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VARIANTAS  作者: 機動電介
8/22

ACT8 赤銅騎

サンヘドリンへ入隊したビンセントだが、彼には心残りがあった。

Captur 1

[サンヘドリン本部中央会議室]

「戦艦、駆逐艦、巡洋艦、空母……、一個体のヴァリアントによるものとしては、史上最大の損害です」

「それに超空間ゲートによる大規模強襲……、脅威に他なりませんな、中将」

 会議室に集まった将校達を前に、ガルスは腕を組んだまま答えた。

「例の新型は?」

 情報軍団のハルト准将が立ち上がって答える。

「はい。まだ解析の途中ですが、現在のところ、どの系統のヴァリアンタスにも属さない独立した構造を持っていることがわかりました。それと、このヴァリアントが発した言葉から、これは“有人機”であるとおもわれます。奴らは今後、次々に新型を開発して、実戦へ投入してくるでしょう…」

 ざわつく会議室。

「有人機だと!?」

「アレには人が乗っていると云うのか!?」

 将校達のざわめきに答えるハルト准将。

「“人”とは言いません。ただ、限りなく人間の思考に近い何かが乗っていると分析できます」

 むう……と、声を絞り出す将校達。

「故に我々は立ち止まる事が許されない」

 ガルスが冷静に言う。

「支部建設に新型機の導入…やらなければならない事は山積みだ…」

 中央に映し出されるホログラム。

「世界7ヵ所に建設予定の支部施設…特別に教育した管理官を置き、二個大隊規模の機動戦力を配備。本部メインコンピューター『ユグドラシル』と、超大容量高速通信回線で接続し、リアルタイムでの情報交換を行う」

 ホログラム画面の内容が切り替わった。

「次期主力機体の開発には、複数の企業が参入することが、統合体での決議によって決定した。試作機は、従来通り、トライアル期間を経て決定する」

 画面が消える。

「この戦争は、何としても勝利せねばならない。地球上の全被造物の為に…『サンヘドリン(最高法廷)』の名の下に、敵対者に滅びを…!」





************





 彼は自分の機体を遠目で眺めた。

 両腕は砕け、辛うじて上腕の一部と、肩フレームが残っている。両膝は砕け、塗装もはげ落ち、つまりは、鉄屑だ。

 HMA‐h1AV・火星圏用カスタム機。

 彼が、火星での『仕事』の為に手を加えた機体だ。

 彼の手元に来た時は、ノーマルの機体だったが、彼自身がやりくりして、個人的にチューンした物。言うなれば、手塩にかけたパートナーだった。

 それが今ではただの鉄塊で、動かすどころか、起動さえできない。

 彼は一つ大きく溜め息をつくと、手袋をはめ、プラズマトーチとバールを持った。

「装甲、ひっぱがすか…」

 彼は、この機体を修理しようとしていた。


 ――数分前


「そういやさ、俺のロンギマヌスって今どこにあんの?」

 一応の入隊手続きを終え、部屋のキーを受けた彼は、その事を報告するついでに、自分の機体が今どこにあるかをグラムに聞いた。

「あのスクラップか?」

「ス、スク…!? え!? ひど!」

「25番ゲージに保管してある」

 それで今、彼はその25番ゲージに居る。

 トーチに火を入れ、装甲に切れ目を入れていく。

 装甲が歪んでいて、ピンを外せない。強引に切り取るしかない。

 プラズマジェットがチタンの表面装甲に熱を入れていく。しかしチタンはチタンでも、特殊鋼だ。なかなか切る事が出来ない。

 やっとの事で表面装甲に切れ目を入れ、隙間にバールを差し込む。力を込めて思い切りこじる。軋む様な音を立てる装甲板。

 額から汗が流れ落ち、装甲の上で蒸発した。

 ゲージ内の空調が入っていない。構内の勝手が解らない彼は、道具を使えても他の設備を使えなかった。

「くそ!あっちぃ~!」

 トーチも使い、身体を動かした彼にとって、今室内は蒸し風呂状態。気温36度。

 腕で汗をぬぐい、ハンマーを手に取って装甲を叩く。

 構内に打撃音が響き渡る。

 しかし。

「だー! くそ! 油圧カッターが無きゃ取れねぇ!」

 びくともしない装甲板に、諦め工具を投げ出すビンセント。

 その時。

「お前がこいつの持ち主か…」

 ビンセントは声のする方を見た。

「あん…?」

「兵隊のくせに、自分でメカいじるたぁ珍しい奴も居たもんだ」

 そこに居たのは、作業用ツナギを着た、初老の男。

「おっさん誰?」

 男はビンセントにミネラルウォーターのペットボトルを投げ渡した。

「俺は唯の技術屋。ここで術長やっとる」

「ふーん……」

 ビンセントは水を一気に飲み干し、気の無い返事を返す。

 男が問う。

「で、どうする? こんなスクラップまた修理して乗り回す気か?」

「あんたにゃ関係ないでしょ?」

 術長は一瞬笑ってからビンセントに言った。

「可愛いげの無いガキだ。この機体とそっくりだよ、まったく……」

「勝手にいじったのか?」

「なに、ちょっと覗いただけだよ。かなりいじっとるな……。 炉心は、リミッターを解除してROMチューン。ハイコンプレッションタービン四基に高性能レーザークーラー。駆動系は高密度鍛造ハイコンプシリンダーを入れ、足回りの電磁気サスを強化。防塵処理は完璧……。素人でここまで出来れば上出来……と言いたいが……」

