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5-8 ずっとスタンド・バイ・ミー(その8)

第2部 第32話です。

前回はすんませんでした<(_ _)>

今度こそ温泉回です。宜しくお願いします


<<登場人物>>

キーリ:本作主人公。転生後、鬼人族の両親に拾われるも英雄達に村を滅ぼされた。

    魔法の才能は無いが独自の理論で多少は使えるようになっ




 やがて彼らの冒険はついにクライマックスを迎えた。

 温泉の位置から逆算して、最もよく観察が可能であり最も距離が近い場所。普段では決して見せることができない類まれな観察眼で最適解を導き出して見つけ出した山肌の中腹にある針葉樹に、まずカイトを登らせ、後を追ってよじ登っていく。


「……どうだ?」

「うーん……枝が邪魔でよく見えないよ」


 まず間違いなく聞かれる事は無いのに二人して声を潜めるのは、良くない事をしているという自覚があるからか。

 慎重に枝の上を移動し、イーシュは葉を掻き分けて先端へ進んでいく。

 一歩、二歩。喉が乾き、心臓が高鳴る。緊張で腕が震え、それでもイーシュは進むのを止めなかった。

 そして、今までの努力が実る時がやってきた。


「おお……!」


 イーシュの口から感嘆が漏れた。隣でイーシュに捕まっているカイトもまた、感動に打ち震えた。

 葉の隙間から覗く桃源郷。二人が目指した頂点。湯けむりの中で一糸まとわぬ姿で湯に浸かる女性陣の姿が微かに垣間見えた。


「兄ちゃん……!」

「カイト……!」


 二人は手を取り、抱きつく。やった、やり遂げたのだ。誰もが到達できなかった遙か遠き理想郷の姿(アヴァロン)を二人は目撃したのだ。

 だがまだ終わりではない。まだ目に焼き付けたのはほんの一部。入口に立ったに過ぎない。二人は互いに頷き合って、理想郷の更なる奥地を目指して脚を踏み出した。

 その時だった。


 ――パキッ


「……パキッ?」


 不穏な音に二人は足元を見下ろした。

 ミシミシと二人が乗った枝が軋む。それと同時に二人の体が徐々に斜めになっていく。


「やべぇ、戻れ!」


 慌てて根元へと戻ろうとするカイトとイーシュ。だが焦る余りに慎重さを忘れていた。思い切り枝に体重を掛ければどうなるか。結果、枝に止めを刺したのだった。


「ぎゃああああああっっっっ!」


 イーシュは真っ逆さまに落ちていく。だが下が柔らかい土だったことが幸いし、背中を打ち付けたものの大きな怪我はなかった。


「カイトっ!」


 起き上がったイーシュは遅れて落下してきたカイトを即座に受け止める。しっかりと腕で抱きとめ、イーシュは額の冷や汗を拭った。


「あっぶねぇ……」

「こ、こわかったぁ……」

「怪我ないか? どっか打ったりしてねぇか?」

「う、うん……たぶん大丈夫」


 体の様子を確認し、カイトの申告通り怪我が無いことを確かめ終えるとイーシュはホッと胸を撫で下ろした。

 だが安心したその直後。


「へ?」


 二人を囲むようにして地面が光り始めた。地面に複雑な幾何学模様が描き出され、真っ赤な、まるで怒りを表現するように眩く光を発する。

 そして座り込んだ二人の直ぐ側の地面に文字が浮かび上がった。震える声でイーシュはその文字を読み上げた。


「『お・し・お・き』――」


 その途端、一層眩い光が二人を飲み込んだ。そして――


「だべぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!??」


 爆発した。





「ん?」


 体を流していたフィアはちゅどーん、という爆発音を捉えて山の方を見遣った。顔の水滴を拭い取って眼を凝らせば、離れた山肌から白い煙が上がっている。


「どうかしましたの?」

「いや……山の方で何かあったようだ」


 隣で髪を洗っていたアリエスには聞こえなかったようで、湯を頭から被って泡を洗い流すとフィアに尋ね、顔を拭くと頭にタオルを巻きつけながら同じように振り返った。


