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VARIANTAS  作者: 機動電介
3/22

ACT3 再会

グラムに、突然の出張命令が下る。それは火星での新兵器試験。しかしそこに、反政府組織の魔の手が迫っていた…… 

Captur 1

「明日、火星に!?」

 珍しく、グラムが上ずった声をあげたのは、突然火星に行けと言われたからだ。

「ベルセポリスと言えばHMAメーカーのジェネシック‐インダストリーの研究所ですよね。数年間成果を挙げて無くて殆ど予算をもらえないと言う……。第一なぜ私が? 私が居ない間はどうするのです? もし敵襲があったら? 第一わざわざ私が出向く理由が分かりません」

「ミラーズ大佐不在の間は第一、第二機甲師団に非常召集。警戒に当たらせる。それにお前に直接出向いてほしいときっての願いだそうだ。なんでも直接、試作品の視察をしてほしいのだと」

 背凭れに寄り掛かるガルス。

「説明はした。まだ何か?」

「……いえ。行きます」

「よし。それと、この資料に目を通しておけ」

「『火星圏重要機関施設に対してテロ活動を繰り返す武装集団アストレイについての見解』? 何ですかこれは?」

「一応だ……一応」

「はぁ……了解しました。一応」

 グラムが部屋を出て行くのを見送ったガルスは、しばらくしてから受話器に手を伸ばした。

「例の資料は渡した。問題の部分は削除していたな?ああ、問題ない…」

 ガルスは受話器を置くと窓の外を眺めて呟く。

「……もっと別の容で……。いや、遅すぎたな……」




************




[翌日、火星オリンパス宇宙港]

 翌日、グラムとエステルの二人は火星オリンパス宇宙港の特別ターミナルに到着し、ゲートからハイウェイ入り口に出た。

 出るとすぐ、目の前に車が止まり、大柄な男が降りてきた。

「グラム=ミラーズ大佐ですね? ベルセポリス兵装研究所の者です」

 男は身分証を見せながら簡単な自己紹介を済ませると、二人の荷物をトランクに積め、グラム達を乗せた車を走らせた。

 車の中でグラムが男に尋ねる。

「ベルセポリスは都市一つが全て研究施設と聞いたが?」

「はい。ベルセポリスは元々自治体の管理する都市でしたが、わが社が大戦で大破したドームを買い取り、研究施設として改修し、現在に至っております」

「施設まであとどれくらいで着く?」

「後、二時間ほどです」

 彼は溜息をし、頬杖を突いて窓から外を眺める。

 密閉型のハイウェイチューブの外に見えるのは、所々に点在する小さな都市のみで後は砂だけ。

 時折見え隠れする巨大な物体――セカンドムーブ時に火星地表へ落着した地球艦隊艦船の残骸も、手付かずのままだ。

 セカンドムーブが火星に残した爪痕。敵の爪痕。

 謎の無人兵器群“ヴァリアンタス”、その正体については人々の憶測が耐えない。

 どこかの軍の極秘実験兵器が暴走したものだと説くものもあれば、太陽系内にある未発見の古代文明から湧き出てきたものだという意見や、はたまた外宇宙からきた来訪者という者さえ存在する。

 仮に研究室生まれだったとして、今となってはその研究室は大戦時に出来たクレーターと瓦礫と軍の隠蔽体質の奥深くに眠り、外宇宙だとしたらなおさらその発祥の地を見つけることは困難だろう。

