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軽業師と大罪人  作者: 日輪
第1章 軽業師と七つの罪
4/7

第3話『愛ゆえの罪』

俺がキルと主従関係になってから1週間以上経った

未だに俺達は仲が悪くひたすらに喧嘩ばかりする。


今日の朝ももちろん喧嘩から始まった。


「貴様!何故改善出来ぬのだ!」

「だから俺はあんたがき・ら・い・なの!」


どちらかが叫ぶように怒るとそれと同じくらいの声量で反抗する

カイが教えてくれたが、俺らから離れたところにいてもこの喧嘩が聞こえてしまっているようだ

兵士とかは俺を見つけると嫌そうな顔をする。

まぁこんなに仲悪いのに従者だもんな…給料とかないけど

…話がそれそうだから戻そう。


様付けしろだの敬語を使えだのしつこく言われてきた俺だが、それを受け入れるわけにはいかない。

ねちっこいけど…斬られた恨みは絶対晴らされないんだからな!

それを毎回言っているのだが、返ってくるのはただ一言

「従うと言ったのは貴様だろう」

ほんとに、あの時断ればよかったと思う。

そうしたらこんな感情すら現れなかっただろうに…


勘違いしているキルに俺がまたこの1週間言い返してきたことを言う

「俺はあの時の事が知りたいだけだ」

何度キルに聞いても答えてくれない。

カイやジュリアさんにも聞いたがどちらも話を逸らしてくる

でもカイは知るべきじゃないとだけ教えてくれた。

教えてくれたのはありがたいけど、知らないまま死ぬのは絶対に嫌だ。


だからずっと聞いてんのに、キルはもう俺の話を聞く気はないようで面倒そうな顔を向け一言だけ言い放つ。


「貴様は言われたことだけしていろ、邪魔だ」

「あぁ!?」

「おいおいお前ら、ちょっと黙れよ」


キルは刀を抜いていて、俺もいつでも戦闘できる体制になったとき、気まぐれだろうがカイが止めてくれた。

俺らは互いに睨み合いながらカイに押されるがまま半歩ほど下がった。


キルを睨みながらも俺は少し安堵していた

戦って勝てる相手じゃない…し…うん


…ほんとにムカつく


なんでこんな奴が強くなっちゃったんだろうと思いながら見てたら考えてることが分かったのか更に怒りを重ねて俺を見てきた。

カイは俺達の顔をおさえながら「はいはいはいはい」と笑いながら言ってきた。

ちょっと痛い…


俺達のどうでもいい喧嘩を止めてくれたカイにここにいる間ずっと思っていたが、罪人にはないような優しさを感じる

キルはまだしもカイやジュリアさんが罪人っていうのはなんか可笑しいんじゃないか?

なんで罪人になったのか

それを聞いていいのかよく分からないけど、多分俺の質問だってここから始まるような気がした。


「…カイはなんで罪人になったんだ?」

「オレ?どうしたよ」


俺が問いかけるとなんだか少し困ったような顔をした。

初めて見た気がする、それだけ大変な事でもやらかしたのだろうか?

…やはり触れられたくない事だったのだろうか


「いや、今の人柄を見た限り…罪人に見えなくて」

「…そうか?オレが一番悪人っぽいって言われるけどなァ…」


そう言って苦笑するカイ、普段なにを言われてるんだろうか…

でも、もし今の話が本当ならキルはどうなんだろうか。

カイの舎弟?

弱そうだな…でも面白そうだ、考えて顔がにやけた。


「何を笑ってる、気味が悪いな」

「うるっさいなぁ!」


冷たい視線が俺に向けられる。

俺の気分を一々害しやがって

だから嫌いなんだっ


良いところなんて一つも…じゃないけどほとんど無い!


というか俺が五月蝿いとか言ったからキルが不機嫌そうな顔になった。

いやさっきからだけど


「貴様…私になんと言った」

「…うるさい短気」

「即座に斬り殺してやろうか!」

「あんたを倒して出てってやる!」


そしてまた喧嘩が始まる。

いや今のは俺が悪いかも

でも短気な方も悪いって!


流石にこれはカイも助けてくれなかった。やれやれと言った感じで俺達から距離をおこうとしている

もういい!絶対勝つ!