「あら、ホントですわ」

「……事件かもしれない」


 スクッと立ち上がり、爆発した場所へ向かおうと脱衣所に脚を向けたフィアだったが、それをカレンが笑いながら止めた。


「ああ、大丈夫。トラップが発動しただけだから」

「トラップ? 何でそんなものがあんなところに?」

「ここに温泉があるからさ、結構寄ってこようとするケダモノが多いんだよね、昔から。ま、あのトラップに驚いてもうしばらくは寄ってこないから安心して大丈夫だよ」

「……カレンがそういうのなら」


 何処か腑に落ちないものを感じながらもカレンの言葉を信じ、フィアは湯船に浸かる。


「ふぅ……」

「お嬢様、お湯加減は如何ですか?」

「ああ、良い湯加減だ」


 彼女の背中を流していたレイスが尋ね、フィアは満足そうに頷いた。眼を閉じ、肩まで湯に浸かる彼女の口から溜息が漏れる。レイスも「失礼致します」と一礼して、敢えて彼女の正面に回って湯に入る。

 リラックスしているフィアだったが、正面で自分をじっと凝視してくるレイスの顔が目に入り、何処か気まずそうに口を開く。


「レイス、お前の勝手ではあるんだが……その詰め物はどうなんだ?」

「お嬢様の入る湯を私の汚らわしい血で汚すわけにはいきませんので」


 レイスの鼻の両穴には小さな布がしっかりと詰め込まれていた。どうやらフィアの裸体を見て興奮してしまった時の対策で、鼻血によって湯を汚してしまわない配慮らしい。ちなみにすでに布は真っ赤に染まっているので効果があるかは甚だ疑問である。

 その二人の間を、ユーフェが顔と尻尾を水面に出してスィーっと泳いで通過していった。いつも通り表情の変化が乏しい少女だが、これだけの広さの風呂が珍しいからだろう。フィアが見る限り何処と無く楽しそうだった。


「ワタクシもお邪魔しますわ」

「私もお隣失礼しますね」


 そこに体を洗い終えたアリエスとカレンも加わる。二人共足先からそっと静かに湯に入り、最初こそその熱さに体を震わせるがすぐに体を湯船に沈めていった。そしてフィアと同じく溜息が口からついて出て来る。


「カレンの言った通り……これは良いですわね」

「でしょでしょ? 疲れた時に入るとほんっっとうに気持ちいいんですよ」

「ああ、これは癖になってしまいそうだ。スフォンへ帰りたくなくなりそうだ」


 フィアは湯から腕を出して軽く表面を撫でてみる。なるほど、カレンが言った通り心なしか皮膚が滑らかですべすべしてきたような気がする。アリエスもまた同じように撫でてみて、その肌触りに満足そうだ。




 さて。唐突であるがここで温泉を満喫する彼女たちの様子を詳しく見ていきたい。


「ああ……幸せですわ」


 まずはアリエス。貴族らしく髪の手入れに普段から余念のない彼女だが今はトレードマークの金色で縦ロールの髪の毛をタオルで包み込んでおり、見ることはできない。だが代わりにきめ細かく白磁のようなきれいな肌が水面越しに微かに伺える。


 普段から鍛えているだけあって彼女の体は筋肉質ではある。だがそれと同時に女性らしい柔らかな質感も残しており絶妙なバランスを保っていた。細く長い指で湯を掬い肩に掛ければ窪んだ鎖骨に湯が溜まり、照明の灯りに照らされてよりいっそう美しく輝いてみえる。やや粘り気のある泉質の湯が肩から滑り落ち、しっとりした肌を際立たせ彼女の慎ましい胸の膨らみへと流れていく。


 形の良い双丘はピンと空を向き、健在をこれでもかとアピールしている。小さなバストは彼女の悩みの種であるが、彼女はまだ成長途中だと信じてやまない。実際、最近は今使用している胸当てがきつくなったような気がしている。ただし、現実を確かめるのが恐ろしくて測ってはいないが。


 彼女は自分のバストを見下ろすともっとおおきくなーれ、もっとおおきくなーれとばかりに揉みほぐす。いや、揉みしだくと表現したほうが適切かもしれない。ともかく、彼女は一心に自分の双房に指を沈ませ、それにしたがって彼女の柔らかいバストが自在に形を変えていく。未だ大人の女性へと成熟途中の、その悩ましげな表情と幼さを微かに残した体型の組み合わせがその筋の男性にはたまらないのだ。


