正式
「チクショウ………」
完全に勝敗は決し、昌晃の切っ先が加賀に向けられ表情は強張る。
それを悔しさと恐怖に満ちた目で凝視しているのを感じながら。昌晃の横に雪乃が現れ。
「加賀さ……いえ加賀、先程の質問を質問を変えてもう一度聞きます、あなたは二年前のクーデターについて何かしっていますか?」
柔らかくはあるが詰問口調、そこにはしっかりとした意志を感じられる。視線はそらさずただ加賀を直視。すると。
「詳しくは……知らない……」
たどたどしく加賀は口を開く。だが何かを知っている口振り。
「さっきも言ったが、俺はその案件には関わっていない……だが、関わった人間を何人かは知っている……」
「………!?」
発せられた内容に驚きを隠せない雪乃、だが少なからず光明を見いだしながら、加賀の次の言葉を待つ。
「正直、クーデターに参加した正確な人数や、前市長の暗殺の実行犯の正確な人数は知らない……ただ実行犯の中に大幹部の松前班長と第五小隊の小隊長がいたのは聞いたことがある………」
「松前班長…」
残念ながら松前は昌晃が斬っているのでどうする事も出来ない。が、雪乃は気持ちを切り換え。
「第五小隊長……他には?」
「他は……良く知らない、ただ…現幹部がかなり関わっているとか……」
と、そこまで言って加賀は口を噤む。どうやらこれ以上の情報は引き出せないようだ、昌晃は刀を鞘に納めながら。
「なら、お前には用は無い……幸いここは病院だ、高木兄を治療してやれ……」
「なっ、藤堂さん!?」
「反論は無しだ、俺を用心棒にしたいなら、敵の生殺与奪は俺の好きにさせてもらう、それが最低限、俺の用心棒になる為の要望だ」
「うっ……解りました…」
納得。しなければならなかった。雪乃は苦虫を噛み潰した様な表情を見せながら、昌晃から一歩後退する。
市街地某所
加賀、高木兄弟との戦闘後。3人は直ぐに場所を移動する。場所は真理の案内で雑居ビルの一室、部屋には必要最低限の調度品が一式揃えられていた。
「ふぅ、取り敢えずは一息か……」
部屋は3人で使用するには、少し手広い感じはあるが、それでも中央にある机の椅子に腰を下ろし昌晃は一息つく。
………
……………
沈黙。
………
…………
更に沈黙。
と。
「藤堂さん……さっきは行きがかり上でしたが今度は改めてもう一度お願いします……」
そう唐突に切り出し、雪乃は深々と頭を下げ。
「私の用心棒になってください!!」
再度のお願いとなる。
だが、昌晃としても相手の強大さは解っている。だから雪乃に仇討ちを諦めるように言ったのだ。その手前即答は出来なかった。しかし、それでも先ほどの戦闘をへて昌晃の決意は固まっていた。
「正直、さっきのアンタらの戦闘を見て、不安はつきない……」
「でも!!」
「あぁ、だけどそれが解ってても、君は仇討ちをやりとげたいんだな?」
「はい、私一人になったとしても」
「なら、ここまで聞いて明日に死体でって言われたら困るからな………協力するよ……俺は藤堂 昌晃だ」
名を名乗り昌晃は右手を雪乃に差し出す。
「私は神城……神城 雪乃です!」
雪乃も、再度自らの名を名乗り昌晃の差し出した右手を握り締める。その表情は安堵感からか複雑な表情になっていた。
「と、言っても仇討ちの具体的な案はあるのか?」
不意ではあるが最もな疑問。用心棒になるとは言ったがまだ何の方針も聞いてはいない。昌晃は改めて雪乃に問う。
が、問われた雪乃は苦笑いを浮かべ。
「正直あまり……とにかく藤堂さんを見て決意を…」
と、行き当たりばったり的な解答。さしもの藤堂もその答えに頭を抱えてしまいそうになる。
「けど、信頼の置ける情報網はあります!」
「情報網?」
「はい!父様の知り合いで昔からの……だよね真理!?」
「そうですね、これまでも何度か協力をお願いしました」
と、雪乃の問いに真理が答える。
「そうか、情報網はあるのか…で、俺以外の戦力はどうなってる?」
「戦力ですか?」
「あぁ、確かに今は俺だけだろうが、情報網があるんだ、旧市長派とかの残党がいるだろ?」
「まぁ……その……」
「歯切れが悪いな?」
戦力と聞かれてから、雪乃の反応が途端に鈍くなる。すると。
「すいません藤堂さん……雪乃は過去色々ありまして……」
少し言いずらそうに真理がフォローする。どうやら、旧市長派とは何かあったのだろう、昌晃も流石にそれ以上追求するのは止めておく。
「となると、まともな戦力は俺だけか?」
言ってて、自信過剰みたいで恥ずかしい気もするが、それでも確かにまともに戦える戦力は現状自分一人。と、なるともう少し戦える戦力が欲しい。
「まぁ、雇い主が駄目ならコッチの知り合いをあたるさ……」
昌晃はそう言って、いつの間にか用意された飲み物に口をつけるのだった。