『solidele dolore』


その時誰かの声が聞こえた

聞こえたと同時に俺とキルとカイの手の甲に何かの紋章…?が現れた。


「オレもかよ…」「帰ってきたのか!」


2人が何やら慌ててるような気がするけど…なんでだ…

キィンッ


俺がひとりで混乱してると2人が急に膝をついた

なんか痛そう…だけど?

キルがこちらを睨む


「何故お前はリンクしていない…っ!」

「え…どゆこと…」


リンクって言われても…?

カイがゆっくりと立ち上がって玄関の方へと歩いていった

そういや帰ってきたって言ってたよな…?

俺もキルを起こしてからカイの行った方に歩いてく


多分これから会うのは罪人…なのかな…


「…嫉妬の罪人、エレン・インビアだ」

「えっ」


キルがぼそっと呟く、近くにいたから俺にはちゃんと聞こえた

あれ、俺考えてること口に出してたっけか。


「お前はよく顔に出るからな」

「…畜生」


なんで分かんのかなぁ…俺そこまで単純じゃないけど…!


不満に思いながらもようやく無駄にひろーい玄関へとたどり着いた。

そこにいたのは…


「君…だれ」

お、女の子…


ジュリアさんのとは完全に違うタイプ…だな

目の色は赤だしきっと鬼なんだろ

戦鬼…ではなさそうだなぁ…魔法特化の魔鬼かな。

種族の説明なんかはそのうち誰かがしてくれるはずだから今はいいよなっ!


胸くらいまでの長さがある水色の髪をおさげにして、魔女帽を被ってて…


じゃない、俺のこと聞かれてたんだよな!

初対面だからかちょっと観察しちゃった。


「俺は…左綺…だ」


恐る恐るって感じを出しながら答える。

この人、見るからにキツそうなんだが…

いきなり殴りかかってくるとかそういうアレはないよな?

とか思ってちょっと身構えてたら


「………そう」


興味なし、みたいな感じにされてちょっと焦った。

なんか…敵意剥き出しの方がやりやすい気がするぜ…

でもいろんな人に殺意向けられるよりましかと思いながらキルの方を見る。

見たら俺の考えが読めたのか睨まれた…ので睨み返そうとしたらカイに軽く頭を叩かれた。

反射だもん許して。


「で?なんでキミみたいなただの人間がいるわけ?」

「な、なんでって…」


面白くなさそうにキルの方を見て吐き捨てるように言う

俺の方なんて見ようともしない。

聞かれたからには答えないといけないのだがどうにもいい言葉が出てこなくて言葉をつまらせていると…


「私の従者だ、異議は一切聞かん」

一切、を強調してかなり大雑把に俺のことを説明した。

従者とか、言われたくない…

1人でちょっと落ち込んでいたら空気が揺れてるような気がした

それと同時に大きな怒気を感じてそちらを見ると、肩をわなわなと震わせている、先ほどとは全く違う印象の彼女がいた。


「あっっっりえない!!従者!?キルのくせに生意気!!」

「黙れ、騒々しい」

キレるのかなとか思ってたが案外そっけなくて…なるほど相手が女の人だからかと勝手に納得しとく俺、だがどちらにしろ腹が立つ言い方ではあるもんだから彼女の怒りはさらに膨れ上がった。

この状況で笑ってられるカイはほんとに怖いものなしなんだなって思う…


「どうせ服従魔でも使ったんでしょ!最低!」

「貴様!こいつをなんだと…っ!」


エレンが服従魔と言った時先程まで涼しい顔をしていたキルがキレた、唐突に、突然に…

でも俺を見て次の言葉を言うのをやめた

なんでだろうか

キルの目に映っているのは焦っている…ような…?

そんな感情が読み取れた。

服従魔ってやつの正体がバレたくないのかな?ていうか服従魔…ってどんな魔法なんだろうか、その名の通り?


