02
裂いたローブを適当に投げ捨てると、男は一緒に大振りのナイフも投げ捨てる。それから、ローブが無くなったことでかなり軽装となったスメールチの服の中に自分の手を突っ込んだ。
「ッ、ひっ!?」
突然の刺激にスメールチの口から高い声が漏れた。身を捩って男の手から逃れようとするが、吊り上げられて自由に動くことの出来ないスメールチにはそれが出来る筈もない。
「ちょ、まッ……! やめ、どこ触って……ッ、ひ……ッ、は、はは、くすぐった、い、からッ……!」
無遠慮に素肌に触ってくる男の手を何とか服の外に出そうとスメールチは身体を揺らして暴れてみるなど様々なことを試みるのだが、残念ながら体力を削るばかりで望んだ効果を産み出さない。
やがて、じわりとスメールチの目に涙が浮かぶと、男は満足げな表情を見せた。
「想像以上に良い反応だな。知ってたか? 特にくすぐったい場所は神経が過敏になってるんだ」
そう言って男は右手は動かしたまま、左手はそっと服の中から抜くがスメールチはくすぐったさのあまりそれに気づかない。
「ひ、みゃッ!?」
お陰で、耳を触られると一番大きな声が出た。恥ずかしいのかスメールチは直ぐに口を閉じてくすぐったさに耐えながら無言で男を睨み付ける。顔は耳まで真っ赤だ。そんなスメールチに男はクスクスと笑う。
「さっきまでかっちょいいおにーさんだったのに、もうこんな可愛い反応しちゃってる。ほら、リヴェラトーレ君も戸惑ってる」
「う、五月蝿い、な……ッ」
吊り上げられた状態で暴れ続けていたので、早くもスメールチの呼吸は荒くなっている。その様子を見て、リヴェラはハッとした。男の謎のくすぐり攻撃の真意に気付いたのだ。
「へえ、リヴェラトーレ君は気付いたんだ」
「はッ……何、が……」
「そのうちおにーさんにも分かるさ。さ、下ろそうか」
男は残っていた右手もスメールチの服の中から抜くと、またついっと人差し指を動かした。すると今度は天井に吸い込まれていた鎖が出てきて、徐々にスメールチを地面へ下ろしていく。
「前準備はこれで終わりだな」
鎖を全部下ろしてスメールチを立たせると、男はスメールチの正面に立つ。未だに男の真意がつかめないスメールチは首をかしげた。
「前準備って――――」
「前準備は前準備さ」
次の瞬間、男はスメールチが言い終わるよりも早く、自らの拳をスメールチの腹へ叩き込んだ。そんな攻撃が来ると予想だにしていなかったスメールチはぐらりとバランスを崩し、男にもたれ掛かる。
「ぐ、う――」
胃の中のものが一気に食道を駆け上がり出てこようとする。それをなんとか堪えようとしていると、男がこう声をかけた。
「俺、結構この服とか気に入ってるんだ。だから、これを汚されたりなんかしちゃったら、怒りのあまり勢い余ってリヴェラトーレ君をぶっ殺しちゃうかもしれないから、ソコんとこヨロシク」
そしてもう一発腹に拳を叩き込む。
なんとしてでも吐くわけにはいかなくなったスメールチは、歯を食い縛り、千切れるほど口の内側を噛みながら吐き気に耐える。口の方に神経を集中させると、途端に下半身には力が入らなくなり、がくりと膝をついた。
男はそこを狙って、今度は拳ではなく爪先をスメールチの腹にめり込ませる。
「ふッ――う、うううう、うぅ……ッ」
ギリギリという音が聞こえそうなほど、歯が削れてしまうのではないかというほど歯を食い縛ってスメールチは呻く。両肘をつき、四つん這いに近い姿勢で額を地面につけながら、必死に痛みと吐き気と格闘する。
「くくく、頑張ってるなぁ――なあ、リヴェラトーレ君。このおにーさんは相当君のことを大事にしてくれてるみたいだな」
男はうっとりとした表情で語る。
リヴェラはそんな生まれて初めて見る正真正銘の変態に寒気を感じずにはいられなかった。
「適度に筋肉もついてるし、このおにーさん、戦ったら結構強いんだろうな。くすぐって体力を削いどいて正解だった」
「さて、次はどうしようかな」と、男はスメールチの顔の前にしゃがみ、スメールチの髪をつかんで無理矢理引き上げ、自分とスメールチの目を合わせた。「良い顔だ」
最後の一言のお陰で、やっとおさまりそうだった吐き気がまた戻ってきたような感覚をスメールチは覚えた。