「なに?」

「自分で気付かんのか?」

「足回りも変えたし、出力アップもしてある。冷却系も強化してるし――」

 ビンセントの言葉を遮る術長。

「これだから解っちゃいねぇ……」

 眉間にしわを寄せるビンセント。

「何だよ! 何がいけねぇって言うんだ!」

 術長は冷静に言い返した。

「重力制御、イカレただろ? 後を追う様にバーニアも」

「……ああ」

「第一、起動が遅かっただろ?」

「………」

 全ての異常を言い当てる術長。

「やっぱりな。お前、こいつの修理諦めろ」

「な、何?」

「故障の原因は戦闘ダメージだけじゃなく、お前のせいだ」

「え、ちょっ、ちょっと待てよ」

「解ったら、また来い。手伝ってやる」

 術長は捲し立てるようにビンセントにそう言うと、ゲージの電源ブレーカーを落とし、出て行った。

 照明が消え、換気扇が止まる。

 ビンセントは、いびつな形に変形したロンギマヌスのシルエットを暫く眺め、ペットボトルを遠くに投げた。






Captur 2

『痛いよ…』

 小さな、消えてしまいそうな声。

『脚が……腕が……お腹が痛いの……』

『痛い……助けて……お願い……助けて……』

 ビンセントがベッドから飛び起きた。時計を見れば、まだ夜中の三時だった。

 ずっとこんな調子だ。最初は飛び上がって目を覚ましていたが、こんな夢が三日も続けば、慣れてしまう。

 慣れてしまうが、彼は非常に不快に感じていた。

 部屋に荷物も入れたし、元通りとまではいかないが、生活のペースも取り戻した。だが、彼にとっては、一つ大きく欠けている物があった。

 『ロンギマヌス』だ。

 この三日、何度修理に行っても術長に『帰れ!』と言われる始末。

 いっその事、得意の“サボタージュ”で術長を消そうと考えたが、『多分、グラムに殺されるだろう』と思い考え直した。

「何がいけないんだ……?」

 ビンセントは、ようやく『原因』を考慮し始めた。

 と、その前に、身体をベッドから下ろし、シャワー室へ。早めの朝湯を浴びた。





************





「ビンセントが?」

「ええ。最近、長髪の男が出入りしてるって技術部の人達が話してるのを聞いて……。どうやらあの機体を修理しようとしてるみたいで」

「そうか」

 グラムは意に介さないかの様な返事。

「でも、彼には既に新しい機体が充てられているのでしょう?」

「ああ。まだ言っていないがな…」

「言ってきます?」

「まだ暫く放っておけばいい、エステル。男には、終わらせなければ、どうしても気が済まない事がある」

 エステルは苦笑して言った。

「人間の女性は、苦労するわね……」

「………」





************





 巨大なゲートが重苦しい音を立てながら開き、その中へ、それはまた巨大なトレーラーが入ってきた。

 外見ではタイヤなのか、ホバーなのかが分からない大型の駆動装置が両側に、合わせて八つある、本当に巨大な『輸送車』だ。

 誘導員の指示を聞きながら、ゆっくりバックで入ってくる“それ”は、低い唸り声を上げながら、圧縮空気の噴射音を鳴り響かせ、停止した。

「よぉーし……、下ろし終わったら、すぐに換装と点検調整はじめっぞ~」

 術長が指示を出すと、『おー』とも『ういー』とも聞こえるはっきりしない発音の返事が、作業員達から返ってくる。

