天然系ツンデレ蕨さん
主人公のツンデレっぷりがひどいので、苦手な方はご注意ください。
※主人公変えました
花畑蘇鉄→葉山蕨
彼の名前は花畑蘇鉄くん。
柔道部に所属してて、一年生の時に冬の大会で全国三位に入った実力者。
清潔に整えられた短い黒髪に西洋の石膏像みたいに彫りの深い顔、小麦色に焼けた肌、がっしりと岩のような筋肉質な体格に二メートル近い身長に、ゴツゴツとした大きな手。
どこをとっても男らしくてかっこいい。
友達はそんな彼を怖いというけど、私はそうは思わない。
彼の性格は穏やかで滅多に怒らないし、彼が声を荒らげたところを見たこともない。
捨てられた動物や迷子になった動物を見つけては、飼い主を探してあげるくらい優しい。
女の子と話すのは苦手みたいで、少し顔が引きつっているし、男の子と話す時よりも距離がある。
彼から女の子に話しかけることはあまり見ない。
そういうところは私と似ているかも。
それに努力家で柔道だけじゃなくて勉強もできる。
この学校はテストが終わる度に上位十位までを掲示版に張り出されるんだけど、彼はいつも十位以内に入っている。
学年で二百人いて、その中には学力で奨学金をもらっている人もいるから彼がどれだけすごいのかわかる。
きっと部活の合間や眠る時間を縫って勉強しているんだと思う。
え?なんでそんなに詳しいのって?
それは小学生の頃から同じクラスだからよ。
へ、別に好きだからとかそんなんじゃないから!
何よ、その顔!
本当だからね!
小学校のアルバムにも載っているから!
私の名前の葉山蕨と花畑蘇鉄って!
ほらね?載ってるでしょ?
これだけ長い付き合いなんだから花畑くんのことを知ってても特別なことじゃないでしょ?
この付箋は何って?
なんでもないし、蓮兄さんには関係ないでしょ!
何勝手に見てんのよ!?
全部のページに花畑くんが写ってる?
ただの偶然よ!
ほらここ!私だってちゃんと写ってるでしょ!?
やめてよ、蓮兄さん!
中学校のアルバム引っ張り出さないで!
好きじゃないっていうのは嘘。
本当はすごく好き。
でも私は緊張すると思ったことと正反対のことをいってしまう。
だから彼に告白なんて絶対にできない。
きっと優しい彼にひどいことをたくさんいってしまうから。
私が彼を好きになったのは中学三年生のあの出来事がきっかけだった。
受験を控えた三年生の頃、私が不良と付き合っているという噂が流れた。
それは多分……というより絶対蓮兄さんのせいだ。
私の二番目の兄の蓮は高校生になってから髪を紫色に染めた。
似合っていたけど、高校生は髪を染めてはいけないはず。
私の考えは間違っていなかったみたいで、お母さんから話を聞いた一人暮らしの芹兄さんが飛んで帰ってきて説教していた。
それでも蓮兄さんは髪を元の色に戻さなかったけど。
なんでもモデルの仕事に都合がいいんだって。
私はそんな目立つ髪をした高校生モデルなんて見たことないよ?
そんな目立つ髪をした蓮兄さんと私が一緒に歩いているところを同じ学校の人が見たんだ。
蓮兄さんは兄弟だから彼氏じゃないんだけど、不良なのは本当。
彼氏よりも身内が不良であることの方が悪いことのように思った。
だから私は男の子達に噂を聞かれた時に何も答えられなかった。
男の子達から心無い言葉をいわれて、誰も助けてくれないことが怖くて。
でもいい返せない自分が悔しくて。
私は泣きそうになった。
そんな時、彼は私を庇ってくれた。
彼は私を大きくてたくましい体で男の子達から隠すようにして間に立った。
「やめろよ。葉山さんがそんなことするわけないだろう」
その時、彼が怒っているのを初めて見た。
彼とは小学生の頃からの同級生だけど、話したことなんてなかった。
なのに彼は当然のように私を助けてくれた。
私を庇ったせいで冷やかされたり、馬鹿にされていたのに彼の凛々しい表情は変わらない。
「だいたい話があるなら一人ずつ話せよ。こんな人数で囲まれたら俺でも怖いし卑怯だ。それでもやめないというのなら俺が相手になるぞ?」
彼はスッと目を細めて男の子達を睨みつけた。
そんな場合じゃないのに私は彼に見惚れてしまっていた。
男の子達は彼の言葉と視線に蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
私が見惚れている間に彼はその場を立ち去ろうとした。
いけない!
