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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

初期掌編

幼蝉

作者: 高槻全壱
掲載日:2026/08/16

いつもの日常のはずだった。その日も朝早く妻に起こされて、多少不機嫌だった私は、


『おまえは本当に使えない女だ。最愛の夫をもっといたわって起こせないのか? 飯を作らせてもダメ、掃除をさせてもダメ、何ができるんだ? なぁお前は何ができるんだよ? 言ってみろよ。○○○○くらいのもんだろお前は。○○○○だけだよまともなのは。お前の利用価値なんてのはそれくらいだろ。それがなくなったら、もうお前死ねよ。死んで償ってくれ。そうすればお前の妹をもらってやるから。それで丸く収まるんだよ』


といつものようにまくし立てたのがいけなかったのだろうか……。


仕事から帰ると、妻の様子がおかしいことに気付いた。


「オカエリナサイ、アナタ。ゴハンニシマスカ? オフロニシマスカ?」

無表情でカタコトを喋る妻の異常さ。まばたきなど一切しない。私は一瞬恐ろしくなったが、今朝の事で精神に異常をきたしたのだろうと思っていた。


「ネェアナタ、ドウナサイマス?」

「あ、ああ……飯だ……」

「キョウハアナタノスキナモツナベョ」


そう言えば家に帰ってからもつ鍋のいい匂いがする。私の好物を覚えているくらいだ、大丈夫なんだろう。


リビングに入ると匂いはいっそう強いものになった。いや、寧ろ強烈なまでの生臭さに変わった。

グツグツ煮えたぎる、鍋の中身は一体何だ……。


「サア、メシアガレ」

そう言ってサチコは鍋の蓋を開けた。

見ると普通のもつ鍋だったが、この強烈な臭いが何とも言えない。


「これはなんのモツなんだ……?」

また凍りついたように動かない表情のサチコは答えた。

「メッタニテニハイラナイ、トクベツナモツナノヨ」

「…………」


もう疑いようがなかった。ある一つの疑念が私の頭から離れなかった。このモツはサチコの臓物だということ……。


とにかく口に入れまいと無言で席を立った時、台所の方に物影が見えた。

ちょうど腹部のあたりから、半分に折られた人間らしきもの……。ただの抜け殻。皮と肉になり果てたサチコ……。


だが私にはなんの感情も湧き上がっては来なかった。


「アナタドウシタノ?」


ここでまた、ある恐ろしい疑念が浮かび上がってきた。


「アナタノスキナモツナベガ、サメチャウワヨ」


果たしてこの疑念は、自分自身で否定しきれるのだろうか……?


「ドウカナサッタノ? アナタ」


「イイヤ、ダイジョウブダヨ。ナンデモナインダ。ナンデモナイ……………」

2010/4

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― 新着の感想 ―
妻の異変が淡々と描かれるほど不気味さが増して、最後の主人公の言葉にはぞっとしました。題名の「幼蝉」がどう繋がるのかも印象に残りました!
妻の異様な変化から、鍋の中身へ少しずつ不穏さが濃くなっていくのが怖かったです。最後まで読んだあと、題名の「幼蝉」も気になりました。
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