協力
松前との戦闘の後、青年は、雪乃が何処からか連れてきた仲間に連れられて、近場の医療施設へと運ばれる。そして、切断された腕の治療を施設で受けた後、二人だけとなった部屋で雪乃が話を切り出す。
「唐突ですが、用心棒になって下さいませんか?」
「はっ?俺を用心棒に…?」
「はい、駄目でしょうか?」
「本当に唐突だなおい、まぁ…駄目……というより、この街じゃ俺は手配犯だぞ?」
「解ってます」
「なら、自分が何言ってるかも解るだろ?」
「はい、それでもあなたにお願いしたいです」
「あぁ、訳が解らん…俺より腕の良い奴なんていくらでもいるだろ?」
「確かにそうかも知れません、でもそれでも私はあなたにお願いしたいです」
「「…………」」
沈黙。
そして、少し重苦しい空気が部屋を満たす。が、それでも雪乃は諦めようとはしない。視線は反らさずにただ一点、青年だけを見つめる。
………数分の沈黙
………更にもう数分
雪乃の視線は限界を感じさせず、その意志の強さを伺わせ。
「解ったよ……話くらいは聞いてやる…」
「本当ですか!?」
「ああ、用心棒になるかどうかは内容しだいだな…」
青年は、多少の動揺を残しながら、頭の後ろを掻きつつ、雪乃と名乗った少女にそう告げる。
確かに死にそうな所を助けてもらい、あまつさえ切断された腕までつけてもらったのだ。これで、はい、ありがとうで帰る訳にも行かないだろう。そう思い、青年はひとまず礼も兼ねて、雪乃と名乗った少女の話しを聞く事にする。
「では……」
と、そう言って、一度大きく深呼吸した後。雪乃は青年に何故用心棒が必要なのかを話し始めた。
…………
その理由は。
今の時代のお偉いさんらにはよくある話しだった。二年前の突然の市長失踪事件、その真相。勿論そんな事があったとしても市民にとってはあまり興味の湧く話題では無い、確かに自分の街の市長だから多少の困惑や心配はあったかもしれないが、結局はその程度の事で済まされてしまう。だが、当事者は違う。特に雪乃と呼ばれた少女は、市長である父親が目の前で斬殺されたのをみてしまったのだ、となれば、一般人のように可哀想だなではすまされない。復讐の炎に焼かれるのも少しは分かる話だ。
しかし、前市長と言えばこの辺りでも有数の剣士だったはすだ。それがむざむざ多人数とは言え簡単にやられてしまうものか?それに市長なら、腕利きの護衛も数人ではきかないはず。
そう考えると、失踪事件と言うには、いささか話題にならなさすぎた様な気もする。考えだすと疑問がつきない案件だ。
「確かに貴方の言う通りです…二年前、あの事件…市長の失踪事件はおかしなほど事件にならなさすぎたんです…」
「……なぜ?」
「それは…」
言い澱、雪乃は唇を噛みしめ。
そして。
「あの失踪事件は仕組まれていたんです……当時の副市長、いえ…現市長と名を売りたかった剣士集団によって」
言い終えて握っていた拳を更に握りしめる雪乃。その拳からは、相手への憎悪が感じ取れるほどだ。
「で、復讐するために市の組織に入った…と?」
「はい、ですが入って感じました、私程度の実力では幹部クラスには太刀打ち出来ないと……」
「なら、やめればいい、無駄に命を散らす必要はない?」
「そうだとしても、父様や母様の無念を……」
と、そこで青年が雪乃の言葉を遮る、そして眉根を寄せ。
「キツいようだが、如何ともしがたい実力差が解っただけでも良いんじゃないか、用心棒を一人雇った所で、相手は組織、こっちのやれる事はたかがしれてるだろ?」
「それでも!!」
「確かに君の復讐心は他人の俺にも良く伝わる……だけど、俺は君の用心棒になって他人を斬り殺すだけの大義が無い…俺にとってはただの人殺しだ」
少しキツい言い方だが、他人の復讐に手をかすには、いささかこちらにはリスクが大きい、それに相手は組織だ。自分もつい先日までは所属していて、その強大さは解っている。兎にも角にも無謀としか言いようがなかった。
「他人の俺の言葉で納得しろとは言わない、でも今のままじゃ、俺は協力出来ない……」
と、そこまで言って青年はテーブルにあったペットボトルに口をつけ一息つく。正直、これで諦めて欲しいのが青年の本音だった。自分とて組織の幹部を斬殺しているのだ、これからは逃げる事を考えなければならないのだから。
「なら、納得出来る理由があれば、用心棒してくれるんですか?」
雪乃だ。まだ諦めがつかない様で、なおも食い下がってくる。
「いや、だからな、現状を分析する事も必要だぞ、それが長生きの秘訣だ」
「なら!私に長生きの秘訣はいりません!!」
声を荒げ雪乃。その表情は青年と違い真剣そのもの。しかし、二人の堂々巡りは続く。
ドンドンッ!!