「おい、サブ」

 術長が、近くにいた若い技術者を呼んだ。

「うっす」

 元気の良い返事。

「ちょっと、電算室行ってくっからよ、後頼むわ」

「あれ? 術長、何かのバグ取りっすか?」

「いんや、昔の女を忘れられない哀れな男を、叱咤しに行くのサ……」

「…ふーん、そうっすか」

 術長が若者にコブラツイストをかける。

「てめぇ! 年長者の話は真面目に聞きやがれ!」

「ぎゃあ! だってギャグにしか聞こえな…」

「このヤロ! バカヤロ!」

「…あぁぁぁぁぁい!」


 合掌。





************





 画面上を、HMAを模した点と線が躍動する。その動きに乱れは無く、滑らかに、素早く。

 しかし突然、画面に警告のウインドウが次々に出た。


 〈重力制御機能停止〉

 〈慣性制御不能〉

 〈機体荷重過負荷〉

 〈姿勢制御不能〉

 〈推進機関機能停止〉

 〈関節破損〉

 〈機体大破〉


「うーん! 分からん!」

 ビンセントは技術部の電算室に篭り、自分の機体の起動ディスクをコンピューターに読み込ませていた。

 駆動データを用い、機体の動きを再現してみる。が、何度試しても、結果は一緒だった。

 ビンセントは眉間を押さえ、溜め息。

 少々疲れてきた。彼は自販機に行く為に、ドアへ向かい、ドアノブに手をかける。

 だが、次の瞬間、扉は外側から勢い良く開き、ビンセントの顔面に迫り――。

「ごっ!」

 彼は、鼻柱を扉に強打。鼻を押さえ、うずくまる。

「痛ってぇ! おい、コラァ! 気をつけやがれ! この馬鹿や……」

 思わず、罵倒の言葉を飲み込む。

「ごめんなさい! 急いでて……! 大丈夫ですか!?」

 膝を突き、手の平をひらひらさせながら慌てるグレン。

「あー、もう! そそっかしくて、私たまにやっちゃうんです!」

 グレンがハンカチを取り出す。

「いやぁはっはっは! 何ともないよ、お嬢さん!」

 ビンセントは態度を一変させ、爽やかな顔を見せる。哀れ、女好きの哀しい性…

「これも何かの縁! この後お茶でも…」

「でも…」

 困った顔をするグレン。

「嫌かい……?」

「あの、血……」

「ぅえ?」

 ビンセントの鼻孔からは、たらりと血液が。

「(オーイエース……オレカッコワルイ……)」

 彼は満面の笑顔で、鼻血を垂らした。





Captur 3

「本当に大丈夫ですか?」

 グレンは申し訳なさそうに、ビンセントに言った。

「大丈夫! 大丈夫!」

 ベンチに座り、鼻にティッシュを詰め、鼻声で話すビンセント。

「君、メカニック?」

「いえ、私は開発部の方で」

「珍しいね。頭良いんだ」

「これでも一応物理学者なんですよ?」

「へぇ~」

 笑いながら話す二人。

「そういや、急いでたみたいだけど…」

「そうだ!電算室!」

「今、何の研究してんの?」

 ビンセントは愛想よく爽やかな表情。

「研究って程の物じゃないんですけど……」

 グレンは手元のファイルを見せながら説明。

「機体とイクサミコのマッチングチェックです。イクサミコのシステム周りをそのままに機体を換えると、イクサミコに過負荷がかかるんです。それで、イクサミコの換装無しでどうにかならないかって言われて……」

