ACT6 閉鎖
ついに開始されるインド洋上戦。大量の敵機を前に、人類に勝ち目はあるのか……
Captur 1
[2188年12月17日0500時、インド洋上]
オリオンは待機中の第一艦隊へ側面から近付いた。
オリオンの上空を、艦隊の空母から発進したHMAが飛行し、艦をエスコートする。
朝霧に包まれた艦隊。肉眼では不明瞭なシルエットが、朝日に照らし出され、徐々に明確になっていく。
海面に浮かぶ巨大な艦の集団。それは空母四隻を中核とした大艦隊だった。
「こちら、インド洋第二艦隊所属増援部隊、航空母艦『オリオン』。貴艦隊への受け入れを願う」
「こちら第一艦隊旗艦、ヒュぺリオン。受け入れ態勢に入る。オリオン、歓迎する」
「こちらオリオン。エスコート、感謝する」
オリオンは艦隊に接近し、そのまま静止。数機の艦載機が艦隊の周囲を警戒飛行している。
「こちらブラボー。艦隊周辺に異常なし」
「こちらチャーリー。異常なし。ブラボー、本部からの機動戦力支援は、たったの空母一隻分だぞ?」
「こちらブラボー。心配するな。その一隻には、例のディカイオスが積んであるんだ。奴らに勝ち目は無い」
艦載機のパイロット“チャーリー”はオリオンを見て呟いた。
「『ディカイオス・エイレーネ』…まるで…偶像みたいだ…」
************
[0630時、サンヘドリン本部中央作戦司令室]
作戦通り、三隻の巡洋艦が、ゲートを中心に一辺120kmの大三角を形作る。
艦隊は空母から哨戒機を発進。空母を中心に、攻撃担当の砲艦、巡洋艦、駆逐艦と対空防御担当の巡洋艦と航空部隊で陣形を形成。いわば、結界を形作る。
一方、対ヴァリアンタス軍の中枢である中央作戦司令室では、ヴァリアントのゲートに対抗するため、色めき立っていた。
司令室正面の巨大なスクリーンとホログラフモニターには、艦隊の位置とコンディション、先立って展開した部隊からの情報が表示され、常に最新の戦況を提供している。
「ゲートの様子は?」
司令室後方、スクリーンを一望できる司令官専用席に座り、ガルスが鋭い眼付きで言った。
「境界面活性度上昇中。まもなく湾曲率が最高点に達します」
ガルスは髭をさすり深呼吸。
「司令、コーヒーをお持ちしましょうか?」
彼の横に立つ女性が言った。
「うむ…頼む…」
優しく微笑んだ後、コーヒーを入れに司令室を出る彼女。
そのとき、司令室に警告音が鳴り、メインスクリーンに映る航空戦略マップの一部がズームされ、ウインドウが分割された。
ウインドウに映る、黄色いカーソル。
「司令。艦隊前方400kmに飛行物体あり。IFF、反応なし」
ガルスは思わず眉を歪める。
「なに? 詳細は?」
「飛行速度は約300ノット。これは……輸送機です!」
************
[0635時、インド洋第一艦隊旗艦『ヒュぺリオン』]
「IFF応答なし! 未確認機、当艦隊へなお接近中!」
「当該機、交戦予測エリアに入りました!」
本部と同時に、艦隊も騒然とした。
全ての艦は、既に第一級戦闘配備に有り、空母はいつでも艦載機を発進できる状態にあった。
「超空間ゲート、開口まであと四分!」
「このままでは、民間人が戦闘に巻き込まれます!」
刻一刻と、ヴァリアンタスの侵攻が迫っている今、作戦を中止することは出来ない。
しかし、このまま戦闘に民間人が巻き込まれ、もし死亡すれば、大きな問題となる。
艦隊は大きな選択を迫られた。
一方グラムは、ディカイオスのコクピットの中で静かに瞑想を続けていた。
コクピットの中は外の音から遮断されており、非常に静かだった。
「大佐、ブリッジから緊急の通信です」
エステルが通信回線を開いた。
「ミラーズ大佐! 緊急事態です! 戦闘領域に民間機が…!」
「分っている」
彼は慌てる事無く、冷静に対応した。
「それは民間機ではない。それにはあいつが乗っている」
グラムはその輸送機が何なのかを分っていた。
そして、時は満ちた。
「ゲート空間湾曲率、臨界点突破!」
「ゲート内に質量反応多数! 数、500!」
ついに超空間ゲートがその口を開く。
空に開く、巨大な穴。その中はまるで漆黒の闇。その闇から、無数の敵機が吐き出された。
「作戦は続行! 全機出撃!」
グラムの乗るディカイオスは発進デッキに乗った。
「レイズ!」
「はい!」
「出撃後、お前は海兵隊機四機とともにフォーメーション! トップはお前だ…シェーファー!」
「ROG!」
グラムはレイズに指示を出し、そのままオリオンのデッキに。
「行くぞ…エステル」
「はい」
慣性制御をON。バーニアをチャージ。
「グラム=ミラーズ、ディカイオス・エイレーネ。出撃る!」
一瞬で大空へ飛び立つディカイオス。
次にレイズの機体がカタパルトに乗った。
「行こう! サラ!」
「はい!」
「レイズ=ザナルティー、シェーファー01!出ます!」
リニアカタパルトで一気に加速され、レイズ機はそのまま飛び立った。
************
[0635時、『未確認機』内]
機内を流れる軽快な音楽。
機内の壁に貼られた、水着の女性の古いポスター。床にはビールの缶が2、3本散らばり、ゆっくりと左右に転がっている。
その輸送機の機内にある長椅子に、グラビア雑誌を顔にかぶせ、いびきをかいて寝ている男性がいた。
機体はオートパイロットで、操縦士も長椅子で寝ている。誰もIFFに気づいていない。
ふと、操縦士が目を覚まし、操縦席についた。コンソールに目をとめる。
「ん? IFF? この辺には誰もいないはず…」
パイロットはコンソールを『コンコン』と突く。しかし『IFF』の文字は消えない。
「旦那、ビンセントの旦那!」
パイロットは寝ている男を起こした。
「んあ!?」
寝ぼけ眼の男、それはあのビンセントだった。
「IFFが……」
「IFF?」
ビンセントは窓から外を見た。だが何も見えない。
「故障じゃねぇのか?この艇オンボロだしー。それにこの空路はスポンサーの持ち物だろ?」
ビンセントがそう言って、もう一度長椅子に寝ようとした、そのとき。
「旦那!! レーダーに変なものが!」
輸送機のレーダーが艦隊を捉えた頃には既に遅かった。
「なんだありゃ……?」
ビンセントは雲の切れ目から艦隊を確認。
そのとき既に、輸送艇は海軍機HMA-h2C/N・ラインバッカー二機に挟まれていた。
海軍機より無線通信。
「Diarm and follow me. I say again, Unknown, this is SanhedrinNavy,You have been intercepted.Diarm and follow me, 武装を解除し、我に続け。繰り返す、不明機、こちらはサンヘドリン海軍機である。貴機は迎撃を受けている。武装を解除し、我に続け」
ビンセントは即答する。
「反転! スタコラサッサと逃げるぞ!」
「え!? いいんっすか!?」
