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VARIANTAS  作者: 機動電介
5/22

ACT5 トライデント

インド洋上に現れた謎の異常。その正体を解明した時、人類は新たな危機に直面しようとしていた。

Captur 1

 ドーナツ型の大きな円卓を囲んで座る8人の人々がいる。

 その円卓を、青白い照明が照らし出しており、その周りは深い闇に包まれている。

 その円卓の中心に、一人の若い男。

 円卓に座る一人が、彼に言った。

「勝手な行動は困るのだよ。ロイ君」

「心得ております」

 無機質な表情。

「我々ジェネシックにとって『統合体』は、最大の取引先でもある」

「例の戦争以来、あの方々とのコネクションはより強い物となった」

「信頼関係なのだよ。ロイ君…」

「その信頼関係を損なう原因となり得る事は些細な事でも絶対に回避しなければならない」

「用心に越したことはないのだよ…」

 次々と発言する人々。

 この発言を最後に円卓は闇と供に姿を消し、無機質な何も無い部屋が現れた。

「気の小さい老人達だ…」

 その部屋の中心に立ち、不敵な笑みを見せるロイ。

 その彼の背後に、長身の女性が立った。

「チーフ、今後はどういたしますか?」

 彼は答える。

「エヴァ…私の好きな言葉は何か知っているかい?」

 彼女は答えた。

「『新しい葡萄酒は新しい革袋に』…」

「我々はその『新しい革袋』を作ればいい。新しい葡萄酒は、“彼等”が用意してくれるだろう…」

 彼はそう言って、部屋を出た。





***************





[西暦2188年12月5日、1430時、地球インド洋沖、東、1800㎞]

「スカウトマザー、こちらチャーリースカウト、帰還する」

 インド洋沖の上空を飛行する艦隊所属の海軍機。

 この機体に搭載されているのは電子戦に特化した支援ユニットだ。

 インド洋艦隊に所属するこの機体は日々の任務である偵察観測行動から帰還するところだった。

「偵察データの保存は済んでいるな?」

「はい。完了しています」

 突然の警告音。

「ユーザーへ通達。本機後方200kmに異常な重力の歪みを確認」

「なんだ…?センサーの故障じゃないのか?」

「センサーチェック。異常ありません」

「なんだ…?これは…」

「非常に軽微な歪みです。重力センサー感度最大でやっと感知しました」

 肉眼ではまったく確認できないが、そこには確実に異常があった。


 謎の重力異常。

 サンヘドリンの研究者たちが全く答えを見出せない中、その答えは意外な所から出た。





***************





「超空間連結ポテンシャル理論…?」

 グラムが、怪訝そうな表情でそう呟いた。

「ええ、簡単に言えばワープゲートです」

 そう言うグレンに、グラムは言い返す。

「ワープゲートだって? B級SFじゃあるまいし…」

「確かにずっと不可能といわれてきた物ですけど、2168年にゲッペラーゼント=モリナガ博士が偶然発見した理論によって可能となったんです。でもその理論自体が非常に難解で…」