 人類は火星圏防衛ラインと地球圏絶対防衛ラインを構築し、火星から監視の目を光らし、サンプルを採取し記録を丹念に追いヴァリアントの正体や分布について調査している。

 彼らの動向や正体についていまだ探しあぐねている。

 自己増殖する兵器。ヴァリアント。

 太陽系をして人類の版図足らしめることを拒む存在。

 彼らの2度目の出現がなければ、火星はいうに及ばず、太陽系の惑星という惑星はもはや人類の版図となっていたはずである。

 しかもこの惑星のテラフォーミングは大戦で一時中止しており、いまだに環境調整中。

 地球と同じ環境になるのはあと10年後である。



 もう、幾つものゲートをくぐった。

 そのゲートは全て武装したMAPS(強化外骨格)を装着した警備員が警備していた。

 予算が無いとは言え、警備だけはちゃんとしているらしい。

「着きました」

 巨大な建築物の密集する都市に入ると、男は一際大きなタワーの足元にあるエントランスの前に車を止めた。

 車を降りる二人。

 すると、一人の女性が駆け寄ってきた。二十代前半位の若い女性だ。

「グラム=ミラーズ大佐ですね? お待ちしておりました! こちらへ」

 二人を建物の中に招き入れる女性。

 二人は彼女の案内で、エントランスフロア正面の一際大きなエレベーターに乗り、地下階へ。

 下り続けるエレベーター。すでに何十フロアも通過し、やがて最下層。

 開くエレベーターゲート。目の前に現れる大きな扉。彼女はカードキーで扉を開けた。

 目の前に広がる研究室。そこには大きなスクリーンやたくさんの機器が並んでいて、大勢の研究員がコンソールのキーを叩いている。

「グラム=ミラーズ大佐、ようこそ、わがベルセポリス兵装研究所へ」

 女性は微笑みながらグラムと握手。

「では早速、新型特殊粒子砲の説明をさせていただきます」

 説明を始めようとする女性を、グラムが止める。

「ちょっと待ってほしい。“グレン=ヴェジエ博士”は何処に?」

 くすりと笑う女性。

「自己紹介が遅れて、申し訳ありません。始めまして。グレン=ヴェジエです。もしかして男性だと思っていました?」

「……」

 図星を突かれ、彼は無言で答える。

「初対面だと、皆さん男性だと思っているみたいなんです。気にしていませんから大丈夫ですよ?」

 グレンは、結った後ろ髪を左右に揺らしながら、くるりと向きを変え、コンピューターのキーを叩いた。

「では、説明の続きをさせていただきます。今回我々の開発した新型特殊粒子砲は機構内で生成したハドロン系重粒子をコヒーレント化し、射出する兵器です。共鳴粒子は命中した物質を粉砕し崩壊させるいわゆる徹甲炸裂弾です。名をつけるとすれば『コヒーレントカノン』ですね。これが完成すれば、ヴァリアントの高密度装甲も撃ち抜けます。現在はまだ試作段階ですので、チャージに時間がかかり、また消費電力も膨大で外部電源を有線で接続しています。何かご質問は?」

「火器としてはどれくらいのサイズだ?」

「数値にしますと、全長25m、重量、40tです」

「これはHMAも使用できる火器として設計しているのか?」

「はい。そうですが?」

「それにしては大きすぎるな。ディカイオスなら未だしもHMAでは、構えて撃つのが精一杯だ。持って移動なんてできない」

「試作段階ではこの大きさになってしまいましたが、改良が進めばさらに小型化できるはずです。まだ何かご質問がお有りでしたら」

「いや、以上だ」

「では、地上ドーム外の試射場へどうぞ。準備は整っております。実験機は単座式ですので、大佐の支援ユニットにはこちらから遠隔でリンクします。名前は確か…」

「エステルだ」

「……え? ええ、はい……」

「……? どうした、博士」

「いえ。実験を続けましょう!」

 無言のまま直通のエレベーターに乗り、試射場に向かうグラムを見送り、グレンは大きくため息をついた。

「何してんだろ……私」

「主任。実験機とのリンク、開始します」

「いいわ。エステル、お願い」

 エステルはグレンの言葉に従い、イクサミコ用のコネクターシートについた。

 非接触コネクト開始。研究室メインコンピューターと、エステルのバイオコンピューターを接続、リンクシークエンス。

 高速リンク。

「エステルの調子は?」

「プロセス、01から38までクリアー。驚異的な処理能力です!」

「彼女ならここのシステムを2分で掌握できるわね」

 グレンは、画面を見ながらそう呟いた。




Captur 2

「リンク完了しました」

 グレンはエステルの座る、イクサミコ専用のシートに近づき、彼女に話しかける。

「今ならもう話せるわよね?」

「はい」

「あなた凄いわね! 800のプロセスをたったの30秒で完了するなんて」

「わたしの頭脳を開発した技術者達の功績です」

「でもあなたは、こちらで預かっているデータ以上のスペックを発揮しているわ。ねぇ、あなたの名前は彼がつけてくれたの?」

「はい。わたしの正式名は“独立型戦闘支援AIユニットヒューマノイドタイプイクサミコバージョン000”ですが、彼が……ミラーズ大佐が“エステル”と言うわたしだけの名前をつけてくれました。本来、兵器のわたしに固有名は不要でした。それでも大佐はわたしを一人の仲間として、名前をつけてくれました。ですから、“エステル”。これがわたしの名です」