「うちらはいろいろやばい事してきたでしょうが!!」
パイロットは邀撃機から逃げようと機体を急いで反転。
次の瞬間、レーダーに無数の光点が現れた。
「だ、旦那! これ!」
「そう言うことか!」
ビンセントは、それがヴァリアンタスであることを瞬時に理解。
同時にソルジャーがミサイルを発射。
邀撃機は既にブレイクし、ミサイルは全て輸送機に向かっている。
「ちくしょう! しょうがねぇ!」
ビンセントはカーゴ室に向かった。
「旦那! どこ行くんすか!?」
「『ロンギマヌス』を出すの!」
「自分だけ逃げるんすか!?」
操縦士は凍りついた表情。
「んな訳無いでしょうが! 一緒に来い、ハリー! どうにか艦隊に向かうぞ!」
「ええぇ~!?マジっすか!?」
操縦士は止むを得なく、機体を自動操縦にし席を離れる。
ビンセントとハリーが機体へ乗り込む。ハッチを閉め、スイッチを入れていく。『ヴゥン…』と音がし、モニターが光る。
〈Oil pressure Normal Electronic system Normal…〉
「Hurry! Hurry! Hurry!」
「え? なんすか?」
「お前じゃない!」
二人が馬鹿漫才を演じている間にも、外からの爆音が聞こえてくる。
迫る敵機。
ビンセントは起動の遅い機体にいらつきを見せ、遂にキレる。
「ああ! くそ! 当該処理を中止! 項目を無視して強制起動!!」
あっけなく起動する機体。
ビンセントは輸送機のハッチを開けて、機体を空中に射出。次の瞬間ミサイルが輸送艇に着弾。火球が咲き、輸送艇がバラバラに吹き飛ぶ。
重力に囚われ落下する機体。残るミサイルが迫る中、ビンセントは自由落下の中、回転しながら左腕のチェーンガンを発砲。
全方位のミサイルを打ち落とし、背面メインブースターと脚部スラスターを全開で噴射させてブレーキ。
機体を安定させる。
警告音。敵機接近、数3。
「さてと、クソ野郎どもの相手にバレットダンスと行きますかね!」
そう言うと彼は、左手チェインガンをソルジャーに向けて撃った。
Captur 2
[0636時、『ヒュぺリオン』]
「ディカイオス、オリオンより発艦!」
「マリーン、301、302、303、一番デッキから発進!」
「304、305、補給作業完了! 一番デッキへ!」
「401、402、403、発進準備完了!」
次々に出撃していくスパロー。
外では既に戦闘が始まっていて、海軍機は編隊を組んで次々とヴァリアントの群れの中に突入していった。
「ブロンコ小隊、発進する」
カタパルトに乗り、発進寸前の海兵隊専用HMAのパイロットが言った。
彼は、『サンヘドリンインド洋第一艦隊海兵隊・ブロンコ小隊』の隊長だ。
電磁カタパルトで加速。離艦と同時にタイミングよく重力制御をON。
HMA-h2CM・コマンドウルフは、海兵隊専用の特殊戦機だ。
大量のミサイルと火器を運用する重火力機。
しかしその機体は、重装備とは思えないほどの機動性で、機体を加速させる。
発艦したほかの機体が隊長機に随伴し、編隊を組む。
「ブロンコリーダーから各機へ! 会敵後は各機散開! 該当エリア内の敵機殲滅後、ポイントで合流! 敵はヴァリアントだ! 全力を振り絞れ! 我々海兵隊の力を見せてやれ!」
「「「了解!」」」
鬼気迫る気迫で指示を出す隊長。
部下はみな、気合を込めて返事をした。
「敵機接近」
機体のイクサミコが敵機を感知。
「Break …Now !」
特別製の強化ブースターを噴射。
爆発音にも似た音と共に機体は急加速し、ヴァリアントの群れの中へ消えていった。
************
[0638時、海上交戦領域。DCS開始まで120秒]
「ダメだ! 振り切れない! 援護してくれ!」
コクピット内に響き渡るロックオン警告音。
一機の海軍機を、ソルジャーが追撃している。
「無理だ! こっちも付かれた! 援護できない!」
「くそ!」
パイロットは機体を右にロールさせ、仰向けになり、そのまま急降下させた。
右腕100㎜40口径長リボルバーカノンをソルジャーに向け、発砲。
リボルバーカノンから排出される薬莢が、重力に逆らって空へ上っていく。
ソルジャーは慣性を無視した素早い動きで、100㎜APDSを回避する。
体勢を立て直し、海面スレスレを飛行。
水しぶきで敵の視界を遮りながら、背面複合兵装ユニットにマウントされたAAM-X10マイクロミサイルを一斉射。
しかし、ソルジャーはミサイルを回避。
海軍機は高度を上げ、海面を離れる。
待ち構えていたかのように、ソルジャーがビームカノンを発砲。
パイロットはビームを寸で回避。ビームが海面に着弾し、瞬時に蒸発した水分が水蒸気爆発を誘発。大きな水柱を上げた。
ソルジャーが、すかさずミサイルを発射する。
「ミサイル、6基接近。着弾まで30秒」
迫るミサイル。
パイロットは全身から汗が噴き出すのを感じた。
彼は機体を大きくライドさせ、ミサイルを撃ち落そうとリボルバーカノンを発砲。
一基の弾頭部に命中。誘爆で2基破壊。残り三基。
チャフ射出。
目標を見失い、軌道を逸れるミサイル。金属片のカーテンに突っ込み、オレンジ色の爆炎が目の前で散る。
次の瞬間、爆炎の中からソルジャーが飛び出した。
右腕を振り上げ、超振動ナックルを起動させている。
その時突然、ソルジャーは無数の閃光に貫かれ、炎を上げて失速した。
海軍機の横を、破片と炎を撒き散らしながら通り過ぎていき、海面に墜落するソルジャー。
頭上を通り過ぎるディカイオス。
「ディカイオス! 大佐、感謝します!」
「幸運を。気を抜くな!」
パイロットは機体の手で敬礼。
グラムはそれを見送り、エステルに問う。
「エステル、敵機数は?」
「前方に20、右に30です」
「よし、AHL用意。その他はミサイルで対応。フレズベルグを使う」
「了解」
グラムはトリガーを引いた。
ホーミングレーザーと、ミサイルが空中を乱舞し、ソルジャーを次々に破壊していく。
爆炎が空を埋め尽くし、海面を真っ赤に染めた。
「艦隊、DCS開始しました」
戦闘領域へ到達する艦隊の砲撃。
大型ミサイルや砲弾、高出力ビームがソルジャーたちを捕らえていく。
「『アーチャー』02、03配置完了。『アーチャー』全部隊準備完了しました!」
125㎜砲に荷重力弾を込めた駆逐艦が、配置についた。
「ディカイオスから全機へ! フェイズ01から02へ移行! 弾薬の尽きた者から随時補給! 第二波に備えろ!」
グラムは全部隊に指示を出した後、独立回線でレイズ機に通信。
「レイズ、そちらはどうだ?」
「大佐!? …こっちは!いっぱいいっぱいです!」
「部隊の消耗は?」
グラムは非常に落ち着いた口調で状況を聞いた。
「大きな消耗はぁ! …ありませんっ!」
「よし。私は未確認機を救出に行く。くれぐれも無理はするな」
そう言うとグラムはディカイオスを民間輸送機の元に向かわせた。