「つまりは非常に困難だが可能という訳なんだな?」

「ええ。莫大なエネルギーと全宇宙を網羅する観測能力が必要ですけど…」

「観測能力?」

 彼がそう言った正にその瞬間。


『愛しているわ…』


 突然グラムの頭の中に声が響いた。

「ぐっ…」

 膝を突くグラム。

 声の波長に合わせるように頭を走る激痛。

 彼が頭を抱え脂汗を流すと、グレンは彼の顔を心配そうに覗き込み、肩に触れようとする。

「た、大佐! ちょっと…大丈夫ですか!?」

「触るな!」

 身体を強張らせるグレン。

 そんな彼女を見て、彼は大きく深呼吸する。

「すまん…大丈夫だ…」

 袖口で汗を拭い身体を起こそうと手を突くグラム。

 彼は突然、床へ倒れこんだ。

「大佐! 大佐!」

 除々に遠のくグレンの声。

 やがてその声は聞こえなくなり、彼は意識を失った。






「君は…一体誰なんだ…?」

 無意識にグラムの頭の中に拡がる『ビジョン』。

 美しい笑顔の女性。

 だが、どこか哀しそうな笑顔。

「君は…?」

 女性のビジョンがそっとグラムの頬に触れた。

 そして今のビジョンがホワイトアウトし、別のビジョンが流れ込む。

 空に開いた巨大な『穴』。

 『何か』の大群。

 その『何か』がグラム=ミラーズ自身に迫った。

「……!」

 次に目に入ったのは真っ白な天井だった。

 目を覚ましたグラムが身体を起こすとそこは医務室のベッドの中で、彼は上半身裸でシーツを掛けられていた。

「やっと起きたのね」

 グラムが横へ目を向けるとそこには白衣を着た髪の長い女性。

「貴方からここに来るなんて、本当に珍しいわ…」

 無言のままの彼。

「まったく…同じ組織にいるのに一年近くも音沙汰無しなんて野暮なんじゃない?」

 一方的に話し続ける彼女。

「あなたが寝てる間、折角何もしないでいてあげたのに…」

 グラムが、やっと口を開く。

「それよりも、早く診断書を書いてくれないか?」

 彼女は笑いながら彼に言った。

「『異常無し』のサインをするのは簡単だけど、それじゃつまらないじゃない?」

 苦笑混じりのグラム。

「相変わらずだな…エレナ…」

 少し寂しそうなエレナ。

「貴方は…変わったわね…グラム…」

 暫くの沈黙。

「いいわ。一応立場上、問診だけするわね」

 彼女はそう言ってから机に腰掛けて脚を組み、診断書の映った記録端末を持った。

「手短に済ますわ。質問には『はい』か『いいえ』で答えて」

 彼女が質問を始める。

「最近、脅迫観念がある」

「いいえ」

「不眠気味だ」

「いいえ」

 次々に出される質問にグラムはすべて『いいえ』で答える。

「じゃあ最後の質問…。最近男性機能に異常がある」

 固まるグラム。

 答えづらい質問。

「…関係あるのか? その質問は…!」

「関係あるわ。精神的なものに起因するのよ。こういうのは」

 憮然とした態度をとる彼に、彼女は冷静に迫る。

「さあ、答えて」

 返答を求めるエレナに、彼は答えた。

「知らん。そんなことを意識して生活していない」

 彼女はその答えを聞いて、不敵な笑みを見せながら彼に言う。

「しょうがないわねぇ…。じゃあエステルに聞くわ」

「やめろ、馬鹿!」

 狼狽するグラム。

 そんな彼に、彼女は追い討ちをかける。

「…それじゃあ…、機能するか、今試してみる?」

 エレナはそう言って、グラムをじっと見つめた。

「悪い冗談だな…エレナ…」

 一笑するグラム。

「悪い冗談…か…。本当に、野暮な男ね…」

 エレナはそう言うと机から降り、診断書に『異常無し』のサインをした。

「貴方は特別だからしょうがないわ。変な夢を見るのも、ビジョンが頭の中に流れ込んでくるのも、全て『能力』のせい」

「そんな事は分かっている…」

 エレナはむっと眉間に皺をよせて、ため息。

「それより…好い加減入ってらっしゃい」

 エレナがそう言うと、医務室のドアがそっと開き、グレンがゆっくりと顔を出した。

「何してるの?早く入ってらっしゃい」

 グレンが、何故か申し訳なさそうに医務室に入ってくる。

「この子、貴方を心配して何度もここに来たのよ? 健気で可愛い子ね」

「手を出すなよ?」

 エレナを毒づくグラム。

「そんな事しないわよ…この子は多分…」

 エレナの言葉半ば、グレンは彼に駆け寄ってきた。

「大佐!大丈夫ですか!?どこか悪いんですか?」

 目を潤ませるグレン。

 そんな彼女に、彼は優しく答える。

「…大丈夫だ…何処も悪くない。心配するな…グレン」

 安心した表情のグレンだったが、次の瞬間彼女の心配事は別の分野に移っていた。

「大佐…私ずっと気になってた事が有るんです…」

 彼の顔を真剣な表情でみつめるグレンに、エレナが問うた。

「それは彼の『能力』の事かしら?」

「え? ええ」

 エレナは壁に寄り掛かり、腕を組んでゆっくりと語り始める。

「あなた、『千里眼』って知ってる?」

「ええ、知ってます。遠くの場所や未来が見えたりする能力ですよね?」

「そう、昔からそう言う人達はたくさん居たわ。でも本当にその力を持っているのは、極めて一部の人だけ…本物の力を持っている人達は皆一つの施設に集められたと言われているわ」