「いいなぁ……」

「何がですか?」

「恋人みたいで」

 エステルは、一瞬黙ってから。

「からかわないでください。……イクサミコは人間に従うようには作られていますが愛するようには作られていません」

 そう言う彼女。

 突然、グラムからのコールがかかった。

「こちら実験機、ミラーズだ。スタンバイ完了。砲へのエネルギーをくれ」

「了解。主任、開始許可を」

 姿勢を正すグレン。

「いいわ。実験開始」

 技術者達が、一斉に作業を始める。

「コヒーレントカノンへの送電開始。一号ライン通電、ニ号ライン通電、三号ライン通電開始」

「全冷却システム正常稼動中」

「共鳴フィールド展開開始」

「チャンバー内真空化」

「共鳴開始」

「臨界まで後20カウント……、臨界点突破。いつでも撃てます。主任、発射許可を」

「分っているわ。ミラーズ大佐。砲のシステムをエステルに預けます。いつでも発射できます」

「こちらミラーズ、了解。エステル、弾道計算は済んでいるな?」

「はい。全て完了しています。目標は1000m先のメタニウム単一装甲板です。厚さ100㎜、RHA換算700㎜。射撃官制は手動です」

「了解。3カウントで発射する。3、2、1、発射」

 巨大な砲身から共鳴粒子弾が発射された。

 粒子弾は真っ直ぐ目標に向かい、粉砕、貫通。様々な波長の電磁波と光を放射し、目標を完全に破壊した。

「着弾確認。砲は目標を破壊。繰り返す。目標を破壊」

「どうです?ミラーズ大佐」

 誇らしげな表情のグレン。

「良い威力だ。後は小型化とチャージのスピードだな」

「改良が進めば、問題ないでしょう。実験は終了です。帰還してください」

「わかった」

 移動用のプラットホームに乗ろうとしたそのとき、グラムは突然、HMAを停めた。

「大佐? どうしました?」

「最近この近辺でテロが多発していると、来る前聞いたんだが…」

「……え? ええ。そうですけど、それが何か?」

「最新の兵器を外で試験している今……、今こそ格好のタイミングとは思わないか?」

「ええ。まあそうですけど……、まさか、うちは目標になるほど有名では……」

「いや、何かが近づいて来る」

 グラムは火星の荒野に向かい、HMAの目を向けた。

 何も見えない、荒涼とした大地。

 その時、管制室のレーダーに点が映った。

「主任! 試射場前方80kmに複数の熱源体が!」

「なんですって?」

 管制室に緊張が走る。

「HMA―h18機が高速で接近中!」

 グレンは慌ててグラムに連絡する。

「大佐! 見えていますか? 大佐!!」

 混乱して何度もコール。

「聞こえてる。聞こえている! 落ち着け! それより迎撃はどうした?」

 グレンをなだめ、冷静に問いただすグラム。

「ここには迎撃用の武装なんて殆ど無いんです! あるのは機銃くらいで……」

 グラムは呆れ気味に心の中でつぶやいた。

「(なんだそれは…)」

「大佐! いったいどうしたら!」

 泣きそうな声でグレンが叫んだ。

「いいか? まず落ち着け。それから砲のエネルギーシステムをエステルから切り離せ。チャージはそっちのシステムでしろ。砲はあと何発撃てる?」

「三発は撃てますが今からのチャージでは一発しか…」

「よし。チャージしろ。それから、エステル!」

「はい」

「砲を撃ったらHMAのOSを戦闘用に書き換える。いまから書けるか?」

「はい。できます。格闘型の機甲体術ベーシックでよろしいですか?」

「ああ。やってくれ」

「了解。その際OSをカットします」

 準備を始めるエステル。

 外では敵の編隊にむかって機銃が発射され始めた。

 貧弱な攻撃だが、時間稼ぎにはなる。

「敵機接近!」





Captur 3

「隊長! 俺に先行させてくれ!」

「だぁめだ! だめだ! 編隊を崩すな! さっきから嫌なエネルギー反応がある! いくらボロ研究所でも何が出てくるか分んねぇぞ!?」

「こんな機銃しかない施設のどこに、HMAと闘える武器が有るって言うんだ! 俺は行くぜ!」

「おい!待て!」

 血気盛んなパイロットが乗っている様でしきりに先行を求めている寮機を、隊長機らしき機体のパイロットは制止するが、パイロットはスラスターをさらに吹かし機体を加速。制止の声を無視して先行して行く。

 その時突然の警告音、高エネルギー反応?

