短編1
ただの短編です。
思いつきで書いた短編です。
話を続けるかどうかわからないので、とりあえずの短編です。
こんなものに興味を抱いてくれたのならば感謝の極みです。
それでは・・・。
ただの短編 1
吉野恭子は暇すぎた。
暇すぎて暇すぎて、周りに迷惑を考えずに暴れる。
今日も今日とて、暇になった恭子は俺に当たり散らした。
「ば~!!ぶ~ぶっ、ぶっぶ~!!ばぁ~~~ぅい!!」
「はいはい。車さんね。ちょっと待ってろ」
凶暴な恭子を封印してる、頼りなくも小さな檻から僕は恭子を持ち抱えた。檻には天井がなく、いつもここから恭子は出入りしている。もっとも、檻の高さは恭子が乗り越えられないよう完璧に設計されているので、いつも僕か恭子の母親が脱走の手引きをしてる。
そして今日も無事に恭子は脱走を終えた。
ここから、追っ手に捕まらないように車で逃走するのだ。
「はい。お姫さん。シートに着いて、シートベルトをしてね」
「ば~ぅい|」
車に乗った恭子は嬉しそうにハンドルを握って強く引っ張った。
ちなみにシートは僕の背中、ハンドルは後頭部の髪の毛だ。
「いつっ・・・お、お客さん。どこまで行きますか?今なら五分でどこへでも行けますよ」
「ぶ~ぶ~!!」
「ぷっあはははは!いつもごめんね。娘の相手させちゃって」
タンクトップに短パンという、健康男子から見れば非常にだらしない格好で吉野亜栗鼠・・・恭子の母親は笑った。
今、僕は、僕の雇い主でもある彼女に今日一日の報告をしたところだった。報告を聞いた彼女の反応は、まあ想像通りだった。
「いえ、いつものことなんで、気にしてないですよ」
「や~だ。火酉君。もうすっかり飼い慣らされちゃったの?こりゃ娘の将来の相手を心配する必要ないわね」
再び、亜栗鼠の笑い声が部屋中に響いた。
「じょ、冗談言わないでくださいよ。一体いくつ歳離れてると思うんですか?」
「歳なんて関係ないわよ。法律で結婚は無理でも、ツバ付けるのに適齢期はいつ?なんて法律はないのよ?」
「いや、ありますって!普通にロリコンで犯罪者じゃないですか!」
「ないわよ。・・・少なくとも、私はなかったわ・・・」
缶ビールを手にした亜栗鼠は、急に神妙な面もちになる。
地雷を踏んだ。・・・と、思うのもいつものことだった。
「夫とは11で・・・出会って、16で結婚した。んで、ようやっと20であの子を産めた・・・一人でね。夫とは一回りも二周りも歳が離れてたけど、昔からあの人の笑顔は子供っぽくてね。それが頭に離れなくて、気づけば初恋よ。歳の離れなんて全く関係なかったわ。で・・・・・・あれ、この話何回目だっけ」
「21回目ですかね。ちょうど亜栗鼠さんの年齢と一緒です」
「そんなに話したっけ?まあ、いいやもう一回聞いてて」
吉野亜栗鼠はその後一時間ほど話続けた。
夫とどんな所に遊びに行ったとか、ファーストキスはどこだったとか、プロポーズはどんな言葉だったとかを延々と聞かされた。
僕はそれをうんうんと相づちを打つ体勢で聞いていた。このやり取りはかれこれ20回目だ。・・・最初の一回目は・・・あまり思い出したくもない。泣きじゃくりながらされる話を声をただ聞くのはもうこりごりだった。
「それじゃあ、僕はそろそろ帰ります。おやすみなさい」
「うん?もうそんな時間?泊まってけばいいのにぃ~。酌しなさいよ。酌~!」
真面目な大学二年生を、亜栗鼠はすっかりできあがった酔っぱらいの口調で引き留めた。
「勘弁してください。明日は一コマ目から講義があるんで」
「そんなんいいじゃん。朝まで飲もうよ~~」
「仮にも未成年の弟に飲酒をすすめないで下さい。台所にある酒類全部隠しますよ?」
「む。それは困る。・・・しゃ~ない。弟の話は黙って聞きますか」
「そうして下さい」
「そうする。・・・・でも、やっぱちょこっとだけ」
「・・・・・・」
「ああ、うん。ごめん。そんな怖い顔しないで」
酒気を帯びた顔が子供っぽくはにかんだ。
「・・・それじゃあ、おやすみ。義姉さん」
「うん。おやすみ」
吉野亜栗鼠のアパートを出る。
携帯のサブディスプレイを見ると日付が変わる直前だった。
この時間帯での電車はなし。
タクシーを使えるお金もなし。
仕方ないので、僕はまた、生温かい夜空の下で家路につくことに青春の一日を使うことにした。