「へー…あれ? 君、物理学者じゃなかったっけ?」

 よく考えれば、グレンは“物理学者”だ。“電子工学”を任ずるのは少々無理がある。

 そんなビンセントの疑問を他所に、グレンは笑顔で答えた。

「最近は先攻だけじゃなくて、色んな方面も勉強する事にしたんです。これでも、HMAいじれるんですよっ?」

「君はすごいなぁ」

 突然、ビンセントが何かに気付いた。

「(電子系? 負担? 機体変更?)」

 閃き、一瞬。

「あ、そうか…」

 いきなり、ビンセントがベンチから立ち上がった。

「え!?」

 驚くグレン。

「お嬢さん。ありがとう!」

 ビンセントはそれを無視して、グレンの手を取ってブンブンと無理やり握手。

「え? え? え?」

 何が何か分からないグレン。

 そのとき。

「こらぁっ! この野郎! 電算室に居ねぇから、どこほっつき歩いてんのかと思えば、ナンパか、この馬鹿野郎!」

 ビンセントを見つけた術長が目を吊り上げて声を張り上げた。

「バカ! ちげぇよ! 話してただけだ!」

「術長さん!?」

 術長はビンセントの首根っこを腕で絞める。

「このスケコマシがぁぁぁぁ!」

「うごーー!」

 強烈なチョークスリーパー。

「嬢ちゃんも、用事は済んだのかい!?」

「ご、ごめんなさい! まだです!」

 『しゅん』とするグレン。

 突然、ビンセントが叫んだ。

「で!で!電装系!(鼻声)」

「何!?『変態系』?」

 ビンセントは鼻のティッシュを取った。今度ははっきりした発音で。

「電装系!」

 術長が動きを止めた。

「電装系のチューニングとグレードアップをしてなかった!」

 暫くの沈黙後、術長が言う。

「……上出来だ」

 ビンセントを離す。

「修理、させてくれんだろうな?」

「あれはもう、ゲージにはねぇ」

「まさか、処分したんじゃねぇだろうな!?」

「ちげぇ、バカ。3番ドックに移しといた。言っただろ?そん時ゃ手伝ってやるってな」

 意外な言葉にビンセントの表情が明るくなる。

「ほれ、行くぞ」

 術長はそう言って、ビンセントを残したまま、ドックに向かった。

 後を追うビンセント。一旦、足を止める。

「そういや、君、名前は?」

「あ、はい! グレン。グレン=ヴェジエです。あなたは?」

「俺は、ビン……」

 ビンセントの襟首を掴む術長。

「いつまで、くっちゃべってんだ! バカ」

 引いて行かれるビンセント。術長の力は、かなり強力だ。

「だっ! だっ! ちょっ! ま、待て! あー! またね~!」

 ひらひらと、手を振るビンセント。

 グレンも手を振って答える。

 やがてビンセントは、曲がり角を曲がり、姿を消す。

 微笑むグレン。

「面白い人っ」





************





 かくして、ビンセントは本格的にロンギマヌスの修理を始めた。

 無論、術長のバックアップ有っての事だが……

 さて、修理を始めたは良いが、ロンギマヌスのダメージは外見以上に酷かった。もちろん、脚部フレームは全取り替えで、下肢部のパーツは殆ど全て交換した。『背骨』も、外殻にヒビがあり、4番から15番までを交換した。

 幸い、動力炉は無事だったので、交換せずに済んだが、電子系統は全取り替えだった。

 ビンセントも術長も、お互い趣味と仕事を兼ねているような人間で、作業中は争い事も無く……

「だからぁ! ここのピッチはもっと詰めた方が良いって言ってんだろ!」

「そんな事したら、アライメントが狂うだろうが! このボケがぁ!」

 ……多少の衝突は有ったが――

「んだとっ!? このクソジジイ! もういっぺん言ってみろ!」

「おおう! 何べんでも言ってやるわ! アホアホアホアホ!」

 ……お互いの馬鹿さを露呈しあいながら、5日の歳月を費やし、遂にロンギマヌスは元の形に修理されたのだった。





Captur 4

「あれ? サブさん、今日も術長休みですか?」

 若い作業員は、サブに聞いた。

「いや、来てるよ。ドックに篭ってなんかしてる。後で、3番ドックにあれ持ってこいって……」

「はあ…」

 若者は、困った表情でうなずいた。





************





「………」

「………」

 ビンセントと術長は、無言のままだった。

 二人の眼前には、一機のHMA。

「出来たな…」

「ああ…」

「お疲れ。助かったぜ」

「なーに……楽しかったよ」

 何か、落ち着いた雰囲気の二人は、お互い固く握手。

 ふと、思い出したように術長が問う。

「夢中になってて忘れてたよ…お前さん名前は?」

「ビンセント=キングストン。傭兵だ……」

「俺は、ジェフ=ニコルソン。ここでメカニックやっとる」

 ビンセントと術長は、お互いの顔を見て頷く。

「それじゃあ」

 ビンセントが答える。

「試運転といきますか!」

 ビンセントは、機体にかけられたはしごを登り、コクピットに身体を滑り込ませた。

 馴れた、懐かしい感覚。ハッチを閉め、深呼吸。起動ディスクを挿入し、起動コマンド入力。

 モニターやコンソール類が光り、ジェネシック・インダストリー社のエンブレムが映し出される。

「Welcome...OSboot.Type‐h1.Standby...」

 コネクションチェック。いつもよりスムーズに。

「Complete.」

 ハンガーのロックが外され、脚のダンパーが沈み込む。

 右足を、一歩踏み出す。

「よう。どうだ?」

「いい感じ」

「正面、開くぞ」

 ドック正面のゲートが開く。

 明るい光が、室内に差し込み、機体を照らした。それはまるで、長い幽閉からの開放の様に。

 そのまま歩いて、ゲートをくぐる。

 日の光を、機体全身で浴びる。外に広がる広大な土地。

 彼は、バーニアのノズルを上下左右に動かし、可動域を確認。大丈夫。異常無し。

 コンソールを呼び出し、操作。

「重力制御起動っと…」

 機体に内蔵された重力制御ベクトルコイルが、唸り声を上げる。

 彼は、右足を一歩前に出し、そのまま機体を走らせた。助走を付け、スピードが乗った所で脚部バーニアを噴射。ホバー走行に移る。

「ごめんな、ロンギマヌス……。無理な改造で故障させちまって……。痛かったか? でももう大丈夫なように修理してやったからよ……。だから、もう一度、一緒に翔ぼうぜ!」