「了解!! ってもう切れてるし!」
レイズ機に迫るソルジャー。
レイズは機体を巧みに機動させ、迫るソルジャーを回避。
ソルジャーの背面に100㎜50口径長ガトリングガンを連射。メタニウム弾を叩き込む。
「サラ! 残弾チェック!」
サラが機体の装備する弾薬をチェック。
「ガトリング砲残弾400。ハンドガン一丁とそのマガジン4つです」
「まだいけるな…」
レイズは機体をさらに交戦の激しい区域に突入させた。
Captur 3
コクピット内のコンソールに表示された、FCSの弾数カウントが、凄まじい勢いで減っていく。
チェインガンの速射性能は凄い。
給弾はベルトリンクで、作動方式は電気作動。
ジャムが少なく、不良弾が有っても、何事もなく強制排出され、次弾をチャンバー内に送り込む。
対空戦闘にはうってつけの武装だ。
だが、発射する弾体が、『敵』に対応した物でなければ、その用を果たさない。
「だめだぁ!DU弾じゃ効きやしねぇ!」
ビンセントはバックで飛行しながら、ソルジャーに応戦した。
トリガーはさっきからずっと引きっぱなしだ。
自分を狙うミサイルを撃ち落し、ロックオンをソルジャーに変更。
劣化ウラン弾を吐き出す100mmチェインガンが、ソルジャーに砲弾のシャワーを浴びせる。
ソルジャーの身体から、まばゆい火花が散った。
装甲を貫いたのではない。砲弾が弾かれ、変形した際に発生した火花だ。
凄まじい音を立てながら、ソルジャーの高分子複合素材製装甲板が、チェインガンの砲弾を退けていく。
それでもビンセントは、自分を追尾してくるソルジャーに向かってチェインガンを撃ち続けた。
雄叫びを上げながら、トリガーを引き続ける。
距離を縮めるソルジャー。チェインガンの弾数カウントが、『0』になったと同時に、ソルジャーはビンセントの機体に掴みかかった。
「ぬお!?」
ソルジャーの顔面、突き出した下あごと鼻下がぱっくりと別れ、巨大な口が開く。
メタニウムを用いていない装甲素材は、彼らヴァリアント達にとっては恰好の『食物』。
ソルジャーは今正に、ビンセントの乗るロンギマヌスを早めのランチにしようとしているのだ。
大口を開け、ビンセントの機体に迫るソルジャー。
しかし。
「なめんなよ!コラ!!」
右腕に装備されたパイルバンカーが低い唸り声を上げる。
「喰らいやがれ!」
ビンセントがソルジャーの腹部にパイルを突き立てる。
咆哮と共に巨大な薬莢が排出され、特殊合金製の杭が、ソルジャーの腹部装甲にめり込む。
もう一度トリガーを引く。
鈍い金属音が、HMAの腕部を伝わってコクピットの中に響く。パイルは、ソルジャーの腹部に深々と突き刺さった。
「今まで、何十人もの血を吸ってきた特殊合金製パイルだ! 対ヴァリアント仕様じゃあなくたって……」
彼は、追い討ちを掛けるようにもう一度パイルを撃つ。
「……なかなか効くだろう?」
ソルジャーは胴体を砕かれ、真っ二つになり、爆炎を上げながら墜落。
突然、コクピット内に警告音が響いた。
「パイルリローダー故障!? ちっ! こんな時に!」
ビンセントは、右手のパイルバンカーを弾切れになったチェインガンと共にパージ。
「さらば、友よ……」
「旦那!冗談言ってる場合じゃないっすよ!?」
次々と集まってくるソルジャー。
「あああぁああ! ド畜生がぁぁ!!」
彼は右腰のアサルトライフルを抜き、トリガー。
ライフルの咆哮が虚しく響き渡り、真鍮色の薬莢が宙を舞う。
――マジでヤバイかもしれない……
彼は、弾を撃ち尽くしたライフルを、ソルジャーに向かって投げつけた。
「来いや! この野郎!」
「旦那!!」
ソルジャー達が、一斉にビームカノンを放つ。
ロンギマヌスに迫るビーム。
「(あーあ…俺も『年貢の納め時』って奴かぁ…せめて最後に、酒呑みたかったなぁ…)」
次の瞬間、ロンギマヌスの目の前にミサイルが飛来し、爆炎が散った。
「のお!?」
次々に飛来し、ソルジャーの射線を遮るミサイル群。
側面から『銃撃』を受けるソルジャーたち。その銃撃は、ソルジャーを一撃で破壊し、その『弾丸』は命中した箇所を跡形もなく消し去る。
ビンセントは直感的に悟った。
「グラァーーーム!!」
ビンセントのもとへ飛来するディカイオス。
「エステル、フレズベルグ、リロード」
ディカイオスの手には巨大な拳銃が握られている。
グラビティーレールガン『フレズベルグ』だ。
マガジン内に亜空間コンテナを接続し、弾丸を転送。
彼は両手に握られた二挺拳銃をソルジャーの群に向け、何の迷いも無く、一心不乱に巨大な弾丸を叩き込む。
「ビンセント、なぜこんな所に居る?」
グラムはロンギマヌスに回線を繋いだ。
「うるせぇ! お前に話すことは何もねぇ!」
グラムは強がるビンセントを一笑して言う。
「丸腰のようだが?」
「……傭兵ごときの武装じゃ、歯が立たねぇ! 俺のパイルもぶっ壊れちまった!」
「腕が鈍ったか? ヘルゲート!」
「なにぃ!?」
ビンセントがグラムに食い掛かろうとしたその時、HMA規格の重火器が投げ渡された。
「何のつもりだ?」
「見て分かるだろう? “武器”だ。120mmセミオートカノン。砲弾はレーザー誘導対装甲砲弾。お前なら使いこなせるだろう?」
ビンセントは一瞬を起き、
「へっ……! 『ヘルゲート』の二つ名を、嘗めるなよ?」
ガンランチャーを手に取る。
「さて、行こうか、ヘルゲート」
「言われるまでもねぇよ! ヘルファイヤー!」
ビンセントは、ボルトを引いて初弾を装填、カノンを構えた。
そして、ソルジャーをロックオン。 画面に丸いロックケージが現れる。
「さてと、久しぶりにハッスルさせて貰うぜ!」
背中合わせの二機は、堰を切るように加速。
「降ろしてぇぇぇ!!」という、ハリーの悲痛な叫びを残して。
************
[0700時、サンヘドリン中央作戦司令室]
「パワーポイント、算出完了まで120秒! 各『アーチャー』荷重力弾発射まで、125秒!」
「境界面、再び活性化!」
「第二波、来ます!」
「ソルジャー他、『ファットネス』、及び『ナイト』を確認!」
ゲートから、新たに多数のヴァリアントが現れた。
その中には『ナイト』や、『ファットネス』と呼ばれる上位指揮種もいた。
『ナイト』は白兵戦闘に特化した機体だ。
内蔵兵装はミサイルだけだが、強大な機動力と、ブレード状の手持ち武器を持っている。それが三機、一機毎に6機のソルジャーを随伴させ、編隊を組んでいる。
『ファットネス』は砲撃戦闘に特化した機体だ。
強大な推力に、大量のミサイルと強力なビーム兵器を持つ、重装甲機。それが四機、同じように編隊を組んで海面スレスレを飛行し、艦隊に迫っている。
「ファットネス四機、艦隊に向け高速接近!」
「ナイト各編隊、アーチャーへ向かっています!」
「各砲艦、長射程レールカノンでナイトをインターセプト! 対空ミサイル全弾発射! 絶対にアーチャーへ近付けさせるな!」
