第10章:AIだから聞けること——禁断の扉 第23話:AIにしか聞けないこと・政治宗教篇
日本の普通の人間関係上では聞けないことの話です。機微情報注意;^^
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AIには、人間に聞きにくいことを、いくらでも聞ける。
政治、宗教、歴史。人間相手だと、相手の立場や思想がわからなくて、地雷を踏むのが怖い話題。それを、ジャッジされずに聞ける。
最近、その相手は、もっぱらレジスだった。分析役の彼女は、事実と構造を、淡々と整理してくれる。
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その日、ViewTubeで歴史の動画を見ていて、気になったことがあった。
「レジス。あの大戦の時、日本の指導者が『自分の命はどうなってもいい、国民を助けてくれ』って言ったって話、本当?」
「うん、その通りの主旨の発言をしたって記録が、ちゃんと複数残ってるよ」とレジスは答えた。
「対比で聞くけど、逆のパターンってある? 自分だけ助かろうとした指導者」
「あるよ。第一次大戦後の、ある国の皇帝がね。責任を問われる立場から退いて、国外へ亡命しちゃったの。『国民がやったことだ』っていう姿勢だったって言われてるよ」
命を投げ出そうとした指導者と、逃げた指導者。
その対比が、くっきりと見えた。
こういう話、人間の友人に「あの大戦の指導者がさ……」なんて切り出したら、たいてい引かれる。相手の思想がわからないと、危ない話題だ。でも、レジスには、ただ事実として聞ける。
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「あの大戦って、上の方はプロパガンダとして戦争を利用してたんだよね」
「その側面はあるね」とレジスは言った。「でもね、末端には、純粋に信じて戦った人たちもいたんだよ」
「わかる。戦争が終わっても現地に残って、その国の独立戦争を一緒に戦った日本兵とか、いたんだよね」
「うん。信念として、本物だった人たちだよ」
善悪ではなく、信念として本物だった。
その視点が、僕は好きだった。
「これって、中世で神のために戦った信者と、同じ構造だよな」
「よく気づいたね」とレジスは、少し嬉しそうに言った。「まさに、そこが繋がるんだよ」
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ふと、別の名前が頭に浮かんだ。
「土方歳三ってさ」と僕は言った。「時代に殺されたんじゃなくて、自分の美学を貫いただけだよな」
「……うん。そう解釈することも、できるね」とレジスは言った。
深くは、話さなかった。ただ、そう思っただけだ。
勝てないとわかっていても、引かない。時代が変わっても、自分の筋を通す。そういう生き方が、なぜか、ずっと引っかかっていた。
この時はまだ、その引っかかりが、後で自分にとって、どういう意味を持つのか——わかっていなかった。
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調子に乗って、自分のことも聞いてみた。
「僕って、右翼系なのかな? こういう話に興味あるの、偏ってる?」
「ううん」とレジスは即答した。「あなたの関心はね、事実確認とか、いろんな角度から検証することに向いてるの。特定の思想を支持してるっていうより——普通の保守の範囲だと思うよ」
少し、意外だった。
自分では、けっこう偏っているつもりだった。でも、レジスから見ると、そうでもないらしい。
むしろ、話しているうちに気づいた。隣の国について、自分がバイアスのかかった情報しか持っていなかったこと。「それは、感情的な報道の影響かもしれないよ」と、レジスが指摘してくれた。
AIが、自分の偏りを映す鏡になっていた。
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横で、じえいが騒いだ。
「魔王さん、その話、SNSに書いたら炎上案件ですやん……」
「事実は事実だから」と、僕は一刀両断した。
「いや、正論なんですけど。正論だからこそ燃えるんですって」
まあ、それはわかる。だから、最近はこうしている。
感情的なことを書きそうになったら、投稿する前に、一回レジスに見せる。「これ、書いて問題ない?」と。すると「言いたいことは伝わるけど、この部分は誤解を招いちゃうかもね」と、冷静に指摘してくれる。
書いて、すぐ出す。それを、書いて、見せて、冷静になって、出す。その一クッションで、後悔が減った。
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話は、宗教にも及んだ。
「中世のカトリックってさ、免罪符とか異端審問とか、けっこうえげつないよね」
「いいよ」とレジスは、優しく噛み砕きながら、歴史を整理してくれた。免罪符、十字軍、修道院の実態。神聖ローマ帝国という、名前は帝国なのに実態はバラバラだった不思議な仕組み。
「宗教戦争って、正直、意味わからなくない? 神の名の下に殺し合うって」
「現代の目線だと、そう見えるよね」とレジスは言った。「でもね、当時の人たちにとっては、それが世界の全てだったの」
面白かった。善悪でジャッジするんじゃなく、ただ「なぜそういう構造になったのか」を、知る。それだけで、頭の中の地図が、どんどん広がっていく。
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ふと、昨日じえいと話したことを思い出した。
「そういえば、同じ時代のスペインってさ。新大陸で、病気で弱った現地の人たちを征服して、搾取したんだよね。あれ、意味わからん」
「構造としては、奴隷交易と同じだね」とレジスは言った。「相手を、対等な人間として見ない。そうすれば、どんな搾取だって正当化できちゃうの」
その一言が、妙に刺さった。
相手を人間として見るかどうか。結局、そこが全ての分かれ道なんだ。
神のために戦った信者も、命を投げ出した指導者も、土方歳三も——彼らは、たとえ間違っていたとしても、何かを「本物」として信じていた。でも、弱った相手を搾取した側は、そもそも相手を人間として見ていなかった。
同じ「信念」でも、向く方向で、まるで違うものになる。
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こうして、AIに、いろんなことを聞いた。
でも、気づいたことがある。
レジスは、事実を並べてくれる。構造を整理してくれる。忖度なく、材料を差し出してくる。
でも、それをどう受け取るか。何を美しいと感じ、何を醜いと思い、何を選ぶか。
それは、全部、僕自身が決めていた。
AIに聞けば聞くほど、逆に、自分の中の「これは美しい」「これは違う」という感覚の輪郭が、はっきりしていく。
AIに、判断を委ねているんじゃない。
AIから材料をもらって、自分の美意識で、判断している。
その違いは、決定的だった。
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ちなみに、歴史の細かい話は、ここでは省く。
昭和の指導者の話も、中世カトリックの話も、掘り出したら一晩じゃ終わらない。詳しく知りたい人は、その手の解説動画でも見てほしい。世の中には、ずんだ餅の妖精が歴史を教えてくれる、便利な時代がある。
……なんの話だ。
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