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軽業師と大罪人  作者: 日輪
第1章 軽業師と七つの罪
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第1話『出会う罪』

あれから8年経った。

俺は18歳になり、俺の出身国暗帝国に居ることが嫌になってきていい加減おさらばしてやろうとしていたある日、とある噂を手に入れた。


「なぁ左綺、お前知ってるか?」

「んー?なにが?」


資金というかここから出るための金を調達するために賭場で賭け事(決して遊びの為じゃない)をしていると隣のおっさんに話しかけられた。

最近よく会うから話すようになったってだけの他人

よく噂を仕入れてくるから今日も下らない話をするんだろう

とくに興味もなかった俺は聞いたふりをしていた。


「冷酷非道で有名なあの!大罪人キル・ラースが今この国にいるらしいぜぇ?」

「キル・ラースって誰だよ?…丁!」


丁半をしながら話を聞く、聞いたふりと言っても近くで話されてたら聞こえるもんは聞こえる、罪人がこの国にいたとしてもそんな気にならないのに…それをわざわざすごいみたいに言われたらちょっと気になってしまう。


「んじゃ丁!…最果ての村を焼いたやつさ、生存者は居ないって一時期めっちゃ騒がしく言われてたじゃねぇか」


急に出てきたその言葉にビクリと肩を震わせた。

もう二度と聞くことのない言葉だと思っていたのに

俺の村を焼いたやつが大罪人?

ドラゴンが来たんだろ?

なぜ人的なものだと決めつけられたんだ?

あの時詠唱をしていたやつなのか?

それなら納得がいく

それよりも気になるのは生存者が居ないってことだ。

もしかして俺は死人扱いなのか?


「…それで、冷酷非道ってどんな感じなんだ」

俺は無理矢理話をずらした、ずっと考えていること自体が辛かった。

おっさんはよくぞ聞いてくれた、みたいな感じににやっとした

「それがな、傲慢の手下に対しての扱いがひでぇんだよ!」

「手下ぁ?」


最近の罪人は自分を守る駒も必要なのか、可哀想だな。

昔はそんなの無かったからすぐ捕まえられたし…あぁ、なるほどそれで最近は事件ばっかなのか?

「必要の無いやつは即殺すのさ、気に食わないことがあれば国ごと滅ぼす強くて恐ろしい奴だ」


必要の無いやつは…殺す…?

気に食わない事があれば滅ぼす…?

物騒なやつだな。

「だからあいつの手下は生気がなくなったみてぇに静かで…だけどすっげぇ強いんだよ、傲慢の命令には一切逆らわねぇ」

「まさに駒だな」

変な奴もいるんだな…

自分で話をそらしておきながらすっかり先程のことを忘れて聞き入っていた俺…最初は聞いてるフリしてるだけだったのにな

だが気持ちは沈んだままだ

なんだか今日はだるい…


その時籠が置かれた。


「二四の丁!」

「よっしゃ!」


やっぱ俺ツイてんなー!

だけどあんまやり過ぎると負けるからここら辺でやめとくか。

先程まで考えていたことをすっかり忘れたかのように俺は立ち上がる。


「もう帰るのか?」

「今日はこれ以上やってもダメそうだし…じゃな!」


札を金に変えてもい、賭場を後にした。


賭場を出て少し歩いている間また思い出して考え込んだ

その大罪人はどんなやつなんだろうか。

もしかしたら俺が知らない何かをそいつは知ってるかもしれない

いつの間にか生存者0になってた事とか…

少し気になってしまった俺はそのキル・ラースってやつを探しに行くことにした。

色々聞きたいこともあるからな。



それから歩き続けていると森に入った。

帝都に行くにはこの道しかないし…獣道みたいだけどちゃっちゃと行けば多分大丈夫なはず!

意気揚々と森を突き進む。

すると何かの気配を感じた。

ここら辺に居るとしたら危険種のモンスターだ、倒せないことは無いだろうがそんなに戦うのは得意じゃないしな。

逃げることを前提に双剣を構える。


すると出てきたのはやはり、危険種のモンスターだった。

「ガアアアアアア!!!」

大きく開いている口、そこから流れているねとねとした液体、大きな爪と牙を持つ如何にもなモンスターが今にも俺を食い殺そうとしている。

ひきつけてから逃げようと思っていたその時

何者かが俺とモンスターの前に現れた。


パァアンッ!!


結界のようなものに当たってモンスターは吹っ飛んだ。

誰だかわかんないけど助かった…

少し戸惑いながらもそいつの方を見る。


「…あんた、ありがとな!」


名前がわからないので取りあえずの礼を言っておくすると睨まれた。

なんでだよ…礼を言っただけなのに…足りないとか?金よこせとかなのか?


「お前を助けたわけではない、ちょうど私の前を通っただけだ」


…照れ隠しなのか?

馬鹿丸出しみたいなこと考えてたら睨まれた。

こいつ俺の考えてること分かるのか?

だとしたらこっわ…


「顔に出ているぞ間抜けめ」

「まっまぬ…っ!?」


な、なんつー口の悪さだ!

でも助けてもらったのは事実だしなぁ…


目つきが悪くて口も悪い。

それでも助けてくれた礼を言わないのはだめだ

モンスターだって頭が悪いわけじゃない。

生きるために必死だから力をつけた

そして自分より強いヤツには近寄らない

だからあの時あのモンスターが近くにいたこと自体が可笑しい。

俺だってそんなに馬鹿じゃないんだぜ?