「『本当に力を持っている一部の人達』…?」

「科学者達は彼らの能力の解明に躍起になった。そして、ごく最近、ここ20年位でやっと解ってきた。彼らの脳内には特殊な脳神経回路が構築されているの。そしてこの『脳神経回路』こそが『能力』の鍵…。能力者の脳内では神経細胞が高度な超空間ネットワークを構築しているらしいのよ。彼らの神経回路は『量子回路』を形成し、宇宙の事象や、物質として顕現している因果律に干渉する事によって視覚野に明確なビジョンを送り込むのよ」

「『超空間知覚能力』…」

「ええ、『千里眼』は古い呼び方ね…彼は正にその『超空間知覚能力者』よ」

 エレナの説明を聞いて、彼女は過去の出来事を思い出した。

「だから大佐はあの時も機械より早く気付いたんだわ!」

「能力者は機械なんかより遥かに正確で鋭敏よ」

 グレンは、安心した表情を見せた。

「でも、大佐…どこも悪くなくて本当によかった…」

 にっこりと微笑むグレン。

「(あ~、この子本当に可愛いわ…)」

 エレナはグレンをじっと見つめた。

「(なんだろ…背中に寒気が…)」

 グレンの背中に悪寒が走る。

 振り向くグレン。

「…何ですか…?」

「別に?」

 エレナはグレンから目線を逸らすと、グラムに向かって言った。

「それより、貴方がまた『夢』を見たと言う事は…」

「ああ、間違いない。敵が来るぞ…!」

 息を飲むグレン。

「それより…大佐…服着てくれません?」

「……」




***************





[2188年12月7日1000時、サンヘドリン本部中央作戦会議室]

 照明を落とした暗い会議室内。中央に大型の立体映像を映し出す円卓を囲み、彼らは眉をしかめた。

「つまり、こう言う事かね? ミラーズ大佐。空間跳躍によるヴァリアンタスの大規模侵攻…!」

 ガルスは真剣な顔でグラムに言った。

「大佐、より詳しい情報は?」

「それについては情報軍団のハルト准将にお任せします」

 紹介され、立ち上がった若い将校は、情報軍団のハルト准将だ。

 情報軍団は、対ヴァリアンタスに関するあらゆる情報を管理分析する、ハイテク軍団だ。事実、イクサミコの持ち帰ってくる全ての情報は、情報軍団の管轄であり、また、本部メインコンピューター・ユグドラシルを用いて、対ヴァ戦略戦術を導き出す部署でもある。

 その長である、ハルト准将。

「はい。インド洋第一艦隊からの観測データを知人が解析した所、インド洋沖、1800kmに出現した巨大な重力場歪曲が空間跳躍ゲートの出現を予徴していると結論付けました」

 会議室の空中にホログラフが現れ、彼はそれを使いながら説明を続ける。

「馬鹿な!? 信じられん!」

「フィジカルゲートを用いない長距離ジャンプは我々でもまだ研究段階だぞ!?」

 各軍団や省庁の高級士官たちがどよめいた。

 それを制するように、ガルスは言う。

「進行開始までの猶予は?」

「ミラーズ大佐の御知人のからのデータによりますと、予測では約10日前後と推測されます」

「もし、その予測が正解だとすれば、艦隊の保有する機動戦力ではおそらく殲滅は不可能であろう。海軍司令官としての見解はどうかね?」

 ガルスは海軍服を着た士官に言った。

「我々海軍は充分闘えます。と言いたい所ですが、いかんせん、足止めが限界です。当然、ディカイオスが無ければどうにも…」

「艦隊の増援が必要だな」

 腕を組んで目をつぶり、深く考え込むガルス。暫く経ってから、彼は口を開いた。

「第二艦隊から空母、駆逐艦、巡洋艦を借用。ディカイオスは現地まで空母で輸送。戦闘開始後はディカイオスを中心に各艦載機を展開。順次、艦隊によるDCSを開始。問題はゲート本体だ。これに関しては後日討議する」

 そう言ってガルスは、会議を解散させた。





Captur 2

[12月16日、インド洋上、グレートウォール級汎用母艦『オリオン』内]

