小さな相棒
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「まだ何かようか?」
沈黙に耐えかねて尋ねるアキラ。
「助かった。何かお返しする」
「別にいらねぇよ、ただ気分転換に首突っ込んだだけだからな」
きびすを返し歩き出そうとするが意外にも少女の引っ張る力が強くて動きが止まる。
もちろん俺が本気を出せば軽く歩けるだろうが、この少女の体格を考慮すると力を入れると吹き飛んでしまいそうで無理に歩き出すこともできない。
「おい、離してくれ」
「だめ、何かお礼する」
「いらん」
「旅団の掟で恨みは倍返し、受けた恩は3倍返し」
「旅団の掟だ~?なんだそりゃ」
「私を拾って育ててくれた。星月夜」
「星月夜って傭兵から護衛、ダンジョンに潜って宝探しとかなんでもする武闘派の何でも屋みたいな集団じゃなかったか?」
目の前の少女を見る限りそうは見えない。
「その認識で間違ってない。旅団の人間は何かしらの武芸を身につけてる」
「へぇ~ってそうなことはどうでもいい、その星月夜の掟ってのは分かったが礼はいらん」
「掟は絶対。でもあげられる物がないから体で返す」
といいマントについたフードを外し真剣な目で見つめてくる。
「ばっ、ばか言ってんじゃねー!なっ何言ってんだ!そういうのはもっと大きくなって好きな奴とだな〜」
と言いながら陽の下に曝された少女の顔を見ると確かに整った顔立ちをしている。
肩くらいまでの軽くウェーブのかかった銀色の髪がふわふわと風に揺られている。猫っ毛であるらしく細めの髪の毛先が外側に少し巻いている。
紅い瞳と色白の肌と相まって兎のような小動物的な愛らしさも醸し出している。
確実に将来は美人になるであろう。
しかしながら現在の少女は150cmもあるかどうかの身長しかなく、190cmもあり体格の良いアキラと並ぶと父親と娘のようなものだ。
もはや犯罪としか言えないだろう。
実際14、15歳くらいにしか見えないんだが旅団の秘伝の技で見た目の年齢が止まってるとかで実は20歳くらいだとか?
いやいや、ありえない。
ドワーフとかなら背が低いのも納得だが髭も生えてないしヒューマンぽい。
あっ、でも忍なら狭いところにも入れるように薬で成長を止めるんだったか?
としょうもないことを考えていると
「?、私には旅団で身につけた双剣技術しかないからこれで返す」と少女が不思議そうな顔で答える
「へっ?ああっ、あ、そういう事ね。いや勿論そうだと思ってたよ。」
と努めてポーカーフェイスを崩さないようにする。
武闘集団なら足手纏いになることはないか、さてどうしたものか・・・
「今この街の東にある森のダンジョンを攻略しようとしてるんだが探索技術があったりしないか?」
「旅団で宝箱の鍵開けと簡単なトラップ解除くらいなら教わった。あとは双剣術と風魔法の下級くらいなら使える。」
十分役立ってくれそうだな、これで道に迷わなくても済む。
とどちらかというと後者の方の理由のほうが大きいのであった。
「じゃあ1回だけダンジョンの探索を付き合ってもらおう。それでチャラってことで」
「わかった」
「探索は明日だ。準備が済ませておいてくれ」
「了解」
「そういや名前をまだ聞いてなかったな。俺はアキラだ、よろしくな小さな相棒さん」
「私はルゥ、よろしく」
「俺は宵のカモネギって宿にいるから何かあったら来てくれ。じゃ、また明日」
そのまま泊まろうと思っていた宵のカモネギに向かう。
スタスタスタ。
てくてくてく。
ん?
後ろを振り向くと少女がさっきと同じ距離間で存在する。
進む方角が同じだったのか?
「じゃあ俺はこっちだから」
と言って3股に分かれた道を右に曲がる。
スタスタスタ。
てくてくてく。
まだ、足音が聞こえるんだが・・・
「そういやルゥはどこに泊まってるんだ?」
後ろを振り返ることなく恐らくいるであろうルゥに問いかける。
いや、これでルゥでなかったら赤っ恥なんだが。あっよかったルゥだ。
「特に決めてない。だから同じ宿にする。」
「あ~なんというか、女子供にはあまりお勧めできない宿なんだが。その、防犯上よろしくないというか・・・」
「問題ない」
「とは言ってもだな。仕方ない、いつもは安宿なんだが今日はちょっとだけいい宿に泊まるか。」
「ん。分かった。」
そして来た道を逆に歩き出し中央通り目指すと今度は後ろではなく横にルゥがついてくる。
「そういえば、ルゥはなんでこの街にいたんだ?旅団の仲間は一緒じゃないのか?」
「団長がお前はそろそろ1人前だから卒業試験として1年、旅団から離れて生活してみろって言われた。
だから街を色々廻ってみてる。」
「いやいや1人前ってまだ子供」
「アキラは冒険者?最初見たときは傭兵だと思った」
「ん?ああ、これのせいか」
と言って腰のベルトに着けた狼の尻尾のチャームを触る。
これは傭兵達が自分達の群れを見分けるために、よくお揃いの物を身につけているものなのだ。
かくいう俺のも、傭兵時代に着けていたものを冒険者になっても何となくそのまま身に着けていた。
「少し前まで傭兵だったからな、今は見ての通り冒険者だ」
話しながら横にいる少女を見下ろすと聞いているんだかいないんだか、表情が変わらないから分からないな。
そのまま歩き先程ひと騒動起こした露店のとこまで来ると、すでに先程の露店があった所は何もなくなっていた。
どうやら街の治安維持をしている騎士達に連行されたようだ。
この国ではそれぞれ街を任されている領主たちが私兵として騎士をもっていて、ある程度は領主の采配で街が運営されている。
門のところにいた守衛なども騎士に当たる。
そのまま露店通りを抜け中央通りまででる。
すると先程までの人混みの匂いから一転、頰をなでる風が美味しそうな料理の匂いを運んでくる。
街に着いた時はまだ日が高かったが、どうやら気づかないうちに大分時間が経ったようである。
日が暮れてもう住人達が夕飯を作り始めているようだ。
中央通りを東に進み目当ての宿屋の看板を探す。
その間ルゥも大人しく横についてくる。
「おっ、あったあった此処だ」
と言い二階建ての木造の建物の前で立ち止まる。
ドアの上には豊穣の林檎という字とINN,という表記がされている。