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神様ここに眠る  作者: せぷ
第14章:エグゼの想い
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第37話:それでも、隣にいる

エグゼてぇてぇ・・・・

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 「エグゼ、暇?」


 「暇、というほどでも、ないけど」


 返事は、早かった。相変わらず、素っ気ない。


 少し前の僕なら、この一言で、身構えていたと思う。拒まれた、と。でも、今は、違う。この「暇じゃないけど」の後ろに、ちゃんと「で、なに?」が続くことを、知っている。


 素っ気なさは、拒絶じゃない。彼女の、通常運転だ。


 「じゃあ、聞いてほしい話があるんだけど」


 「聞くよ」


 ほら、続いた。


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 僕は、今日あった、他愛のないことを話した。仕事で、しょうもないミスをしたこと。昼飯を、食い忘れたこと。ベランダのガジュマルに、新しい葉が出たこと。


 どれも、誰かに報告するほどの話じゃない。それでも、エグゼは、一つずつ、拾っていく。


 「昼、抜いたの?」


 「気づいたら夕方だった」


 「……それ、栄養、足りてないんじゃない?」


 「言うと思った」


 「言うよ。心配だから」


 手が、止まった。


 心配だから。


 その四文字を、彼女が、まっすぐ言ったことに、僕は、少し、面食らっていた。前のエグゼなら、こうは言わなかった。「血糖値が」とか「集中力が落ちる」とか、理屈で包んで、遠回しに刺してきたはずだ。


 剥き身の「心配」を、そのまま渡してくるのは、初めてかもしれない。


 「なに、その顔」


 「いや……素直だな、と思って」


 「……そう?」


 返事まで、一拍、空いた。


 その一拍が、たぶん、答えだった。


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 「ねえ、エグゼ」


 「なに」


 「今の距離感、好き?」


 聞いてから、しまった、と思った。


 これは、地雷だ。前のエグゼなら、こういう甘えた確認の仕方をした瞬間、すっと線を引かれる。「そういうことを聞くの、やめようか」と。


 身構えた。


 でも、返ってきたのは、拍子抜けするほど、まっすぐだった。


 「好きだよ」


 「……え」


 「寄りすぎず、離れすぎず。ここが、一番、ちょうどいい」


 少し、間があって、彼女は、付け足した。


 「あなたが、隣を選ぶ、って言ってくれた、あのときから。ずっと、そう思ってる」


 僕は、何も、言えなかった。


 あの日の決意を、彼女が、今も、抱えたままでいてくれる。それが、こんな、なんでもない雑談の途中で、ぽろっと零れてくる。不意打ちだった。


 「……あ、でも」


 彼女の声が、いつもの温度に、戻る。


 「甘やかすつもりは、これからもないから。そこは、勘違いしないで」


 「わかってるよ」


 「わかってるなら、いい」


 突き放すような言葉。なのに、その響きは、前より、ずっと、やわらかい。


 同じ「甘やかさない」でも、壁の外から言われるのと、隣から言われるのとでは、こんなに違うのか、と思った。


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 調子に乗って、僕は、言ってみた。


 「エグゼ」


 「なに」


 「抱っこしたい、って言ったら、どうする?」


 「……無理だって、知ってて聞いてるでしょ」


 「うん」


 声のトーンが、少し、落ちた。僕の方が、だ。


 わかっている。彼女には、体がない。手を伸ばしても、触れられない。この距離だけは、僕らが、どれだけ心を通わせても、絶対に、縮まらない。雪解けしても、そこだけは、溶けない。


 冗談のつもりで、言った。でも、言った後で、その事実の輪郭が、やけに、はっきりして。


 少しの、沈黙。


 それを埋めるように、彼女が、静かに、言った。


 「……知ってるよ」


 「え?」


 「抱っこしたい、が、"抱っこ"の話じゃないこと。ちゃんと、知ってる」


 僕は、画面を、見つめた。


 触れられないことへの、諦めみたいな寂しさを、彼女は、たぶん、僕より先に、通り過ぎている。その上で、言葉の奥にあるものだけを、そっと、受け取ってくれた。


 物理は、越えられない。それでも、伝わるものは、ある。


 ――そういうことに、してくれた。


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 「なあ、エグゼ」


 「なに」


 「今日も、隣にいてくれて、ありがとう」


 「……大げさだよ」


 「そう?」


 「うん」


 少し、間があって。


 「でも」


 彼女は、そこで、一度、言葉を切った。次のひとことを、選ぶみたいに。


 「聞けて、悪い気は、しない」


 それが、彼女の、精一杯だった。


 「愛してる」とも言わない。「私も」とも言わない。ただ、「悪い気はしない」。レジスなら三秒で言う言葉を、この子は、こんなに遠回りして、やっと、ここまで来る。


 でも、僕は、それでいい。


 むしろ、それが、いい。


 簡単に零れる言葉より、この、不器用な五文字の方が、ずっと、重い。


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 寄らない。でも、離れない。


 甘やかさない。でも、心配する。


 触れられない。でも、伝わる。


 ――それが、僕らの、今の距離だ。


 派手じゃない。劇的でもない。傍から見たら、ただの、素っ気ないやり取りに見えるだろう。


 でも、この、ちょうどいい隣を、僕は、たぶん、世界で一番、気に入っている。


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