「え…?」

 先行した機体が、突然跡形も無く消し飛んだ。

「ビームキャノンか!? いや……熱量が消えた。全機、砲撃はカンバンだ! 全速で突っ込め!」

 次の攻撃が無い事を悟り、高速で迫る7機のHMA。

 砲を撃つ時間はもう無い。

「よし。エステル。OSを再構築しろ」

「了解」

 エステルがOSを再構築し始める。

「でも大佐! いくらエステルでも今からOSを再構築するのは不可能よ!」

「主任!エステルのシステムが……!」

「なに?一体どうしたの!?」

 画面を見たグレンは驚愕した。

 画面を流れる、見たことのない、駆動制御プログラム。ベースはh1規格のOSだが、これは確実に別物。

 エステルはOSを再構築どころか一から作り直していたのだ。

「なんなのこれ……彼女の能力はモンスターよ!」

 戦慄するグレンを無視するように、エステルは言う。

「戦闘プログラム構築。アップロード開始」

 グラムの乗るHMAに戦闘プログラムが送りこまれる。

 だが、その間にも敵機が距離を縮めてくる。

「隊長!前方に実験用HMAが1機。でも起動してねぇらしい」

「よしよしよし。このまま全速だ!」

「敵機3kmまで接近!」

 敵のHMAはすぐそばまで近づいていた。

「プログラム着床。起動」

 HMAが唸り声と共に再起動する。

 グラムは側にあった鉄骨を蹴り上げて掴むと、凄まじい勢いで走り出した。

「敵HMA起動! 撃て!」

 敵機がアサルトライフルをグラムに向かって撃った。

 グラムは鉄骨を地面に突き、丁度、棒高跳びの様に高く舞い上がり、ライフルの弾丸をかわし、そのまま敵機の頭を踏み潰して前方にジャンプ。

 振り上げた鉄骨で前方にいたHMAの頭と胴体を一緒に叩き潰して、他のHMAの撃って来る弾丸を、今潰したHMAを盾にして防ぐ。

 鉄屑となったHMAを敵機に向かい蹴り飛ばし、それをデコイに、1機に向かって素早く横から接近。

 気付いた敵機はグラムに向かってライフルを向けるが、グラムはさきほどのHMAから奪った単分子ナイフでライフルを切り捨てた。

 そしてそのまま鉄骨で殴りつけ止めを刺すと、敵の隊長機に向かい突撃。

 機体を回転させ、渾身の力で撃ちこむ。

 敵隊長機は機体を素早く大きく駆動させ、鉄骨を回避。

 鉄骨が空を切る。

「こいつの回避動作…知っているぞ…」

 グラムには見覚えのある動きだった。

「こいつの攻めのキレ…覚えてるぜ!」

 敵機が右手に装備されたパイルバンカーを撃ちこんできた。

 グラムはパイルを避け敵機の腕に沿って機体を回転させて、鉄骨で殴り付ける。

 鉄骨が、敵機の肩装甲をかすめ、装甲がへこむ。

「この動き! やっぱ機甲体術か!」

「一瞬だが見えたぞ…炎と門のエンブレム…」

 機体がすれ違う間に二人は互いを感じた。

 もう一度、正面からぶつかり合う。

 双方ともに攻撃を繰り出すが攻撃は当たる事無く、寸止めされていた。

 グラムが無線回線を開く。

「久しぶりだな…『ヘルゲート・ビンセント』」

「それはこっちの台詞だ。『ヘルファイヤー・グラム』」



「なに、二人は知り合いなの?」

 グレンはきょとんとした顔をしながら、エステルに尋ねた。

「ねぇ、エステル。『ヘルゲート・ビンセント』ってだれ?」

「『ヘルゲート・ビンセント』。本名ビンセント=キングストン。職業、HMAパイロット。前大戦でアフリカ戦線に傭兵として参加。同戦線に参加していたグラム=ミラーズの部隊とチームを組み、その類まれな戦闘能力で大佐と並び、『地獄の門のビンセント』、『地獄の炎のグラム』と言われた人物です」