俺がひとりで考えているとキルは更に不機嫌になったようで

「行くぞ左綺!さっさと来い!」

「うぇ!?お、おう…?」

ふん!と大層苛立ちながら踵を返し足早にこの場から立ち去った

来いと言われたしこれ以上怒らせたくない俺は小走りでキルの後を追った。


「なにあれ…ほんと意味不明…!」

「おいおいエレン、あの人間はキルが探してたやつだぜェ?」

「えっ…?」

怒りに満ちた表情をしていたエレンだったがカイの発言にやってしまった…と言った顔になった。

それから少し考えるような素振りをした後エレンはそれでも納得しきれずに「部屋に戻る!」と行ってその場をあとにした。


「ったく、ここにいる奴は揃いも揃って頑固だよなァ…」

いつの間にか宥め役になってしまっていたカイの愚痴は誰にも聞いてもらえず消え去った。



翌々日

エレンが帰ってきてから二日が経った。

俺はキルからの命令に振り回されて城内で会ったときも素通りせざるを得なかった訳だが…

今日、キルが俺に言ってきたのは

「エレンにこの書類を渡してこい」

と、今俺が一番したくないこと(そもそもキルの命令をきかないといけないのが既に嫌なんだけど…)を言ってきやがって俺はすぐには承諾出来なかった。


だって、こんなの…キルが行かないといけないやつなんじゃね?重要書類っぽいし、いつも書類なんて破り捨てそうな感じなのにこれに関してはしわの一つも作らずに丁寧に扱っている

要するに、みんなから認められてるわけでもないこの俺が運ぶようなものじゃないってこった!

と、いうわけで断ろう!自分で動けこのやろーっ

「分かりました…ってあれ!?」

「どうした」


ま、またなんか…思ってることと違うことをー!あーもう受け取っちゃったし!いいよ運んでくるだけだもんな!

訝しげに俺を見るキルに「なんでもない!」と言って部屋をあとにした



「…あいつは本当に馬鹿なのだな…」

ため息を吐きつつ、左綺が出ていった扉を見つめる

微量とはいえキルから発せられている魔力にも気づかないとは、疑り深い仲間が多すぎてもしかして左綺は既に気づいていてただ自分に合わせているだけなのではと考えたりもしたのだが

あの様子ではそれも無いようだ…と、思う。


「…先が思いやられる…」

額に手を添え、肘をつき、暫くキルはそのまま考え込んでいた。




エレン、エレン……見つかんねぇなー…

うろうろと廊下を行ったり来たり、でもエレンは見つからない…

もしかして外に出ちゃってるとか?

カイに聞いたら教えてくれるかな〜

そんな事を考えながら移動すること約10分


「あぁ!!いた!」

「うるっさいなぁもう…」


やっとのことでエレン発見…!

すごい時間かかった…気がする

ほんとここ広すぎるだろ…

俺が元気よく話しかければエレンはかなり鬱陶しそうにこちらを…見ようともせずその場を去ろうとした。


「ちょっとたんま!キルから書類です!」

「はぁ〜?書類ってあれのこと?」


あれっていうのがなんなのか全然わからないから首をかしげながらちょっとよれよれになった書類を渡す。


無言で受け取ったエレンはその書類を数分ほど眺めて

「少し預かっとくよ、キルには1週間はかけないって言っておいて」

「おう、じゃ俺はこれで」


早く戻ってキルに報告しないと…キルは待たされるのが嫌いっぽいからなぁ…


「待って」

「ー?」


さっさと戻ろうと踵を返したらエレンが呼び止めた。

俺何かやらかしただろうか…いや、上司に対しての対応とか全然知らないから絶対なにかはやらかしてるんだけどな…


「…あー…やっぱなんでもない」

「え…」


なんでもなかったやと言いながら手を振って来るもんだからその内容を聞こうとしてはいけないのかな…と思って俺はちょっと変だなー程度に留めてキルの元に行った。


出来るだけ急いで行ったつもりだったんだけど…

「遅い、何をやっていた」

「この城が大きいから迷うんだよっ」

やっぱり遅かったみたいで怒られた…




左綺と別れたあとエレンはカイの部屋へと向かっていた

どうにも気になることがあるのだ。

魔鬼であるエレンは魔法のことに関してはそれなりに知識を持っている、そのせいもあり発生した疑念、早く解決せねばならないその疑念を早く晴らしたいのか、歩くペースも早くなっていく


