12.証
「おおおおおおーーーーーーっ!!!!」
割れんばかりの歓声とは、このことを言うのでしょう。
くるりのラストジャンプに、会場は総立ちになりました。
『月丘選手が最後に決めたのは、な、なんとトリプルアクセル!』
テレビのアナウンサーも絶叫しています。
しかも、くるりが跳んだのは、ただのトリプルアクセルではありませんでした。
高く、遠くに、そして途中から逆回転するカウンター系のアクセルだったのです。
『こんなジャンプ、見たことがありません……』
さすがの八木池解説員も、しばらく言葉を失っていました。
『でも……』
『なんでしょう? 八木池さん』
『残念ながらこのジャンプは無得点ですね』
『ええっ? だって前向きに跳んで三回転半してましたよね? それってトリプルアクセルじゃないんですか?』
『アクセルは左足踏み切りです。でも月丘選手が跳んだのは右足踏み切りでした。これでは競技的にアクセルとは認められないのです』
もう、僕には解説員の言葉なんて、どうでもよく感じてきました。
点数なんてどうでもいいんです。
見たもの、感じたものがすべてなんだと、僕の心が訴えていました。
その証拠に、いつの間にか僕は涙を流していました。それは熱く、次々と僕の頬を照らします。
左足が使えないくるりは、持てる力のすべてを発揮しました。
そして最後に跳んだアクセルは、小学生の時に僕たちを助けてくれた愛犬アクセルに瓜二つだったのです。
「亮太! 見てた!? 私、跳べたよっ!!」
演技を終え、歓声に包まれながらリンクの真ん中に向かうくるりから高揚した声が聞こえてきます。
「ああ、見てた……よ……」
僕はもう涙が止まりません。
「なに? 亮太、泣いてるの?」
「だって……、くるりのジャンプはアクセルにそっくりだったから……」
「ありがとう亮太。私、アクセルが生きた証を残せたかな?」
「うん……、うん……」
これ以上、僕は言葉を続けることができませんでした。
くるりは観客席にお辞儀をしながら、スタンディングオベーションに答えます。その時の充実した笑顔が今でも忘れられません。
だってそれは、天国のアクセルに捧げるとびきりの笑顔でした。