お礼をいわなきゃ!
「あ、あの待って!」
私の声は震えていた。
でも彼は立ち止ってくれて私の言葉の続きを待った。
私は制服を両拳でしわになるほど握りしめて真っ赤な顔で叫んだ。
いうのよ!
『助けてくれてありがとう』って!
「私はあなたに助けてなんていってないんだから!」
また間違えてしまった。
そう思ってももう遅い。
彼はお礼もいわずに強がる私を責ず、何もいわずに頷いてその場を去った。
優しい彼は私のことを許してくれたんだ。
もう一度呼び止めようと思った。
でもまた間違えて今度こそ彼が私を嫌いになったらと考えると声が出なかった。
彼の姿が見えなくなってから私は声を殺して泣いた。
さっき絡まれた時にいわれたひどい言葉よりも彼にお礼一ついえない自分が情けなかった。
気が済むまで泣いて、家に帰って蓮兄さんに八当たりをした。
私も悪かったのに。
あれから二年が過ぎた。
私は一生懸命勉強して、彼と同じ高校へ入学した。
別に彼と同じ高校に行きたいってわけだけじゃない。
同じ学校の生徒も多く受験していたし、他に行きたい高校もなかったから。
でもまさかまた同じクラスになれるとは思わなかった。
嬉しいけどちょっと気まずい。
彼に話しかけたいのに中学三年生の時のことを思い出して、今だに話しかけられない。
近くて遠い距離がもどかしい。
「わらちゃんって好きな人とかいないの?」
友達の何気ない一言にドキッと心臓が高鳴った。
「ばかねえ。そんなの花畑くんに決まってるでしょう。今日も熱い視線を送ってたしね?」
もう一人の友達がにやにやと人の悪い笑みを浮かべる。
「ち、違う!ふ、服に糸くずがついてたから気になっただけで好きとかそんなんじゃないから!」
からかわれてるだけだとわかっているのについつい否定してしまう。
自分でもわかるくらい顔が熱い。
「はいはい。で?告白はいつすんの?」
告白なんてできない。
でも彼が告白してくれたら私は素直に答えられる?
「わらちゃんに告白はハードル高いよー」
「いやいや今どき待ってるだけじゃ男はよって来ないよ?こっちからも攻めていかなくちゃ。まあでも花畑くんはわらびがちょっとデレるだけですぐに落ちそうだけどね」
「本当にそんなんじゃないから!」
勝手なことをいう友達を置いて先に行く。
教室から彼と彼の友達の高槻癒詩くんの声が聞こえた。
「俺が葉山さんの彼氏になるなんてありえない」
はっきりとした声に頭が真っ白になった。
周りの音も聞こえなくなる。
……そうだよね。
助けてもらいながらお礼もいわずに、強がる女の子となんて付き合いたくないよね。
私はなんて図々しい女の子だったんだろう。
彼の優しさに甘えてた。
胸が苦しくてみるみる内に目に涙が溜まる。
視線の先にいるはずの彼も見えなくなった。
「どうした!?また誰かに何かいわれたのか!?」
彼の大きな声が目の前から聞こえてきた。
近くにいたことに気づかなかったから、驚く。
でもその声はあの時のように泣きそうな私を心配してくれていた。
嬉しいのに辛くて私は何も考えずに口を開いた。
「あ、あなたには関係ないでしょ!」
ああ私は最低だ。
彼はただ泣きそうなクラスメイトを心配してくれただけなのに、またひどい言葉をぶつけてしまった。
その場にいられなくて、私は彼に背中を向けた。
今度こそ私は彼に嫌われた。
だって私は彼にとってただの小学生からの同級生だから。
悲しくて苦しくて情けなくて私は誰の邪魔も入らないトイレの個室で声を殺して泣いた。
彼にひどいことをいってから一週間が過ぎた。
また謝りたいのに素直になれなくてひどい言葉をいってしまうのが怖くて、話かけることも出来ない。
私って……こんなに弱かったんだ。
今朝見た天気予報士による先週の梅雨入り宣言から降り続く雨は私の心のみたい。
でも梅雨はいつか晴れるけど、私の心が晴れる日は来ないと思う。
こんなに好きなのにどうして素直になれないのかな。
自分で自分のことが嫌いになりそう。
あ、今日は蓮兄さんが載ってる雑誌の発売日だ。