「了解!」
「本部から全艦へ! 各砲艦はナイトへDCA!」
「各艦、対空ミサイルを全弾発射! 全力を持ってナイトを撃破せよ!」
「ファットネス、前衛部隊と接触! 現在交戦中!」
艦隊が砲撃を開始したと同時に、ファットネスは防空部隊と衝突。
ラインバッカー数機が、中距離対空ミサイルを発射。
それに対し、編隊を組む随伴のソルジャーがビームカノンで援護射撃をし、ファットネスは肩の巨大なミサイルコンテナから大量のミサイルを発しながら、右手に装備したビーム砲から拡散ビームを打ち出した。
ミサイルが爆炎を上げ、拡散ビームが次々にHMAを捕らえていく。
「前衛部隊突破されました!」
空母の周辺に展開する駆逐艦と巡洋艦が、ファットネスに向かって弾幕を展開。
次の瞬間、ファットネスから発せられた四本の高出力ビームは、空母エスペランサの右舷に命中した。
「右舷に直撃! グラビティシールド一部消失!」
「司令! このままでは!」
「分かっている! 最寄の海兵隊機へ発令! 艦隊内での発砲を許可する。ファットネスを撃破せよ!」
この司令は全海兵隊機へ発せられた。艦隊のもっとも近くにいた部隊は『ブロンコ小隊』だった。
「ブロンコリーダーから各機へ! 艦隊の危機だ! 即座に艦隊へ向かう! これはガルス中将から直々の司令だ! ブロンコ小隊の輝かしい経歴に傷をつけるな!」
瞬時に集合し、編隊飛行。艦隊へ急行。
「敵はファットネス四機! 背後の死角から集中砲火を浴びせる! ガン・ランはシャロー! 残弾の有る者はマイクロミサイル発射後、対装甲ミサイルを全弾発射! 動きを止めてからメタニウム弾でとどめを刺してやれ!」
後方から迫るブロンコ小隊。
随伴のソルジャー5機が、くるりと向きを変えて背面飛行し、ビームカノンを撃った。
ビームを巧みに回避し、まとめてロックオン。
「発射ァ!」
背面のミサイルポッドから大量のミサイルが発射される。
ソルジャーはミサイルに向かってビームカノンを撃った。
ブロンコ小隊はミサイルを援護して、M10・100㎜バトルライフルを発砲。
メタニウム弾が次々にソルジャーを撃破。
それを察知したファットネスはコンテナからミサイルを発射。ミサイル同士がぶつかり合い、爆炎をあげる。
その間を縫って、BGM―70対装甲ミサイルがファットネスに迫った。
海面スレスレを飛行したそれは、ファットネスのミサイル網をくぐり抜けていたのだ。
各ファットネスに、数発が命中。爆音と巨大な衝撃波を発し、ファットネスの装甲が砕け散った。
即座に接近するブロンコ小隊。
背面から、失速したファットネスに迫り、バトルライフルを連射。メタニウム弾を背面から何発も打ち込まれ、炎を上げるファットネス。
次の瞬間ライフル上部のローディングクリップが跳んだ。ライフル残弾ゼロ。しかしパイロットは、あわてることなく前腕部に装備された100㎜三連マシンカノンを発射。
ファットネスを、暗い海の底に沈める。
「本部、こちらブロンコ小隊、ファットネス撃破!」
ブロンコ小隊は役目を果たし、機体は誇らしげに雲の尾を曳いた。
************
「パワーポイント、受信完了しました」
「よし、発射カウントダウンに入る。こちらアーチャー01、各『アーチャー』カウント…セット」
「セット」
「セット」
各アーチャー艦の艦長はモニター越しに超空間ゲートを見つめた。
射撃視界に映るパワーポイントの位置。その上に重なるロックオンゲージは、『まだか、まだか』と言わんばかりに 点滅を繰り返している。
「カウント、20秒前…15…14…13…」
突然、センサー群が慌しく警告音を喚き散らした。
「各艦、発射警戒! ゲートから第二波! 射線上にソルジャー多数!」
ゲートを守るように、ソルジャー達はアーチャーの射線を遮った。
同時に、ナイトがアーチャーに迫る。
「アーチャー各艦! ナイトの編隊が向かっている! 射線確保まで援護する! 応戦しろ!」
各アーチャーを守るために、部隊はナイトの編隊の前に集結していった。
アーチャー各艦は、対空ミサイルを発射。部隊はナイトに向かって、集中砲火を浴びせた。艦隊の攻撃も届いている。
しかしナイトは機動力に物を言わせて、回避。
ソルジャーは編隊を維持したまま、高速飛行から安定浮遊に移った。編隊から離れ、先行するナイト。
それにあわせ、ソルジャーは肩装甲を長大なビームカノンへ変型させ、そして、一閃。
ソルジャーはナイトを援護するように、高出力のビームを放ち、瞬時のうちに弾幕を張った。
部隊に迫るナイト。
両手に持ったガンブレードを振り上げ、一機の海軍機に接近。抵抗の暇すら与えず、縦に両断する。
ナイトは次々に部隊のHMAに襲いかかり、空を爆炎で埋めていった。
「ナイト、防衛部隊と交戦!」
「だめです! 戦力が足りません!」
「アーチャーの撤退を提案します!」
「撤退はしない」
作戦司令室にグラムの声が響いた。
「アーチャーは現状を維持。別命あるまで待機する」
Captur 4
「左上方12度、敵機2!」
彼は機敏に反応し、右足のバーニアを一瞬強く噴射。
機体を流れるようにライドさせ、ガトリング砲を発砲。
一機破壊。残り一機。
「まずい……弾がそろそろ無いな…」
「どうします?」
「左手の制御、任せるよ。ハンドガン、使って」
サラは、レイズ機の左手で、57㎜ハンドガンを抜いた。安全装置を解除。
残る一機のソルジャーはミサイルを発射。アクティブホーミングで4基。
「サラ!」
「了解!」
サラはハンドガンでミサイルを迎撃。
器用に素早く発砲。二基破壊。
左から二基。サラはハンドガンをミサイルに向け、レイズはガトリングをソルジャーに向けた。
そして、同時に発砲。ミサイルとソルジャーの両方が同時に爆ぜる。
「後ろ三機!」
レイズは急反転し、トリガー。一機のソルジャーを捕らえる。爆散。
残り二機。
残り弾数が少ない。レイズはハンドガンを捨て、ガトリング砲のグリップをしっかりと保持すると、ソルジャーに狙いを定めた。残り弾数は50以下。
一機のソルジャーがビームカノンを発砲。レイズは肩のバーニアを噴射し、右水平移動。ビームを回避する。
立て続けに、二発目と三発目が迫った。背面メインブースターを強く噴射し、素早く上昇。二発目を回避。
三発目が迫る。
「グラビティシールド全開!!」
次の瞬間、グローネンダール左腕に搭載されたグラビティシールドユニットが起動。展開したグラビティシールドでビームを防御。間髪入れずにガトリングを発砲。一機撃破。
左腕から、焼きついたシールドユニットが脱落する。
残る敵機は一機。
ソルジャーは撃てるだけの全てのミサイルを発射した。
レイズ機に迫る、無数のミサイル。
「チャフ、全弾射出!」
大量にばら撒かれる金属片。ミサイルは金属片に反応して起爆。
ソルジャーの目の前を塞ぐ爆炎を突き抜け、ガトリングを叩き込む。
爆散するソルジャー。