 背面メインスラスターを点火。膝を屈め、思い切り伸ばす。

 機体は一気に舞い上がり、空へ。一瞬で戦闘出力。

 尾を曳いて飛び立つロンギマヌス。それを、術長は優しい表情で見送った。

「『少年は絶望を知って、大人へ転落する』……か。昔の人は良いこと言ったもんだぜ。なぁ、大佐さんよ」

 振り向く術長。そこにグラムが立っていた。

「彼は?」

「今飛んでった」

 遠くの空を見つめる術長。

「お前さんも、HMAからディカイオスに乗り換える時、自分の機体をぶん回してたのを思い出したよ」

「彼に、新しい機体の事は?」

「ディープフォレストの事か? 今ここに持って来させるとこ」

「そうですか……」

 グラムは術長の横に立ち、同じように空を見上げる。

「その時の私の機体、まだここに?」

「ああ、有るよ。乗るかい?」

 グラムは一瞬、寂しいそうな笑顔をしてから術長に言った。

「……いや、止めておきます」

 くるりと踵を反し、彼は迷いの無い足音を立てながら去っていく。そこへ、遠くからのサブの声。

「術長~!」

「おーう…ここに着けろやー」

 ドックのゲートを塞ぐように止まる、HMAを乗せたトレーラーは荷台を起立させ、機体を垂直に立てた。

 トレーラーのキャビンから降りる少女。

 透き通るようなブルーの髪をなびかせ、彼女は空を仰いだ。

 ビンセントの駆るロンギマヌスが頭上を通り過ぎ、風が舞い上がる。

 彼女は、飛ばされぬように帽子を押さえ、ロンギマヌスを目で追った。





************





 修理したばかりの機体を、思うがままに機動させるビンセント。

 まるで曲芸ショーを見ているかのような乗り方で、たぶんこっちのほうが本当の彼。

 彼はふと、気付いた。ドックに見たこともない機体が、一機来ている。

 機体を低空で飛行させ、カメラアイを向ける。トレーラーの荷台ごと起立する深緑色の機体。

 武装は施されていないが、背中には見たことのない推進機関を背負っている。

 その足元には、あたふたと動き回る作業員と、一人の少女が。

 高解像度デジタルズーム。ブルーの髪がはためき、ルビーのような瞳は、モニター越しにビンセントを見ている。

 不思議な感覚を覚えた彼は、機体を一旦高く上昇させてから反転。そのまま着地体勢に入った。

 ドックの、その深緑色の機体の目の前。機体をゆっくり降下させ、羽根が落ちるかの様に柔らかく着地。

 ロンギマヌスの足が地面を捕え、片膝を突き、止まる。

 コクピットハッチを開き、顔を覗かせるビンセント。少女が彼の顔をじっと見ている。

「……何だ?」

 『じっと見ている』と言うよりは『ガン見』だ。

 少々恥じ入る。

 彼は機体から降り、術長へ歩み寄る。

「どうだった?」

「最高」

 そのとき、術長は一つ瞬きをしてから彼に言った。

「よく馴れた道具は、最高に使い勝手が良い。『道具』と言うより、自分の一部みてぇに思ってくる。けどよ…その道具の用途じゃねぇ事をしちまうと、そいつは壊れちまう」

 ビンセントは深緑の機体に目を向け、術長に言い返した。

「俺達は、その『道具』に命を預けてる…その道具を選ぶのも当然なのは分かってる。でもよ……?」

「今までお前を護ってきたあの子も、“道具”としての限界を分かってる筈だ。だからせめて、今はゆっくり休めてやんなよ……」

 ビンセントは術長の方を向き、ゆっくり頷いてから問う。

「あれは?」

「HMA‐h2E/F・ディープフォレスト。加速曲線に高機動姿勢制御、180゜姿勢変換速度……。どれもピカイチの空軍機だぜ?」

「ロンギマヌス、車庫入れ頼むわ…」

 そう言うと彼は、トレーラーの方に歩いて行き、そこに立つ巨人の足元に。下から見上げ、まじまじと眺める。

 強い視線を感じるビンセント。彼が横目で見ると、その子はやはり、機体脇に立ったまま彼の事をじっと見ていた。

 声をかけてみる。

「君、イクサミコ?」

「はい」

 彼女は表情一つ変えない。

「名前は?」

「本日付を持ちまして、貴官の専用ユニットとして起動しました戦闘支援AIユニットイクサミコヒューマノイドタイプバージョン1・89個体ナンバー8894‐27110です」

