二話 なんでいるの?
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零話でU-16インターナショナルドリームカップ参加をU-16代表と書きましたが、U-15日本代表の予定で書こうと思っておりましたので修正しました。
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ヘルタ・ベルリナー・シュポルト・クラップ・ベルリンのツェー ユニオーレンに練習生として参加してから3ヶ月がたった夏のある日、U-16インターナショナルドリームカップがベルリンで開催された。
日本からはU-15代表が参加する。
いま、ぼくらはU-14カテゴリーだけど、アユムから日本はJのU-15を中心としてチームが作られて参加する。
そしてその中にU-14からヤマト、ジロー、マサオと自分が参加することになったとメールをもらった。
「マサオも選ばれたんだ・・・。って、U-14からの選抜ってすごいよな・・・」
独り言を言いながら練習グラウンドに向かう。
ぼくは未だにチーム練習には入っていない。
体はだいぶ切れも戻ってきたのだけど、言葉の壁が・・・。
ドッペルパス(ワンツーのことかな?)とかエッケ(なんか前につけてニアとかファーのコーナーポストのことみたい)、またフランケ(クロス)とかマンデッカー、ラウムデックングとかサッカー用語を少しずつ覚えているけれど・・・聞き取れないこと多い。
だって、怒鳴っているからマジ発音わからないんだもの・・・。
最近は流石のぼくも最近焦りが出てきた。
そんな中、自分で考えた練習以外にクラウスコーチがボールの蹴り方や止め方、体の使い方など本当の基本を教えてくれる。
どんだけ素人って思われているのだろう。凹むな~
その基本練習を続けていてわかったことがある。
確実にボールをコントロールして繋ぐことの大切さを・・・。
ただ、パスを出すだけではダメだ。
受け手が欲しいところに出す。
受け手がコントロールしやすいように考えて出す。
ただボールを受けるのではダメだ。
次にどうするのかを考えてトラップする。
動きを止めずにもらいたいところでもらう。
持久力はランニングを続けているのでかなりついてきたと思う。
後は、試合勘を戻すだけなのかもしれない。
そんな時期にインターナショナルドリームカップの日本代表の試合を見に行った。
ショックだった。
観にいった試合は負けたのだけど、それがショックだったわけではなく、U-15日本代表のプレイひとつひとつが創造性が高く、集められた選手にも関わらず見ていて楽しいフットボールだったからだ。
それでも連携が甘いのと、最後は力負けして負けたのだけど、ワクワクしながら見る自分と、自分にあのプレイができるのかと言う焦りが出たのは確かだ。
あれはZAALのカツコが言っていた「楽しいフットボール」を具現化したチームだ。
「キミ~。彼ら面白い試合するだろう~」
試合会場を後にしたぼくは日本語で話しかけられた。
「げ!カツコ!!」
「げってなんだよ~」
「なんでカツコがここにいるの?」
「俺様はU-17のコーチしているんだぜ~」
「って、今回はU-15なんでしょ?」
「だよ。U-17は試合ないからね~~~」
「だから、何でここにいるのか説明になっていないんですけれど・・・」
「自費!自費で来たんだぜ。自腹ってヤツ」
だめだ、説明になっていない。
「自腹で来たからホテル代ないんだ~」
「・・・」
「ミズホん家に泊めて~」
「ダメ」
「冷たいなぁ~泊めてくれないと野宿だ。襲われて”日本人観光客行方不明”なんてニュースになったらミズホのせいね」
ドイツへ観光なのですか?
結局、カツコは家に押しかけてきた・・・。
父さんと盛り上がるカツコ。
何で盛り上がっているかって?
ザウアークラウト(キャベツの酢漬け)で・・・。
本当に何しに来たんだろう・・・この人。
結局、カツコは滞在中ぼくの練習に一緒に来た。
コーチも選手も全員知っているようだった。って何でだ?
「俺、小学生のころ、親の仕事でオランダにいたんだ」
聞いていないです。あなたの幼少のころの話なんて。
「高校は日本に戻ったんだけど、大学2年のときに怪我をしたこともあってドイツに来たんだ~それがこのクラブ」
ん?カツコは世代別代表に選ばれ続けたと聞いていたのだけど、怪我をして・・・。
どんだけ行動力あるんですか?この人!?
「結局、U-22に呼ばれなかったし、その後フットサルに転向したけれどね~」
なんだか自分の世界に入り込んでいます。
「俺様のフットボールの起源はオランダとドイツ!」
どこの偉人さんですか?
「ああ、だからZAALフットボールをするのですか」
「あのなぁ、あんなはないだろう~
そのときの俺な、自分の限界を感じていたんだ。
だけど、みんなには自分で限界を作って欲しくない。そう思って高橋代表とZAALを作ったんだ」
「ぼく、いま、限界を感じているんですけれど~」
そんな事を言いながらあっという間に1週間が経った。
「ミ~ズ~ホ~。試合するぞ~」
カツコの後ろにはカールコーチやクラウスコーチ、知らないコーチが総勢8人。
「正敏と愉快な仲間VS.ツェー ユニオーレンな~」
カツコのネーミングセンスは理解できない。
それよりヘルタユースのコーチ陣を引き連れてってどんな神経しているんだろうこの人・・・。
「30分ハーフの60分で守備4人、真ん中4人でミズホはド真ん中ね~」
相手は本気のようでレギュラー陣11人が用意していた。
キックオフ
カツコからもらったボールを後ろに下げる。
ダイレクトで戻ってくるのをダイレクトで違うコーチに出すとまたダイレクトで帰ってくる。
なんとなくフィールド8人とダイレクトでボールを交わした後にキーパーに落とすとカツコが動いた。
ヤバ!カツコからのボールが来る!!
ぼくも動き出すけれど、キーパーからのグラウンダーのパスは速い。
間に合わないか!?と思いながらペナルティアークの右側を目指して走る。
相手はぼくを見ていない。カツコを見ている。
カツコはセンターサークルから5メートル相手陣内に入ったところで左足でトラップしながら即座に右で浮きだまを出した。
ダブルタッチのように瞬間持ちかえての浮きだまはぼくの走ろうとしているスペースに無回転のパス。
カツコのプレイスタイルは味方のギリギリのところに丁寧に・・・だ。
厳しいのか優しいのかわからない・・・。
後ろからのあれだけ速いグラウンダーを一瞬で殺し、ぼくが届くか届かないところに優しく丁寧に出すカツコはすごい。
ぼくは左足インステップでダイレクトシュート。
後ろからのボールとは思えない打ちやすいパスだった。
20メートルオーバーのシュートはファーの隅、クロスバーに当たりながらもねじ込んだ。
気持ちいい・・・。
コーチ陣が集まりぼくの頭をグシャグシャ。
その後もぼくはゴールを決めて2得点。
人数が少ないから守備にも走り回り、無失点であっという間の60分だった。
試合後、チームメイトにもみくちゃにされながら楽しかった。
なに言われていたのか分からないけれど、カツコは笑っていた。
ぼくのドイツでのフットボールがはじまった瞬間だった。