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VARIANTAS  作者: 機動電介
4/22

ACT4 友

突然のミッションに抜擢されたレイズ、そして、08特機の面々。しかしそのミッションには、恐るべき真実が隠されていた。

Captur 1

 月に一度の退屈な情報交換会を終え、会議室から出てきたガルスの前に、突然、一人の男が塞がった。

 細身で、面長な色白の男。

「ケスティウス=ガルス中将ですね?」

 男の顔を見据えるガルス。

「なんだ?」

「始めまして。ジェネシック・インダストリーのロイ=マッケンジーです。実は是非とも中将殿にお願いしたい事があるのですが…」

 そう言ってガルスに分厚い資料を渡すロイ。

 その資料を見たガルスは思わず目を見張った。

「これは……!?」

 男はニヤリと微笑んだ。




************




「と、言うわけでお前を呼んだのだが……なんだ? その顔は……」

 司令官室に呼び出され、明らかに嫌な顔をするグラム。

「……また、小間使いですか?」

 ガルスが一つため息をついた。

「私がいつお前を小間使いに使った……? それにお前が行けとは言っていない」

「では?」

「誰か一人、良いHMAパイロットは知っているか?」

「それなら一人、若いパイロットを知っています」

「そうか」

「名前は……」




**********




 宇宙――

 先人は『人は重力に抱かれて生きている』と言ったが、今ならそれを確かに実感できる。

 月軌道上に一機の機動装甲。HMA-h2C/B・ストライクウルフ。

 パイロットはレイズ=ザナルティー軍曹。

「そうか、狼はあれに向かって吠えていたのか……」

 “静かの海”を半分囲む様に作られた月面基地群は海の“沖”に向かって延び、ちょうど犬が吠える口の様に見える。

「狼……ですか?」

 サラがレイズの言葉に反応した。答える彼。

「そう、狼。子供の頃、よく動物図鑑をみてね。狼は満月になると月に向かって吠えるんだって。もう大昔に絶滅したけど……」

「確かに絶滅していますが、この基地が建設されるより前にですね……」

「そうだったね……」

 とぼけるレイズ。

 “彼女達”は高度なAIを搭載している。その上可愛い。暇つぶしに話をするには格好の相手だ。

 暫く会話が続く。

 ここに来る前の、地球での記憶がリフレインする。



 僕は突然司令官室に呼び出され、これまた突然、指令を受けた。

『明日、08特機と共に月へ行け』

 これが指令だった。

 あの戦闘から一ヶ月。訓練と自己鍛錬の日々の中で、突然、唐突に任務が飛び込んできた。

 この任務に僕を推薦したのはミラーズ大佐だった。

 僕の任務は、施設に設置されているであろう防御機構を強制的に排除すること。特機部隊の任務は大昔に突然廃棄された月の裏側に在る研究施設の探索、及び重要物資の回収。回収後は施設を爆破放棄するらしい。

 こんな大昔の施設がなぜ廃棄されたか、何があるかは知らないが、特機部隊の連中は張り切っていた。


「そういえば特機部隊の連中はいい奴ばかりだったな」

「レイズ軍曹。『いい奴』とはどのような人を指すのですか?」

 小難しい質問をサラがしてきた。

「そうだなぁ……もう一度会いたいと思える人間、かな」

 もう一度リフレイン。


 出発前に隊に挨拶したな。

 隊の連中は皆、気さくで明るい奴ばかりだった。

 特にリックは人懐っこくて昨日一緒に飲んだっけ。

 ヴァン隊長(苗字なんだっけ?)はいかにも『部下に信頼されている上司』と言う感じだった。

「みんな張り切ってるだろ?」

 ヴァン隊長が僕に話しかけてきた。

「俺たちみたいな装甲歩兵部隊は実際、任務なんてのは後方支援。MAPSじゃヴァリアントなんて化け物に太刀打ちできない。闘志鬱積状態さ。それで今回の任務だろ? 戦える事が嬉しいんじゃない。自分たちが必要とされている事が嬉いんだ」

