頷き、しかし優しい眼差しを向けるだけで何を口にするでも無かった。そんな彼に向かってフィアは静かに頭を下げたのだった。

 そうした再会を歓び合うのも程々にして早速フィアは訪問の目的を告げたのだが、その途端にローラントの顔が曇った。

 彼はフィア達を手招きすると声を潜めて話し始めた。


「実は、今その事が各商会でも議論になっているようなんです」

「という事は、行商人が居なくなったというのは本当の話なんですね?」

「ええ……詳細はどこも確認できていないのですが、ほぼ同日の内に個人の行商人とある商会の小さな商隊の消息が分からなくなったとの話です。盗賊団に襲われたという事で浮足立っていまして、どの商会も自分達が抱えている荷が襲われていないかの確認に大わらわですよ」

「盗賊団に襲われた、ですか?」

「事故、という線はありませんの?」


 アリエスの確認に、ローラントも少し困ったように眉尻を下げた。


「アリエスさんの仰る通り、その可能性もあろうかと思っています。ですが、何処の商会もほぼ盗賊団の仕業と考えて対処に動き出しています」

「理由はなんだ?」

「彼らがそう考えている理由は大きく二つあります」フィアの質問にローラントは指を二本立てた。「一つは相次いで荷馬車が消えたということ。エシュオンとエルミナの間には難所のような場所はありませんし、これまでも車輪の故障以上の事故が起きたとは聞いていません。何者かに襲われたと考えるのが自然でしょう」

「ふむ、確かにそうですわね」

「で、もう一つは?」

「もう一つは、ここ数ヶ月に渡って少しずつ広まっていました噂です。エシュオンを中心に、町や行商人の間では盗賊団が近くに居を構えたといった話が広まっていまして、当然それらは商会のトップにも届いているでしょう」

「噂? 何かこないだも似たような話聞いたような……?」

「あら、イーシュにしてはきちんと覚えてましたのね?」

「カイト、だっただろうか? 私達が村へ到着した時にそのような事を口にしていたな」

「って事は、あの坊主のでまかせじゃ無かったって訳か」


 ギースが小さく鼻を鳴らし、カイトの言葉を思い出した全員が顔を見合わせるが、ローラントは「それなんですが……」と歯切れ悪く話を続けた。


「個人的な意見にはなるのですが、どうもそれが腑に落ちないところがありまして」

「と、言いますと?」

「これは、懇意にさせて頂いている商会の方からの情報なんですが……盗賊団の噂が出てすぐに町と各商会が資金を持ち寄って冒険者の方々を雇い、討伐隊を結成したようなんです。物流が滞る事は物価の高騰に繋がりますし、荷が奪われると商会にとっても損害が大きいですからね。

 そうして一週間に渡って捜索を実施したらしいのですが」

「結果は空振りだった、という事ですか?」


 シオンの確認にローラントは頷いた。


「ええ、盗賊団の痕跡どころか影すらつかめない有様だったようで……デマだったのではないかと疑いつつも規模を縮小して警戒は続けていたみたいですね。その後も噂だけは残り続けていましたが、実際には何もなくそろそろ探索隊も解散しようかという話になっていたようです。実際はかなり会議も紛糾していたようですが」


 冒険者への依頼も安いものではない。噂を警戒して見回りさせたはいいが何の成果もなく、その判断をした商会と損だけをした商会との間で丁々発止の議論が行われていたというのは、ちょっと耳聡い商人であれば嫌でも耳に入ってくる。


「実際に居なくなった荷馬車も荷役も見つかってませんし、血の跡も無いようです。噂が噂だけに商会や町役人たちの判断も分からないではないのですが……」

「なるほど……妙な話ですね」

「何と言いますか……得体の知れない何かに振り回されているような気味の悪さを覚えてしまいます」


 そう言ってローラントは頭を振って小さく笑った。


「すみません、曖昧な話で」

「いえ、貴重なお話ありがとうございました。これから他の町に行かれるようですが、気をつけてください」

「はは、ありがとうございます。フィアさん達も……貴女方に私が言うのも烏滸がましいですがお気をつけて。神々のご加護がありますように」


 互いに旅の無事を祈り合い、それぞれ別方向に別れる。

 一度背を向けたフィアだったが、立ち止まってローラントを呼び止めると「これを」と言って王国銀貨を数枚握らせた。


「いえ、頂けませんよ! そんなつもりでは……」

「いいんです。金銭で、というのは失礼かもしれませんが先日の御礼も含めてです」

「しかし……」

「私の勘ですが」フィアは切れ長の瞳をいたずらっぽく細めた。「笑われるかもしれませんが、何となくローラントさんには今後もお世話になりそうな気がするんです。だから恩を売っておきたいんですよ」

「……敵いませんね。商人に売った恩は買い叩かれますよ?」

「そうならない様に買い叩かれない程の恩を売ってあげますよ」


 気が塞いでいた時のフィアしか知らないローラントは、楽しげに笑った彼女に見惚れている自分に気づいた。そのまま自分に背を向け、仲間と話しながら遠ざかっていくフィアの後ろを見送りながら頭を掻いた。

