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5-5 ずっとスタンド・バイ・ミー(その5)

第2部 第29話です。

キリがいいとこで切ったら短くなりました。

すんまそん<(_ _)>



<<登場人物>>

キーリ:本作主人公。転生後、鬼人族の両親に拾われるも英雄達に村を滅ぼされた。

    魔法の才能は無いが独自の理論で多少は使えるようになった。冒険者ランクはC。

フィア:キーリ達パーティのリーダー。正義感が強いが、重度のショタコン。

アリエス:帝国出身貴族で金髪縦ロール。剣、魔法、指揮能力と多彩な才能を発揮する。筋肉ラブ。

シオン:小柄な狼人族でパーティの回復役。攻撃魔法が苦手だが、それを補うため最近は指揮能力も鍛え始めた。フィアの被害者。

レイス:パーティの斥候役で、フィアをお嬢様と慕う眼鏡メイドさん。お嬢様ラブさはパない。

ギース:パーティの斥候役。スラム出身。舌打ちが癖でいつも不機嫌そうな顔をしている。

カレン:弓が得意な猫人族。パーティの年少組でアリエスと仲が良い。スイーツ以外の料理は壊滅的。

イーシュ:パーティのムードメーカー。鳥頭。よく彼女を作ってはフラれている。

ユキ:キーリと共にスフォンにやってきた少女。性に奔放だがキーリ達と行動を共にすることは少なく、その生活実態は不明。

ユーフェ:猫人族の血を引く貧民街の少女。表情に乏しいが、最近は少しずつ豊かになった気がする。






「お前ら、怪しい奴らだな!? 村の皆に悪いことするつもりだろ!?」

「はぁ?」


 イーシュが素っ頓狂な声を上げ、ポカンと口を開けた。だが少年たち――特にリーダー格っぽい赤毛の少年は、イーシュの態度をどう受け止めたのか「ふふん」と腕を組んで得意気だ。