「うんっん? それ名前?」

「正確には名前ではありません。製造ナンバーです」

 彼は、くしゃくしゃと髪を掻き分けながら頭をかいた。

「『名前はまだ無い』…か」

 ビンセントの考え途中に、遠くから術長が怒鳴る。

「おーい! 乗るのか、乗らねぇのか、はっきりしろー!」

「おーう、乗る乗るー!」

 二つ返事で返す。

「ごめん、後にするわ…初仕事頼むね」

「はい」

 返事をすると彼女は、着ていた服を脱ぎ捨てた。

 当惑するビンセント。

「ちょ! お前、こんな所で…!」

 慌てるビンセントを見て、彼女は少々不思議そうな表情で問う。

「どうかしましたか?」

 彼が眼を向けると彼女は、黒いコネクタースーツに身を包んでいた。

 薄いスキンスーツ。ふくよかなボディーラインがくっきりと浮き出るそれは、男にとって目の毒だ。

 しかもこのイクサミコ、相当……巨乳だ。

「いや、……何でもないよ」

 彼は、心の中でつぶやいた。

「(イクサミコ、奥が深いぜ……)」





Captur 5

 “イクサミコ”ってさ…もっとこう…いかにもロボット、って感じだと思ってた訳よ。

 それがさ、見た目フツーの女の子なんだよな、それが。『イクサミコです』って言われなきゃ分かんないくらい。

 ウエストなんか、キュッと締まったくびれがあって、尻は、ぷりっとした『美尻』だぜ?美尻。

 胸なんかも、こう……

 うん、まぁそれは良しとして、イクサミコを設計した奴の顔が見てみたいと思ったね。俺は。

 で、その娘が今、俺の前に居る訳よ。


 『ビンセント=キングストン談』





************





 ディープフォレストが軽やかに空を舞う。

 雲が尾を曳き、とても人型とは思えない動きで機動する。

 空気を切り裂く音以外、殆ど音がない。無論コクピット内には、その音さえ届かない。

「静かだな、こいつ」

 ビンセントは、独り言の様に呟いた。

「駆動音は規定の半分以下に抑え、スラスターユニットも通常の物ではなく、高精度グラビティドライブを搭載しています」

 イクサミコがビンセントの独り言に反応。揺らぎの無い無色な声。

「面白そうだな」

 彼は機体を大きく機動。急激に高度を上げ、加速。

 慣性制御で、コクピットにはGが掛からない。

「間もなく、ドーム天井部です。減速してください」

 数字を刻んでいく高度計。警告を出すイクサミコ。

 ドーム天井部、地上高7800m。スラスターと全身の動きでブレーキ。

 軽い衝撃が伝わり、機体が静止する。

「通常飛行高度からこの高度まで、たったの4秒かよ~!たまんないね!可愛い娘ちゃん!」

 そう言うと今度は、突然機体を真っ逆さまにして急降下を始めた。

 雲を突き抜け、パワーダイブ。降下中も加速し、地面が物凄いスピードで迫る。

 危険速度を知らせる警告音。

「ユーザーへ警告。減速してください」

 ビンセントは警告を無視。

「危険速度限界。オートマニューバーモードへ移行します」

 イクサミコは、機体の制御を要求してきた。その間にも、地面が迫る。

「モード移行不許可。もうちょっと辛抱してくれや」

 引き続き手動操縦で対応。

 次の瞬間、高度計の表示が赤色に変わった。

 機体を寸でのところで180°回転させ、地面スレスレのところでブレーキ。

 本来なら地面に墜落しているが、彼は機体性能と操縦センスで衝突を回避した。

 だが彼はいまさらになって気づいてしまった。

 機体のコントロールレバーからビンセントの手の平に伝わる嫌な感覚。

 ――この機体は処女だ。

 機体重力制御に異常信号。実際、機体の高度が上がらない。

「くそ! 高度があがらねぇ!」

 怒鳴るビンセント。

「私の制御補佐があなたに追従できません!!」

 彼は機体が地面と接触しないように慎重に操作。

 咄嗟に、脚部の“通常では使用しない”緊急用スラスターを噴射。

 減速する機体。それでも着地するにはまだオーバースピード。

 だが、機体の進行方向上には他の建造物が。

「ソフトタッチとはいかねぇか……」

 腕と腰をひねり、強引に機体の向きを180度変更。

 その瞬間、つま先が地面と接触。地面が抉り取られてゆく。

 機体がガタガタと振動し始め、ゆれは次第に大きくなる。

 足の裏全体が地面に着き、機体はそのまま滑走。土埃が立ち上り、大きな溝二つを残して、機体は停止した。

「機体停止。墜落は回避しました」

「ごめん……」

 ため息をついてから“彼女”に向かって謝るビンセント。

 彼は大きく深呼吸し、コックピットハッチを開放。

 視界を遮る土埃が、風に流されて晴れていき、向こうから走ってくる一台のトレーラーが見えてきた。

 機体から降り、地面の土を蹴ってから、機体の足元に座り込むビンセント。彼は不機嫌そうに頬杖をついた。


 当然彼は、その後術長にしこまた締め上げられる羽目となった訳で……

 ゲンコツは食らうわ説教はされるわで、『地獄の門』と恐れられた彼も、術長の前では形無しで、術長はまるで、子供を叱るかのようにビンセントを叱り付けた。


 さて、その二日後である。




************





 作業騒音が鳴り止まない整備部。

 彼女はずっと、かの機体の中に篭り、駆動データを何度も読み返していた。

 機体が何故バランスを崩してしまったのか。

 何故しっかりサポート出来なかったのか。

 『彼』が最も必要としているサポートは何なのか。

 彼女はこう考える。

 自分達イクサミコ全てには、マシンコネクトソフトウェアとして、TMIOS(ターニングマシンインターフェースオペレーションシステム)が組み込まれている。

 これは人体と電子機器との接続、ネットワーク同調プログラムであり、イクサミコの主要機能、最も重視される要素でもある。

 これは本来、機体側オペレーティンクソフトウェア“Mac10”と接続し、パイロットの操作補助及び予測と意思の翻訳を行うが、この翻訳と予測は、機体側コンピューターではなく、イクサミコ内に蓄積され、ネットワークを通じて本部メインコンピューター、ユグドラシルに保存される。しかし、現在ユグドラシル内に、ビンセントのような機動データはない。唯一似ているのが、グラム=ミラーズ大佐だが、彼と大佐ではこれまた微妙な差異がある。