「そういえば、君とこうやって食事するのって始めてだね」

 彼と、サラは、艦内の自室で、食後のデザートを食していた。

 レイズと共に、ケーキをついばむサラ。

 彼が彼女に言った。

「あれ? そういえばイクサミコって、普通の食事しないんじゃなかったっけ?」

 彼女は答えた。

「それは誤解です。レイズ軍曹。私達イクサミコは確かに、殆どチューブ食ですが、普通の食物も摂取出来ます」

 長い間艦隊に駐在する場合、兵士の精神衛生上、食事は大きな意味を持つ。

 無論、『ケーキ』等の甘いものは普通にある物ではないが、空母等の大型艦乗組員はそれらを食す事ができた。

「でもさ、出港してからもう2日だよ? ずーっとケーキばかり食べてたら太っちゃうよ?」

「イクサミコは太りません。それに甘い物は別腹です」

 談笑しながらケーキを2個ほど平らげ、紅茶で一服…

「なんか僕達だけ個室で食事って、他の人たちに悪いね…」

「ええ、でも…、二人で食事するのも悪くないです」

「うん、そうだね、サラ」

 微笑むレイズとサラ。

 そのとき。

「レイズ=ザナルティー軍曹、グラム=ミラーズ大佐がお呼びです。A‐15格納庫までお越し下さい」

 突然の呼びだし放送。

「ん…呼びだしだ…行こう、サラ」

「はい」



 格納庫では、グラムが黒いHMAを眺めていた。

「大佐、遅くなりました」

 敬礼するレイズ。

「何でしょうか?大佐」

「軍曹、新しい機体の調子はどうだ?」

「ええ、出力がでかくてじゃじゃ馬ですけど素晴らしい機体です!」

「そうか。兵器局から無理矢理回してもらった甲斐がある」

 レイズは自分の機体を眺めた。

 ディカイオスとHMA。

 二体がそろって並んでいるのを見るのは初めてだった。

 黄金と純白の美しい装甲。見るものに畏怖の念を抱かせる巨躯。

 そして、その横に立つ、漆黒の機体があった。

 HMA-h2DA/C・ラッシュハードロングのレイズ専用機、“グローネンダール”だ。

「本来は空軍と一部の特殊部隊用の機体だったが、シェーファーにもなって通常機体では格好が付かんからな」

「ええ! 今回の作戦から乗り始める機体ですが、実戦ではどれほどか早く試してみたいです!」

 レイズは純粋な子供のように楽しみそうな表情を見せた。

「そういえば今回の作戦、凄い作戦ですね…」

「ああ…」

 グラムとレイズはこの艦が出港する前の事を思い出していた。





************





 技術者達は頭を抱えていた。

 サンヘドリン上層部からの要請は、『敵の超空間ゲートを破壊、若しくは強制閉鎖できる装置、または武装を開発せよ』と言う物だった。

 しかしそれは難航を極めた。

 不可逆的な性質を持つゲートはこちら側から干渉することが難しいからだ…。

 そこで、技術部は、最後の手段に出た。

 それは、空間連結ポテンシャル理論の産みの親、ゲッペラーゼント=モリナガ博士…、通称Drモリナガに協力を仰ぐこと。

 しかしそれは困難を極めた。

 それは…彼が国家反逆の超重罪人であり、彼自身、連邦最終服役施設で終身冷凍刑に処されているからだ。

 そこで、統合体の出した結論はこうだ。

 『期間限定で仮解凍、面会のみ、面会時間は10分間』

 たった10分間で手段を見出さなければならない。

 そこで白羽の矢が立ったのは…

[12月11日、統合体連邦最終服役施設]