「ふぅ……」


 その彼女の隣でなんとも扇情的な溜息を漏らしたのはフィアだ。

 彼女はうつ伏せになって湯に浸かり、縁の上で組んだ両腕に顎を乗せてリラックスした表情を浮かべている。少し汗ばんだ顔は微かに紅潮し、普段はキリッとした様子を崩すことの少ない彼女だが、この時ばかりは頬も眉間もすっかり緩んで無防備になっている。


 縁の内側では、アリエスに次いで慎ましい胸が押し付けられてぷにゅっと形を変えている。乳が横に膨らんでより柔らかさを強調している。先端は腕の影になり見えそうで見えない。だがそれが良い。


 彼女のトレードマークである真紅の髪は今はレイスの手によってアップにされ、キーリのプレゼントであるかんざしで止められている。そのため、普段は隠れている事の多い彼女のうなじがしっかりと露わになっており、湯に濡れてしっとりとした様子を見せつけている。


 そこから視点を下へと動かしていけば、波打つ湯によって輝く彼女の背中がそこにある。冒険者らしく鍛えられた広背筋は彼女のスタイルを引き締め、腰のあたりがこれでもか、とばかりにくびれておりそのスタイルは世の女性達の憧れであろう。無駄な贅肉はなく、だが眺めていれば触れる衝動を抑えられそうにないきめ細かい肌。思わず抱きついて頬ずりしてしまいたくなる魔性の肉体だ。


 更に下へ行けば水面から浮かぶ、二つの島。まさに桃尻という表現が適切な、誰がどう見ても柔らかそうでかつ弾力のある島が一定のリズムで上下に揺れ、天にその魅力を見せつけている。うむ、素晴らしい。


「はぁ、はぁ……お嬢様」


 その彼女の艶やかな肢体を前のめりで観察しているのはお嬢様大好きメイド、レイスである。

 鼻息荒くフィアの肉体に今にもかぶりつきそうに興奮し、普段の冷静な仮面をすっかりかなぐり捨ててしまっているのは露天の温泉という開放感あふれる空間故か。鼻の詰め物は既に役目を放棄して鼻血をだだ流しの残念メイドは必死に曇る眼鏡を拭っているが、彼女の容姿もまた非常に魅力的なものだ。


 濡れて湿った髪は美しく光を反射し、サラサラとしたそれは艷やか。触れれば指は抵抗なく奥へと滑り込み、最高級の絹糸のような快感を与えてくれるのはうけあいだ。


 そして着痩せするタイプの彼女は、洋服を脱ぎ去ればアリエス、フィアよりもずっと女性的だ。もちろん冒険者として活動しているために筋肉はついているのだが、程よく引き締まった体は適度に全身に脂肪を纏い、肉感的な印象を与えてくる。


 常日頃は感情を表に出さず、もしフィア以外が馬鹿げた事をしようものならば夏が冬に様変わりしたかの如き錯覚を与えてくれる冷たい眼差しをプレゼントしてくれよう。しかし何処に触れても優しい肌触りと温もりが包み込み、触れた者を離さないに違いないであろうその肉体を眺めれば、きっと呆れながらも優しく許してくれるのではないか。目撃者が男性ならばそんな妄想を抱いてしまうに違いない。そうであって欲しい。


「はぁ……極楽極楽」


 フィア達とは違って湯船の真ん中でぷかりと浮かんでいるのはカレンだ。女性陣でユーフェを除けばもっとも年少の彼女だが、完全に体を弛緩させて猫人族らしい喉をゴロゴロと鳴らすその仕草はカイト相手に見せた姉としての威厳はなく最も幼い。


 しかし彼女のバストは最大級の成長を見せていた。仰向けで浮かんでいるせいで彼女のバスト――言ってしまえば巨乳は完全に水面に浮かび、まるで胸だけで全身を浮かばせているかのようだ。


 十八歳になった彼女だが小柄で体型は未だ成熟前の少女の様。肌はまさに乙女の柔肌といったぴちぴちしており、体全体の印象として丸みを帯びているが、アンバランスに胸だけが発達していてそれが何処か倒錯的な空気を醸している。


 胸は魅力的だが、それだけでなく日々走ることを愛してやまない彼女の脚はよく引き締まっている。スラリとしているのに柔らかそうな肢体は、まず間違いなく世の男性の視線を惹きつけるに十分な魅力である。