 つまり、今現在、サンヘドリンの中では、ハード・ソフト共に、彼の機動データを知ることが難しい状態になっている。

 確かに、機動試験を繰り返し行えば、ある程度のデータは蓄積できるが、いざ戦闘機動になった場合、完全な補佐を出来る可能性は低い。

 一体どうすればいいのか……。彼女は答えを求め、何時間も機体内にこもった。

 その時突然、コクピットハッチが開けられ、術長が顔を覗かせた。

「……何でしょうか?」

 怪訝そうな顔をする彼女に、術長が言った。

「疲れただろ? ちょっと、休まねぇか?」

「イクサミコに肉体的疲れはありません」

「心、疲れねぇか?」

「心……ですか?」

 術長にそう言われ、少し困った顔をする彼女。

「まぁ、いいから、ちょっと付き合えや」

「え? あの……」

 術長は少し強引に、彼女を機体から連れ出し、自販機のある休憩所に連れて行った。

「御用件は何でしょうか?」

 不安そうな顔をする彼女に対し、術長は自販機の方を向いたまま聞く。

「何か飲む?」

「いえ、私は」

「あ、そう?」

 術長は缶コーヒーを一つ買い、彼女の横に少し離れて座ると、彼女に問い掛ける様に言った。

「答えは、見つかったか?」

 俯いて、膝の上で手を握る彼女。

「何が答えなのかも分かりません……」

「分からない、か」

 缶コーヒーを一口飲み、術長は彼女に言った。

「俺はいつも思うんだよ……。“答え”は頭で考えて得る物じゃなくて、いつも自分のすぐ側に“在る”物だってな」

「自分のすぐ側?」

「だからこそ、求め続けなきゃならんのかもな。でも、お前さんはしっかりやったと思うぜ? 俺は」

「でも、私……!」

「ストップ!! 聞きたい事があんのなら、あいつに聞きな。お前さんは“アイツ”のイクサミコだろ?」

 彼女は一瞬目をつむり、術長の顔を見た。

「行ってきな」

 彼女は無言で出て行った。

 言葉は要らない。すべき事は一つだったからだ。

 術長がぽつりと呟いた。

「せがれが生きてりゃ、あいつ位の歳か…」

 彼は缶コーヒーを一気に飲み干してから、すっと立ち上がった。

 そして作業場に戻り、場内の一区画に繋がるスピーカーのマイクを手にとる。

「野郎ども! 今してる作業は後回し! 趣味の時間だ!」

 場内から、妙に嬉しそうな返事が返ってくる。

 術長は、ニヤリッと、何かを企んでいるかのような、そんな笑い顔をした。





************





 捜す宛も無いのに、どうして捜そうと思ったのか、彼女自身分からなかった。

 全てのドックを捜して回り、途中、数人の人間に聞いたが、彼を知っている者は誰もいなかった。

 ゲージにも行ってみた。1番、2番と見て行ったが、やはり彼はいなかった。そして25番を見たとき、そこに明かりが点いているのに、彼女は気が付いた。

「25番ゲージ……」

 中に入ると、そこには一機のHMAが。

 赤銅色のその機体は、よく磨き上げられており、鋳物の銅の様な輝きを放っていた。

「綺麗だろ?」

 彼女は機体の足元の影にビンセントを見つけると、彼に問うた。

「これは?」

「ロンギマヌス……。俺がずっと乗ってた機体だよ」

 彼女は機体を見上げてから、彼に問う。

「貴方に質問があります」

「ん?」

「あの機体を、しっかり制御出来なかったのは、私の責任なのでしょうか?」

「………」

 沈黙するビンセント。

「……私は、貴方の支援ユニットとしてスペックを発揮できません」

 俯く彼女。そんな彼女に、彼は言った。

機体ハードは、最適な人員ソフトを内包して、始めてスペックを最大限に発揮する。しかし〈ソフト〉は、OSパイロットとアプリケーション(イクサミコ)のどちらが欠けてもならない」