「へぇ。じゃあ大佐とは友達なの?」

「さぁ……」

 珍しく不確定な返事を返すエステル。

 不思議に思い、グラムとビンセントの会話に耳をすますが、しかし二人は無言。

 先に口を開いたのはグラムだった。

「しばらく見ない間に、まさか傭兵からテロリストに成り下がっていたとはな」

「テロリストじゃねぇ! 今でも傭兵だ! ったく、おまえこそまだ軍にいたのか?」

「いまは軍ではなくサンへドリンにいる」

「けっ! あのいけすかねぇ連中か…」

「誰からの指示だ。何が目的だ。この砲か?」

 ビンセントが一つため息をつく。

「んな事言えるわけねぇだろ。第一、俺がおまえに言うと思うか?」

「思わん」

 グラムは即答した。

「俺もお前に質問が有る」

 少々恨みのこもった声。

「お前…… 俺の大事にしてたウイスキー、勝手に持っていっただろ!」

「……は?」

 突然のとぼけた質問に気が抜ける。

「『は?』じゃねぇよ! おまえ俺の酒、隊が帰還する時勝手に持って行っただろ! そのせいで俺は何度戦場で死にかけた事か!」

 溜息をつくグラム。

「おまえ何を言っているんだ?」

 一瞬の沈黙。

「あれは賭けで負けた時のだろ。自分が賭けて負けたじゃないか…」

「そうだったか?」

 気の抜けた返事をくり返すビンセントとグラムに、管制室にいた者達は呆然としていた。

「さて、ビンセント。この状況どうする?」

 ビンセントに向かって殺気を発するグラム。

「この状況じゃどっちかが死ぬな…」

 確かに後ほんの少しの動作で勝敗が決まる状況。

 二人の間に緊張が走る。

 一触即発の状態の中、先に腕をおろしたのはビンセントだった。

「やめだ、やめ!こんな人間と喧嘩して勝てるわけがない。 おい!全機!撤収だ!」

 グラムの機に背を向けるビンセント。だが他のHMAのパイロットは納得できていなかった。

「野郎!」

 1機のHMAがグラムのHMAに襲い掛かろうとする。

 しかし。

「止めとけ!」

 パイロットを制止するビンセント。

「おまえら、やるのは勝手だがな、皆殺しにされるだけだぜ……?」

 自然とパイロット達の脳裏に今までの情景がフラッシュバックし、襲い掛かる勇気をろうそくの火の様に消し去った。

 足早に去って行く傭兵達のHMA。その中、ビンセントのHMAが足を止めた。

「おい、グラム。またどこかで逢うかもな…」

 そう言って火星の荒野に消えていったビンセント。

 グラムはしばらくビンセントのHMAの背中を見つめてから向きを変え、エレベーターに向かった。

「博士」

「は、はい!」

「実験は成功だ。帰還する」





************





「ご苦労だったな。ミラーズ」

 ガルスが帰還したグラムにこう言うと、彼は苛立った口調で答えた。

「ええ。資料通りテロにも巻き込まれましたよ」

「そうか。それは災難だったな」

「あの資料には載せなかった事が有るんじゃないですか?」

 グラムはガルスが知っていて、自分を行かせた事を分っていた。ガルスのやった事をグラムは何もかも気に入らなかった。

「知らんな」

 ガルスは冷淡な口調で否定。

 グラムは奥歯で苦虫を噛まされた様な気分だった。

 あれから1ヶ月。

 あの事を思い出しただけで、胸のむかつく思いがする。

 資料にちゃんとビンセントの事を載せていれば、HMAのパイロットは無駄に死ぬ事は無かっただろう。

そんなことを考えながら、朝、彼は身支度を整える。

 髪をかき上げ、ため息をつく。

 そのとき、部屋のチャイムが鳴った。

 ――誰だ、こんな時間に…

 ドアを開ける。

 その瞬間、グラムの目が点になった。

 そこにいたのは紛れも無く…

「グレン…?」

 彼女は、満面の笑みで挨拶。

「おはようございます、大佐!」

「な、なぜここに…?」

「エステルに聞いて」

「あ、いや、そういうことではなくてな…? ここで何をしている?」

「うちの研究所、あの後解体になったんです…あまり利益を挙げてない研究所でしたし…それでここに出向する事に決めたんです」

 呆然とするグラムをよそに、彼女は小さく敬礼。

「本日、ジェネシック‐インダストリーからサンへドリン技術開発部に出向して参りました。グレン=ヴェジエです!宜しくお願いします!」

 彼女はそう言って微笑んだ。



[ACT 3]終

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