表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軽業師と大罪人  作者: 日輪
第1章 軽業師と七つの罪
3/7

第2話『従う罪』

「……だ……から…」

「でも……で…」


誰だ…なんの話を…?


森で大罪人キル・ラースと戦って倒れたことは覚えてる。

あの時の痛みは夢とは思えないほど鮮明だ。


…あれ?


痛みが完璧にひいている。

倒れるほど出血した感じもない。

至って普通、むしろ調子がいいくらいに感じる。


目を閉じ寝たふりをしていた俺は起きないとどうにもならなそうだとゆっくりと目を開いた。


寝ていたからか、明るくて開くのを躊躇した。


「あら、起きたのかしら?」


頭上からやけに色っぽい女の人の声がした。

光に慣れてきて視界がはっきりしてくると見慣れない天井があった。

古いけど頑丈そうな壁は俺からしたらやけに高級な感じがした

昔の貴族…みたいな?

あれ、ていうかさっき…


「ふふ、綺麗な瞳ねぇ」

「わっ!?」


今度は綺麗な女性(ひと)が俺の視界に入ってきたもんだから驚いて距離を置く。


…といってもすぐ壁だったんだけどな。

そこには金髪美女と

「あ、あんたは…っ」

「なんだ」


俺が気絶する前まで戦っていたはずのキルがいた。

キルは不機嫌そうに俺を睨んでいた。

いや不機嫌なのは俺だよ!


「ここまで運んでやった私にその態度はなんだ」


俺の心を見透かしてるみたいに冷たい視線を送るキル。

だけど俺は引かなかった。


「あんたが俺を攻撃しなきゃまずこんなことになんなかっただろ傷つけたあんたが治すために動くのは当然じゃねぇ?」

「なんだと…?」


やっぱこいつ短気なんだな。

言い方が悪いのは分かってた、でも俺が言ってるのは正論だと思う。

たしかに俺はあんたに会いたかったんだけど…戦いたいなんて思ってなかったし…

軽率だった俺も悪いけど急に来なければ俺だってきっと気絶する様な戦い方はしなかった。


しばらく睨み合っていると女性が割って入ってきた

「まぁまぁそう怒らないで?」

露出の多い服で屈むものだから目を逸らしてしまう。

漢!なとこで育ってるからこういうのは苦手なんだよぉ…

へ、変な意味じゃない!違うから!


「それで…どぉ?傷の具合は」

「えっ…あ、調子いいくらい…」


もしかしてこの人が治してくれたのだろうか。

この人って一体…

悪い人には見えない…よな…優しそうな雰囲気だ。

じっとその人を観察していると微笑を崩さないまま俺を見つめた。


「ふふ、私はジュリア・ローズよ♪それで分かるかしら?」

「えっ!?」


聞いたことのある名前が出てきた。

流行とか噂とかに疎い俺が賭場で合うようになったおっさんからちらちら聞いてた話にいた気がするんだ。

…そう、たしか…


「色欲の…罪人…?」


恐る恐るそれを言ってみれば妖艶な笑みを俺に向ける。

俺だけに向けられているような感覚に陥りそうだ…すぐ近くにキルがいるのに…


「ふふ、よくわかったわねぇ?私達の事は知ってたのかしら?」

「…噂で聞く程度」


残念ながら興味なかったし…

なんとなくで覚えてただけ。


すると二人は顔を見合わせて少し困った顔をした。

あれ?俺なんか変なこと言ったかな?


「彼処でまで噂になってるのは本当らしいな」

「また活動しづらくなるのねぇ…」


あぁそうか…罪人がそこら辺歩いてるわけにもいかないのか。

勝手に一人で納得、俺は自分の状況を全く理解していなかった。

きれーなお姉さんがいて他のことに一切気がいかなかった。

ふと話が終わったのか興味がなくなったのか、キルが俺の方を見た。

それに気づいて俺も見れば目が合った。

…可愛い女の子と目が合いたかったな…

ふとそんな事を思っていればまた冷たい目が刺さる。

なんなんだよあいつ…

なんか言ってやろうとすると同時にキルが口を開いた。

「お前に選択肢をやる」

「はぁ?」

また変なことを言われてしまった。

おいおい選択肢ってなんだよ?