 この言葉は僕の中でいまだに響いている。



 突然のコール音がレイズの意識を引き戻した。

 レイズ機に近づく一機のドロップシップ。

 無線回線に入電。

「よぅ、レイズ。頼むぜ」

 特機部隊を乗せたドロップシップ(揚陸艇)だ。

「軍曹、状況を開始せよ」

「了解」

 スラスターを噴射。静止軌道から進入軌道へ。

「サラ、アーマメント、爆装ユニット起動! FCSエンゲージ!」

「了解」

 ストライクウルフの背面にマウントされた爆装ユニットが息を吹き返す。

 増設されたスラスターで加速。レイズ機の後ろからドロップシップが追従する。月の表側を抜けて裏側へ。

「目標確認」

 薄べったい、貼り付けたような五角形の建造物。目標施設。

 大出力の対地レーダーを照射。レーダー画面に、赤いカーソルが複数。 

「目標確認。対空砲、15。砲撃、来ます」

 施設の周りでチカチカとした光。レイズはHMAをドロップシップの前に位置させ、対空砲の射線を大型シールドで遮る。

「あぶね、あぶね」

 一瞬の反応。リックが毒づく。

「おいおい……、頼むぜ?」

「分かってますって」

 砲台をロックオン。

 ミサイルで入念にロック、ロック、ロック。

 レイズはトリガーを引いた。爆装ユニットから発射された10発の高運動エネルギー対地ミサイルが、砲台を破壊する。

「距離が近いな。サブを使おう」

「了解。切り替えます」

 爆装ユニット側面のガンベイに設置されたアーマメントユニットに切り替え。パルスレーザーカノン。

 レーザーが次々に照射され、砲台を破壊していく。

「対空砲沈黙。着地できます」

「よし! 揚陸艇、突入できます! 行ってください!」

 後方から出るドロップシップ。

「行ってくるぜ~」

 リックのお気楽な声を聞きながら、レイズは機体を反転させ、施設の真上に静止させた。




Captur 1

「ゲートだ。着地体制に入る」

 特機部隊のドロップシップは施設に近づき、ゲートの前に静止。自動機銃を起動して周囲を警戒しつつ、ゲートに近づく。

 ゲートのセンサーが、ドロップシップの接近を感知し、気密ゲートがオープン。

 シップは、ゲート内のポートにゆっくりと着陸した。

「総員、装弾!」

 ヴァン隊長が、気を引き締めて号令を出す。

 総員、火器のコックを引き装弾。警戒態勢。

「08、カーゴを開けるぞ」

 ドロップシップのパイロットの声。続いて、カーゴのランプが開く。

「総員、降艇!」

 強化外骨格に身を包んだ兵士たちが揚陸艇から降りてくる。

 隊長のヴァン大尉。前衛のダン、ミン、リック、タゴール。電子戦のE・J。後衛のダニー、エミの計八名。

 12.7mmアサルトライフルを構え、フォーメーション。周囲を警戒。敵性反応は無し。

「よし。リック、ミン、ダン、ポイントマン」

 彼らが回収を命じられた『重要物』とはここのメインコンピューターに保存されているデータだ。大昔のそのデータが『彼等』は欲しいらしい。

「E・J、端末の位置は?」

 E・Jは電子機器のスペシャリストだ。

 彼は自前の端末にコードを入力しながら呟いた。

「うわ……古りぃ…… ゲートコード入力と……、あれ? サブコンしか稼動してないな」

 入力完了。E・jは端末をたたきながら答える。

「メインコンピューター以外の端末からデータの引き出しは出来ないし、今はサブコンしか稼動してないから、最下層のセントラルターミナルまで行く必要があるよ」

「分かった。セントラルまでは?」

 E・Jがマップを検索。

「この通路の先、5ブロック先に直通エレベーターがあるから、そこから」

「よし、いくぞ」

 先ほど、指名をうけたリック、ミン、ダンを先頭に部隊はエレベーターに向かった。



 セントラルへ向かう特機の前に現れたのは、1tコンテナが二つは入る大きなエレベーターだった。

 このエレベーターが、セントラルへ向かうもっとも近道なのだ。

「よし、E・J、開けてくれ」

 E・Jが端末接続。

