13.くるりのアクセル
結局くるりは四位で、全日本フィギュアスケートジュニア選手権を終えました。
運よく『なんちゃってトゥループ』は認められたものの、ウォーレイ以降のジャンプはすべて無得点。トップから二十点も差をつけられてしまったのです。
意外だったのは、テレビ中継を見ていた人からの反応でした。
『何で彼女が四位なの?』
『オレの中では、くるりが優勝だぜ』
放送終了直後から、そんなつぶやきがネット上に飛び交うようになりました。
電波の向こう側でも、くるりのジャンプは多くの人の心を魅了していたのです。
特に僕を驚かせたのは、動画サイトに投稿されたラストのアクセルジャンプの映像でした。再生回数はあっという間に百万回を超え、世界中から絶賛のコメントが書き込まれました。
そして、誰も見たことがないそのジャンプを、人々は特別な名前で呼んだのです。
――くるりのアクセル。
くるりと愛犬アクセルの名前は、敬意を持って世界中を駆け巡りました。
それからというもの、くるりは世界中から引っ張りダコでした。
色々な大会のエキシビッションやアイスショーに呼ばれて、『くるりのアクセル』を披露します。だって、得点が入らないジャンプは、競技中には決して見ることができないのですから。
――だったら、正式なジャンプにしてしまえばいいんじゃないの?
自然発生したこの提案に世界中が共感しました。
こうして七番目のジャンプ、『くるり』が誕生したのです。
そして『くるり』が採用された最初の冬季オリンピックで、彼女は僕に向かって相変らずの減らず口を叩きます。
「亮太、いつになったら私は世界一のダンサーになれるのよ? 早く責任取ってよね!」
首から金メダルをぶら下げながらそんなことをさらりと言ってのけるお姫様に、僕はそろそろ責任を取らなきゃと指輪を握りしめるのでした。
おしまい。