俺が理解しようとしてるのをお構いなしにそいつは続ける。

「私に従え、従わぬというのなら死ね」

「…」










「はぁ!?」

「やかましい」


こいつほんとなんなんだ。

いきなり生きるか死ぬかの二択出すってなに、そりゃこいつは大罪人だけどさ…

だからってなに、は?え?ふざけんなよ

「どうするんだ」


俺が混乱してるのなんて気にもならないのか目の前のこいつは答えを急かす。

ふざけんなよ。

冗談じゃないと言って部屋を飛び出してしまえばよかった、そうすれば良かったはずなのに俺は

「考えさせてくれ」

と、答えてしまったんだ。

なんでそう答えてしまったかは分からない、分からないからこそ少し自分にゾッとした

俺以外の誰かに『操られて』…いや違う、そうしろと言う重圧がかかったようだった。

言うなれば『服従』

先程までの怒りが一気に消えてしまった。

だけどきっとあぁ言うべきだったんだろう。

そうだと信じて俺は部屋をあとにしようとした。

「明日になる前に答えを出せ」

キルとすれ違おうとする時にそんなことを言われた。

ほんとに急かすな…だが、1時間後なんて言われなくてよかった。

「わかったよ」

振り返りもせず部屋を出る。



「なんであんなに急かしたのぉ?」

ジュリアはふふっと笑いながら隣にいる無愛想な男に聞く。

「お前に話すことではない」

「そぉ?」


思った通りの言葉だったのかまた少し笑う。

ジュリアは答えを知っていた、知っているからこそキルから聞こうとしていた。

キルもそれは分かっていた、それが腹立たしくて言わなかった。


キルからは僅かだが魔力が発せられていた。







(ほんとに広いなぁ…)

あわよくばここから逃げ出そうと思ってたのだが…

俺には到底登りきれない、というか登ってる間にバレそうな高さの壁…

そして兵士?みたいなかっこの人が結構そこら辺中歩いてる。

すれ違って分かったけど…多分一人ひとり強い

逃げるのは無理かなぁ…

そんなこと考えながら歩いてるといつの間にか中庭?的なとこまで来ていた。

ここまで来てやっと城の門を発見した、きっと門はあれだけだと思う。

そこには門番的なやつが二人、俺の方をじっと見ている。


逃げるなって目で言ってる…

畜生…

反抗的な目をしてふいっと顔をそらした。

ほーんと、親が居なくなるの早かったから無作法っつーか…

元々そんなの気にしなくちゃいけない国じゃなかったけど。

俺は結構感情を抑えることが出来ない。

キルにだって突っかかって言ったし(まぁあれは向こうが絶対に悪いんだけどな!!)

思い出すとイライラしてきた…

俺があの時の事を思い出して一人で腹を立てていると、ふと背後に気配を感じた。


「ヘェ、ただのガキってわけじゃねぇんだなァ?」


振り返るとそこには半裸の男がいたり。

俺は思わず

「変態いいいいいい!!!!」

と叫んだ。

「あァ?」

その男はまるで自分のどこが可笑しいのか分からないといった表情をした。

いやいやいや、それなりあったかいけど脱ぐほどじゃ無くね!?

なんで半裸なんだよ!?犯罪じゃん!

…ん?


「あ、あんたもしかして…」

「強欲の罪人だぜ?」


やっぱりか…つかもしかして全員いる感じなのか…?

全員変な人だったらやだな…てかジュリアって人みたいな感じなら変でも構わないけど…


キルや目の前にいる強欲の罪人を見て俺の気分は限界突破して下がりまくった。

なんか嫌なもん見た気分だ。


「なァ、お前だろォ?キルと戦って生きてるやつってのは」


面白そうなものでも見るかのようにニヤニヤと笑うそいつ。

俺は色々重なってふんっと顔を背けて。

「こんなことになるなら死んだ方がましだった」

と言ってしまった。


本当に俺は面倒なことに巻き込まれてしまう。


「そうかァ…じゃあ俺と殺る?」


そいつは新しい玩具でも見つけたみたいにキラキラと目を輝かせていた。


見なきゃ良かった。

というかそれ以前に、言わなきゃ良かった。


漂う殺気、少しでも気を抜いたら殺られそうだ。


「ふざけんな、死んだ方がましだけど俺の死に場所はこんなとこじゃねぇ」

出来れば『あいつ』に会ってから死にたい。

向こうは本気で言ってるわけじゃ無さそうだけど…

それでも俺は本気で答えた。


どちらにしろ今の答えで殺る気は失せたのか

「ただの馬鹿ってわけでもないのか…まァいい」

と、殺気を消した。


あんなに簡単に消せるものなのだろうか?

殺気ってじめじめしててずっとあるものみたいな感じだけど。


「あァ…言い忘れてた、俺の名前はカイ・アンデッド。不死身だ」

「厨二病?」


自分の名前に不死の意味がある言葉入れるとか、どこの厨二病だよ?

思わず俺は聞いた。

もう分かってるだろうが俺は細かいことを考えられない、というか考える前に聞いてしまう。


「こんな名前だったらすぐに俺だって分かんだろォ?俺は強いやつと戦ってたいんだよ」


罪人にしては澄んだ瞳でそう答えた。

要するに向こうから来てもらうために?とんだ受け身だな…?

でもすっげー強くて不死身のやつと戦うのなんているのか?