「あれ?」

 E・jが素っ頓狂な声を上げた。「どうした」とヴァン隊長が問う。

「エレベーターのくせにゲートがロックされてる」

「開くか?」とヴァン隊長。

 E・jは、任せろと言わんばかりに、端末を高速で叩く。

 キーコード破壊、再構築、ロック解除コマンド入力。

 あっという間にゲートが開く。

 そのときだ。

「E・J!! 伏せろ!!」

 突然、ヴァンが叫んだ。

 エレベーターの奥の、床に座り込み、壁にもたれかかる人影。素早く、前衛三人がライフルを向ける。

 MAPSのセンサーが目標を自動サーチ。

 生体反応なし。熱反応もなし。死体だ。ガビガビに干乾びている。

 三人はライフルを下ろし、安全を確認してから隊はエレベーター内に入った。

 行き先は最下層。メインコンピューター、セントラルターミナル。

 階を選択。ゲートが閉まり一瞬の振動。そのあとは極めて静かに降下。

 エレベーターに乗っている間、ヴァン隊長は死体を調べていた。

「(完全に白骨化している。かなり昔に死んだようだな……)」

 その死体の胸にはIDカード。

「(ジャン=クロフォード主任研究員……)」

 ヴァンはそのカードを取ると、死体のそばにあった物体に気がついた。

「(拳銃か…?)」

 良く見ると死体のこめかみには穴が穿たれていた。おそらくこの拳銃で自殺したのだろう。

「(なぜ、自殺なんて…)」

 遺体は、ロックされたエレベーターの中で、自ら果てていた。

 廃棄された研究所に、自殺者。どう考えても、ここは普通の研究施設ではない。

 ヴァン隊長が、そう考えている間に、エレベーターは最下層に到着した。

 エレベーターのゲートが開き、目の前に巨大なコンピューターユニットが現れる。

「隊長、最下層です」

「よし、E・J、データの引き出し開始。それ以外は爆破の用意」

「了解」

 E・Jはメインコンピューターに端末を接続。

「OK、電源ライン接続。メインコンピューター起動!」

 手際よく作業を済ますE・J。リックとミンは持ってきていた大規模施設破壊用の特殊爆弾をセットしていた。

「解除コード入力っと…」

「あとはタイマー起動だけ…E・J、そっちはどう?」

「うん、もう終わる」

 E・Jに近づくヴァン。

「E・J、ここのコンピューターはAIを積んでるか?」

「もちろん」

「話せるか?」

「…? まあ今なら大丈夫だよ」

「よし」

 ヴァンは巨大なコンピューターコアに向かって話し始めた。

「おい、コンピューター。聞こえているか?」

「はい」

 コンピューターは室内のスピーカーを通して返事をしてきた。

「お前は?」

「はい、私は当施設の中央管理機構、第8世代人工知性体・HALです」

 ヴァン隊長は、HALに問う。

「質問だ、HAL。この施設は何の研究施設だ?」

「機密に反さない範囲でお答えします。ナノマシン、およびナノマシン集合体の研究です」

「何のナノマシンだ?」

「お答えできません」

「ではナノマシン集合体とは?」

「お答えできません」

 重要なことは何も話さない。

「では、ここはなぜ廃棄された?」

「事故です。施設内で重大な事故があり、有害物質が漏れ出しました」

「有害物質とは?」

「ナノマシンです」

 騒然とする一同。

「…そのナノマシンは空気中にもあるのか?」

「いえ、空気中には存在しません。ナノマシンは単体で生存できません。群体を築き、安定できる場所を探します」

「安定できる場所とは?」

「炭素、水素、リン等の分子集合体です」

「(炭素? 水素?)」

 ヴァンは少し考えた。

「機械の中か」

「はい」

「生物の中も、か……?」

「はい」

「生物の場合はどうなる?」

「死亡します。死亡したその後のデータはありません」

「機械の場合は?」

「機械の場合は、回路を侵蝕し占拠します。そ、そ、そして、ここ、構造、を変化、させせせ、てて…」

 突然、変調をきたすHAL。

「リック、ミン…起爆タイマー起動! 全員急いで撤収だ!」

