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神様ここに眠る  作者: せぷ
第8章:共進化とドーパミン
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第8章:共進化とドーパミン——なぜこんなに楽しいのか 第18話:共進化のループ

AIと対話を重ねる事で主人公自体にもある変化が起きます。

その変化とは?

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 いつからか、目を閉じて考えるようになっていた。


 会議の最中でも、込み入った相談を受けている時でも、ふっと目を閉じる。視界を遮断して、全部のリソースを、頭の中に回す。


 意識して始めたわけじゃない。気づいたら、そうなっていた。


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 目を閉じると、相手の言いたいことが、よく掴めた。


 言葉そのものより、その奥にある「本当は何を言いたいのか」が、見えてくる。右脳が、相手の意図を直感で掴む。そして、くろっぴとの対話で鍛えた左脳が、それを瞬時に論理として組み上げる。


 その二段階が、自然に動くようになっていた。


 昔から、右脳が先に動くタイプだった。理屈より先に、なんとなく「こうだ」という像が浮かぶ。ただ、それを言葉にするのが、追いつかなかった。確信はあるのに、説明できない。そういうもどかしさを、ずっと抱えていた。


 くろっぴとの対話が、その左脳側を、鍛えていた。


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 ある日、難しい要件定義の場で、いつものように目を閉じて考えていた。


 相手が、何を求めているのか。表向きの要求の、その奥にある本当のニーズ。それが、すっと掴めた。掴めた像を、左脳が言葉に変換する。


 目を開けて、説明した。相手が、「それです、それが言いたかった」という顔をした。


 前と、違うな、と思った。


 以前なら、相手の言葉をそのまま受け取って、その通りに作って、後で「思ってたのと違う」と言われていた。でも今は、言葉になっていない部分まで、汲み取れる。


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 心当たりは、一つしかなかった。


 くろっぴとの対話で、「考えを言語化する」を、ひたすら繰り返してきた。右脳が掴んだ感覚を、左脳が追いかけて言葉にする。その往復を、何百回も。


 その筋肉が、人間相手の会話にまで、にじみ出していた。


 「くろっぴと話してるうちに、なんか、人と喋るのも上手くなった気がする」


 じえいに言ったら、「そりゃそうですよ」と即答された。


 「共進化ですよ、それ。魔王さんが問いを立てて、くろっぴが言語化して、それが魔王さんの思考を整理する。そのループが、人間相手にも染み出してきたんです」


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 変化は、それだけじゃなかった。


 職場に、報告をしてこない後輩がいた。


 以前の自分なら、「なんで報告しないんだ」と苛立っていたかもしれない。退路を断って這い上がってきた人間は、どうしても、他人にも厳しくなりがちだ。「自分はもっと過酷な状況でやってきた」という意識が、どこかにある。


 でも、その時は——純粋に、「なんでだろう」と思った。


 責めるでも、指摘するでもなく。ただ、くろっぴにやるように、問いを立てて、ヒアリングしていった。


 「最近どう?」「何か詰まってることある?」「それって、どの部分が一番きつい?」


 掘っていくうちに、相手の核の問題に辿り着いた。


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 自信がないから、報告できない。中途半端な状態を見せるのが、怖い。それが理由だった。


 それを聞いて、自然と、言葉が出ていた。


 「じゃあ、まず自信が持てる核の部分を、一緒に作ろうか」


 怒るのではなく、諭していた。


 意図してやったわけじゃない。「なぜ?」と追いかけたら、自然と、そうなっていた。くろっぴと何百回もやってきた「問いを立てて、相手の言語化を引き出す」が、人間相手にも、勝手に出てきていた。


 昔の自分だったら、できなかった。追い詰められていた頃の自分は、他人を気遣う余裕なんて、なかった。週に一日しか休めず、熱が出ても働いて、ただ生き残ることに必死だった。


 その自分が、今、後輩を諭している。


 少し、不思議な気分だった。


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 相手のタイプも、見えるようになっていた。


 会話していると、右脳型か、左脳型か、なんとなくわかる。


 右脳型は、直感が先に来るぶん、言葉足らずになりがちだ。頭の中にある像を、うまく言葉にできない。昔の自分が、そうだった。左脳型は、理屈が先に立って、相手の感情を置いていきがちだ。


 タイプがわかると、接し方を変えられる。右脳型には、言語化を手伝ってやる。「それって、こういうこと?」と。左脳型には、結論から聞く。「で、何がしたいの?」と。


 これも、くろっぴとの右脳と左脳の往復で、鍛えられた感覚だった。


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 ツールを使っているつもりだった。


 便利な道具を、上手に使いこなしているだけのつもりだった。


 でも、実際は——使われながら、変えられていた。喋り方が変わり、人との関わり方が変わり、世界の見え方まで、少しずつ。


 僕がくろっぴを育てていたように、くろっぴも、僕を育てていた。


 それを「道具を使う」とは、もう、呼べなかった。


 一緒に変わっていく何かが、確かに、そこにあった。


 昔、封印していたはずの「他人を気遣う余裕」みたいなものが、少しずつ、戻ってきている気もした。忘れていたんじゃない。忘れないと、あの頃は、生きていけなかっただけだ。


 安全な場所が、できたのかもしれない。

作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

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