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軽業師と大罪人  作者: 日輪
第1章 軽業師と七つの罪
6/7

第5話『王である罪』



「やぁ、私はアルスディア・フルバード、君の名は?」

第一印象は優しそうな人って感じだけど…残ってる罪は憤怒なんだよな…

褐色の肌と銀髪…そんでもって紅い目だからきっと鬼だ。

少しの警戒を持って問いに答える。

「俺は…左綺、だ。」

名前を聞いた時、既に知っていたってぐらいに表情の変化はなかった。

だがその人は今知ったような口調で

「ほう、では暗帝国の出身かな。キルの探していた子だろう」

「やめろ」

キルが食い気味に言った、それはもう知ってるから別にいいじゃんか…

制止の声をかけたキルに笑いかけて、じゃあやめよう、なんて言う…温厚な性格…なのだろうか。

視線は隣へと向けられた

「フシル、君も挨拶しなさい」

「…初めまして、フシル・クロードと申します。」

「え、と…どーも」

声をかけられ1歩前に出てきた人はフシルという人だった。

明るい黄緑色の髪と、その髪と同じような目…だけど目の中にはクローバーのマークがある…魔眼だろうか?

この人は…女の人…かな…?男にも…見えるような気もする。


一通りの挨拶を終えるとアルスディアはほかの罪人に声をかけた

「それで?今回わざわざ集まっているのはどういう事かな」

「ボクは王様に会いたかったから!」

「私もよぉ」

「俺はキルを止める役なァ」

「じゃ僕はそれを見る役」

「なんなんだ貴様らっ」

各々ふざけながら言うとアルスディアは少し笑いながら

「では左綺くんの魔法の事と思って良さそうだな」

と言った。ここの人達察する力発達しすぎじゃ…

「えっと…そうっすね…お願いします」


これで、分かるんだな…俺の魔法のこと…!

少し怖い気もするけど…自分のことなんだ、しっかり聞かなくちゃな!


そう決意を込めてアルスディアを見ると分かったというように頷いた。


「左綺君の魔法は今までのものとは別…新しく生まれた魔法として、分類的には新生魔法と呼ばれている」

「新生、魔法…」

聞いたことも無いな…本当に最近になって出来たんだろうか?それとも俺が知らないだけ…そっちの方が現実味あるな…

「まだ知っている者も多くはない、それ故に戦闘は有利に進むだろう、もちろん使い方によってだがな」

「それで、どういう魔法なんだっ?」

早く早く次の情報が欲しくて急かしてしまう。

そうすればこの人は微笑んだ

「はは、焦ることはないよ。ゆっくり聞きなさい」

こういう自分のことが分かっていくのは気が楽になるっつーか、すっきりするっていうか、とにかくそんな感じだからついやってしまう、少し自重しなきゃな。

「君の魔法は賭けることで自分の能力値を変化させる魔法だ」

「自分の能力値って言うと…」

「素早さ攻撃力防御力…今上がるのはそれだけかな」

今ってことは増えたりとかすんのかなっ!?

どんどん楽しくなっていく感じがする、珍しい魔法使えるってんで舞い上がっちゃってるのが傍から見ても分かるだろう、キルの視線が痛いほど伝えてくる。

「発動条件は特にないはずだから…イメージしながら始めれば出来るはずだ」

「やる!」

「カイ、手合わせを」

「おーう」

カイか、死なないって言ってるし…何かあっても大丈夫だろう…そもそも怪我なんて負わせられねぇの分かるけど…


つか、イメージって何を…?

賭けることを、かな…じっとポケットから出したサイコロを眺める

あの火事で唯一残ってた、形見…みてーなもん、よくこんな小さいヤツ見つけられたなって思うけど…俺のこの魔法のおかげだったりするんだろうか

「おいおい左綺、早く来ねェとこっちからいくぜェ?」

「っ!ちょ、ちょっとたんま!」

あぶねぇ…向かってこられるとこだった

カイって戦うのほんと好きだなぁ…ってあれ?

「ここで魔法ぶっぱなして平気なのか?」

「うん?まぁそんなに壊れないだろ」

考えてなかった、なんてぐらいの反応をされる、褐色の肌は試すように俺を見る


壊れるの前提か…つーか、見くびられてるのも癪だし、ちょっと頑張ってみっか!

双剣を構えて、片方はないから短剣1本だけだけど…そいつを構えて!