「ふっふっふ。思ってることを当てられて驚いて声も出ないみたいだな!」

「すげー! にぃちゃん!」

「こら! 今は『れっど』と呼べと言ってるだろ! もしくは『りーだー』だ!」

「あのー……話が見えねぇんだけど?」

「とぼけるな!」少年は「びしぃっ!」とイーシュを指差した。「お前ら最近噂の盗賊団だろ! 次にこの村を狙って偵察に来たに違いない!」

「ンなことするか!」

「じゃあなんで村の裏からコソコソやってきたんだよ!? 気付いてないだろうけど、俺らずっとお前らを見てたんだからな!」

「そうだそうだ!」

「嘘は良くないと思います!」


 リーダーの少年に賛同してやいのやいのと他の少年少女も騒ぎ出す。キーリ達は軽く肩を竦めるだけだったがイーシュだけはいきり立って真っ向から子供達に反論した。


「村に近道してきたんだからしょうがねぇだろ! くだらねぇ濡れ衣着せてんじゃねぇよ! 大人をからかうとタダじゃおかねぇぞ」

「……大人?」

「イーシュが大人、ねぇ……」

「一番子供っぽいイーシュが言ってもな」

「言ってることも大人げないですわ」

「テメェらどっちの味方だよ!?」


 まさかの背後からの口撃。イーシュが鋭くツッコみ、キーリは「腕を上げたな……」とそれっぽく呟いた。


「それよりだ! 急にやってきてお前ら何なんだよ!?」

「ふふん、よく聞いてくれた!」


 待ってましたとばかりに少年がさっと手を上げた。と同時に、周りの子供達が隊列を組み始め、思い思いにポーズを取り始めた。


「悪は見逃さない! 強い兄貴分のリーダー、えるみなれっど!」

「敵の弱点を必ず見つけ出す。サブリーダー、えるみなぶるー」

「どんな時も絶対に諦めないぜ! えるみなぐりーん!!」

「いつだってよわいひとのみかただよ! えるみなぴんく!」

「悪いヤツには挫けない。え、えるみなぶらっく!」

「悪い奴らから村を守る!」

「それが俺たち!」

「「「「「「みるく特戦隊っ!!」」」」」


 息の合った動きで「しゃきーん!」と決めポーズを取る。その直後、彼らの背後で「どぉーん!」と爆発が発生して風が吹き荒んだ。ただし熱風なのに冷たくて気持ちいい。


「……もしかしてユキの仕業か?」

「うん、なんかやらなきゃいけない気がして」


 高い魔法技術の無駄遣いを他所に、突然始まった子供達の行動に他の面々は呆気に取られる。が、そんな中でレイスがポツリと口を開いた。


「そこは『エルミナ特戦隊』ではないのでしょうか?」

「う、うるさいなっ! この村じゃずっとこういう名前なんだよっ!」


 レイスの冷静なツッコミを受け、「えるみなれっど」が顔を赤くして叫んだ。どうやら彼自身も納得していないようだ。

 誤魔化すように年齢に似合わない咳払いをすると、もう一度「ズビシィィッ!」と擬音が聞こえてきそうなキレの有る動きでキーリ達を指差した。


「それよりもお前ら! 俺たちが揃ったからにはお前たちの好きにはさせないぞっ! 特にそこの悪人顔のお前っ!」

「もしかしなくても俺か? ……あー、いや、盛り上がってるところ悪いんだがな」

「ふん! どんだけしらを切ろうってしても無駄だぜっ」

「じゃなくてだな。後ろ」

「後ろ? そうやって俺たちを油断させて……」


 キーリの忠告を無視する「えるみなれっど」だったが、どうやら背後から忍び寄る影に気づく様子はない。

 果たして、彼の頭に拳が振り下ろされた。


「このっ」

「いだっ!?」

「お馬鹿たちっ」

「くっ!?」

「こんなっ」

「いってぇっ!?」

「危ないことしてっ」

「いったーいっ!」

「ホントに悪い人だったらどうすんのっ!」

「……いたい」


 順々に子供達のてっぺんにゲンコツが落とされ、景気の良い痛そうな音が響いていく。少年たちは皆一様に頭を抑えてうずくまり、涙目で犯人をにらみつけようとした――


「いってぇなっ! いったい誰……」

「さぁて、私は誰でしょうねぇ……?」

「か、カレンねぇちゃん……?」


 ――が、般若の笑い顔を浮かべて拳を鳴らす姉の姿にリーダー――カイト・ウェンスターは顔をひきつらせて固まった。


「そうよぉ……久しぶりねぇ、カイト」

「な、なんでねぇちゃんがここに……? いつ帰ってきたんだよ?」

「まさに今よ。まったく、よくも私の友達に失礼なことしてくれたわね」

「と、友達?」


 カイト・ウェンスターは、今しがた自分が因縁をつけた相手を見上げた。姉の友達だという彼らに対し、思い返してみれば調子に乗って散々失礼な事を言ったような気がする。特に今目の前に立っている男に対しては。


「……ん? ああ、別に怒ってねぇから安心しろ」


 カイトと眼があったキーリはそう言って目いっぱいの笑みを浮かべてみせた。こういう時のためにひそかに練習してきた笑顔だ。人畜無害、誰からも愛される好青年を目指して、時に自分の行動に疑問を懐きながらも歯を食いしばって乗り越えて、その末に手に入れた笑顔である。自信を持って子供達にそれを向けた。

 だが――カイト達からしてみれば、邪悪な笑みにしか見えなかった。


――絶対怒ってる……!


 口に出さずとも少年たちの意見は一致した。

 前門のキーリ。後門のカレン。

 「えるみなれっど」は悪には屈しない。屈しないが、弱点はある。同時にそれは「みるく特戦隊」の不文律である。

 カレン姉には、逆らうな。


「逃げるぞっ!」


 カイトが叫ぶと同時に腰に下げた何かを地面に叩きつける。その瞬間、袋が破裂して白い粉が撒き散らされて視界を奪った。

 しばらくして視界が晴れる。と、粉で真っ白になったカレンとキーリ、イーシュが現れ、子供達の姿は消えていた。ちなみに、少し離れていた他のメンバーは風神魔法で難を逃れていた。


「げほっ、けほっ! ……カイトォッッッ!!」

「へっへっへー! じゃあなっ、姉ちゃん!」


 カレンが怒鳴りつけるもどこ吹く風。すでに手の届かない場所に逃げ出していたカイトたちは、ケラケラと笑いながら何処かへと走り逃げていった。


「もうっ! ちゃんと夕方には帰ってきなさいよーっ!!」

「分かってるっての!」


 拳を振り上げて憤慨して見せながらも弟を心配する辺り、しっかりした姉である。小さくなっていく子供達を腰に手を当てて見送り、見えなくなるとそのまま大きく溜息を吐いて肩を落とした。


「はぁ……」

「なんか風のような奴らだったな。カレンの弟……でいいんだよな?」

「うん、さっきの一番やんちゃなのが下の弟。ごめん、キーリくん。汚しちゃって。皆も、弟が失礼な事言ってごめんなさい」

「別に構わねぇよ。洗やいいだけだしな」

「驚きはしたが、怒るほどの事じゃないさ」

「子供のする事ですし、それに村の事を心配しての行動みたいですから。頼もしいじゃないですか」

「うう……そう言ってくれると助かります」


 よよよ、と涙を拭う振りをしてカレンはもう一度溜息を吐いた。


「元気なのはいいんだけど、昔っからやんちゃ過ぎてで手を焼いてて。危ないことは止めなさいって言ってるのに全然気にしないし」

「あの年頃だとそういうものですわ。それに貴族の子供に比べれば可愛いものですもの。キチンと教育しないと、なまじ財力や権力があるだけタチ悪いですわよ」

「それよりも、だ」フィアが村を見渡しながら口を開く。「何やら不穏な事を言ってたな」

「噂の盗賊団、か……ユキが言ってた不安感ってのは、そういう噂のせいかね?」

「そうかもしれませんわね。実際に被害は出てはいないようですけれども、そういう噂があるだけでも平民の方々は不安に感じるものでしょう」

「ンな話は後でしろ。さっさとカレンの家に案内しろって。で、さっさとユーフェの体を拭いてやれっての」

「あ」


 ギースの言葉に一斉に視線がユーフェに集まる。彼女も被害を受けたが、叩く度に舞い上がる粉が楽しいのか、先程からキーリの頭をぽふぽふと叩いていた。どうやらあまり汚れた事は気にしていないようだ。


「と、とりあえずウチに案内するね! そうしたらお湯を準備するから!」


 気まずさを誤魔化すようにカレンが荷物を抱えると、いそいそと先頭を切って歩き始める。キーリはユーフェの腰を持って高い高いをしてやりながら付いていくが、ふと気になることが思い浮かんだ。


「なぁ、カレン」

「ん? なに?」

「さっきの『みるく特戦隊』……昔からの名前ってお前の弟が言ってたけどよ――最初に結成したの、お前じゃねぇよな?」

「……」


 カレンから返事は来なかった。代わりに下手くそな口笛が村の自然に溶け込んでいったのだった。




お読み頂き、ありがとうございました。


気が向きましたら、ポイント評価、ご感想等頂けると幸甚でございます<(_ _)>

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