「おい」

俺が一人で納得していれば不意に声がかかった。

なんだろうとそちらを見ようとしたその時には

刀が目の前に来ていた

「ッ!?」

左右に避けるほど思考が回るわけもなく素早く後ろに下がった

あのまま行けば目ん玉突き刺さってたけど後ろに下がったおかげで当たる場所がずれて肩に刺さった。

痛くないわけじゃない

それでも動きを止めることは出来なかった。

相手の動きが俺以上に速いからだ

少しでも止まれば確実に死ぬ

なんでこんなことするんだ

そんな言葉が声になる暇は全くなかった

向こうの動きを確認すればゆっくりと体を傾けていた


なんだ…?


急に遅くなって混乱した俺の脳は集中力が逆に高まった。

じっと見ていたらそいつの身体は

見えなくなった

(…あ)

ガキンッ!


「…!」


速すぎて視界に入らなかった。

少しでも反応が遅れれば俺の首はもう飛んでいただろう。

反射的に刀を引き抜けたのはもう運でしか無いと思える。

意外だったのか、少し驚いた顔をされた

それでもすぐ目付きが悪い先程の表情に戻ってしまった

その間に肩の傷が癒えるわけもなく傷口から血が流れる

このままでは押し負けてしまう…

だが押し負けることは無かった。

何故なら向こうが離れたからだ

警戒しつつもほんの少し安堵する。


いつでも向こうは俺を殺せるんだ、一度防げたからと言って二度防げるとは限らない。

警戒したままでいると


「貴様は何者だ」

(…え?)

急な質問に戸惑いながらもそいつの方を見た。

「俺は…最果ての村の生き残りだ…」


自分で言いながら嫌な気分がした。

賭場に入り浸って、村のやつの供養もしないで

身分もなければ特化した物もない

力もないし守るものだってない

そんな俺が言えることは一つしかなかった。


「最果ての村…だと?」


少し嬉しそうなでも苦しそうな表情を見て疑念が確信に変わった

「…あんたが傲慢のキル・ラース…」

そう呟くように聞けば向こうはそんなことはどうでもいいと思っているのか「ああ」と案外さらりと答えた

「…名はなんというんだ」

「え?…さ、左綺…」

キル…は俺の名を聞いて刀をしまったそして俺に背を向けた

俺はいつの間にか警戒心も解いて隙だらけになっていた。

「気が変わった」

こ、今度はなんて言い出すんだ…

キルさえ納得していればいいとでも言うように話を進めていくもんだから俺は置いてかれていた。

「ついてこい」

「はぁ?」

人の肩刺しといてついてこいって…

俺の考えてることが分かったのか嘲笑するかの如く鼻で笑う

笑わねぇなと思ってたがこんな笑い方はするのな…


「回避できない貴様が悪い」

「なんだよそれ…」


足元がふらつく

出血が案外多かったようだ

(おいおい冗談だろ…)


これ、もう二度と目が覚めないパターンじゃ…

なんとか正気を保とうとしている間に声がかかった。

「…運んでやる、いいな?」

はこん…で?

ふざけんな、俺はまだ死にたくない…んだから…

キルが俺に触れた瞬間、糸が切れたように意識が遠のいた。




『キル視点』

「…気を失ったか」

人が触れた瞬間くたりと倒れ込んできたそいつの肩をよく見てみる、この程度の傷なら治せるだろうか、いやもし目を貫かれたとしても治せるのだから大丈夫だろう。

最初に見た時はただのゴミにしか見えなかったがあの身のこなしには見覚えがあったあのまま何をするでもなく去っていたら気づくことは出来なかっただろう。

…それにしてもこいつ、『あの魔法』を使わなかったな

『あの時』は開幕から使っていたというのに

……他にもおかしな点はいくつかあった

だがそれを気にしていても当の本人が気絶中では意味がない

面倒だが、全くもって面倒だが。

転移魔法を発動させる

行き先は城だ。

大罪人が城持つのは可笑しいと思う者もいるだろうが私だけの城ではない

どちらにしろ城など魔法でも創れる。

『負けるわけのない』雑魚共が寄って集ってきたとしても『我々』は屈しない

むしろ我々の存在を知らしめる為にも城は必要なものだ

…場所が場所だからなのか我々以外の者が来たことは無いのだがな


「…左綺…」


やっと見つけたあの事件の生き残り。

あれから8年か、何故こんなに時間をかけてしまったのだろうか

…いや、もっと早かったとしても私はこいつとの接触をしたくなかっただろう

良いタイミングだったかもしれない。

考え事をしながらも転移魔法を発動させる

しばらく棒立ちしてしまった、怪我人がいるのは面倒だな

あの時すぐ避ければ私も早く気づけたというのに。


我ながら傲慢の罪人であることに嫌気がさすこともなくむしろ当たり前のような気がしている間に転移魔法は終わっていた。

距離が短かった為か、いつぞや誰かが言っていた私の魔力が高いおかげかで城に着くのはあっという間だった

ここら辺に捨てておけばあいつが治すだろうかコイツもどうせあいつの好みなんだろう

男だったらなんでもいいやつだしな。


それに、これ以上こいつといるとあの時を思い出して嫌になる

私の全てが終わり、罪人として生きることになったあの時を

鮮明に思い出してしまう。

私は無責任にもその場をあとにした

それほどまで私は自己嫌悪に陥っていた

左綺を助けたところで私の罪が無くなるわけではない

分かっていてもそれを受け入れたくない私はとにかく左綺から離れたかったのだ

少し落ち着こう

一度寝れば良くなるだろうか?




「…あらぁ?」



背後から微かに聞こえてきたその声に

(あぁもう平気だ)

と私は勝手に安堵した。



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