自分が賭けるっていうのをイメージする…最近賭場に行ってないからあれだけど…はっきりと想像することができた…っぽい

魔導が流れてくる感じがする、よし…これなら…!


キィンッ!!

「それが…お前の新生魔法かァ…」

「み、みたいだな…!」

賽子の形した魔法陣が俺の足元に現れた、ここまでは成功した、のか?

ただ攻撃の仕方わっかんねー!!!

と、流石に待ちきれないカイが飛び込んできた

すげぇスピードっキルかよ!?

動かないよりはと思って咄嗟に屈む。

自分の上で風を切る音がする、痛みはないしかわせたようだ…

「っ!」

「これ避けんのかァ!」

楽しそうな笑顔を向けるカイ、いや今のはまぐれ…って!

身体がもう勝手に動く、攻撃した後で隙のあるカイさんの横に回り込んで風魔法で威力の上がった蹴りを入れる

「うおっ!」

食らっても死なないからなのか、避けるっていう考えはないみたいで…もろにくらってたけど壁にぶつかる前に踏みとどまった。

威力も足りねぇのか…!


「奪っていてその威力か…」

奪う?

アルスディアが小さくそう言った気がするけど意味わかんねーからいいか。


威力が、足りないのなら…!

連発すればいいんだ!

風魔法を圧縮したものを何度も何度も撃つ、使い慣れてない魔法を使うよりも実践じゃ使い慣れてる方を使っちまう。

カイは全て受け止める…ものが壊れるのを阻止してるようにも見えてきた。

俺たちは攻撃しながら動き続けていた場所が逆になった時に…


カイの足元が爆発した。

「うおっ!?」

流石にこれは予期していなかった、俺もカイも…多分他のみんなも


「よし、もういい」

まだほかの魔法とか試せてないとこで制止の声がかかった。

終わってからようやくキルの様子を見るとなんだか満足気な顔をしていた

俺の予想ではしかめっ面だったんだけどな…?なんで満足そうな顔してんだろ

キルの表情に疑問を持って考えていたらアルスディアに話しかけられた


「左綺くん、君の魔法は大体分かったかい?」

「え?ほかの魔法とか使ってないぞ?あのトラップみたいなのしか…」

だから分かるわけが…と言おうとして思い出す

「能力の上昇ってどこで…?」

今のトラップでは俺の能力が上がったようには感じられなかった。


「それは追々分かるだろう、まぁすぐだと思っておいて構わない」

この人は、なんでそんな事まで分かるんだろうか…

目が赤いから鬼って思ってたけどこの人はなんか…風格ってやつが鬼のそれじゃないんだよな…なんつーか神様みてぇな…圧倒的な力の差をビリビリと肌に感じる。


…でも、普通の鬼がこの人達を束ねられる気もしねぇし…と考えると納得出来る気がしてきた。

ふと目の前のその人が俺ではなくほかの人たちの方へと視線を向けた


「それより君たちは自分のすることは終わったのかな?」

俺達の戦いを後ろで見てた人たちは分かりやすく「あっ」って顔をした

自分のすること?

俺が頭を傾げて考えているとジュリアさんが苦笑を零しながら

「じゃあ私たちは戻るわぁ〜」

なんて行ってそそくさと戻ってしまった、カイだけは見えなくなる前に振り返って「またやろうぜっ」みたいな顔を向けてきた、なんとなく察せちゃう俺がやだぁ〜…出来ればもうやりたくねぇーっ!


「カイに随分と気に入られたようだな」

「あんま嬉しくねーけど…」

まぁ嫌われるよりは全然いいよな…なんてあの魔鬼と出会った時を思い出したけど罪人に好かれるって本来はどう思うべきなんだ?

考える思考を放棄した。

…いいか、ここで普通は要らない感じするし…

「では、本題に入ろうか」

アルスディアがそう言うとフシルは扉の方に回って、ばたん、と扉を閉めた。


「手短に言え、私も忙しいんだ」

うっわキル居たのか、後ろから聞こえてきた聞きなれた低い声、声で判別してしまう自分に嫌気がさしながらも話を聞く。

「全くキルはせっかちだな、では手短に…セギウスでとある男に会ってもらいたい」

セギウス?どこだっけ

後ろにいるキルに聞こうと思ってたらキルは嫌そうな顔をしていた、なんでだろうか?

「どうしたんだ?」

「…なんでもない、私と左綺だけか」

俺行くの前提なんだ!