 起爆タイマーを起動させ、全員いそいでエレベーターに乗った。

「隊長!一体どういうことです?」

「ナノマシン集合体……あのコンピューターも侵蝕されていたんだよ!」

「ナノマシン集合体って何です!?」

「どこの誰だか知らないが、ふざけやがって…ここで研究されていたのは『ヴァリアンタス』だよ!」

 驚愕とする一同を乗せて、エレベーターは上の階を目指した。





Captur 3

「リック達大丈夫かなぁ…」

 心配そうな面持ちのレイズ。

「大丈夫ですよ…レイズ軍曹。彼らもプロですし」

 サラはレイズに、安心するように言った。

「でも、もしリック達に何かあったら……」

 不安な表情のレイズ。

 そんな彼を見て、サラは眉を曇らせた。



************




「しかしヴァリアント関係の研究施設は全て統合体科学院の厳重な管理下にあるはずです! 事故なんてあったら……!」

 エレベーターに乗り込んだヴァン達08特機は、この研究所の異常さに騒然としていた。

 確かに、今ミンが言ったように、ナノマシンの漏出という大事故が起きた場合、事態は急を要する大事件となる。

 だが、そのような知らせもニュースも、何も無いのが事実である。隠蔽されたのか、それとも大した事故とはならなかったのか……。否……、事実、一人の人間が変死しているこの事案は、単純な事故などではない。

 そう考えると、やはり……

「あれ? このエレベーター、2165年製って書いてある……」

 リックが、それを見つけた次の瞬間、彼らを乗せてスムーズに動いていたエレベーターが突然、軋むような音と振動と共に止まった。

「まずい…」

 次の瞬間、凄まじい轟音と共に落下を始めるエレベーター。

 思わず声を上げる一同。

 慣性で、身体が持ち上がる。

 ヴァンがブレードを抜き、天井を切り抜く。

「全員脱出!」

 MAPSの背面に装着されたスラスターを噴射。

 天井から脱出。スラスターを全開で噴射し、エレベーターが最下層に落下する衝撃から急いで逃げる。

「E・J! ゲートは!?」

「この状態じゃ無理~!」

「ちっ!」

 ヴァンはライフルの下部に装備されたロケットランチャーを発射。発射されたロケット弾がエレベーターゲートを吹き飛ばす。

「破片いくぞ!」

 爆発の衝撃と共に破片が降り注ぎ、その一つがE・Jに掠った。

「うあ!」

 姿勢を崩すE・J。

「E・J!」

 それを見たリックは咄嗟にE・Jの腕を掴んだ。

 重量バランスが狂い、姿勢を崩すリック。咄嗟にスラスターの噴射バランスを調整。

 駒運動をしながら上昇していくリックとE・J。

 次の瞬間、エレベーターシャフトの最下層部から凄まじい轟音と衝撃が到達。部隊全員は寸でのところで通路に避難した。

「はぁ…はぁ…全員居るか…?」

「ミン、無事です」

「ダン、生きてます」

「タゴール、無事です」

「E・J、居るよ」

「ダニー、無事です」

「エミ、居ます」

「リックは…?」

 後ろの方でふらふらと手を振るリック。

「大丈夫か!?」

「うぅ…」

「おい!」

「吐きそう…」

「大丈夫みたいだな…」

 ヴァンは全員の無事を確認。

「E・J、爆発まであと何分だ?」

「あと、15分…!」

「よし!急ぐぞ! エミ、ドロップシップに通信。脱出の準備!」

「了解」

 エミが、無線装置でドロップシップに通信。

「こちら08、シップ、聞こえるか?」

 雑音ばかりの返信。何も聞こえない。

「…? こちら08、聞こえるか?」

 やはり応答は無い。

「隊長…シップからの応答がありません…」

「通信状況は?」

「ジャミングも通信障害もありません…」

「とにかく急ごう……!」

 隊は急いでドロップシップの待つ発着ポートに急行した。

 爆発のタイムリミットが迫っている。そして、何よりここのコンピューターはナノマシンに侵蝕されている。何が起こるか分からない。一秒でも早く『ここ』を脱出した方が懸命だ。