「この名前だとよォ大抵のアホ共は本当に不死だと思わねぇのよ筋肉馬鹿ってやつだなァ?」

「なるほどな…」

「ま、そんなことはどーでもいい!」


カイとか言う男は俺の肩をつかんだ。

俺は驚いて言葉も出なかった。

ほんと急だったからかなり反応が遅れた。、


「お前キルの従者になんだろ?」

思い出したく無い事を…

ふざけんな、忘れそうだったのに。


俺が無言でいるとカイは少し残念そうに手を離した

「俺はあいつが嫌いだから」

吐き捨てるように言った、本当に今あいつの好感度はマイナスだあんな事されて好感度がいいわけがない。


ふと前を見てみると、カイが昔でも懐かしむように目を細め

「あいつはお前のために何年も捧げてんだぜ」

とまるで家族の自慢でもするような声色で言った。

「…は?」

だが、俺には意味不明の言葉を並べられたようにしか聞き取れなかった。


(俺のために何年も捧げた…?)

心の中で繰り返した。

やはり意味がわからない。

何年も捧げたやつを斬り殺そうとしたのか?

その言葉の意味を知ろうと口を開く前にカイは言わなくてもわかる、という素振りをして勝手に話し始めた。




「あれは、八年前、お前の村が焼かれた日のことだ」

その時からあったこの拠点でとある男を待っていた。

男が帰ってくるのは案外早かったのだが珍しく負傷したのか服がぼろぼろになっていた。


俺達は結構驚いたね、なんせあいつが攻撃をくらったって事が今まで無かったから。

どんな強いヤツなんだって俺はうずうずしてどんなやつだったのか聞いてやろうとしてた。

そしたらあいつ、なんとお持ち帰りしてたんだよ。

ひん曲がって使い物にならない刀を手から落とさないように布で思いっきり巻かれてるんだがその布は血が染み込んでいて元から赤黒かったかのよう。

一体こいつはそこまでして何がしたいんだ。

そう思った

理由はすぐに分かった。

そいつが消え入りそうな声で、でもしっかりと。

「生き残りがいる、助けに行かせろ」

と言ったんだ。

呪いと業火に焼かれて気が狂っても可笑しくないのにそいつはただ一人の生き残りを探そうとしていた。


それがお前ってわけ。


「な、なんだそれ…」


俺は言葉がうまく出てこなかった。

あの時の騎士はやはりキルで、キルはやはり…民を守るために自ら火の中に入っていった。

その時俺は何をしていた。

ただ小さくなって震えていた。

肌が焼けるように熱くなって余計に怖くなった。

キルはそんなの関係ないくらい、それこそ壊れてしまうくらいの熱さの中俺を、村人を探していた。


「…」


カイがお節介を焼きたくなるのも無理はないかもしれない。


でも、ならなんであの時は俺を攻撃して来たんだ?

普通聞き回るだろ?罪人だからっていきなり斬りかかってもし探してたやつだったらとか考えないのか?

そもそも誤報だろそんなの、嘘のでっちあげだ。

俺は見てたんだ、あれはドラゴンが来たから焼かれた。

キルが俺の村を焼いたんじゃない。

自分の部下?を置いて1人炎の中に入ろうとするやつを極悪人なんて俺は言えない。


俺が1人で考え込んでいると、不意にカイが口を開いた。

「まだ考える時間はあるからちゃんと考えてやれよ」


その言葉に俺は何も言えそうになかった。

やりたくない事をしたくはない

というかあんなヤローの従者なんて絶対に嫌だ。

断りたいところだが…

カイの話を聞いてしまったからなぁ…

あんな話聞いたら簡単に断れねぇよ…


うだうだと同じことを繰り返し考え続けていたら




「夜じゃねぇか!!!!!」


やばいこれ、絶対今更行ったら殺されるパターンだ。

どうする俺…!

夜だし抜け出そうか!?

いや、いやでもなー!!!


まだ兵士いるし…




「よし…決めた」


うだうだと考えてるなんて俺らしくないし

キルの部屋に行こう!


「たのもー!!!」

「黙れ」

元気よく扉を開けるとかなり不機嫌なキルがいた

うん、夜に騒いじゃダメだよな

謝りはしないけど。


「…決まったか」

「あぁ」


目線を落とすキルに少しの違和感を覚えながらも俺は近寄った


あんたがなんで俺を探すためだけに何年も時間をかけてしまったのか、そこまでする理由もよく分かんない

でもその意味を俺は知らないといけない気がした。


というか…

あの日起こった事件をこいつは知っている

俺よりも、確実に知っているはずなんだ。


だから、今俺がすべき事は…


「俺はあんたに…」

そこまで言ってキルの顔を見ると

苦しそうな、辛そうな顔をしていた。


…理由はきっと単純だ

この人は俺が従わないって思ってる。


そして、従わないと言っても俺を殺しはしない。

覚悟してるつもりだけど、言って欲しくないんだろう…


まったく…

俺はそこまで頭悪くないぜ


「キル・ラースに、従う」


そう言うとかなり驚いた顔をされた


「貴様…なんと言った、頭でも可笑しくなったか」

「はぁ!?」

折角あんたの心配もしてやったのになんて事言うんだ!

やっぱりこいつ嫌いだ!!!!!!





「口が悪いから嫌われちゃうのよね~」

「まァ、俺らは嫌われ者じゃねぇとな」


影で色欲と強欲が見ていたことを傲慢主従は知らなかった…








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