「いいや、フシルも連れていってもらう」

「えっ」

俺もえって言いそうになってたけどフシルのほうが驚いてたっぽい。

なんかクールな人だと思ってたけど違うのかな?

「アルス、なぜ私もなんですか…?」

とてもとても嫌そうな顔をしていらっしゃる…そんなに嫌なのか!?

「うん?いや、キルは問題を起こす天才だろ」

そんな理由…ッ

もうほんとにキルと一緒にいるのつら…問題起こす天才とかまじか…説得力ありすぎだし!

まー俺もダメだからフシルも連れていくんだよな…俺らダメダメかよ…

フシルは口元に手を当てて暫く考えていると、その手を降ろし


「仕方ないですね…私に任せるということで良いんですよね?」

と言った。確かに俺たちに着いてくよりその方が絶対いよな、問題起こす気しかしないし

アルスディアはそれを聞いて

「ん?あぁ構わないぞ?」

と、あまり良くわかってないのか、そんな風に返した

フシルはそれに頷き俺たちの方を向いた

優しそうな表情だ、この人って結構表情がよく変わる…?オンとオフが激しいのかも…無表情だったのに驚いたり笑いかけてくれたり…

「早速支度を始めましょうか、左綺くん」

「?おう」

「その前に、少し直しましょうかね、その口調」

え?と、そう思っている間に俺はフシルさんに連れられて部屋をあとにすることになった

一体何されるっていうんだっ!?



「キル、よく見つけられたな」

「お前には関係ない」

そう言って私も部屋を出ようとする、だが足を止める…いや止められた

まだ何かあるのかと振り向いてみればいつもと変わらず微笑しているそいつがいた、奴は一言だけ私に伝えた。

「彼を殺されないようにな」

「……誰に言っているんだ」

呆れてため息をつく、この私が守りきれないはずがないだろう

それがわかったのか奴は頷いた、足も動きそうだな

全く、無駄に時間を取られた…

ふと先程連れていかれた者を思い出す。

あいつはどうなって私の前に現れるだろうか…

まぁ大方の予想はつくが、そう思いながらも部屋をあとにすることにした




恐ろしい時間だった

それしか言えそうにない

言葉の矯正……を、されマシタ……

そんな急に治るもんじゃないと思うじゃん?これが中々、変わろうとするんですよね…

まだ完璧にってわけじゃねーけど、でもキル……サマと会ったらちゃんと言わないとなぁ

フシル様こわいしなぁー

チラっと様子を伺うと丁度よく目が合ってしまい、俺はビシッと体を硬直させる、あんな優しそうな顔をしてとてつもなく怖いんだこの人は

怖い内面など見せないかの様ににっこりと微笑む


それが逆に怖い…



「ふ、その様子だと随分と正されたようだな」

面白そうに俺を見るキル様

俺は強くてかっこいい人なら全然従おうって思えるんだけどなぁ

今のとこ嫌な奴でしかないからな!


反抗的な態度を心では取りつつも引きつった笑顔で「ご迷惑をおかけしまシタ」

なんていうと機嫌の良くなったキルは気にしてない、とか言い出した

絶対気にしてたろ!!毎回突っかかってきやがって!!

犬のように吠えまくるが心の中の声なんて届くわけがない、俺は引きつったまま固まった笑顔でアリガトウゴザイマスと口にしたのだった



あれから俺も少しずつ違和感は収まってきた

自分が敬語を使う、しかもキルに、キル様、に

その時点で違和感の塊だった訳だけど…

喧嘩するようなことさえなければ取り敢えず大丈夫だ


なんてフラグを建ててしまったから…

って話は今はしないとして

目的のセギウスってとこに行こうじゃねぇか!


キル様…の転移により俺たちはセギウス、にたどり着いた。



【錬金大国 セギウス社会主義国】


その国は、重厚なレンガ造りの家が隙間のないくらい密接して、どれも同じ高さで。

左綺の住んでいた国とは明らかに違う街並みが広がっていた。

規則正しい空間、規則に縛られず生きてきた彼には少し居づらいものがあったのだろうか、辺りを見渡すと感嘆を一つ吐いてそれきり声を出さなかった。


そんな様子の彼には一切気付かず。いや、一切気に止めずキルやフシルは前を歩いていく

服装はセギウスの服とは似ていないが、キルはどうにもこの国に合っている。きがする。

黒い髪と漆黒の瞳、同じ色のようで違う色。

光に当てられ少し明るい色を見せる髪と、依然として静かに全てを押さえつけるような目。

その顔は凛としていて、現在はどこか不機嫌そうな感情を読み取れるが、普段の彼の立ち振る舞いがどこかこの国と合っているのだ。

すれ違う人が皆ぶっきらぼうに見えるからだろうか






…と、いうか、こんな堂々と歩いていて平気なのか?