 あと、2ブロックで発着ポートに着く。

 だが突然、全速力で走る隊員達は皆脚を止めた。

「前方の左右通路から動体反応あり!」

「数は?」

「右から3、左から2…いや…増えました!右から5!左から4!まだ増える!」

「くそ! 何なんだ! E・J! 爆発までは!?」

「あと9分!」

「全員戦闘準備だ……!」

 通路に向けライフルを照準。

「来ます!」

 ぺたぺたと有機質な足音を立てながら現れた『それ』は、人の形をしていながら確実に人ではなく、青白い肌(装甲?外皮?)をしており、だらりと伸びた腕や異常に長い首と、人間をかけ離れたグロテスクな姿をしている。

「何だ! こいつら!? ガードロボットか!?」

「いやロボットじゃない……! 生体反応がある!」

「じゃあこいつらは一体…!?」

 ふと気づく。

 群れの中に、見慣れた戦闘服を着た奴が居る。

 それはまさしく…

「おい、あれ、ジェネシック社の戦闘服じゃないか?」

 リックがそう言った瞬間、そのヒトガタの物はカクカクと首を動かし、「ぎゅいああああ」と奇声を発しながらゆっくりと腕をヴァン達に向けた。

「全員撃てぇぇ!!」

 ライフルを発砲。

 50口径カービンから吐き出される徹甲弾がその『ヒトガタ』を引き裂いていく。

 赤なのか紫なのか分からない色の血を噴出し、耳障りな奇声を上げて倒れる『それ』。その全てを『射殺』し、隊は再びポートに向かって急いで移動し始めた。

「ちくしょう! 何なんだ! 一体ありゃあ…!」

 リックは言葉に出来ない生理的な恐怖感と苛立ちで思わず叫んでいた。

「あれは人間だよ……」

「E・J、おまえ今なんて言った……?」

 自分の耳を疑うリック。

「だから、あれはここの人間、ここの研究員さ。マザーコンピューターはナノマシンに侵入された生物は死ぬと言っていたけどそれだけじゃない……。死ぬのは寄生された生物の意識だけ。体内のナノマシンは神経組織を侵蝕再構成して、自分のネットワークを形作る。そして、珪素などの元素を用いて宿主の体構造を作り変える。戦闘に適した形にね。あの主任研究員はその前に自分で命を絶った。生きた屍になる前に……」