その時、乱雑なノックと同時に、息を切らせた少女が飛び込んでくる。少女は肩で激しく息をつきながらも直ぐに雪乃の方へと視線を送り。
「雪乃!」
「どうしたの?真理落ち着いて」
酷く焦っていた表情をしていた為に、真理と呼ばれた少女よりも先に落ち着くように言葉をかける雪乃。真理は促されなが数度の深呼吸の後。
「組織が、組織がここまで!」
真理の言葉の後、他の二人にも動揺が走る。
施設周辺
「おい、加賀たしかなのかよ?」
「あぁ、確かな情報だ、片腕負傷の怪我人とセーラー服の二人組…それよりもお前らニコイチだって言うから連れてきたが、使えるんだろうな?高木兄弟?」
「はぁ?アニキ、加賀が俺らを馬鹿にしてるぜ?」
「まあ、そう言うな弟よ、加賀も怖いのだよ、前線好きの大幹部松前を斬り殺した奴だからな」
「確かに、大幹部の癖に小隊長で、組織でもトップクラスの剣力だもんなアニキ!」
「故に、俺達高木兄弟がアイツを殺し、空席の大幹部の席を埋める……」
不敵な笑みをうかべ、加賀と高木兄弟は医療施設の入口をくぐる。
医療施設内
「真理、人数は?」
「3人、松前班の加賀と高木兄弟!」
「あの三人か……」
「知ってるの?」
「当たり前だ、俺も組織の人間だったんだぞ…」
雪乃と真理が三人の侵入に動揺するものの、それに反して青年は冷静。それどころか、ポケットからタバコを取り出しふかし始める。そして、それと同時並行で部屋に立てかけてあった自信の日本刀を手に取り。
「一つ聞くぞ?」
「えっ?」
唐突の問い。聞かれた雪乃はいきなりの事に直ぐに反応できなかってが、一拍間を置き。
「何?」
と、聞き返す。
すると、青年は自身の懐からカードを一枚取り出し、雪乃へて渡す。
「俺は、藤堂 昌晃だ(トウドウ マサアキ)!」
雪乃と昌晃との出逢いであった。
施設入口
「組織のモノだ、今此処に手配犯が潜伏してると情報があった!」
先頭を歩く加賀が立ちふさがろうとする医者を押しのけ、廊下を進む。勿論医者も食い下がろうとするが、組織と言われれば刃向かう事は出来ない。
「ふはっ、ヤッパ看護士の姉ちゃんはいいなぁ、なぁアニキ?」
「………弟よ、あまりハシャぎ過ぎるなよ、女は後にしろ…」
「わぁってるよアニキ、先ずは百人斬りだろ?」
「百人斬り…か、あながち間違いではないか…」
「オイッ、無駄話はその辺にしとけ!高木兄弟!」
後方で無駄話をしていた二人を、苛立つ表情で睨み付け怒鳴る加賀。だが、睨まれた二人はさして反省した様子も無く、肩を竦めるのみ。
「さぁ、目標は直ぐだ気合い入れろよ!」
抜き身を携え殺気を纏い、三人は進む。