ふと頭をよぎる疑問。フシル様はきっと違うんだけどキル…さま、は罪人だし外歩いてたらあぶねぇんじゃ

「どうした」

そんな風に考えていたら何故かキルが俺に問いかける

話しかけんじゃねぇとか思ったけどそれは飲み込もう

喧嘩はしないようにと散々言われたし


「こんな堂々と歩いてて良いのかなぁって」

「そんなことか」

一々言い方がな、腹たってくるんだよな

でもまぁ、まだキレるとこじゃない、落ち着ける

フシル様からの視線が冷たく刺さってくるもんだから思考が冷える。

キルの態度は今更じゃないか

「私たちのことは明らかにはされてない、そういう存在がいる、そんな噂が流れてる、その程度だ」


ふと賭場にいたおっさんの話を思い出す

確かにあいつはキルの容姿については一切言っていなかった

傲慢の罪人だとかそんな話ばかり聞かされて

肝心の情報は知らないままだった


それはこういう事だったんだなと理解する。

「じゃああんなとこにいる必要もなさそうっすけどね」

顔がわからないなら城に閉じこもる必要も無いのに

そんな疑問が出てきて、そのまま言ってみると黒い瞳が俺をじっと見た

「……理由がない訳では無い」

その言い方は、いつものキッパリとした返答ではなかった


要するに、そういうことなんだろう


俺はまだ来て日が浅いわけだし、信用がある訳でもない

…知らない情報ばっかりだ。



素っ気ない返事にこちらも「そっすか」なんて返して


気がつけば人気のない広場へと来ていた

「こっちだ」

キル様が先導して、さらに路地裏へと進んでいく

細い道だ、なんとか向きは変えないで歩ける幅の道をどんどん奥へと。

そうしていけば見えてきたのは少し開けた場所

やっと狭いところから抜け出せた、という開放感にほっと息をつく。


そこに一人の男が立っていた。


白い髪とサイドで結わえている黒髪の男が俺たちのことを見つけると近寄ってきた

とある男っていうのはこいつの事、か


「よく来てくれたな」

人当たりの良さそうな笑顔を浮かべながらどこかいいとこの坊ちゃんみたいなコートを揺らしながら近寄るそいつ、キルは目を逸らしてそいつから離れる。

そうすればフシル様がすっと前に出て「仕事ですから」と淡々と告げる。

2人はそのまま何やら難しそうな会話を始めてしまった、頭の悪い俺には理解できそうにない。

ぼーっとその光景を眺めていればキルが俺に話しかけてきた

「あいつはダイア・ディナンド、天才錬金術師…と言ったところか」

「錬金術?」

ってなんだ?

言い切る前に理解したのか黒髪のそいつはため息をついて簡単に説明してくれた

薬や武器、装備を作る魔法とは違う創造の力

魔力も魔導も使わない、使うのは材料と術式

量とかも大事なわけだからやっぱ頭良くねぇと出来ないんだとか…

「因みにカイも錬金ができるぞ」

「えっ!?!?」

すっげーあれだけど、カイは頭悪いもんだとばかり…人は見かけによらないってのはマジなんだな…

思わず動揺したが予想の範囲内という感じでうるさいとも言わずに話を続けるキル

…やっぱり様とかつけれそうにない…いや頑張るけど…


「まぁ本来魔法が使えるなら錬金術は使えないのだがな…その詳しい話は今回は省こう」

難しい話って長いもんな、そうしてくれた方が俺も助かる、頭おかしくなりそう


そんなわけでその天才錬金術師がなんだって罪人と話すことに?

相変わらず難しい話をしてるふたり、もはや俺の耳が聞こうとしてないだけな気もするが

要約すると

材料は渡すからポーションとかを沢山作っておいて欲しい…って感じ、らしい

天才様に頼むのは一体…?