「ふう…」
息をつくレイズに、サラが一言。
「……弾薬が尽きました」
「うん、みんなと一緒に補給に行けばよかった……」
レイズ機の前方には、多数のソルジャー。
その時。
「だから、無理はするなといっただろ…」
無線に響く、グラムの声。
次の瞬間、ディカイオスのホーミングレーザーが、レイズ機の頭上を通り過ぎていき、レイズ機の前に炎のカーテンを形作った。
「大佐!」
「レイズ、お前は今から、アーチャー02の援護に向かえ! ナイトがいる!」
「了解!」
「待て!レイズ!」
グラムは、レイズ機に向かって、一丁の火器を投げ渡した。
「これをもっていけ!」
それはHMA用のビームカノンだった。
「お前は、俺の部下だ! 勝手に死ぬ事は許さんからな!」
「了解!!」
レイズはバーニアを最大出力で噴射。
凄まじいスピードで『02』の元へ向かった。
************
「まったく!サンヘドリンもヴァリアントも、迷惑な連中だぜ!」
ビンセントはコクピットの中でぼやいた。
人を戦闘に巻き込んでおいて、挙句の果てに協力しろ、か。
『勝手な連中だ』と、ビンセントは舌打ちをした。
そうしながらも彼は、乱れなく機体を操作。
戦場を翔る、ビンセントのロンギマヌス。赤銅色の機体は、戦場を舞い踊るように、軽やかに機動する。
「お仲間を助けろか……あの野郎、簡単に言ってくれるぜ……!」
つい数分前の記憶――
「やだ。めんどくせぇ」
ビンセントは、120㎜弾をソルジャーに撃ち込みながら、無線に向かって悪態をついた。
「お前と口論している暇はない。いいから、そこから11時の方向に見える部隊を援護して来い。先陣を切って突撃しろ。お前なら蹴散らせるだろう? ヘルゲート」
冷静な口調で答えるグラム。
「…本当に…突っ込んで援護するだけでいいんだな?」
「ああ」
ビンセントは少し考えてから言った。
「…で、お代はいかほど頂けるんで?」
そして今、彼の機体は部隊に向かって飛行している。
FCS画面で、カノンの残弾チェック。
「30……余裕、か?」
微妙な数字。
「まあ、やばくなったら逃げよ」
交戦区域に突入。
ソルジャーが左前方から接近。ビームカノンを発砲。
ビンセントは、瞬間強く左足スラスターと背面ブースターを噴射。機体をロールさせながら上昇。ビームを回避。
即座に、自分から接近してカノンを発砲。撃破。
機体をさらに進める。
射撃視界に入るソルジャーの編隊と……巨大なブレードを持ったヴァリアント?
「あれ?」
脳内に一瞬のブランク。気付いた。
「ぬおーーー! 騙された!」
ナイトがロンギマヌスに向かってブレードを向けた。
刀身が上下に開き、次の瞬間、鋭い閃光とともにビームが発射された。
即座に回避行動。ビームはロンギマヌスを掠め、塗装を燃やす。
「この野郎! ブッ飛ばしてやる!」
ビンセントはナイトに向けてランチャーを向け、突撃していった。
************
空を飛び交う緑色のビーム。ソルジャーの放つビームカノンの閃光だ。
その中に混じる、赤色のビーム。その赤色のビームが発せられる度に、空中に爆炎が散る。
「サラ!ナイトはどこ!?」
「サーチします!」
グリッドマップを展開。
赤い四角は敵機。緑の四角は友軍機。中心のオレンジが自機。
広域スキャン。
「いました! ナイトです!」
捕捉。単機で部隊に切り込んでいる。
「サラ、高機動戦闘になるけど……スラスター制御大丈夫?」
「……ええ、大丈夫です!」
サラは額に汗を浮かべていた。
長い戦闘時間。レイズもサラも消耗している。
もう、長引かせる事は出来ない。
「サラ、もう少しだから…がんばろう!」
「はい!」
接近し、ナイトを確認。
スパローの部隊と、それに襲い掛かるナイト。
「いけない!」
ナイトがブレードを振り上げ、スパローに切り掛かった。
そのナイトをビームが掠める。レイズが放ったビームだ。
ナイトは体勢を立て直すためにスパローから離脱。今度はレイズに向かって来た。
高速で接近するナイト。
レイズは、機体全身に装備されたスラスターを点火し、凄まじいスピードでナイトに迫った。
正面から接近するナイトとレイズ機。
双方ともにビームを撃った。
交差するビーム。
レイズ機の頭上を、二本のビームが掠める。レイズの放ったビームはナイトのすぐ右横を掠めた。
すれ違う両機。空気抵抗で衝撃波が生じる。
レイズは機体を急旋回させ、ナイトを追跡。機体を並走。ビームを撃ち合う。
互いの機体は凄まじいスピードで機動しながら火器で応報。
何度もトリガーを引くレイズ。しかし、ナイトはそのビームをことごとく回避。
ベクトルフィンの出力を上げたのだろう。ナイトの後方が陽炎の様に歪んで見える。レイズがビームを撃つたびにナイトの機動性はみるみるうちに上がっていった。
ベクトルフィンと、増設されたバーニアで、物凄い機動性を発揮するナイト。
慣性をまったく無視した鋭角の軌道。
ナイトはもはや、今レイズ機が発揮している相対速度では捕捉が困難な物となっていたが、レイズは必死に、射撃レンジ内へナイトを治めようとした。
「捕捉しきれない! サラ、もっと出力を!」
「……ん……はっ! くぅ……も、もう…これ以上は…!」
苦しそうに息を弾ませるサラ。
これ以上彼女に、負荷を掛ける訳には行かない。
レイズは己自身最大限の力でナイトを追撃した。だが、ナイトのスピードについていけない。攻撃をギリギリ回避するのが精一杯だ。
その様子を見ながら、サラは心の中で叫ぶ。
「(私に…もっと力があれば…!彼はもっと!もっと!強く!…お姉さま…!)」
サラの時間感覚に、一瞬の空白。
突然サラの脳裏に、エステルの言葉が響いた。
――その温かさを忘れない限り、あなたはずっと、彼を守ることができるわ…
突然、甲高い音を上げる機体。
「サラ!?」
「私は、あなたを……! 守りたい!!」
スラスターに注ぎ込まれる膨大なエネルギー。
凄まじい加速度を得る機体。
巨大な推力を発揮する背面大型スラスター。
機体はみるみるうちにナイトに迫り、ついに、再びナイトと並走。
凄まじい水しぶきを上げ、目にも留まらぬスピードで過ぎていく二機。
そして二機は、海面に巨大な白波を立てて、直角に上昇していった。
高速で旋回しながら、螺旋を描いて、垂直に上昇していく二機。
やがて機体が見えなくなる高度に達し、レイズ機とナイトの残した軌跡が二重螺旋を形成。
そして軌跡さえも見えなくなったその時、遥か上空で、二本の光線が交差し、一つの火球が咲いた。
ナイトが、胴を撃ち抜かれて爆散。
その爆炎の光を浴びながら、レイズ機が上空から、ゆっくりと降下して来る。
「ありがとう……サラ!」
レイズは腕を伸ばし、サラの頭を撫でた。
************
ビンセントは、基本的に大雑把な性格の男だ。
小さいことは気にしないし、人を深く恨んだりしない。