蓮兄さんは自分が載っている雑誌を買わない。
前に理由を聞いたらナルシストみたいだからっていっていた。
身内の欲目もあって蓮兄さんはかっこいいと思う。
彼の次くらいに。
家の近くのコンビニに立ち寄ろうとして足が止まった。
入り口付近で不良らしき二人組が座りこんでいる。
ああ、嫌だなあ。通りにくい。
どうか絡まれませんように。
そそくさと隣を抜けて、コンビニに入ろうとしたけど声をかけられた。
「ねえ、君ひま?俺達とイイコトしようぜ?」
溜め息を吐きたい。
この人達にとってのイイコトなんて私には絶対そうじゃない。
周りを見ても見て見ぬふりをされるばかり。
店内からも見えているはずなのに、店員さんも知らんぷり。
……そうだよね。
誰だって助けようとして巻きこまれて自分が怪我したりするのはいやだ。
ぐっと顔を近づけられる。
煙草臭い。
蓮兄さんは不良だけど私達が煙草の匂いが嫌いだから吸わない。
思わず顔を逸らすとその先に花畑くんが立っていた。
きっと彼も助けてくれないんだろうなあ。
そう思ったのに。
彼は通学鞄と傘を投げ出して、目にも止まらぬ早業で不良の襟を掴んで投げ飛ばしていた。
遠くからこっそりと彼の試合を何度も見たことがあったけど、これほど早くなかったと思う。
「彼女に薄汚い手で触れるな!」
彼の怒りがにじむ地を這うような低い声に、恐怖よりもときめいた。
こんなに怒っているのを始めて見る。
ありえないことだけど、私が絡まれていたから助けてくれたのかも知れないと思うと、心臓が激しく鼓動する。
近くにいる彼に聞こえてしまいそうだ。
絶対顔が赤くなっている。
彼は地面に伸びた不良を見下ろして、はっと正気に戻ったみたい。
ようやく騒ぎに気づいたコンビニの店員が警察に通報し、私達はパトカーに乗って近くの交番に行き、事情聴取をされた。
不良達は未遂だったこともあり、厳重注意ということで話は終わった。
正気に戻ってから彼はずっとぼおっとしていた。
今の彼には呆然自失という言葉がよく合うような状態が似合う。
「……終わった」
彼のぽつりと呟いた言葉が耳に残った。
何が終わったのかな?
聞きたかったけど、彼は話が終わるとすぐに帰った。
交番には芹兄さんが迎えに来てくれた。
息を切らして、髪型も乱れててすごく心配をかけたのが一目でわかって、本当に申し訳なく思った。
「芹兄さん、心配かけてごめんなさい」
だから素直に謝った。
「気にするな。お前は蓮と違って巻き込まれただけだとわかっている」
芹兄さんは笑って頭を撫でてくれた。
「ありがとう」
家族にはこんなに素直になれるのに。
「ねえ、芹兄さん。芹兄さんは嫌いな人がコンビニの前で不良に絡まれていたら助ける?」
「それはお前を助けてくれたの彼のことか?」
「……うん。そう」
助けてくれた彼の姿が浮かぶ。
何のためらいもなく不良達を投げ飛ばした姿はまるで物語の騎士のようだと思った。
子どもっぽいからいわないけど。
「そうだな……状況によると思う。だが少なくとも彼のようには助けないな」
「え?」
優しい芹兄さんなら彼みたいに助けると思ったのに。
「彼は柔道の推薦入学者なのだろう?お前を庇って怪我でもしたら推薦は取り消しになるかもしれない。少し大げさかだが、下手をすれば選手生命すら絶たれるかもしれなかった」
ぼおっとしていた彼の姿が浮かぶ。
彼はそれを心配していたんだ。
浮かれていた気持ちが急にしぼんで、罪悪感が膨らむ。
私のせいで彼が推薦を取り消しになったらどうしよう。
彼は何も悪くないのに。
「大丈夫だ。今回のことで褒められることはあっても彼が責められることは何一つない。彼も怪我をするかもしれないことを分かっていただろう。それでも彼はお前を助けてくれた。お前はそのことに感謝しなければいけない。俺のいいたいことわかるな?」
芹兄さんは手を離して私の目を覗きこむ。
私はお礼をいわないといけない。
わかっているけど……。
「どうしよう。芹兄さん。私……私、前にも助けてもらったのにひどいことをたくさんいっちゃった。本当はお礼をいいたいのに緊張して反対のことをいっちゃう」
