アドベンチャー
「ちっ、ついてねえぜ!がせネタか‼︎」
日差しを覆い隠すように乱立する木々の中
二つの影が動き、男の愚痴る声と金属のぶつかり合う音が木霊する。
片や190cmはあろうかという身長にしっかり筋肉の付いた体躯に黒い髪、少し吊り目がちな黒目の三白眼といった風貌の男。
上半身は肩までしかない革の胸当てに腕に手甲だけを付け、下半身は黒い革のパンツ。
片手には使い込まれた剣を持ち、相手との間合いを簡単に詰めさせないように切っ先を相手の喉元に向け油断なく相手の動作に注視する。
そして反対の手には体全てを覆う事の出来る巨大な盾を持っている。質素な装備の男にしてはこの盾だけが豪奢な作りをしており異様な存在感を放っている。
反対に相対する影は身長は170cmといったところに細身の身体。
いや、細いどころではなく肉といったものがこせげ落ちた骨のみという姿でボロボロの剣を握っている。
それはこの世界『アエテルヌム』ではスカルソルジャーと呼ばれる魔物である。
紅い目だけが煌々と輝き、刃毀れのある剣をがむしゃらにふるってくる姿は、獣に襲われる恐怖とはまた違った、死者のみが放つ生理的嫌悪感を抱かせるものであった。
しかし俺にとっては日常茶飯事で、左手に構えた巨大で少し変わった形の盾で危なげなく捌き、己の剣の間合いへと体を滑り込ませてゆく。
そして、袈裟斬りに剣をふるいスカルソルジャーに剣で一度防がれるのも気にせず、そのままやや水平気味に二撃目を放ち、腕力にモノをいわせた豪快な斬撃でスカルソルジャーを刃毀れした剣ごと両断する。
「あの情報屋。今度会ったら、ただじゃおかねえ!」
そうこぼしながら金属以外の物を見た目の容量に反し大量に収納しておくことのできる《アイテムバッグ》から、動物の革で作られた水筒を取り出し水を飲みながら森の中を進む。
しばらく森を進むと視界がひらけ草原がみえてくる。
草原の先には横に長く伸びた外壁といくつかの門が等間隔に見えてきて、門の近くまで歩を進めるとそれが見上げるようなでかい門だということが分かる。
門の前には制服を着た身の丈を倍にしたくらいの長い槍を持つ守衛とみられる男が二人、左右にやや暇そうに立っていた。
向こうがこちらに気づくと
「やあっ、君は今朝通ったね。探し物は見つかったのかい?」
と聞いてくる。
「いや見つからなかった。
もしかして、ここから出たやつの顔全部覚えてるのか?」と返し、顔をよく見ると確かに朝も門にいた守衛である。
「ははっ、まさか!こっちの西門を通るやつは少ないし西には森があるからね。
森には何もないないし、森の先に用がある奴は迂回する為に北や南の門から出るから、この西の門と同じ様に東に森のある東の門は人気が無いのさ。
出るのは森の木を採りに行く木こりやあんたみたいな冒険者くらいだよ。」
と言われる。
「・・・今、ここは西の門って言ったか?」
「ん?んああっ。ここは西の門だが?」
と変なことでも言ったか?と不思議に思いつつ答える守衛。
「ぬわにぃぃぃ!!東の門と間違えたぁ!!」
と天地を揺るがす様な大声を上げる。
「まっ、まあ、勘違いに気付いたんだ。また東の森を探せばいいじゃないか」
もう一人の守衛が宥める。
「はぁ〜、こりゃ明日また仕切り直しだな」
「とりあえず今日は街に入るんだろう?なら面倒だとは思うが規則なんでな。
手続きを始めるぞ?」
「お〜、サクッと済ませよう」と覇気のない声で答える。
「じゃあ身分証明になるような物を出してもらおう。あとは名前と街に入る目的を答えてもらおうか」
と平坦な声で尋ねる守衛。
すると首からさげた革紐を引っ張り服の内側から紐に通された青い宝石の付いた銀に輝くプレートを取り出す。
この青い宝石の付いたプレートは冒険者ギルドで発行される《ギルドカード》呼ばれるものだ。
《ギルドカード》は他にも商人ギルドなら透明のダイヤモンド。傭兵ギルドなら赤のルビー。魔術師ギルドなら緑のエメラルドのようにそれぞれ発行してもらったギルドによって《ギルドカード》に付く宝石が変わってくる。
俺のカードは青のサファイヤなので冒険者ギルドで発行されたものだということだ。
《ギルドカード》には登録された者の情報が魔法によって刻まれていて、特殊な魔道具を使うとそれが分かるようになっている。
そして首から紐ごと《ギルドカード》を外すと守衛に渡す。
「アキラ。B級冒険者で今はこの街の近くのダンジョンに宝探しだ。まっ、方角を間違えたせいでまだダンジョンにすら着いてないがな」
「よし、プレートの情報と間違いないな。入場を許可する。
ようこそサルトゥスへ」
ニカっと笑い《ギルドカード》を返し門の前から退く守衛達。
アキラは守衛から返された《ギルドカード》を首に掛け直しサルトゥスへを足を進めていく。
そしてまた退屈な警備に戻った守衛達の欠伸を背に受けつつ、この後の予定はどうするかと思考に耽っていくのであった。