05
狭い檻の中でスメールチの絶叫と男の上機嫌な笑い声が響く。
リヴェラは目の前で繰り広げられる行為から目を背けようとぎゅっと目を瞑っていた。残念ながら、手は後ろ手に拘束されているので耳を塞ぐことはできず、繰り広げられる行為の音が筒抜けだったのだが。
「っは……は……ッ、うぁ……、はっ……は……ッ」
焼きごてが肌から離れると、スメールチは一気に脱力した。そして肩で荒い呼吸を繰り返す。酸欠と薬による高熱が相まって、頭がぐらぐらと揺れ視界が歪んだ。ただ、痛さの余り意識は飛びそうにない。耐えきれればいける、とスメールチは自分に言い聞かせていた。リヴェラを守るということだけがスメールチを保っていた。
「つっぎーはー、せーなーかー!」
そんなことなどお構いなしの男は、謎の歌を歌いながらスメールチの背後に回る。そして服を捲り上げると、焼きごてを今度はスメールチの背中に押し当てた。
「――がッ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ」
身体を大きく仰け反らせてスメールチは叫ぶ。もうそんな体力など残っていないはずなのに叫び続ける。
「凄くイイけど、やり過ぎると死んじゃうからな。焼きごてはこれで終わりにしてやるよ。はははっ、きれーな肌が焼き跡だらけだ!」
「……ふっ、う、うぅ……あ、はっ……は……ッ」
数分後、男はえらく上機嫌だった。スメールチを吊るしたまま、「ちょっと待っててな」と言うと鼻歌を歌いながら火鉢と焼きごてを片付けに檻から出ていく。
一方、スメールチはボロボロだった。邪魔だという理由から服はローブ同様裂かれ、上半身を裸にされている。露になった肌は男の言う通り焼き跡が痛々しく残っていた。
ぐったりとし、どこか一点を光のない目で見続ける。その目からは大粒の涙が零れていた。スメールチは無表情のまま生理的に泣いていた。
「次をどうしようかって話なんだけどさ」
戻ってくると、男は先程の焼きごての余韻に浸っているような顔で言う。その声に反応する気力すらスメールチには残っていなかったが。
「やっぱりこれはやっておきたくてさァ!」
そんなスメールチに気分を悪くするわけでもなく、ハイになったテンションのまま男はスメールチに密着した。
そのとき、運悪くリヴェラは目を開けてしまっていた。目の前で起こった出来事をしっかりと見てしまっていた。
スメールチの身体が影になって、男の手元は見えていない。ただ、男がスメールチに密着した瞬間、スメールチの背中から銀色の刃が生えてきたのをその目で見た。
「あ……え……?」
スメールチは一瞬自分が何をされたのか理解できない。痛覚が麻痺してしまっているのか、ロングソードで貫かれたというのに痛みを感知していない。
「もう、これも要らないな。無くったっておにーさんは動けないもんな?」
男はそう言って微笑むと、スメールチの身体からロングソードを引き抜くとほぼ同時にスメールチを縛っていた手錠を破壊した。支えを失ったスメールチの身体は重力に従って、ぐしゃっと潰れるように床へ落ちた。
「あ……ゲホッ……ゲホッ」
床に落ちたスメールチが咳き込むと、口からごぽりと血が零れた。貫かれた傷口からもドクドクと血が流れて、床を赤く染める。
「あ……いやだ……いや、だ、いやだ! スメールチさんッ!!」
思わずリヴェラは叫ぶ。が、スメールチはその声には応えず、荒い息を繰り返すばかりだ。
「んんんんっ、やっぱりイイ……ッ! なあ、おにーさん。俺さぁ、思い付いちゃったんだけどさァ……!」一人だけ愉しそうな男が、興奮を隠しきれない声で言う。「今まで頑張ってきたおにーさんのために、おにーさんの目の前でリヴェラトーレ君をぶっ殺しちゃうってのはどうかなァ! そうしたら、おにーさんはどんな顔をしてくれる!?」
スメールチの血がべっとりとついたロングソードをべろりと舐めて、男は一歩リヴェラに近付く。
「い、いやだ……いやだ、いやだ!」
状況を理解したリヴェラはいやいやと頭を振る。だがそれで男が止まるはずもなく、ゆっくりとリヴェラに近づいていく。
「……や、めろ…………それ、は……ッ、やく、そく、が…………ちが……う…………ッ」
「はは……まだそんな力残ってたのか。そんなにリヴェラトーレ君が大事?」
スメールチは男の動きを止めようと、力を振り絞ってその足を掴む。男は「困ったなぁ」とでも言いたげな表情で、その腕を容赦なくロングソードで貫いた。
「あッ」
「そこでゆっくり見てろよ」
「や、めろ……やめろ……やめろッ……!」
貫かれたことで、もうスメールチには男を物理的に止めるだけの力が残っていない。それでも必死に男を制止しようと訴え続けた。
「やめるわけないだろ? こんな楽しいコト」
「…………え?」
男はそれをにっこりと笑って一蹴する。
そのとき、男の影が不自然に波打ったのをリヴェラは見逃さなかった。
「いいえ、貴方はやめます」
リヴェラの方を再び向こうとしたそのとき、波打った男の影からそんな声がして、次の瞬間、男は鉄格子に激しく背中を打ち付けていた。