 いつか、彼女は一角の人物となる。そんな予感を抱いて。




「なんだか……不気味な話ですよね?」


 シオンが見上げて話しかけてきたのに気づき、キーリは意識を思考から現実へ戻した。「そうだな」と首肯し、ユーフェを肩に乗せた状態で器用に首を鳴らす。気持ち悪さがあった首周りをスッキリさせたかったが、まだ骨がズレているような感覚がある。


「噂だけはまことしやかに話されてるのに実態は誰も把握してねぇ、か。考えれば考えるほど妙だよな」

「村の人も言ってたんだけど、確かに村にも捜索隊の人達は来たんだって。色んな人に盗賊の話を聞いて回ってたんだけどその時は誰も知らなくて。もしかしたらカイトが言ってたのもその事かも」

「そうかもしれませんわね。大人でも話が伝聞する間に、不確実なことがまるで本当の話のように変質することがありますもの」

「おおかた、どっかの誰かがいたずらで噂流してんじゃねーの?」


 イーシュの何処か能天気な意見に、アリエスは腰に手を当てて呆れてみせた。


「イーシュ……貴方、話を聞いてましたの? 実際に被害が出てますのよ?」

「ちゃんと聞いてたっての。でも、盗賊の棲家を探しても見つからなかったんだろ? 被害は……あ、そうだ」妙案を思いついた、とばかりにイーシュは話しながら手を叩き鳴らした。「前はホントにいたずらだったとか? んで、最近になって本当に盗賊がやってきた、とかどうよ? だったら前に調べても見つかんなくて、最近になって襲われ始めたのも説明できるんじゃね?」

「嘘から出た真、というやつか……」

「イーシュにしちゃ面白ぇ考えじゃねぇか」


 ギースが皮肉りながら笑うが、イーシュは「だろ?」と得意気だ。その反応が気に入らなかったようで、ギースは鼻を鳴らして舌打ちした。


「ともかく、警戒だけは村の連中にもしてもらった方が良さそうだな」

「同意だ。行商人が何らかの被害に遭った事は確かな様だしな。村への定期便も少し遅れるがもう一度来るようだから、そのことと合わせて村長には報告しよう」

「じゃあ急いだ方が良いですよね?」

「また山道を突っ切るか」

「そうしよう。この手の話は早ければ早いほど良い」

「マジかよ……俺、あの道嫌いなんだよな……」


 初日に歩いた、鬱蒼とした道とも言えない道を進むという話の流れに、イーシュは肩を落とした。


「これも鍛錬ですわ。シャキッとしなさいな、シャキッと」

「わぁってるよ。村の人達はみんな良い人だしな。盗賊に襲われて大変な目に遭うのは俺だって嫌だし、やってやるよ」

「その意気だ」

「ユーフェ、しっかり捕まってろよ?」

「うん……だいじょうぶ」


 キーリはユーフェを肩から下ろして胸元で抱き上げる。ユーフェがキーリの腕にしっかりとしがみついたのを確認し、フィアに目配せする。


「それでは急ぐぞ。カレン、先頭を頼む」

「任されましたにゃ!」


 ビシっと敬礼しておどけてみせ、カレンが走り出す。小高い山を見つめながらキーリは彼女の後ろを走る。すると、ユキが黒いローブをはためかせながらキーリと並走した。それを見てキーリは減速し、パーティの最後尾に移動する。


「どうした?」

「キーリに関する事だから教えといてあげようと思って。

 ――結構ヤバイかもしれないよ?」


 珍しく真面目な顔をしてそう告げたユキに、キーリはゾッとしたものが背筋を走るのを感じた。

 眉間に皺を寄せ、村のある方向を睨みつける。そしてカレンに向かって叫んだ。


「カレン! 全力で走れ! ユキ情報だが、村が襲われるかもしれねぇ!」

「っ! 分かった!」


 エーベルの件でユキの能力は全員が知っている。カレンはいっそう走る速度を上げ、メンバー全員も疑いを口にする事もなく懸命に彼女を追いかけた。脚力に不安があるイーシュも歯を食いしばって走る。

 その中でユキだけは一人、最後尾を走りながらぼやくように呟いた。


「……私にとっては間に合わない方がいいはずなのにね」


 どうしてキーリに教えたのだろうか。ユキは胸に手を当てた。

 きっとユーミルのせいだ。彼女のせいで自分も変質してしまったのだろう。

 ユキはほぅ、と軽く溜息を付いて向かう先を眺めた。雲が太陽を少しずつ覆い隠していく。進む山の向こうに暗い影を落とし始めていた。





お読み頂き、ありがとうございました。

気が向きましたら、ポイント評価、レビュー・ご感想等頂けると幸甚でございます<(_ _)>


なお、次回の更新は勝手ながら木曜とさせて頂きます。

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