そのまま長い廊下を歩きに歩くとやっと目的の部屋に辿りついた

ここまで時間をかけて部屋の主が留守だったりしたらどうしようかと思いもしたが、多分大丈夫だろうとノックもせずに扉をあける。


「お前、ノックぐらいしろよ」

苦笑しながらこちらに話しかけてくるカイに適当に返してからすぐさま本題を出す。

「聞いて欲しいんだけど、左綺ってほんとにあれなの?」

「あァ?疑ってんのか」

かなり不満そうな顔をされるとエレンは勝手に一応ほんとではあるんだと決めつけ、ならばと口を開く

「いや、全然あの魔法使わないし」

『あの魔法』という言い方をするのには訳があった。

エレンのいうあの魔法、というのにはまだちゃんとした名前が無いのだ、どういう効果なのかは分かっているがそれだけで説明するとなると少し難しい。

カイは考えるような素振りを見せて

「いや、まァ確かに使ってるとこを見たことはないけどよ」

「でしょ?だったら違う可能性だって…」

そこまで話すとカイがその続きを遮った

「お前、そんなに気になるなら試してみればいいんじゃねェか?」

試す、とはどうやってだろうか 。

珍しく真面目な顔をして言ってくる言葉に多少驚きながらも意味がよく分からないままに

「やってみる」

と答えた 。


でもカイも自分が意味もわからず答えているのが分かったようで

「お前の魔法を使って左綺に攻撃してみればいいんじゃねェかなってこった」

苦笑を零しながら言われてやっと理解した。

攻撃といっても普通の魔法じゃ発動しなさそうだから…

そう考えていく内に楽しくなってきたのかエレンは「じゃあね」と言ってさっさと部屋を出ていった。


「ありがとうもねェのな…」

エレンの身勝手さは慣れているつもりだが…いや、罪人である自分が説教するっていうのもおかしな話だしいいか…

そんな事を考えながらエレンが来たため中断した事を再開すべくひとり部屋に残り作業を開始した。







翌日


あああああああ本当にさぁあああああ!!!

なんだって言うんだ!なんで俺はこんなことばっかさせられるんだよっっ!


俺がめっちゃキレてる理由!?

そんなの隣のやつのせいに決まってんじゃんか!


「仕事しろよっ押し付けないで!」

「黙って作業を続けろ」


隣で涼しげに読書なんてしやがって!

なんで俺が印を押さないといけないんだよ?それ駄目じゃね?労働的に駄目じゃねぇ!?


「全く騒がしいな、印を押すだけなのに余計な動きをするな」

「はぁ!?」


駄目だこれ!1時間は我慢したけど無理だこれ!

決闘だこのやろう…!

変わらず本を読み続けているキルに俺がずっと護身用にって持ってた短剣ぶん投げてみると

「うわっ!?」

跳ね返ってきた

俺が投げた時より早いスピードで

運良くそれは回避できたんだけど…なんなんだ今の

「私のロスト…まぁいい、売られた喧嘩は買ってやるぞ」

ろす…今なんて言おうとしてたんだろうか。

それにつっこんでみようと思ったけど時既に遅し!キルは置いてた刀を拾い上げて鞘を引き抜こうとした。


『solidele dolore』


俺達はやばい、そう思ったのだが思うだけでは意味はなく、俺達の手の甲にくっきりとあの紋章が浮かぶ。

「きききキル…っ!これやばいんじゃ!?」

「エレンは何処だ!!」

助けを乞いたい俺の気持ちを無視してキルはエレンを探しに行かんとばかりに走り出した。

「ちょっと俺のスピードに合わせろよっ!」

キルからリンクする魔法の説明を細く聞いてた俺はキルが先に行くことに焦り慌ただしくついていった。


エレンを見つけるまで少し説明をしようと思う。

リンク魔法『solidele dolore』だが人間と人間の神経を繋げる魔法らしい、だから外傷はリンクされない…だがどちらかの神経が途絶える…というかどっちかが死んだりとかすればリンクして片方も死ぬ、そんなおっかねぇ魔法なわけだが…解除方法もある。

一つは術者を殺すこと、キルならしそうだけどそんなことしちゃダメだぞ!

二つは術者に消させること、今回はそれをしてもらおうと思ってます!

で、なんで俺が焦ってるかっていうと…

『リンクしている者同士がある程度まで離れると、リンクが途切れ、死亡する』

という恐ろしい話を聞かされているからです。

現在俺とキルの距離はみるみる離れていってる

このままじゃ絶対やばい!心なしか苦しいし…!