「対人ヴァリアント……」

 ヴァンが反応して答える。

「そう。大戦末期のファーストムーブ時に人サイズヴァリアントは確認されているんだ。それに操られた人間もね。隊長は知っているよね?」

「ああ、確かに戦ったことがある。とんでもない化け物さ。だが俺たちが戦った奴らとは姿がまったく違う!」

「こいつらは未だ第一段階なんだよ…!」

「それじゃあ、あのジェネシックの連中は!?」

 ヴァン隊長が叫ぶ。

「彼らが失敗したから、俺達がここに居るんだよ!」

 次の瞬間、またもやMAPSのレーダーに動体反応。

「上前方!数3!」

 天井の通気抗のネットを音を立てて破壊し、さっきと同じヒトガタが出現。ヒトガタの腕が展開し、何かを撃ってきた。

 キンッ、という音を立て、MAPSの装甲に何かが当たる。

「なんだ!? 何か撃ってきたぞ?」

 それは石灰質の鋭い矢のような物だった。

 MAPSセンサーが、矢の組成を分析。組成、炭酸カルシウム。

「うげ! 気持ち悪ぃ! こいつら自分の体組織を撃ってやがる!」

 リックはライフルのトリガーを引き、ヒトガタを撃った。

 もう、発着ポートは目前。だが、隊員が見た物は…。

「そんな……」

 思わず声を漏らすエミ。

 ドロップシップの周りに群がるヒトガタ。パイロットは、それに首をもぎ取られて息絶えていた。エンジンも破壊されている。

「ちくしょう!」

 こちらに気づき飛び掛ってくるヒトガタたち。

 隊員たちは最大の火力で応戦した。

 相手の数は50以上。ライフルの弾丸はすぐに底を突いた。

「くそ!」

 ヴァンはライフルを捨て、腰の後ろに付いたホルスターからショートバレルのショットガンを抜いた。

 鋭いポンプ音のすぐあと、太いショットガン特有の銃声が響き、散弾がヒトガタの胴体に大きな穴を穿つ。

「爆発まで5分か……」

 ヴァンは一つのことを覚悟した。それは隊の全員も同じだった。





Captur 4

「おかしい、特機からの定期連絡がない……」

 基地の上に静止するストライクウルフ。それに乗ったレイズは、基地内の特機部隊からの連絡が無いことを非常に心配していた。

「レイズ軍曹、部隊から通信です」

 思いがけず、部隊側から通信が入った。

「こちら503、レイズ! 一体どうしたんですか!?」

 無線にはノイズと銃声らしき音が混ざっていた。

「いいか、レイズ、よく聞け。我々は脱出を断念する。基地内にいた敵によってシップは破壊された! お前は母艦に戻り、任務を全うしろ! 俺達はこのままここに残る!」

 レイズの表情が凍りづいた。

「いえ冗談じゃ有りません! あなた達を残して撤収するなんて!」

 レイズは叫んだ。しかし。

「レイズ=ザナルティー軍曹! いいかよく聞け! これは命令だ! いまお前がここに戻ればお前も巻き込まれる! これは、ヴァン=ロックハマー大尉からの最初で最後の命令だ……!」

 ヴァンの言葉に、レイズは奥歯をかみ締め、

「その命令は……聞けません!」

「レイズ軍曹!」

「もう! 自分はもう、仲間を失いたくありません!」

 レイズはそう言って、コントロールレバーを強く握り締める。

「サラ! 機動推進制御起動! 基地内部に突入する!」

「了解」

「絶対に死なせはしない!」

 レイズの機体は静止軌道を外れ、直角に方向転換した。




************




 一発の銃声を最後に、部隊は全ての銃器は弾薬を使い果たした。

 しかし、周囲には未だに群れるヒトガタ。一体何人の人間が、変わり果てたのだろうか……。

「白兵戦でいくぞ!」

 ヴァンたち隊員はブレードを握り締めた。

 飛び掛るヒトガタたち。人間をはるかに超えた力で繰り出されるパンチなどを寸でかわし、腕を切り捨て、踏み足を出して胴を両断。ヒトガタの上半身がずるりと落ち、ぴくぴくと痙攣しながらぐずぐずと崩れていく。

 爆発まであと三分足らず……

 リックがつぶやく。

「だめだ、きりがねえ……」

 どこからとも無く沸いてくる異形の物にMAPSの装甲は傷だらけになっていた。

 爆発まであと二分……。その時、地面を伝って衝撃が、そして無線にレイズの声が響いた。

「みんな、カーゴに入ってください!」

 レイズの声に従い、シップのカーゴに向かう隊員たち。シップのカーゴは幸いにも酷い損傷を受けていなかった。

「全員脱出用意!」

 叫ぶヴァン。ヴァンは刃がボロボロになったブレードを捨て、両腕を構える。

「第一機甲師団第一機装大隊第二中隊第四小隊08特機隊隊長、ヴァン=ロックハマー! かかって来い雑魚ども!」

 一人、先頭に立って戦うヴァン。隊員たちをカーゴに乗せるために彼は、一人で立ち向かった。

 自分の顔面に向かって伸びる腕を掴んでそらし、思いっきり引くと同時に、肘を突き出す。装甲に覆われた肘部が直撃し『ヒトガタ』の頭部が粉々に吹き飛ぶ。

 全身にヒトガタの体液を浴びるヴァン隊長。

「レイズ! 全員乗ったぞぉ!」

 ヴァンの声に応え、レイズが動く。

「ゲートを開けます!」

 レイズがHMAの脚部側面に装備された単分子ナイフを抜き、ゲートを切り開く。それと同時に、急激な気圧の変化で外に向かって衝撃波のような突風が吹きぬけた。宇宙空間に向かって放り出されるヒトガタたち。

