04
「ッつううううううううぅぅぅぅ」
「これで下手に動けなくなったな。いや、動いたっていいんだぜ? ただ、肺に骨が刺さっちゃったりするけどな」
スメールチはそんな男の声など聞こえていないのか、ごろりと身体を転がして仰向けの姿勢からうつ伏せの姿勢になる。うつ伏せの方が痛みに耐えられるのだろうか。爪が食い込んで血が滲むほど強く手を握りこんで、ただひたすら唸り声をあげる。
「うつ伏せかぁ……じゃ、次はここがいいか?」
「ッ、なに、を……」
男はスメールチの左足を掴んで軽く持ち上げる。唸るのをなんとかやめたスメールチの問いかけを無視して、男はそのまま「こうだったかな?」なんて言って掴んだ左足に力を込め始める。
やがて、バチィンッとゴムが切れるような音が響き、男は「ああ、良かった。合ってた」と嬉しそうに笑った。
「――ッ、あぁッ……」
それはアキレス腱が切られた音だった。段々叫ぶ体力すら無くなってきたスメールチは、その痛みに静かに声を漏らす。声こそでないものの、表情がその激痛をしっかりと物語っていた。
「ん、んー……静かになっちゃったな。大分薬が効いてるみたいだ」
やや不満げに言いながら、男はスメールチの身体を足で転がしうつ伏せの姿勢から、再び仰向けの姿勢にした。その際、男の足が折られた肋骨の辺りを触り、脳まで響く電撃のような激痛と共に、小さな悲鳴を上げてスメールチの身体は大きく跳ねたのだが、男はそんなところを見てはいなかった。
「ははは……いー表情してるじゃん」
スメールチの表情を見て、男は舌なめずりをする。
熱におかされ赤く火照った肌、潤んだ瞳、酸素を求め喘ぐように呼吸する口。こんな状況でなければ誰もが扇情的だと思ったことだろう。女と間違えられるほどの中性的な顔立ちがそれに拍車をかけていた。
「随分辛そうだな。この調子じゃ一時間もたなかったりして?」
「……っは、うるさ、い……っ、な…………んぅッ……僕を、なめない……で、くれる……っ、かな?」
スメールチの身体を跨ぎ、腰を屈めてスメールチの顎を指で押し上げ顔を近付ける男に対し、スメールチは挑戦的な笑みを浮かべる。普段の無表情はもう跡形もない。
「強がっちゃって、かわいー奴だな。俺好みの顔してるし、なんだったらもらってやろうか?」
男の口はにやにやと笑っているが、目は本気だ。スメールチはそれを鼻で笑い一蹴して見せる。そしてペッと男の顔に唾を吐くとこう言った。
「きみ、みたい……な、へん、たい……っ、こっちが……ッ、っふ、願い、下げ……だ、ね……っ」
「へぇ……」男の顔から一気に表情が消える。「そんなことしちゃうんだ?」
男はスメールチの顎から手を離すと、その手をスメールチの首にかける。そのままギリギリと力を込めつつ、足の位置を動かすと軽々とスメールチの身体を持ち上げた。
「か……ぁ……ッ」
手を拘束されている状態で持ち上げられ、薬などのせいでろくに力の残ってない身体では、物理的な抵抗など出来るはずもない。
「睨んじゃってかわいーもんだな。でも、今のはおにーさんが悪いんじゃない? あんなことしちゃったら俺がうっかりリヴェラトーレ君をぶっ殺しちゃっても文句は言えないよな」
「…………ッ」
「まあいいよ。今回は許してやる。頑張ってるからご褒美さ」
そう言って男はスメールチの首から手を離しスメールチを床に落とした。その衝撃が肋骨とアキレス腱に響き、痛みのあまりスメールチは意識を失いかける。視界の端に映ったリヴェラがそれをギリギリのところで阻止していた。
絞められていた気道が解放されたので、スメールチは酸素を取り込もうと呼吸を急ぐが、急ぎすぎたのか激しく咳き込んでしまう。結果、それが折れた肋骨に大きく響き、吸い込んだ空気を全て吐き出してしまうことになった。
「それじゃー次いってみようか。そろそろ温まった頃だよな」
スメールチの咳が落ち着いたところで、男はついっと人差し指を動かしスメールチを再び吊り上げる。そして檻の外に出ると、なにやら重たいものを引きずってきた。
「……ッ、う、あぁ……それは……まさ、か……ッ」
男が持ってきたものを見ると、スメールチの顔に恐怖の色が表れた。これから自分が何をされるのか、嫌でも分かってしまったのだ。
「何をされるか分かっても『嫌だ』って言わないんだ。偉いな。そうだよな、『嫌だ』なんて言ったらリヴェラトーレ君がどうなるか分からないもんな」
そう言って男は持ってきた火鉢から焼けた鉄の棒を取り出した。その先端は広く平らになっており、真っ赤に焼けている。所謂焼きごてというものだ。
「っう、ううううぅぅぅぅ……」
逃げたくても吊り上げられてる状態では出来るわけがない。今のスメールチに出来るのは、これから襲い来るであろう痛みに恐怖するだけだ。
「服は邪魔だからまくっておくな」
男はそう言ってスメールチの服をまくり上げた。そして、露になった白い肌に、赤く焼けた焼きごての先端を一気に押し付けた。
「あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
遅れること一秒。喉が壊れるのではないかという程のスメールチの絶叫が響き渡った。