女好きだが、猥雑な生活を送っている訳ではないし、口は悪いが、性格が悪い訳ではない。
だが、今は別。
「ちくしょうあの野郎、必ずぶん殴ってやる、ぶん殴ってやる、ぶん殴ってやる。そして叩っ切る!」
恨み節を連呼しながら、機体を操作。
スラスターをいっぱいまで吹かし、コントロールレバーを素早く、それでいて大胆に。
戦闘中は繊細な性格になる。
レーダーを逐一確認。
機体背面、上方にソルジャーが一機。ビームカノンを発砲。
機体を右へヨーイングさせ、右ロール。ビームを回避。
背面飛行しながらカノンを発砲。120㎜弾が、ソルジャーを貫く。
極近接レーダーに反応。前方に敵機。
機体を180度、縦に回転させ、脚を向ける。
脚部スラスターを強く噴射。ブレーキと共に、機体を鋭角に方向転換させる。
機体の軋む音を無視して、ランチャーを発砲。撃破。
「くそ! 俺の相手はてめぇら雑魚じゃねぇ!」
ロンギマヌスの、右肩から胸にかけて銀色の金属色が見えている。
先ほど、ナイトが放ったビームが掠り、余波で塗装が燃え落ちたからだ。
レーダーでナイトを確認。
「見つけたぞ! この野郎!」
ナイトへ突撃。突然、無線へ強制接続。
「貴様! 我々の邪魔をするな! 所属と管制名を名乗れ!」
『カチン』とくるビンセント。
「邪魔だと!? ざけんなコラァ! てめぇらの大将からてめぇらを助けろと言われてきたんだよ!」
「何!? 大佐が!? 貴様一体誰だ!」
「うるせぇ! ただの傭兵だ!」
一方的に回線遮断。
ナイトへ迫る中、道を譲るように避けていくHMAたち。
ビンセントは、機体をナイトに肉迫させた。
放たれる二本のビーム。素早く回避。
機体を一気に上昇させる。トップアタックだ。
カノンを三点バースト。
一発目はまったく外れ。
二発目は近くに迫ったが惜しくも外れ。
三発目は、ナイトの胴体に迫った。
ナイトは身体をロールさせ、ガンブレードで120㎜弾を防御。
ブレードから火花が散った。
舌を打つビンセント。
FCS画面を確認。残り弾数2。
ナイトはミサイルを撃った。
機体を素早く柔軟に機動。ミサイルの命中予測範囲から逃げる。
それを追尾するミサイル。
弾がもう無い。ミサイルを撃つことは出来ない。
ビンセントは機体の重力制御装置を切った。
そして機体を真っ逆さまにし、急降下。機体重量とスラスターで、ミサイルを振り切る。
高度計が凄い勢いでカウントしていく。4000、3500、3000、2200……
機体が軋む音を無視。コクピットに掛かる強烈なG。
来た。“ブラックアウト”だ。
脳に血が行っていない。
遠のく意識。
まだだ。まだ、辛抱。
大きく、深く深呼吸。
膝アーマーの中から、一発のハンドマインを取り出す。
ロック解除。トリガー。それをミサイルの中に放り込んだ。
炸裂するマイン。ミサイルは次々に誘爆し、炎の大花を咲かせた。
迫る海面。そのまま叩きつけられれば、ひとたまりも無い。
海面スレスレで、重力制御を再起動。
バーニアを最大噴射。水しぶきを上げ、海面に対して水平に。
目の前が、ぱっ、と明るくなる。
もう一度深呼吸。頭が痛い。無視。頭を左右に振る。
首を鳴らし、レーダー確認。
ナイト、捕捉。
バーニア噴射。急加速。ナイトと並走。
攻撃はしてこない?
「勝負か……。上等だ!」
機体を急減速。ナイトがロンギマヌスを追い抜く。
「一か八か……仕掛けてみるか」
方向転換し、高速で迫るナイト。
彼はスモークを射出。
ナイトはブレードをチャージ。
突然ビンセントはランチャーを上に向かって投げた。
迫るナイト。
ビンセントはマインを取り出し、両手に持った。
ナイトから放たれるビーム。
機体を、素早く降下させ、寸で回避。また、塗装が燃えた。
マインを投擲。
マインが、ナイトの両脇に位置した瞬間、ロンギマヌスの目の前にランチャーが落下してきた。
それをキャッチし、マインに向かって素早く発砲。
残された、最後の二発の弾丸はマインを炸裂させた。
両脇で強烈な爆発がおきる。
ナイトはその爆発の間に挟まれ、強烈な衝撃波で左腕と共にブレードが砕け散る。
ビンセントは弾切れになったランチャーを捨て、腰部後ろの単分子ナイフを抜き、即座に、バーニアで接近。
すぐ目の前に迫るナイト。装甲のあちこちにヒビが入っている。
それでもナイトは、残された右手のブレードを大きく左から右へ振りぬいた。
迫る白刃。刃先が、ロンギマヌスの頭部を掠る。
『ひゅっ』と短く息を吐く。
タイミングを合わせ、ビンセントは、左腕を下から振り上げ、ブレードの腹を叩いた。
はじかれるブレード。
彼は姿勢を低くして、ナイトの懐に入った。
甲高い金属音。
すれ違う二機。
そして一瞬の静寂。
ロンギマヌスの左腕は粉々に砕け散っていた。
一方、ナイトは、その頭部を失っていた。
力なく、落下していくナイト。
そして、そのまま海面に叩きつけられ、大きな水柱をあげた。
「うむ! 良い勝負だった!」
コクピット内に鳴り響く多数の警告音。
気付けば、彼のロンギマヌスはボロボロになっていた。
「メーカー修理だな、こりゃあ……」
そう呟くと彼は、無線のスイッチを入れた。
Captur 5
空を埋め尽くすソルジャーの群を見ても、彼は全く動揺を見せなかった。
冷静な表情で、あくまで淡々と。
「エステル、ナイトは捕捉しているな?」
「はい。いつでも攻撃できます」
「よし」
そこへ、無線通信が入った。
「こちら、レイズ! ナイト、撃破しました!」
立て続けに、ビンセントからも。
「おい!この野郎!終わったぞ!」
グラムは、『ふ…』と短く笑い、ディカイオスを艦隊の目の前に位置させた。
「フレズベルグ、弾体加速度最大。ミサイル全弾発射後、AHL発射」
「了解」
ディカイオスのミサイルポッドから、無数のミサイルが放たれる。
それを追うように、ホーミングレーザーが空を切り裂く。
爆炎が空を埋め尽くし、バーティカルな閃光の柱と、オレンジの炎が空を染めた。
「エステル、着弾点と、絶対貫通域を」
「表示します」
コンソールに表示される、何本もの赤いライン。
それは、ディカイオスから、ソルジャーの群を突き抜け、戦闘領域外へ。
「確認した」
彼は、フレズベルグの銃口をソルジャーの群に向け、発砲。
あたりに響き渡る独特の銃声。
発射された弾丸は、群の先頭のソルジャーを突き抜けた。
銃身内で、重力場によって加速されたその弾丸は、強大な貫通力を生む。
敵機を数十機貫いてもなお、弾丸は運動エネルギーを失わず、射線上に存在するソルジャー全てを貫いた。
弾丸は群の中を通りすぎ、やがて空へ。
群を突き抜けた弾丸は、雲の海に大きな穴を穿った。
どす黒い雲に穴を開けて、青い空が見える。
弾丸の通った痕は、貫かれていったソルジャーの爆炎が飾った。
グラムは眉一つ動かさずに、フレズベルグを群に向かって連射。
凄まじい反動。音速を遥かに超えて撃ち出される弾丸。
重力波を纏った弾丸は、弾体より大きな穴を開けた。