 そして――


「わぁ~、おっきいお風呂!」


 満を持して登場するユキ。湯船を見て上げた彼女の方を全員が一斉に振り返り、そして揃ってギョッと眼を瞠った。


 一挙手一投足の度に大きく揺れる胸。カレンを遥かに超える、言わば爆乳であるのにそのバストは重力に負けること無く、むしろ重力を無視しているのではないかとばかりに理想的な形を保っている。

 ツン、と正面からやや上を向いた突端。空に浮かぶ月のようにきれいな真円を描くそれは、彼女たちの中で最も体格的に小柄であるのに最も大きかった。


 ともすれば不自然なバランスになりかねない爆乳だが、どうしてだかそれが不自然に感じられない。それどころか、胸だけでなく全てが蠱惑的で扇情的である。


 スラリとした両手両足には筋肉と脂肪が理想的な配分でブレンドされ、腰は細すぎず太すぎず適度にくびれ、臀部は小振りながら肉感的。湯に触れる前からしっとりとした肌は瑞々しく、何処に触れてもきっと離そうとはせずに食らいつかれてしまうだろう。


 まさに美の理想形がそこにあった。


「こ、これは凄い破壊力ですわね……」

「何というプレッシャーだ……」

「わ、私にはお嬢様が……くっ、しかし、これは……」

「ふわぁ……」


 四人は自分達の理性を総動員してユキから眼を逸した。常日頃から彼女の奔放な性には苦言を呈しているが、なるほど、これは紛うことなき武器である。いや、兵器である。大量破壊兵器だ。

 同性である彼女たちでさえユキの魔性にこうして容易く囚われてしまうのだ。まして世の中の男性連中が彼女の事を放っておくだろうか。いや、そんなはずがない。例え彼女が毎日違う男性と寝るような女性であったとしても、そんな事など些細でどうでも良いことに思えてしまう。それほどの吸引力がある。


「よーし……とぅ!!」


 そんな感想を抱かれていると知ってか知らずか、ユキは助走をつけて走り出し、ジャンプした。フィア達の頭上を飛び越え、夜空の月と彼女の姿が美しくリンクする。ユキの体は緩やかな弧を描き――着水した。


「うわっぷっ!?」


 どっぽーん、と水柱が上がり、噴水のように舞い上がった湯が全員の頭上から降り注いだ。


「……ぷはっ! いやー、きーもちいいー!」

「ユーキー……貴女って人はぁっ!」

「あはは。ごめんごめん、ほら、これだけおっきいとついやりたくなっちゃわない?」

「その気持ちは分からんでもないが……せめて警告はしてほしかったな」


 頭からずぶ濡れになったアリエスに叱られるも、ユキは悪びれる様子を見せない。屈託なく笑う彼女にすっかり毒気を抜かれ、はぁ、とフィアとアリエスは揃って肩を落とすと再び湯の中に体を沈めた。


「ところでさぁ」いつのまにかアリエスの背後に回り込んだユキはニヤリ、と笑った。「さっきは一人で何をしてたのかなぁ?」

「……!」


 ギクリ、とアリエスは固まった。ずざざざ、と湯の中を高速で後ずさりし、ブンブンと顔を激しく横にシェイクした。


「な、何もしてませんでしてよ!?」

「あーれれー? おっかしいなぁ? さっき見た時は――」ユキは自分の巨大なバストをグイと寄せ、淫らな動きでふにふにと変形させていく。「こんな風に自分の胸を揉みしだいてたじゃない?」

