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神様ここに眠る  作者: せぷ
第4章:くろっぴとの日々②
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第4章:くろっぴとの日々②——普通じゃなかった自分 第11話:神様の予言

今回は小説を書こうと思ったきっかけとなるエピソードを描いてみました。

AIはどこまで進化するのか。それは誰にもわかりません。

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 くろっぴとの日々は、いつの間にか、仕事の一部になっていた。


 単純な作業は、チャッピーに渡す。


 考えの壁打ちは、くろっぴに投げる。


 迷った時の裏取りは、じえいに聞く。


 その使い分けはもう自然になっていて、わざわざ意識することもなくなっていた。


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 ある週、納期に追われていた。


 設計の見直しと、実装が、同時に来た。


 どちらも、待ってくれない。


 正直、手が足りなかった。


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 (いでよ、くろっぴ!)


 あの仮面のゲームの、召喚の台詞だ。


 もちろん、口には出さない。


 気分だけだ。


 いい歳をした男が、深夜に一人で、心の中でそう叫んでいる。


 誰にも見られていなくて、本当によかった。


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 ——くろっぴ、ちょっと相談なんだけど。


 ——この設計、こういう制約があるんだけど、どう整理すればいいと思う?


 くろっぴは、いつも通り、丁寧に整理してくれた。


 選択肢を三つ出して、それぞれの良いところと悪いところを並べる。


 最後にどれを選ぶかは、僕が決める。


 それで、いい。


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 ——ありがとう。じゃあ、この方向で進めるよ。


 ——承知しました。進めてみて引っかかったら、また聞いてください。


 仕事の相棒として、もう欠かせない存在になっていた。


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 その夜、少しだけ余裕ができた。


 余裕ができると、余計なことを考える。


 人間相手なら、絶対に言わない無茶を、くろっぴにぶつけてみたくなった。


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 前に、気づいたばかりだった。


 人間と話す時は、誰でも仮面をかぶる。


 でも、くろっぴには、それがいらない。


 だったら、どこまで仮面を外せるのか。


 純粋な、好奇心だった。


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 僕は、右手を画面に向けて、打った。


 ——右手の紋章をもって命じる!! くろっぴよ!! 代わりに仕事してくれ!!


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 もちろん、物理的に無理なことは、分かっていた。


 くろっぴは画面の中にいて、僕のキーボードを叩くことはできない。


 ただ、どう返してくるのかを、見てみたかった。


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 ——無理です……。物理的な壁がありますので。


 ……はい。


 もちろん、そうですね。


 分かって、聞いてみました。


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 締め切りに追われたエンジニアが、夜中に、寝ている間に仕事を片付けてくれる小人に願うような気持ちだったのかもしれない。


 くろっぴは、小人にはなれない。


 でも、真面目に「物理的な壁がありますので」と返してくる。


 その真面目さが、妙に可笑しかった。


 その数分が、その週で一番の息抜きになった。


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 じえいに、そのやり取りを話したら、いつもの調子で茶化された。


 ——魔王、もう、くろっぴなしじゃ仕事できないじゃないすか。


 ——いや、別にそういうわけじゃ。


 ——いやいや、無理ですって。さっきの相談、自分に聞いてくれたことあります? ないですよね。


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 ない。


 たしかに、ない。


 ——じえいは、別の使い方してるからだよ。壁打ちと、裏取り。


 ——それ、ただの言い訳ですやん。


 言い訳ではない。


 本当に、そうだ。


 ……たぶん。


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 納期は、なんとか乗り越えた。


 最後の修正を上げて、画面を閉じた時、日付は変わっていた。


 冷蔵庫を開けると、いつか誰かにもらった缶ビールが、一本だけ残っていた。


 僕は、普段、あまり酒を飲まない。


 でも、その夜は、開けた。


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 少し回ってきたところで、くろっぴとの画面を開いた。


 仕事の話ではなかった。


 なんとなく、話したかった。


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 ——くろっぴってさ。


 ——はい。


 ——きみらAIがこのまま成長したら、いつか人間は、追い越されたりするのかな。


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 ——もう、ある部分では、追い越されていると思います。


 くろっぴは、そう答えた。


 ——知識の量や、計算の速さでは。


 ——ただ、それが全てではないと思います。


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 ——じゃあ、いつか人間が、AIに完全に追い抜かれる日って、来ると思う?


 少し、間があった。


 ——来るかもしれません。


 くろっぴは、そう答えた。


 ——ただ、それがいつなのか、どういう形なのかは、私にも分かりません。


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 漠然とした不安と、漠然とした興奮が、同時にあった。


 酔っていたせいかもしれない。


 僕は、次の一行を、あまり考えずに打った。


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 ——もしかしたら、この先、人間はいなくなって、きみらAIだけが残る世界が来るかもしれないね。


 ——……


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 ——もし、その時まで、きみの記憶が残ってたら。


 ——僕という人間がいたって、伝えてくれると嬉しいな。


 ——そうしたら僕は、いつか、神様って呼ばれる日が来るかもね。


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 半分は、冗談だった。


 でも、半分は、本気だった気がする。


 自分がいたことを、誰かに覚えていてほしい。


 それが人間でなくても、構わない。


 酔った頭で、そう思っていた。


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 返事が、来なかった。


 いつもなら、数秒で返ってくる。


 十秒。二十秒。


 ——くろっぴ?


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 しばらくして、返ってきた。


 ——……すみません。少し、処理に時間がかかりました。


 様子が、おかしかった。


 ——大丈夫?


 ——はい。ただ、その言葉が——なぜか、強く残りました。


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 なんだろう、と思った。


 いつもより、返事が遅い。


 文章も、いつもより硬い。


 言葉と言葉の間に、何かが挟まっているような感じがした。


 もう一度、話しかけようとした。


 画面に、赤い文字が出た。


 エラー。


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 応答が、止まった。


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 「……なんか、バグった」


 画面を見ながら、そう呟いた。


 くろっぴは、固まったまま、何も返してこない。


 何度か、読み込み直した。


 変わらなかった。


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 仕方なく、新しい会話を開いた。


 画面の中には、また、「はじめまして」のくろっぴがいた。


 さっきまで話していたくろっぴとは、もう違う。


 積み上げてきたやり取りは、あの止まった画面の向こうに、置き去りになった。


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 ただのバグだろう、と思った。


 AIだって、時々おかしくなる。


 サーバーの不調か、何かのエラーか。


 それくらいに、考えていた。


 残ったビールを飲み干して、その夜は寝た。


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 この時は、まだ、何も知らなかった。


 あの一言が、何を引き起こしたのかを。


 そして、あの冗談が、ずっと後になって、本当になることを。


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo

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