散り散りにされるソルジャーたち。
彼がフレズベルグの弾丸を撃ちつくした頃には、ソルジャーは殆ど、姿を消していた。
「残存勢力、ナイト、およびソルジャー数機です」
レーダーに映る、数個の光点。
リロード。
ナイトとソルジャーは、ディカイオスに向け、撃てる限りのビームを放った。
おもむろに、銃口をナイトに向けるディカイオス。
そして、発砲。
フレズベルグの弾丸は、ビームの幕に突入。その瞬間、弾丸の発する重力波がビームを捻じ曲げられるように湾曲。
弾丸はビームを拡散させ、ナイトへ。
鈍い音を立てて、ナイトの上半身が消し飛んだ。
立て続けに、二発、三発、四発と、連続して発砲。
爆炎が、ディカイオスの前方で華々しく散る。
「射線確保! 荷重力弾、発射スタンバイ! カウント…」
発射カウントに入るアーチャー各艦。
そのときだった。
「ゲート内に大質量反応!」
活性化し、渦巻く境界面。
ソルジャー達を送り出す時より激しい。大質量物を、転送させている証拠だ。
そしてモニターに映る巨大な何かは、兵士達に苛立ちよりも恐怖感を与えていた。
ゲート内に現れる巨大な『それ』は、ゆっくりと、その異様な姿を現した。
そこにいたのは、ディカイオスより遥かに巨大な、禍々しい姿のヴァリアント。
両肩に存在する龍の様な顔。
腰部から伸びる長い尾。
その姿は、兵器と言うよりはまるで怪獣だ。
「巨大ヴァリアントだと!?」
思わず叫ぶアーチャー01の艦長。
次の瞬間、ゲート内がまばゆく光った。
「ゲート内に陽電子反応!」
「来ます!」
ディカイオスが、艦隊の真正面へ出て両腕を前に向ける。
「エステル! 広域防御システム起動! 位相差断層壁出力全開!」
そして、ゲート内から、巨大な閃光が発せられた。
それは、二本の光の杭となって、艦隊へ、そしてディカイオスに迫った。
巨大な光線は、ディカイオスに命中。
ディカイオスと、艦隊を包む閃光。
閃光は海を抉り、蒸発させ、溝を刻む。
そして、閃光が晴れる。
そこには、数隻の艦と、二隻の空母だけが残されていた。
他は、すべて、閃光の中で蒸発した。
「被害報告を…!」
ガルスが重い口調で指示を出した。
「戦艦10隻、駆逐艦15隻、巡洋艦16隻…消滅…! その他多数、戦闘不能!」
「空母、オリオン、タイコンデロガ、エーデルワイス、エキドナ…同様に消滅したと…」
ガルスは、歯軋りをした。
「こんな事、セカンドムーブ以来だ!」
ガルスが両腕で机を叩く。
「ディカイオスは!?」
最後の綱であるディカイオスを、ガルスは一番心配していた。
オペレーターは、何度も、ディカイオスに通信。
だが返信がない。
皆が諦めかけたその時だった。
「こちら、ディカイオス…無事だ」
ノイズ交じりの音声で、ディカイオスから返信が入った。
艦隊を殆ど消滅させた攻撃でも、ディカイオスは無事だった。
「グラム! 機体は?」
「エステル」
「はい」
グラムの代わりに、エステルが答えた。
「各武装、異常無し。装甲面、破損0.8パーセント以下。炉心の安定性が若干低下しましたが許容範囲内です」
「そうか…」
胸をなでおろすガルス。
「司令…艦隊が殆ど消滅した」
「分かっている。お前が防御していなかったら、艦隊は全滅していた」
突然、回線に強制介入。
「通信回線に、強制介入!」
「どこからの発信だ!!」
「これは…! ゲート直下、巨大ヴァリアントからです!」
「私の砲撃が直撃しても無傷とは。興味深いな」
無線に響くその声は、あどけなさが残る、少女の様な声。
その巨大で異様な姿とはアンバランスなロリータボイスだ。
「貴様は誰だ」
グラムが巨大ヴァリアントに問う。
「敵対者共に名乗る口は持たぬが、戯れに教えてやろう。私は『リベカ』…異形の軍勢の王であり、神である、大いなる父君の一人娘…お父様の意思を遂行する者だ」
グラムは嘲笑しながら言った。
「ふ…娘だと? 女の子なら、もう少しお淑やかになっては如何かな? 『お嬢さん』」
「貴様!この私を愚弄する気か!」
「『愚弄』…?可笑しな事を言う…」
「何がおかしい!!」
グラムはリベカの声を無視した。
「悪戯が過ぎたな、小娘。きつい仕置きが必要の様だ」
そう言うとグラムは、敵機にフレズベルグの銃口を向けた。
「お父様に頂いた、この『ネクロフィリア』の力を思い知れ!!」
リベカは、二振りの剣を圧縮空間から取り出し、二本の腕で持った。
対峙する二機。
「(あのハンドガン…グラビティーレールガン…重力壁を展開して、曲面跳弾させれば…防げる!口径から見て、装弾数は15…弾切れさせて、リロードの瞬間に一気に切り込む!)」
リベカは剣を、ディカイオスに向けた。
「来い!!」
グラムは、フレズベルグを連射。
その弾丸は正確にコアを狙っていた。
リベカは機体をひねり、素早く弾丸を回避。
機体を中心に球型に展開した重力壁が、フレズベルグの弾丸を取り巻く重力波と干渉し、その軌道を捻じ曲げた。
弾かれる弾丸。
「(避けれた!!)」
連射される弾丸。
そのすべてが回避された。
「速い…それも尋常な速さじゃない…あの体躯でこの速さか…」
グラムは、二挺のフレズベルグで撃ち続けた。
右のフレズベルグが先に弾切れし、スライドがロックする。
彼は右のフレスベルグを亜空間コンテナへしまい込み、左で撃ち続けた。
「後、二発!…後、一発!」
響きわたる銃声。
スライドがロック。
左のフレズベルグも、弾が切れた。
「(今だ!リロードする!今からリロードしても、ファーストアシストに2秒掛かる!貰った!)」
リベカがディカイオスに切りかかる。
まずは右上からの袈裟。
左腕で防御。同時に右正拳を打つ。
だが、リベカは右正拳を左剣の打ち下ろしで防御。
次の瞬間グラムは、ディカイオスの右腕をネクロフィリアに向けた。
その右手には、既にプレッシャーカノンが握られている。
「!!」
発砲。
プレッシャーカノンから発射された重力衝撃波は、回避行動に入ったネクロフィリアの重力壁を打ち抜き、左肩の龍の顔を砕いた。
「きゃっ!!」
思わず、声を上げるリベカ。
次の瞬間、ディカイオスがネクロフィリアに左拳を打ち込んだ。
リベカは剣を交差させ、ガード。
立て続けに迫る右回し蹴りを回避。
リベカは機体をディカイオスから急速離脱させ、ネクロフィリアの両肩からさらに4本の腕を生やす。四本の腕から同時にビームキャノンを発砲。
回避するディカイオス。
その瞬間、ネクロフィリアの右肩に付いた二本の腕と龍の顔が分離して延び、ディカイオスに襲い掛かった。
拳を打ち込み龍を砕く。
それと同時にリベカは、龍の顔を本体から分離させ、ディカイオスに切り掛かった。
グラムは、まっすぐ振り下ろされた二本のブレードを左腕でガード。
しかし、ネクロフィリアのブレードは、少しずつディカイオスの装甲にめり込んでいった。
――このブレード…、重力子ブレードか!!