「え?」

「俺が尊敬するメカニックの言葉さ。おまえさんが悪い訳じゃない」

 彼はそう言うと彼女に、一枚のディスクを渡した。

「これは?」

「コイツの起動ディスクだ…。人は死ぬとき、今までの記憶全てを失っちまう……。でも機械なら、その記憶を受け継ぎ続ける事ができる」

「では、この中には……」

「コイツの、ロンギマヌスの、今までの記憶が全部入ってる……。お前さんの中で、コイツを生きさせてくれ」

「私の、中で?」

「ああ」

「分かりました」

 彼女はディスクを受け取り、力強く頷いた。接続端子を首のジャックにつなげる。

 リーダーにディスクを差込み起動。そしてゆっくり目を閉じ、ディスクを読み込み始めた。

 その様子を、見守るビンセント。彼は夜通し、彼女の傍にいた。




************




 朝――

 彼はゲージ内の長椅子の上で目覚めた。

 彼女がデバイスにディスクを挿入し、読み始めてから一晩中見守っているつもりだったが、いつの間にか眠ってしまっていた。

 気づけば彼には、毛布が掛けられていた。

 周囲を見回すビンセント。だが、彼女の姿は無かった。

「おーい……」

 返事が無い。もう一度呼ぼうとしたその時だった。

「おはようございます」

 彼の背後から爽やかな声。

 振り返る彼。

「ん……あれ? 読み終わったの?」

「はい」

 笑顔の彼女。

「どうだった?」

 彼女は少し頬を赤くさせて。

「以前より、貴方を身近に感じるような気がします…」

 ドキリ。

「(なんだ、コイツ。スッゲー可愛いぞ?)」

 逃げ腰のビンセント。

「……うん、それはよかった。じゃあ俺……」

 なぜか照れた顔の彼がそう言って立ち去ろうとしたその時、彼女が彼の上着を掴んだ。

「どしたの?」

「あの……非常に個人的な事で申し訳無いのですが……」

「ん?」

 澄ました表情の彼。

「私にも、名前を付けてくれないでしょうか?」

 ビンセントは、そう言う彼女の顔を見つめ、少し考えてから言った。

「んじゃあ“イオ”」

「イオ?」

「俺が好きな星の名前」

 彼女は笑顔で答えた。

「認証しました」

 その時。

「よろしくやってるじゃねえかビンセント……」

 術長が扉を半分開けて、ビンセント達を見ている。

「うお!? 何時からそこに居たんだよ!?」

「さっきから……」

 術長の目の下には、クマが出来ていた。

「ドックで待ってるぞ、お前の、ロンギマヌスが!」

「術長」

「あ?」

「あんがと」

 ビンセントはそう言うとイオの手を引いてドックへ向かった。

 ドッグへ駆け込む二人。そしてそこには、赤銅色に塗られたあの機体があった。

「こいつぁ…」

 自然に笑顔になるビンセント。

「ビンセントさんってあんた?」

 一人の若者がビンセントに話し掛けた。

「ん?」

「術長から聞いてるよ。俺の事はサブと呼んでくれ」

「コイツは?」

「『ロンギマヌス二世』って術長は言ってたけど、何の事やら…。グラビティドライブを大型のプラズマドライブに換装してある。パワーウエイトレシオ、0.6以下のじゃじゃ馬……ってあれ?」

 ビンセント達は既に機体に乗り込んでいた。

「イオ、機体起動!」

「了解」

 機体が起動し、歩いて場外へ。

 整備部の施設の窓から、技術者達が見守る中、彼は機体を走らせ、空へ舞い上がって行った。

 上昇を続ける機体。以前と同じ様に、あっという間に天井部へ。

「イオ…」

「はい?」

 彼は機体を静止させた。

「ロンギマヌスの記憶、君の一部になれてよかったと思うよ……」

「私も、嬉しいです」

 互いを確認しあう二人。

 彼は、機体を急降下させ始めた。

 迫る地面。以前にも増して、その加速度は強く、そして鋭く。機体はそのままの速度を維持し、地面へ迫った。

「まずい!墜ちる!」

 誰かが言った。見ていた技術者の誰もがそう思った、その時だった。

 直角に機動を変え、地面と水平に飛行する機体。機体はくるりと回転し、背面飛行をしている。

 強力な推進力で、滑るように飛行する、ロンギマヌス。その瞬間、顔を強張らせていた技術者達から歓声があがり、指笛や拍手の音があたりに響いた。

「全く、とんでもねぇ野郎だな、アイツは……」

 驚嘆の意を隠せないでいるサブ。

 ビンセントの駆るロンギマヌスは、地面を離れ空へ。雲が尾を曳き、赤銅色の巨人は、彼と彼のイクサミコ、“イオ”を乗せ、軽やかに舞い踊った。

「なぁ、イオ」

「はい」

「ありがと」

 ビンセントは満面の笑顔で彼女に感謝。

「いえ、貴方こそ、名前をくれて、そして修理してくれて……ありがとう……」

 イオの言葉にビンセントの胸が一瞬脈打つ。

 ――そうか……お前はずっと、俺の傍に……

 微笑むビンセント。

「行こう、イオ!」

「はい!」

 機体を自由に駆る彼。

 彼は心の中で言った。

「(おかえり…ロンギマヌス…)」




[ACT 8]終

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