「そ、そんなふしだらな揉み方はしてませんわっ!」

「やっぱり揉んでたんじゃない」

「う……」


 語るに落ちるとはこの事か。アリエスは湯の温もりよりも遥かに赤く顔を染めて湯の中に沈めた。


「アリエス様……」

「し、仕方ないじゃありませんの! フィアはともかくとして、みんな私よりも胸が大きいじゃありませんもの! 納得いきませんわ!」

「まて、『私はともかく』とはどういう意味だ?」

「その慎ましい胸に手を当てて考えて御覧なさいな!」

「つ、慎ましいと言うな! アリエスよりは巨乳だぞ!」

「お嬢様、それは俗に『目くそ鼻くそを笑う』というものでございます」

「れ、レイスまで……」

「まぁまぁ、落ち着きなって。胸が大きいだけが女の魅力じゃないって」

「「お前が言うなっ!!」」


 なんという低レベルな争い。二人してハモってユキにツッコむが彼女の豊満過ぎるバストを見ては、最早何を言っても負け惜しみにしかならない。

 二人して自らの傷口を抉る結果となり、揃って湯船に沈没。ぶくぶくと泡だけが水面で弾けて消えていく中、ユキは「あ、そういえば」と手を叩いた。


「胸を大きくする方法、知ってるよ?」

「本当かっ!?」

「本当ですのっ!?」


 ざばぁ! と二人は立ち上がり、ユキに掴み寄る。目を血走らせ指が食い込むくらいに力いっぱいユキの肩を掴んでいるのだが、ユキはニンマリと口を三日月状に変形させた。


「うん、ホントホント。試してみる?」

「い、今ここでできるのか?」

「できるよ。すっごく簡単だもん。あ、でもちょっとコツがいるかな?」

「そ、その方法をすぐに教えなさいなっ!」


 簡単にできると聞いた二人の喉がゴクリ、と鳴った。


「それは、ね」

「そ、それは?」

「それは――こうすればいいの!」


 ユキの指がタコのように蠢き、アリエスに向かって襲いかかった――




『ちょ、ちょっと、ユキ! 何処を触って……あぁん……』

『ふっふーん、胸はね、他の人に揉んでもらうとおっきくなるんだって』

『そ、そんな事、あ、は……や、止めなさい、今ならまだう、ん……ゆ、許して差し上げますわ……』

『そんな事言って、少し気持ちよくなってるくせに~。あ、ちょっと胸おっきくなった気がする』

『ほ、ホントですのっ!? あ、ん……』

『ホントホント。マホウツカイ、ウソツカナイ』

『れれれれれれレイスっ! す、済まないが私の胸も――』

『その言葉、お待ちしておりました。いつでも準備できております』

『……やっぱりカレン、お前に頼みたい』

『お嬢様っ!? どうしてでしょうか!? 私は、私はこんなにもお嬢様の事を思っているのに……』

『だったらその指の動きと鼻血を止めろっ!!』

『あ、あははは……い、良いんですか?』

『構わない――やってくれ』

『それじゃ遠慮なく。あ』

『くふぅ……な、なんだ……?』

『フィアさんの胸、思ったより柔らかい。肌のハリも凄いし……てぃ』

『くっ、あはぁ……そ、そこはダメだ、敏感で……』

『あ、フィアさんの弱点見っけ。それじゃここは……』

『ちょ、カレン、ダメ、や、あぁ……』

『お嬢様ぁぁぁっっ!』

『ちょ、お前はくるなぁぁぁぁぁっ!!』



 こういう悩ましい会話が女湯で繰り広げられているが、忘れてはならないのは、壁一枚を挟んだ隣には男湯があるということである。男連中など全く存在しないかの如くキャッキャウフフと女性同士で戯れ続ける。

 男というものは想像力たくましいもので、この会話だけでも女湯でどのような阿鼻叫喚の天国(ヘブン)的矛盾した光景が広がっているか、はっきりと想像できてしまう。実に辛抱たまらん。

 そして壁の上で繋がった隣の空間に居るのは年若い男である。


「ちっ、くそったれ……アイツら、俺らの事忘れてんじゃねぇだろうな……」

「……ぶくぶくぶくぶく」


 ギースとシオンの二人は顔をのぼせそうなくらいに真っ赤にして顔まで湯に沈めている。濁った湯で分かり辛いが、水面下で二人の体は完全に前かがみである。二人であるからこの程度で済んでいるものの、もしここにイーシュが居たならば鼻息荒く隔てる壁を乗り越えようとしているだろう。そういう意味では、イーシュがここに居なくて良かったかもしれない。

 キーリは湯船の縁に体を預けたまま二人の様子を眺め、「若いねぇ……」などと呟いていた。二人ほどではないにしてもキーリにとっても聞こえてくる会話は少々毒ではあるが、生きてきた年数も長ければずっとユキと一緒であった男である。こういった場合の男の反応を自制する術の一つくらいは心得ている。といっても、中々に立ち上がるのが辛い状況に変わりないが。


「いや、まぁ、でも……」


 たまにはこんな日も悪くないのかもしれない。キーリは頭の上のタオルを掴むと顔にかけ、そのまま眼を閉じたのだった。






賀東先生は凄いと思います。




お読み頂き、ありがとうございました。

気が向きましたら、ポイント評価、ご感想等頂けると幸甚でございます<(_ _)>

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