「…ふふ」

背後から魔力を感じた。

身の危険を察した俺はその場でしゃがみこんだ、急に止まったから足痛いけどそこは我慢だ!

「あ」

俺が避けたのは水魔法だったらしい、物凄い威力で飛んでく水は俺の頭上を通り抜けそのままキルの方へと向かってしまった。


(当たっちゃ嫌だけど当たれ馬鹿っ)

思わず当たれと心の中で強く思ってしまったのだがキルは来ることが分かってたかのように跳ね返した。

「避けなくていいのに」

「貴様…余程殺されたいようだな」

さっと立ち上がって振り返るとエレンが不敵に笑っていた

なんで攻撃されてんだろ俺ら、キルならまだしも俺何もしてないし…とか思ってたら後ろから小突かれた。

「少し後ろに下がっていろ」

いつの間にここまで来てたんだ…でかいくせに速いな…

キルがいつもと変わらないような顔ながらも少し機嫌が悪そうな声で俺に下がるように言ったので素直に後ろに下がった。


一体何をする気なんだ…?

頭がいいとは到底言えない俺はキルが何をしようとしてるのか全くわからなかった。

ただ俺の左手が何か硬いものを触った気がした。


シュンッ

風を切る音と確かに感じる…これは…

刀の感触。

「っ…キル!」

俺の主は刀を引き抜き、エレンに一閃。

エレンは素早く後ろに下がっていたらしいがそれでも掠ったらしく、服が斬られていた

場所?…ちょっと言わないでおくよ、エレンに殺されそうだ

「ちょっと!ボクの服になにしてくれるのさ!」

「ふん、即座にリンクを止めてればいいものを」

やっぱりおかんむりなエレンと自分は悪くないみたいな言い方をするキル。

ぶっちゃけ斬った所は怒られてもいいところだと思うよ俺は。


「ていうか、ボクは確かめたいだけだよ」

珍しく怒りはすぐ消え、俺を見ながらそんなことを言った。

確かめたいってどういうことだろうか…?

自分に、可笑しな点などあっただろうか、いや俺が気

付いてないだけであったんだろうな…

なんとなくそう決めつけているとキルの、初めて聞くようないつもより更に低い声で

「ふざけるのも大概にしろ」

と聞こえた。

これは、この感じは…やばい。

止めないと、俺の頭の中ではそう思っているのだがなにより俺のことを調べられる事に怒るキルの理由が気になって仕方がなかった。


なにか、俺には隠されているのか?

エレンが知ろうとしている事は、俺の知らない事なんだろうか。


ずっと考え込んでいて居たからか、普段なら有り得ないくらい反応が遅れた。

エレンの水魔法が俺に向かってきていた。

「左綺!!」

キルの焦った声、迫る水…不思議なくらい視界がゆっくりに感じた。


そして俺の内側から何かが出てきたように感じた。

なんだろう、この感覚は…


もう水魔法はすぐ近くまで来ていた、その時…

見たことのない魔法陣が俺の足元に展開された。

そしてまるで水のように流れ込んでくる魔導

いやこれは…元からあったものだ…!

足元の魔法陣は赤く光ったかと思うと何事も無かったかのように消えてしまった。

ばしゃんっ!

「へぇ?」

水魔法は急に軌道を変えて壁にぶち当たった。

もちろんそこにあったはずの壁は砕け散っている


…それよりも、今のはなんだったのだろう

あの時流れてきた魔導は確かに知っていた気がするんだが…その魔法を使おうとしてみると全く出てこない。


あ、もしかしてこれがエレンが調べたかったものだったり…?いつの間にかリンクも消えてら

「あれが新生魔法ね…」

「しんせい…まほー…?」

「エレン!即座に左綺の記憶を消せ!」

えっえっ

キルがエレンの方に振り返り記憶を消せと叫んだ

なんで消されないといけないんだよ!?

不満いっぱいの俺は流石に耐えきれずに言い返した

「なんでだよ!忘れる必要なんてねぇだろ!?」

「っ…」

…この、たまーに見せる罪悪感のようなもの

キルはそれを顔に出してしまう。

それがどういう意味なのかは分かってるつもりだ

だからこそ俺はこの顔に弱い。


「いーじゃん、どうせその子は知るんでしょ?王サマが帰ってきたら詳しいこと教えてあげればいいじゃん」

「…だかもし…っ」

一体このふたりは何を話してるんだろうか?

