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7.跳べるジャンプ

「次はトリプルループだ」

「わかった」

 くるりは小さく返事をしました。

 僕は必死に考えます。

 左膝に力が入らないくるりが、どんなジャンプなら跳ぶことができるのだろうか、と。

 ――ループ。

 これが、その答えでした。

 なぜなら、ループは唯一、右足しか使わないジャンプだからです。


 フィギュアスケートのシングル競技では、六種類のジャンプが採点対象となります。

 ――トゥループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツ、アクセル。

 基礎点が低い順、つまり跳びやすい順番に並べると、こんな感じになります。

 その中でもループは、右足一本で跳び上がり、右足で着氷します。

 逆に、左足一本で跳び上がるのがサルコウとアクセルです。この二つのジャンプは、左膝に力が入らない今のくるりには跳べません。

 そして先ほどのジャンプで、フリップとルッツも無理だということがわかりました。

 すでにくるりは、手詰まりの状態だったのです。


 そんな僕の心配をよそに、くるりは右足一本で後ろ向きに滑走を始め、ジャンプの体勢になりました。

 そして右足で氷を蹴って跳び上がります。

『トリプルループ』

『これは高いですね!』

 くるりのジャンプの特徴は、その最高到達点の高さにあります。

 いすれは四回転もできてしまうんじゃないかと思わせるほど、高く跳ぶことができるのです。

 軽々とトリプルループを決めてしまったくるりは、「じゃあ、次は何?」と膝のアクシデントを感じさせないような明るい声で聞いてくるのでした。

「トリプルループ、ダブルループ、ダブルループのコンビネーションで行くぞ!」

「わかった」

 右足でしか跳べないくるりが、右足だけでくるくると合計七回転のジャンプを氷上に繰り広げます。子犬のワルツに合わせたその可愛らしい演技に、会場は拍手で湧き上がりました。

 気をよくしたくるりは、息を切らしながら高揚した声で僕に尋ねます。

「亮太、次は何を跳べばいい?」

「……」

 思わず僕は言葉を詰まらせてしまいました。

 そして、ぎゅっと拳を握りしめ、低い声で事実を伝えるのです。

「ごめん、もうくるりには跳べるジャンプがないんだ」

 僕は彼女に、最後通告をしなければなりませんでした。

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