泣きそうになっているのが自分でもわかる。
「なら彼と仲良くなってからお礼をいうのはどうだ?お前が緊張するのは彼を意識しすぎるからだろう。ならいっそ仲良くなってしまえばいい」
「そんな簡単に仲良くなれないよ」
「いや先入観がなければ人は案外簡単に仲良くなれるもんだ。俺も最近知った」
芹兄さんはどこか遠くを見ながらそういってくれた。
似たような経験があるのかもしれない。
仲良くなる……。
それは簡単なことのようで実は難しい。
仲良くなるってことは自分をさらけ出すこと。
素直じゃない私を見せて、これ以上彼に嫌われると思ったらやっぱり怖い。
何も出来なくなる。
芹兄さんは黙りこんでしまった私に何もいわず、家まで送ってくれた。
眠れないほど悩んでも明日は来る。
学校に行きたくなくて、頭から布団をかぶった。
どんな顔をして彼に会えばいいの。
「いつまで寝てんだこのねぼすけ。遅刻するぞ?」
蓮兄さんは外ではオネエ言葉だけど家ではかなり口が悪い。
エプロン姿の蓮兄さんが起こしに来た。
いつもなら起きている時間を二十分も過ぎていたからだと思う。
両親は共働きで私達のために朝から夜まで働いてくれている。
私達の世話は芹兄さんと菊姉さんと蓮兄さんがしてくれていたけど、芹兄さんと菊姉さんは家を出て一人暮らしを始めてからは蓮兄さんの仕事になってしまった。
私が中学生の頃に作った紺色のシンプルなエプロンは蓮兄さんによく似合う。
「……学校に行きたくない」
布団を固く握りしめて決意の固さを見せる。
「お前なあ……高校生のくせに小学生みたいなこというんじゃねえよ。ズル休みするつもりか?」
呆れたようにいわれる。
でも昔からしょっちゅう学校をずる休みする蓮兄さんだけはいわれたくない。
「うるさい!蓮兄さんにはいわれなくない!」
学校を休んで何をしているのかよく知らない。
「俺はいい。適当にしてればなんとかなるしな。でもお前はそうはいかねえだろ?」
「蓮兄さんには関係ないでしょ!」
「どうせ昨日のやつに嫌われてないか不安なんだろ?」
図星を刺されて返す言葉もない。
「……ったく。世話のかかる妹だな」
布団から少しだけ顔を覗かせると蓮兄さんは部屋を出て行こうとしている。
嫌な予感がした。
「どういう意味?」
「可愛い妹のために確かめてきてやるよ」
蓮兄さんはにやりと人の悪い笑顔を見せた。
“何を”なんて聞かなくてもわかった。
「やめて!それだけはやめてよ!」
飛び起きて蓮兄さんを追いかけたけど、追いつけなかった。
それでも学校に行く気にはなれなくて、私服に着替えて今日の授業範囲の勉強をする。
家に誰もいないことは珍しくて、勉強がはかどった。
しばらくして帰ってきた蓮兄さんはなぜかご機嫌で、頭を撫でられた。
「花畑に会ってきた」
ぴしりと亀裂が入ったような音が全身に走り、体が固まる。
本当に会いにいって来たとは思わなかった。
「申し訳なさそうな顔して『怖い思いをさせて悪かった』っていってたぞ。いい男を見つけたな」
蓮兄さんの言葉の意味に気づいて頭の天辺まで熱くなる。
照れ隠しに近くにあったクッションを投げつけたけど、簡単に受け止められた。
悔しい。
でも蓮兄さんのおかげで明日学校に行けそうだ。
「……あ、ありがとう」
素直にお礼をいうと茶化された。
私より蓮兄さんの方がずっと素直じゃないと思う。
翌日。私は学校に行った。
教室に入った途端に友達に囲まれ、心配された。
昨日も心配するメールをもらったけど、こんなに心配させてしまって申し訳ないと思う。
皆と話して、しばらくしてから私は友達の輪から離れた。
私は彼の前に立つ。
教室中の視線が集まっている気がする。
彼は驚いたように私を見上げる。
私は小さく深呼吸をするといった。
「……おはよ」
いつまで待っても彼から挨拶のお返しは来なかった。
それどころか、彼は石像のように固まったままピクリとも動かない。
窓の外の雨音のように小さい声だったから聞こえなかったのかな?