キルは苦虫噛み潰したみたいな顔してるし、エレンは何を悩んでいるんだ、みたいな目をキルに向けている。


その状態が数分続いた、いやちょっと動けよ


「…やつに判断を任せる」

「それでいいと思う」

んーと…多分だけど…エレンのいう王サマが俺の魔法を覚えてていいかを判断してくれる…ってことか?

「え、それでその王サマ?はいつ帰ってくるんだ?」

あまりに短かったら終わりだぞ…魔法の事がわかれば事件のことも少しは分かるかもしれないのに

「確かあと2週間ぐらいじゃなかったかな」

あ、あんまりなかった

「…因みに、やつが帰るまでは絶対に何も教えないからな。情報を探しても無駄だぞ」

「えー!?」

無駄ってどういうことだ、俺は知ってるんだぞ図書室かってくらいめっっちゃ本がある部屋があるのを!

でもそれを言ったらバレるから言わない、俺賢い…ふふ


とか思ってたらエレンがさっきの事はすっかり忘れたみたいな悪戯っぽい笑顔で

「キミの考えてること当ててあげようか、書物の部屋に入って探そうとしてるでしょ」

なんでバレたんだ!?

「ふん、当然書物室への入室は許可しない」

「えー!いいじゃんか少しくらい知ってても!」

「要らぬ情報まで入るぞ」

反抗の意を示してぎゃーぎゃー言ってみたらキルが怒りを噛み殺したみたいな顔で却下してきた。

なんでダメなんだよ…!

要らない情報ってなんだ…結局知りたいこと増やしてるだけだってのー!


俺が不満いっぱいの表情をキルに向けていたらエレンはもう俺達には興味無いみたいに

「じゃボクはもう戻るから、じゃあね~」

なんて言って去ってしまった。


とすれ違いにカイがこちらに来た。

キルはカイを見つけると小さな声で「やはりお前か」なんて呟いた。

やはりって…?


「ははっお前ら大丈夫かァ?」

「大丈夫か、だと?ふざけるな、あれに余計なことを教えたのは貴様だろう」

カイが笑いかけるとキルはこれ絶対キレてんなって顔で返した。

あれって多分エレンの事で…余計なことってのはさっき俺にした事なのかな?頭悪いけどそこら辺は分かるぞ!たぶん…


「まァそうなんだけどよォ…で、やっぱり本当だったんだな?」

何話してんだこの人達は

さっきから俺は置いてけぼりでぼけーっとしてた訳なんだけど…


いや、いくらなんでも…

「!?なんでキルの部屋に来てんだ!?」

気がついたらキルの部屋でした。

ちょっとっていうかかなり怖いです!!



「元より私は疑ってなどなかったぞ」

怒りというか殺気を押し殺しながらキルは酷く冷たい声色で言う。

そんなに嫌だったかとまぁ悪いことしたのはこっちだという自覚はあるのでかるーく「すまんすまん」とだけ言っておいた。

こいつは謝れば少しか対応がマシになるからな

キルってやつは単純だと前から思ってたが…それよりも単純なのを今日見つけてしまった。

まさかあの程度の服従魔法にまだ抗えてないっていう左綺の脳みそ、俺二発目には解除したぞ?

ほんっとに傲慢の主従は馬鹿だな!

…あんまり言うとキルがキレそうだな、いや聞こえていないにしてもなんか、うん。


「お前が疑ってなくとも俺らには分かんねーからよォ…エレンが分かってれば俺らも納得出来るしいいじゃねェか」

それはそうかもしれないが…とキルは言葉を濁しているので一言だけ送っておいてやろうか

「お前の不服も全部あいつが拭ってくれるだろうよ」

「…ふん」

ま、これで取りあえずはうるさくならなくて済むかな…

つか…俺はいつからこいつらの面倒見なくちゃいけなくなったんだよ…まぁいいけどなっ!






「あーやっと帰ってこれたよぉ…」

「お腹空いたわ~」

左綺達のいる城に、2人の罪人が、また近づいてきていた。










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