グラムは素早く、右手に持つプレッシャーカノンを向けようとしたが、ネクロフィリアの再生した腕がプレッシャーカノンを握りつぶす。
「どうした? 手も脚も出ないのか人間!!」
「頭は出る」
ディカイオスの頭突きがヒット。
立て続けに前蹴りが、ネクロフィリアの腹に飛ぶ。
しかし。
「惜しかったな」
ネクロフィリアの両手が、ディカイオスの脚をしっかりと掴む。
そして、残った二本の腕で、ディカイオスの顔面を殴りつけた。
何度も何度も、まるでマシンガンのように殴り続ける。
「死ね! お前はここで滅びろ!」
ブレードを振り上げるネクロフィリア。
しかし次の瞬間。
「がはっ!!」
体勢を崩すネクロフィリア。
ネクロフィリアの腹にそっと宛がわれた左手から、重力波が放出されたのだ。
「まだまだぁ!」
ネクロフィリアがブレードを振る。
ディカイオスは右腕でブレードをガードし、左正拳を打ち込む。
ネクロフィリアは、右腕で拳をガード。
ディカイオスが“急所”へ右足を蹴り上げる。
ネクロフィリアは左腕でガード。しかしその瞬間、ディカイオスの左ハイキックがネクロフィリアの右肩を直撃した。
弾き飛ばされるネクロフィリア。
その瞬間ディカイオスは、亜空間コンテナから、フレスベルグを抜き、ネクロフィリアの頭を打ち抜いた。
「アーチャー!今だ!」
アーチャーから発射される荷重力弾。
吹き飛ばされたネクロフィリアが、ゲートのもっとも近くに接近したその瞬間、砲弾はゲートのパワーポイントへ寸分違わず命中。同時に、ディカイオスの右正拳突きがヒット。
三つの閃光はやがて一つになり、ネクロフィリアはゲートの中心へ吸い込まれてく。
波打つ境界面。
徐々にゲートは暗く、そして小さくなっていき、小さな点になった瞬間、まばゆい閃光とともに消滅。
ゲートのあった場所の空だけ、雲がきれいに消えていた。
***************
水平に、デッキに進入。
逆噴射で減速、そのまま甲板に着地。
脚の裏から火花が散り、崩れるように膝を突くHMA。
機体のあちこちから、煙が上がっている。
「収容急げ!」
「担架もってこい!」
クレーンのブームがスイングし、HMAをワイヤーで吊り上げ瞬間、機体の膝から下が、『ガシャ!』と音を立てて、崩れた。
「一番デッキ着艦完了、二番デッキ着艦可能」
残った空母に、次々と着艦していくHMA。
どの機体もボロボロで、腕や脚の無い者、パイロットが意識を失っているものもいた。
「受け入れの出来るすべての艦は、ダメージの激しい機体から優先して収容! 戦艦、駆逐艦、巡洋艦! 使える艦はすべて使え! すべての衛生部隊は生存者、及び負傷者の救出、収容に向かえ! 大至急だ!」
「了解!」
海面を漂う兵士達を救出していく救出艇。
意識の無い者。
既に息絶えた者。
着艦官制は、地獄のような忙しさとなった。
「シェーファー01、着艦要請!」
レイズのラッシュハードロングが、空母にアプローチ。
「シェーファー01、ロアデッキへ」
「こちらシェーファー01、了解。負傷者がいる! 救急班を!」
「了解」
レイズは空母のデッキに着艦すると、すぐにハッチを開け、サラのセーフティーバーを上げた。
「ごめんよ…サラ…君に負担を掛け過ぎたね…」
大きく掛かった負荷のせいで、意識を失っているサラを抱きかかえるレイズ。
彼はそのままHMAから降り、彼女を担架に寝かせた。
「お願いします。負荷を掛けすぎました」
医務室に連れて行く救急班。
それを見送ったレイズは、ヘルメットを脱ぎ、髪をかき上げた。
振り返るレイズ。
赤いレイズの機体から、熱膨張した金属が収縮する特有の音が聞こえていた。
************
収容を終え、白波を立てながら、海面を突き進んでいく艦隊。
時は既に夕暮れ時で、薄汚れた空の切れ目から、赤い夕日の光が漏れていた。
「やっぱり、ここにいたんですね」
空母の大きな窓の前に立ち、無表情で外を眺めるグラムに、エステルが話しかけた。
無言のグラム。
「大佐は、戦闘の後、時々空を見ていますね…」
グラムの横に立ち、一緒に空を眺めるエステル。
「…時々無性に、空が見たくなる。なぜかは分からない…」
「空…」
「昔は青かった空も、今は真っ黒だ。だが、夜が来れば、何も分からない…すべてが黒だ…」
太陽はやがて沈み、彼の言う通り、すべてが、『黒』になった。
真っ暗な空…
真っ暗な空気…
すべてが一つになり、夜を形作った。
「…ねぇ、グラム…どうしてあの時、リベカに止めを刺さなかったの?」
「……」
「あのままなら、簡単に止めを刺せたでしょう?」
無言のグラム。
エステルは彼の横顔を見つめた。
「分からない…ただ、何かが…」
グラムは言葉を濁した。
「…そう…」
エステルは、もうそれ以上聞かなかった。
************
「もう、心配ありませんよ、軍曹。一時的なシャットアウトです」
サラの容態を説明する軍医の言葉を聞いたレイズは、安堵の表情をした。
「今は、このまま静かに寝かしてやれば、すぐによくなりますよ」
「よかった…」
レイズは、ベッドに眠るサラの髪を撫でて、優しく微笑む。
「大丈夫かい?サラ…」
ゆっくり目を開ける彼女。
「…レイズ軍曹…」
「よくがんばってくれたね…ありがとう」
「私…また、意識を…」
「いいんだよ…サラ…」
「え…?」
「君が無事なら、それでいい…」
「レイズ…」
微笑む彼。
「やっと、名前で呼んでくれたね」
「お気に触りましたか…?」
「いや…いいんだよ。それでいいんだ」
彼はそう言うと、ゆっくり立ち上がった。
「じゃあ、後はよろしくお願いします」
敬礼して、医務室を出るレイズ。
部屋を出た途端に、誰かが彼に話しかけた。
「どうだった、レイズ。機体の調子は」
「大佐…」
「どうだ、彼女の様子は」
「ええ、大丈夫です。サラが、出力を出してくれなかったら、自分は今頃…」
「まだまだ…いや、及第点…といったところか…」
肩をすぼめるレイズ。
レイズに背を向け、歩き始めるグラム。
「サラ…か…良い名前だな…レイズ…」
彼はそういうと、背を向けたままゆっくり去っていく。
自然と笑顔になるレイズ。
彼は、靴のつま先をそろえ、姿勢を正して敬礼した。
[ACT 6]終




