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三話 アクロバート

カツコが日本に帰ってからまた普通どおりの生活が始まった。

学校に行き、クラブに行く。

変わったのはグラウンドまで自転車で行くようになったこと。

それと、チーム練習に加わることになったことだった。


Cカテゴリーのチームメイトの中で小さいぼくは、下のクラスの子どもたちからも注目されるし、コーチ陣からも注目された。

選手に注目されたのは日本人と言うことと、小さいと言うことだけではなく、カツコの存在や昨年初めまで所属していたアユムの影響もあったと思う。

カツコは置いておいて、アユムは卓越したテクニックと運動量でDカテゴリーでも有名人。

まあ、カツコ並みのあの性格もあったと思うけれど・・・。


そしてコーチ陣が注目したのは基礎レベルの高さだった。


両足でのキック精度。

ドリブルなどのボールタッチのやわらかさ。

これはJFAの育成プログラムのお陰。


トリッキーなフェイントとパス。

視野の広さ。

体の使い方。

これはZAALザールのカツコのお陰。

変なボールタッチや、姿勢悪いから周りが見えないんだと言われ続けたこと。そして、体の使い方と言うより当たり方の個人レッスンだ。


掘り出し物だと思ったんだろうね。



練習は軽いランニングからはじまり、ステップワーク、鳥かご、そしてミニゲーム。

その後フィジカルトレーニングなど個人トレーニングが続く。

ZAALでやっていたこととさほど変わりはないけれど、日本は練習しすぎなんて嘘だ。

こちらの選手は納得するまでやっている。

何せ、何時戦力外通告を受けるかわからないかららしい。

ぼくは練習生として参加しているから気が楽とか思っていたら・・・違うみたいだと最近気がついたので必死にやっている。



チームメイトとも片言でフットボールの話しをできるようになってきた。

特に、ゴールキーパーのアルベルト クラッテ、MFをしているブルクハルト トラップ、マリウス グスタフス、ホルガー シュルツ、アウグスト ボラートなど周りにどんどん集まってきた。


教えられることが多いと思っていたけれど、逆にぼくは色々質問された。

どうも”マサトシ”(カツコ)の教え子ということが理由みたい。

ドイツ語が話せたらカツコのことをもっと教えてあげられるのに・・・。

いい加減なところや、全く指導しないところ。試合中にベンチから消えることなんか・・・。


でも、フリースタイルは教えられる。

ボールを蹴るとき何処に当てるのか、足のどの部分を使うのか、振りぬき方で様々な回転をかけるなんかも教えられる。

カツコは努力の人だったんだな~なんて思う瞬間だった。



「ミズホ~ミニゲームやろうぜ!」

チームのトップ下のマリウスが声をかけてきた。

通常練習は終わっているのだけど、ほとんど全員が残っていた。


「4-4-2のフォーメーションで、俺の横にミズホね」

「横に並ぶときもあるし、どちらかが前に行ったらフォローね」

マリウスが身振りを交えて説明してくれた。


「俺たち4-2-3-1ばかりやってきたけれど、少し違うスタイルを試してみたいんだ」

ブルクハルトも言う。

違うことしたいぐらいしか理解せずにやり始めた。


マリウスの優しげな顔にだまされた。

鬼だった。

自分が動き、そのフォローをぼくにさせる。

鬼!体力持たないって!


15分ぐらいやっては修正してまた15分やる。


クラウスコーチが教えてくれた。

「ミズホ。ワガママにやっていいよ」


マリウスのワンマンチームなのではなく、ぼくが遠慮していたからだった。

それと、マリウスの動きに合わせられる選手、活かす選手がいなかっただけだった。


ぼくは前後だけでなく、左右にも動いてみたら、マリウスがちゃんとフォローに入ってくれる。

その動きが出来たら周りの動きも変わってきた。

とにかく運動量が多い。

動きが止まらない。

動いて欲しいところに誰かが向かうからボールの出しどころに困ることがない。


このチームにはレギュラーやサブと言う考え方はないらしい。

その時調子のいい選手が試合に出る。

だから一人ひとりのレベルは高い。それはそうだろう。恐れ多くもブンデスの下部組織の選手なんだから。


そして、ぼくもプレイスタイルを変えてみた。

面白いようにパスが通るけれど、ドリブルで仕掛けたり、ボールを保持して2・3人ひきつけてみたりと試してみた。


いける!


今までの環境と違うのはスピードだけかもしれない。

パススピードと寄せのスピードが段違いに速いけれど、ぼくはトラップひとつで抜けれることに自信を深めた。

そして、トリッキーな動きで抜くことも出来た。



「ミズホはマウス(ネズミ)みたいに動くよな」

DFのグンターが悔しそうに言う。

「捕まえたと思ったらすり抜ける」

「それにボールがどこにあるのかわからない」


ぼくとしては文句が出ることは嬉しいこと。


「なんで、トラップひとつで抜かれないといけないんだよ」

同じDFのレオも言う。


ぼくはトラップするときにワンタッチで抜け出ろ!とカツコに叩き込まれた。

それで編み出した必殺技は・・・3Dトラップ!(意味不明・・・)

トラップミスしたように浮かした瞬間にもう一度触り抜いたり・・・要するに騙すのだ。


みんなの前で見せた。

ボールに触るのは腕以外オーケーなのがフットボールのルール。

つまり、体全体でボールコントロールして見せた。


「マサトシの再来だ・・・。南米の選手とも違う・・・。アクロバート(曲芸師)だな」

カールコーチが言った。

え?カツコってそんな呼び名だったの!?


チーム内での居場所が出来た・・・。気がする・・・。


試合に出たいな~

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