火酉堅固の人生集 12歳 夏の日の出来事 2
火酉堅固の人生集 12歳 夏の日の出来事 1の続きです。
なんか、話が長くてだらだらとしてきました。
次は、もっとキャラの会話を(できれば)多めにしたいと思います。
こんなお話に興味を持っていただければ、感謝感激です。
それでは・・・。
火酉堅固の人生集 12歳 夏の日の出来事 2
頬の、猫にひっかかれた傷から血がにじんでくる。
僕はそれをティッシュでふき取りながら帰路についていた。
結局、あの後あの女の子は、僕の情けない姿を見てひとしきり笑ったのち、逃げていった黒猫を探しにすぐに去っていった。
「・・・・・・」
僕は無言で、ポケットに突っ込んでいたお札を取り出してみる。
あの猫が気持ち良さそうにすり寄っていたお札だ。
女の子の言ったことが本当なら、涼めるらしい。
勝手に持ってきてしまったが、拾いに戻ってくるかもとその場で待っていても一向に戻ってくる気配がなかったので、つい持ってきてしまったのだ。
お札には水色のおそらくは油性ペンでかかれた模様がかかれていた。
見た目的にはとても涼しげな印象を抱かせる模様だが、手にとっても、ポケットに入れていても涼しくはならなかった。
しかし、これに身をすり寄せていた黒猫は、確かに涼しげにしていた。
単なる僕の気のせいかもしれないし、その可能性の方が大きい。でも、あの女の子の言葉が妙に、心にひっかかていた。
「ふつうは、言わないよなぁ」
お手製のお札・・・。
お札と聞くと、神社、寺、陰陽師などが真っ先に想起される。その他、お呪いや、祈願、初詣とか、縁起ものに関することだけだ。
そもそも、お札と猫の関係が結び付かない。
一瞬、僕の頭の中には猫が神社を参拝して、お札を購入してる映像が流れた。しかもなぜか、二足歩行だった。
猫だけに効くお呪いか暗示・・・薬か何かの類だろうか。
少し、お札の匂いを嗅いでみる。
別段、変な匂いはしない。強いて言えば、手の平の汗が滲んで少し臭くなってるぐらいだ。
薬ということで、マタタビの線を疑ってみたけど、そもそも匂いなんて知らない。
もっと良く調べるのなら、別のことを考えなければ。
そして、僕はしばし考えて、ふと寄り道することを考えた。
僕は家までの帰路を外れて、町内を歩き回った。
とあるやつを探すためだ。
相変わらず太陽は熱く照らし、アスファルトの反射熱はきつかったが、お札の仕組みを知りたい一心で、我慢して探した。
そこでようやく見つけた。
少し寂れているけど、小さな神社、その境内に数匹の猫が集まって寝ていた。
三毛猫、白猫、ちょっとアメリカンショートヘアっぽい模様の猫など、様々な種類の猫が、神社の軒下、植えてある木の木陰、賽銭箱の裏にちらほらいる。まさか、本当に参拝しに来てるわけではあるまい・・・。
どの猫も暑いのは一緒なのか、ぐったりと体を伸ばして寝ている。
ここら辺の猫は、誰かに飼われている猫の集まりなのか、それとも単に人間を警戒する余力がないのか、僕が近づいてもピクリともしなかった。
僕は、早速、賽銭箱の裏にいる一匹の三毛猫に近づいてお札を取り出して準備する。
万が一、さっきのやつみたいに、顔をひっかかれないよう警戒しながら、ゆっくりとお札を三毛猫の背中にすり寄せてみた。
マタタビかどうか試すには普通鼻に近付けるべきだが、ここは用心しておく。
しばしの静寂。
三毛猫は、ピクリとも動かない。
そもそも、寝ているのだから、すぐに反応が返ってくるとは限らないんじゃないか?少し考えてみればわかることだった。
暑さで頭の回転が落ちてるのかも知れない。熱中症になる前に切り上げた方が良さそうだった。
「ふぬぅ~~~」
それにしても、三毛猫はよく寝ていた。愛くるしい寝顔を見ると、ちょっと和む。
「ぬぅぁあああああぅう」
ひょっとして、この猫が鈍いだけかもしれない。
別の猫でも試してみる必要がありそうだった。
「にゃぁぁあああああ~~~~!!」
・・・って、さっきから周りの様子が・・・。
「ぬぎゃああああ!」
「おわっ!」
振り返りざま、僕の顔面に猫の爪が襲ってきた。
間一髪でそれを避けられたのは、一応警戒していたおかげだった。ただし、顔面だけの話で、顔面から外れた猫の爪は僕の腕をひっかいていた。
「いって!・・・な、なんだ・・・」
気づくと、自分の周りに大量の猫が集まっていた。
愛くるしい猫の顔が一杯で微笑まし・・・くはなく、どれも目つきが鋭く一端の野良猫の顔をしていた。体格も大きいやつが多く、体を伸ばせば、体調一メートルを越えそうな猫もいた。猫のうなり声も、ここまでそろうと恐怖を越えて戦慄を覚える。
「あ、ええと・・・その・・・」
僕は唐突に・・・。
「わぁあああっ!」
と、怒鳴り声を上げてみる。
「なぁあああぅぅあああ!」
「にゃやああああぅうううっ!」
全く効果がない!
それどころか、ますます猫たちが興奮してしまい、逆効果になってしまった。
僕は、ゆっくりと神社の賽銭箱の上にのぼって立つ。
悲しいことに、今や境内を埋め尽くす勢いで増える猫たちによって、この場所意外に僕の逃げ場はなかった。
「なんじゃ。誰かと思えば先ほどの小僧ではないか」
「・・・え」
「その傷、ワシがひっかいてやった覚えがある」
ゆ、ゆっくりと境内を見渡す。そこには喋っている人など誰もいない。
「かっかっ。どこを見ておる。ワシは上じゃ小僧」
上?上って・・・まさか、神社の屋根?
「そんなところにはおらん。ここじゃここ」
屋根を仰ぎみた僕の後ろから声が聞こえる。
もう一度振り返って境内を見渡してもやっぱりいない。
ま、まさか・・・そ、空?
「・・・小僧、お前頭がおかしいのではないか?お天道様しかいない空を見て何を探しておる」
そこも違う?
もう一度僕は周りを見渡す。
境内、神社の屋根、空、やっぱりいない。
「ん?」
空から目を落とすとき、不意に鳥居が目に入った。まさかとは思ったが、猫が一匹いるだけでやはり人はいなかった。
「ふん。ようやく見つけたか?」
「え?」
・・・・・・。
ここから先はよく覚えてない。
後からやつに聞いた話でいいのなら、僕はこの後、賽銭箱から落ちて気を失ったらしい。
どうして落ちたのかは、どうだっていい。その時の僕は、暑さで朦朧としていたし、猫がいきなり喋ったものだから、それに驚いたせいかもしれない。
むしろ問題なのは、僕の制服が所々破けていたり、裂かれていたり、噛みつかれたような痕が残っていることだ。心なしか、猫の小便くさくもあった。
そのことについてやつは語らなかったが、落ちた後の自分がどうなったか想像に難くない。
唯一、僕が覚えているのは一つだけだ。
それは、とても刺激的な夢から覚めたあと、どうしても忘れたくなくて、必死で忘れないように反芻した夢の中の言葉だった。
「やれ、やれ、しょうのない小僧じゃわい」
誰がそう答えてくれたのか、僕はそれを知る前に、気を失った。