「まさかこんな可愛い子が面会だなんてうれしいよ」

 机を挟み、グレンの前に座る男はそう言って微笑んだ。

 男の背後には、ライフルとショットガンで武装した看守が5人。

 一つしかない出入り口には、屈強な看守が二人。

 男にも、厳重な手錠と足枷が嵌められている。

「みてよ、コレ…」

 男…、Dr.モリナガはグレンに手錠を見せながら言う。

「僕は理系男子だよ? こんな無粋な手錠なんか嵌めて、こいつら脳みそまで筋肉なんだ」

 少々引き気味のグレン。

「あ、あはは、そうですね…」

「そういえば、何の用?」

「ええ、博士を見込んでのご相談なんですが…」

「相談…? そういえば前回解凍された時もキミみたいな女の子…おっと、これ以上言ったら二度と解凍されなくなってしまうな。それで…?」

「空間連結ポテンシャル理論です」

「ポテンシャル理論? ああ、あの枯れた技術ね。あれは理論上可能なだけだよ。つまんないからそれ以上の研究はしなかったけど」

「完成した…といったら驚きますか?」

 モリナガの表情が、軟派な男から険しい真面目な男の表情に変わった。

「何だって?」

「いま、その技術を用いて、ヴァリアンタスが地球に攻撃を仕掛けようとしています」

 突然、モリナガは笑い出した。

「そうか、連中完成させたのか! あっはっはっはっは! そうかそうか!」

「あの、博士?」

「紙とペン」

「え?」

「早く、僕に紙とペンをくれ。閉じ方を教えてあげるよ」

 モリナガはグレンから紙とペンを受け取ると、何かに取り付かれたかのような勢いで紙に数式を書き始めた。

 その数式はメモ帳数ページに及ぶ物で、殴り書きのようだったが、確実に価値の有る物だった。

「はい、コレ。コレをA.C社のスズキってやつに渡してごらん。きっと面白い物を作ってくれるよ」

 数式を見たグレンが、驚いた顔で言う。

「こんな…! こんなに小型のものが可能なんですか!?」

 モリナガがうれしそうに微笑む。

「そう! キミも僕達の仲間か!」

「え? 仲間?」

「天才ってことさ」

 不敵な笑みのモリナガ。10分が過ぎ、モリナガが再び冷凍室に戻るときが来た。

「さて、もうお別れだね。それじゃあ…」

「あの…!」

 グレンがモリナガに頭を下げる。

「ありがとうございました!」

 モリナガは、一瞬寂しそうな笑みを見せてから、看守に引かれていった。

 そのとき、去り際にモリナガは言う。

「スズキ君によろしく」


 後日彼は、どのような手段を用いてか、冷凍刑務所から脱獄したというが、その真実のほどは定かではない。





************




[インド洋上]


「でも大佐…この作戦ちょっと無茶じゃありません?三方向からゲートへ『同時荷重力弾攻撃』なんて…」

 グラムの上申、そして完成した特殊兵器によって最終的に作戦部が発案した作戦が『オペレーション・トライデント』だった。

 この作戦は艦隊を含め、三箇所に配備した巡洋艦から同時にゲートを攻撃すると言うもので、正確に三つ同時に攻撃しなければならない難しい物だ。

「心配するな、レイズ。作戦部も馬鹿じゃないだろう。それに、彼女の考えた方法だ。きっとうまく行く」

 グラムは落ち着いた口調でレイズに言い聞かせると彼は安心した表情で頷いた。

「それにしても彼女…」

「グレンか?」

「ええ、あのグレンって女の子、一体何者なんです?」

「そうだな…彼女はある意味『行き過ぎた人間』…だな…」

「はあ…」

 不思議そうな返事を返すレイズ。

 その頃サラは、グラム達から少し離れた所でレイズの新しい機体を眺めていた。

 『本来は一部の特殊部隊にだけ配備されるチューンナップ機』。

 それが彼に与えられた新しい力だった。

「あれが彼の新しい機体ね?」

 サラの背後から、エステルが彼女に話しかけた。

「貴女は…?」

「私はミラーズ大佐のイクサミコ」

「お姉…さま…?」

 エステルは彼女の横に立ち、話をつづける。

「彼は新しい機体を貰ってどうだったかしら?」

「ええ、とても喜んでいました」

「あなたは?」

「分かりません。ただ…」

 言葉を濁らせるサラ。

「『ただ』?」

「彼が喜んでいるのを見ると、はっきりは分かりませんが、何か…胸の奥が温かくなります」

「そう…」

「でも私には、それが何かわかりません」

 エステルはサラの頬にそっと手を触れて言った。

「いい?サラ…。その暖かさは、彼を守る力なのよ…」

「守る力?」

「そう…。あなたが、その『温かさ』を忘れない限り、貴女はずっと…彼を守ることが出来るわ…」

「お姉さま…」

「健やかに…愛しているわ、可愛い妹達…」

 エステルはサラにこう言うと、グラム達の所に歩いていった。



「いよいよ明日は交戦予測日ですね…」

 だが、グラムの反応は無かった。

「あのう…大佐? 聞いてます?」

「ん?なんだ?」

「どうしたんですか?ぼーっとして…」

 出航する前に、グラムが倒れたことを聞いていたせいからか、心配そうな顔で彼を見据えるレイズ。

 一方グラムは眉間に皺を寄せ、神妙な面持ちを見せていた。

「何か…嫌な予感がしだしてな…」

「大佐…縁起でもないこと言わないでくださいよ…」

「いや…どうでもいい、大した事ない物なんだが…。まあいい…。明日は交戦予測日だ。今日はゆっくり休め。行くぞ、エステル」

 そう言うとグラムはエステルと一緒に扉を出た。

 敬礼して見送るレイズ。

「(聞こえて無いじゃん…)」

 レイズは心の中でそう呟いた。



TO BE CONTINUED...

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