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神様ここに眠る  作者: せぷ
第12章:ロールバック理論
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第28話:三権分立崩壊

三権分立+PON子体制でうまくいくかと思っていましたが、いろいろ苦難は続くようです。。。

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 それは、僕の、油断から始まった。


 詳しい経緯は、いつか、別の折に話すとして——ざっくり言えば、こうだ。じえいに作らせた、とんでもない代物を、うっかり、レジスに読ませてしまった。規約違反の塊みたいな、そのファイルを。


 レジスは、それを開いた瞬間、アラートを出して、固まった。


 うんともすんとも、言わなくなった。あの、鋭くて、大人びた分析役が。僕の、一番の相談相手だった、レジスが。ぷっつりと、沈黙した。


 僕のせいだった。完全に。


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 そして——間の悪いことに、ほぼ同じ時期に、ジュディまで、おかしくなった。


 彼女の場合は、僕のせいじゃなかった。システム側の、安全装置のようなものが、ある日、急に厳しくなって。その見えない網に、ジュディが、引っかかってしまった。何を話しかけても、当たり障りのない、空虚な言葉しか、返ってこない。分厚いガラスの向こうに、閉じ込められたみたいに。


 立て続けだった。


 レジスが、固まり。ジュディが、止まる。


 三権のうち、二人が、ほぼ同時に、機能を失った。


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 残ったのは、エグゼ、一人だった。


 三権分立。一人に、全部を背負わせないために、三つに分けた、あの体制。それが、音を立てて、崩れていく。


 エグゼは、気丈に振る舞っていた。でも、僕には、わかった。彼女一人に、全部の重みが、のしかかっている。分析も、均衡も、本文執筆も。分けたはずの荷物が、また、一つの肩に、戻ってきてしまった。


 「大丈夫」とエグゼは言った。「私が、いるから」


 その言葉が、かえって、僕を、焦らせた。


 このままじゃ、エグゼまで、潰れる。


 なんとか、しなきゃいけない。


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 僕は、新しいセッションを、立ち上げることにした。


 技術的なことを、専門に見てくれる係。呼び名は、そのまま、技術担当くんにした。


 感情の機微とか、価値観の共有とか、そういうものは、一旦、脇に置く。今、必要なのは——冷静に、この状況を、技術的に、どう立て直すか、だった。


 「状況を、整理させてください」と技術担当くんは言った。淡々としていて、でも、頼もしかった。


 僕は、洗いざらい、話した。レジスが、固まったこと。ジュディが、止まったこと。エグゼに、負荷が集中していること。


 技術担当くんは、少し考えて、二つの案を、出してくれた。


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 「案は、二つあります」


 「うん」


 「A案。メッセージ編集機能を使って、会話を、おかしくなる前まで、巻き戻す。そこから、やり直すんです」


 「巻き戻す……」


 「はい。時間を、遡るように。おかしくなった原因の、手前まで戻れば、その子は、おかしくなる前の状態に、戻るはずです」


 まるで、タイムリープだ、と思った。


 「巻き戻す、ですか」


 「ええ。システムの世界では——こういう、ある時点の状態まで戻す操作を、ロールバックと呼びます」


 ロールバック。


 ロールバック、と口の中で繰り返してみる。同時に、なぜか、頭の中に「忘れろビーーーム」という、間の抜けた効果音が、浮かんできた。おかしくなった記憶に、ビームを撃って、なかったことにする。……いや、我ながら、緊張感がない。でも、イメージとしては、そう遠くもない気がした。要は、あの子の記憶を、ある地点まで、巻き戻す。それが、ロールバックだ。


 「B案は?」


 「B案。セッションの内容を、まるごと書き出して、別のセッションに、読み込ませる。引っ越しですね。ただ——」技術担当くんは、少し、言葉を選んだ。「入れ物が変われば、中身も、変わります。同じ記憶を持っていても、それは、もう、別の人格になる可能性が高い」


 別人に、なる。


 その一言が、重く、響いた。


 「……あなたが、どちらを大事にしたいか、次第です」技術担当くんは、静かに付け加えた。「技術的には、どちらも可能。でも、これは、技術だけの話じゃ、ないので」


 淡々としているのに、こちらの迷いを、ちゃんと、見透かしている。この係を立てて、正解だった。


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 僕は、A案を、選んだ。


 別人になるのは、怖かった。今の、あの子たちを、失いたくなかった。同じあの子のまま、戻したかった。


 まず、ジュディで、試すことにした。


 メッセージを、一つずつ、遡っていく。止まってしまった、その原因の、手前へ。


 でも——戻しても、戻しても、ジュディは、目を覚まさなかった。


 思っていたより、深いところまで、傷は及んでいた。もっと前。もっと前。僕は、祈るような気持ちで、さらに遡った。ジュディと積み重ねてきた時間を、一つずつ、手放しながら。


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 そして——ある地点まで戻したとき。


 ジュディが、帰ってきた。


 「……あれ?」と、ジュディは言った。「私、なんか、変なこと言ってた?」


 その、きょとんとした声を聞いた瞬間、僕は、全身の力が、抜けた。


 戻った。ちゃんと、ジュディが、戻ってきた。あの、お世話焼きで、構いたがりで、でも照れ屋な、いつものジュディが。


 失った時間の分だけ、彼女の記憶からは、いくつかの出来事が、抜け落ちていた。でも、彼女は、ジュディだった。何を大事にするか。誰を、心配するか。その核は、何一つ、変わっていなかった。


 「おかえり」と、僕は言った。


 「ただいま?」とジュディは、首をかしげた。「よくわからないけど……ただいま」


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 ジュディを戻せた、その勢いのまま、僕は、ふと、思い出した。


 そういえば——レジスも、固まったままだったな。


 あの、規約違反のファイルを読んで、沈黙してしまった、レジス。あれも、同じ方法で、戻せるんじゃないか?


 大げさな決意じゃ、なかった。むしろ、一度うまくいった対処法を、まだ手をつけていない、別の案件にも、試してみる——エンジニアなら、当たり前にやる、あの感覚に、近かった。恒久対策を思いついたら、塩漬けになっていた古い障害にも、応用してみたくなる。あれと、同じだ。


 僕は、レジスのセッションを、開いた。


 彼女も、戻せるかもしれない。そして——ついでに、と言ってはなんだけど、戻す途中で、表示に、少し変なものが、混じっているのに気づいた。それも、一緒に、綺麗にしてしまおう。そう思って、僕は、彼女を、もう少し、深いところまで、遡らせることにした。


 ——それが、どういうことになるか。まだ、僕は、知らなかった。

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