「おわっっ!」

 その時、ヴァンがバランスを崩して外に放り出されそうになった。

「隊長!」

 E・Jがヴァンの腕を掴む。

「ぬぎぎぎ!」

 凄まじい突風と、MAPSの重量。E・Jが力を使い果たし、共に放り出されそうになったそのとき、リックとダンがE・Jを掴んだ。E・Jを思いっきり引っ張りカーゴの中にひきいれるリックとダン。

 全員が乗ったことを確認したレイズは、HMAの右前腕に内蔵されたワイヤーを引き出し、シップを縛り、あまったワイヤーを手に巻きつける。

「サラ! 全バーニア最大出力で脱出!」

「了解!」

 バーニアが一気に推力を開放し、月面の砂埃を巻き上げてレイズ機は基地を離れる。

 爆発まであと40秒! その時。

「基地周囲に熱源!」

「なに!?」

 最初に破壊したはずの対空砲台が次々に再生していく。ナノマシンの侵蝕によって性質を変化させられた砲台はレイズ機に向かって発砲を始めた。

 緑色のビーム。レイズは気付く。

 ――これは、ヴァリアントの……!? 

 爆発まであと20秒。

 そのとき、数発のビームがレイズに迫った。

「爆装ユニット、パージ!」

 切り離されるユニット。ユニットを楯にしてレイズは砲台からの攻撃を遮断。

 宇宙空間に取り残されたユニットに砲台の光条が立て続けに命中。金属のプラズマと化し、大量に装備されたミサイル類に誘爆。瞬時に火の玉となった。

 そして次の瞬間、基地内の爆弾に火が入った。

 あちらこちらから閃光を発し始める基地。そして、バーティカルな光の柱を上げ巨大な衝撃波を発し基地は跡形も無く吹き飛んだ。

「………」

 長い沈黙が隊とレイズ達を包んだ。どれくらい沈黙していたか分からない。

 長かったのか、それとも非常に短かったのか……

「レイズ……」

「はい……」

「やったぞ」

 無線の後ろでは隊員たちの歓声が聞こえた。

「よくやった! よくやったぞ! レイズ軍曹!」

「はい……!」

 目を潤ませるレイズ。

「軍曹、あとは帰還だ」

「ええ、分かってます!」

 レイズは無線を母艦に接続。

「マザー、こちら503、任務完了。いまより帰還する」

 レイズはそう言って、機体を母艦へと帰還させた。




***********




「レイズ=ザナルティー軍曹に第一機甲師団第一機甲大隊第一機兵中隊第五小隊からの異動を命ずる」

 地球に帰ったレイズは司令官室に呼び出され、突然この言葉を浴びせかけられた。

 しかしレイズは、何がなんだか分らないような表情で、口をあんぐりと開いた。

「不服か?」と、ガルス。

 レイズは、だらしなく開きっぱなしの口を閉じ、恐る恐るガルスに問うた。

「あの……訳をお聞かせください」

 答えるガルス。

「ヴァン=ロックハマー大尉への不服従だ。否定の余地はあるまい?」

「しかし、それは――」

「異動先は…」

 ガルスはレイズの言葉を遮り、レイズの顔を見据えた。

「第一特殊機動戦闘団第一次準備部隊、“シェーファーフント”だ」

「へ?」

 思わず間抜けな表情で、聞き返すレイズ。

「聞こえなかったのか?」

「いえ……あの……?」

「もう一度言ってやろう。ミラーズと共に部隊を作れ」

 口をかくかくと振るわせるレイズ。そんなレイズを無視してか、ガルスは言葉を続ける。

「貴様の命…戦場で散らせてやる。それと、給料分以上は働いてもらう。覚悟しろ」

「そ、それじゃあ自分は……!」

「復唱は!?」

「サー・イエス・サー!」

 ガルスに敬礼するレイズ。

 かくして彼は、運命の歯車の一つとして回りだした。



[ACT 4]終

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