だったらもう一度挨拶した方がいいの?
でもまた返事がなかったら?
こういう時ってどうしたらいいの?
少しパニックになっていた私を助けてくれたのは高槻くんだった。
「おーい?ソテツ、どうした?」
高槻君は机の隣に立ち、彼の目の前で手を振る。
「……どうしよう、癒詩。俺は今幻覚が見える」
ようやく動いてくれたと思ったらそんなことをいわれた。
「いや幻覚じゃないし!?」
「そうか」
彼はなぜか全てを悟ったような顔をする。
何を悟ったんだろう?
「夢でもないから!現実!二次元じゃなくて三次元だから!」
高槻くんの言葉にようやく彼は私が挨拶をしたことを幻覚や夢と思ったのだとわかった。
昨日の蓮兄さんから話を聞いて、もしかしたら嫌われてないのかななんて思っていたからちょっとショック。
「癒詩、俺は今死んでも悔いはない。いやむしろ幸せなうちに殺してくれ」
え?幸せ?
私が挨拶をしただけで?
彼は本気のようで幸せそうな笑顔を浮かべた。
それまで心の中にあったもやもやが全部吹き飛んで、私まで幸せな気分になった。
どうしよう……すごく嬉しい。
彼は私のことが嫌いじゃないんだ。
「お前は色々こじらせすぎ!だいだい俺にお前は殺せないから!」
「大丈夫だ。今の俺ならお前にもやれる。さあ金属バットで殴ってくれ」
「バットはそういうことに使うもんじゃないから!」
二人のやり取りがおかしくてつい笑ってしまった。
勢いよく二人の視線が私に向けられて、ちょっとびっくりする。
でも彼の顔に浮かぶ笑顔がひどく優しくて、私は顔だけじゃなくて全身が熱くなった。
そんな笑顔を向けられたら彼も私のことを好きだって勘違いしちゃうよ。
その日以来彼と話すことが増えた。
話すといっても一言二言なんだけど、それだけでも嬉しい。
彼にまだお礼をいえていない。
だから近くに高槻くんのいない今日こそいうの。
「は、花畑くん!」
彼はいつも焦らずにじっと私の言葉を待ってくれる。
私は制服を両拳でしわになるほど握りしめて真っ赤な顔で叫んだ
「二回も助けてくれてありがとう!」
いつまでたっても返事がなくて、俯いていた顔を上げる。
彼は日焼けしててもわかるくらい顔を赤くしていた。
私の視線に気づくと高速で顔をそらして、口元を大きな手で押さえる。
「……女神に礼をいわれてしまった」
ぎりぎり聞き取れない声で彼は何かいった。
その後に何度聞き返しても教えてくれない。
いつか教えてくれる日が来るのかな?
でも少し前進した関係が嬉しくて、さっきから私の頬は緩みっぱなしだ。
そんな私の顔を彼がどんな気持ちで見ていたのかを知るのは、ずっと先のお話。
ツンデレってなんでしたっけ?と書き終わった後に思いました。
客観的に見るとわらびは天然で小悪魔ですね。
彼女に振り回されるソテツは幸せそうですが(笑)
クラスメイト達にはわかりやすい二人の態度に『さっさとくっつけよ!』と思っていることでしょう。