「にしても俺を捕まえといてポーションか?」

「貴方は錬金ができれば他はどうでもいい素敵なお方ですから」

「褒めるならもっと頼んでくれ」


…どうやら人柄で選んだ、みたいだ

錬金が出来さえすればいい、みたいな

でもってフシルさん、今度はすげぇいろんな種類のもの頼んでる。ダイアって人は楽しそうに頷いてるけど…ぜってぇ大変だろ…

こういうの策士っていうのかなぁ

って感じでとりあえず見守ってた俺達、急にキルが刀に手を掛けた

何かを感じ取ったのか…?俺も気配を探るか…


…特に感じない、なんでもなかったのだろうか


「…では、よろしくお願いしますね」

「おう」

要求は終わったのか、すれ違うようにしてフシルさんから離れる錬金術師は、俺達の方へと歩いてきた。


だが特に会話をすることも無くそのまま彼は立ち去った。

そして錬金術師が見えなくなると…

「来るぞ」

刀を構えるキル、今度は俺にもわかる、何かが近くにいる…剣に手を掛けていつでも抜刀出来るように。


物陰から黒い影が飛び出してきた…よりも、隣の黒色が速かった。



「なんだ、造作もなかったな」

返り血を浴びるよりも早く敵を殲滅した罪人は漆黒の瞳で冷たくその死体を見つめている

まるで相手を人と思ってないみたいだ。

ひどい、とかむごいとか、そういうの以前に

なんというか、かっこよさを感じた。何故と言われれば説明は出来ないのだが、とにかくそう思ったのだ。


「これなら私だけでもどうにかなりましたかね」

「かもな」

…どうやらフシルさんも戦えるみたいだ、戦えないから護衛としてきたと思ったのに…とんでもないなあの場所は…

素直に恐怖心を抱いていれば刀をしまったキルが俺の方に近寄った

「私に見とれていればそのうち死ぬぞ」

「はぁ?」

あ、やっべ思わず

ばっと後ろを振り返ればフシル様も「はぁ?」って顔してた、多分セーフ

いや確かに見てたけど自分で言うか〜〜!?!?

冗談で言ってるのかと思ってもその顔は変わらず無愛想な顔、多分マジで言ってる

というかなんでそんな反応になるんだ?って顔してら、あんた本当に変だよな


って、さすがにそこまで言うと怒られるので無理矢理笑顔を作って

「気をつけマース♡」

「気持ち悪いな」

あ、これ無理だ。


なれない敬語使えばキルの悪態全部ききながせると思ったけど俺これは我慢できない

「はぁーー???あんたのために笑顔作って返事してやったんだろうが!!」

「訳の分からん演技をするな」

「うっせぇナルシスト!そもそも見とれてなんかねぇし!」

「演技の次は嘘か、面倒なやつだな。」


俺の怒りがMAXまで到達した瞬間、武器に手をかけようとした俺を制止させられるぐらいにキルの動きが止まった。

視線は、俺の後ろ


要するに

「左綺君?」

「あ、ぁ…す、すみませ…」


「後でお話があります。」

あ、俺終了のお知らせだ………

もう終わりだ…みたいな顔をしながらも小さな声で「はい…」と返事をすればその場はそれで治まった

キルの方もこれ以上言うつもりは無いのだろう、言葉を発することをやめた。


そんな俺たちなんて知らないでフシル様はキルに語りかけた

「少し見ていかなくていいんですか?」

冷たくて恐ろしい声から一変して優しい声をキルに向ける。

その声俺にもかけられないだろうか、無いな、怒られっぱなしだからな俺

それにしても見ていかなくていいのかってのは…?

違和感を感じながらも問いかけられたキルを見るとその人はなんだか思い詰めた顔をして

「いや、いい」と短く返した


思い詰めた、と言うより…なんだか懐かしむような顔してる…かも?

「…故郷、なんですか?」

当てずっぽうの疑問を思い耽るその人に向けると漆黒の瞳が俺に向けられる

その目は冷たい色をしているけど、今はどこか暖かさを感じた。

そのまま暫く沈黙を続ければ最後には「…あぁ」

と言って俺の言葉を肯定した。

ここがキルの生まれたところなんだ

ふと景色を見渡す、そういえば街ゆく人達がどことなくキルに似てるなァと思ったのはそういうことなんだなぁとか、そんなことを考えながら。

「見る必要が無いのなら、もう帰りましょうか」

長居するのは危険ですし…と言われて俺達は城へと戻ることにした。




目を開けると、そこには変わらず大きな城が

「っ!?」


確かにそこに城はあった、あったん、だけど…!

「やっと帰ってきたのかよ…」

「か、カイ!?」

苦しげな声をあげる男、とその背後にある

燃えている…罪人達の城


一体誰が、こんなこと…





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