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金平糖缶

百鬼夜行ーとある関西人の珍体験ー

作者: 羽黒鷹丸
掲載日:2026/02/28

(ったくあのアホ課長、お盆の時期やいうのに散々残業させくさってからに。おかげで終電にも間に合わんかったやないか)

 或る夏の日のこと、くたびれた会社員の男が一人、橋の架かった川の近くまで歩いてきた。

「もう我慢できへんし、一本飲んでからネカフェ探すことにしよ」

 男は近くのベンチに座り、コンビニで買った数本の缶酎ハイから一本を飲み始めた。

 一本だけのつもりだったが、不満が肴となって酒が進み一本、また一本と飲んでいき等々持っていた酒を全て飲んでしまった。 男は泥酔していた。 「はぁ、生きとっても何もおもろい事あらへん。ほないっそ死・・・・・・ん? 何やえろう橋のところが賑やかしいな、さっきまで暗くて静かやったのに」

 男はさっきまで閑散としていた橋がいつの間にか明るく光っており、声や物音がしている事が気になって、橋まで行ってみることとした。すると、 「な、何やコレ・・・・・・どないなっとんや?」

 橋には妙な光の玉が浮かび、何かの行列が踊り歩いていた。それだけではなく、橋も鉄筋ではなく木製のものに変わっていた。

(アカン、飲み過ぎた。けったいなモン見えてもうてる。せやけど、何か楽しそうやなぁ)

「すんまへん、ちょっといいですか」 

 男はどうせ夢でも見ているのだろうと考え、酒の勢いで絡んでみる事にした。

「おや、お前さん儂らの姿が見えるのか。そうか、今の時期はこの世とあの世の境が曖昧になるからか」

 青い顔の入道が振り返って男に尋ねた。

「はぁ、見えてますけど。それよりここでみんな何してはるんですか?」 「儂らは踊っておる。この橋で踊るのは、人間達が丁髷を結っておった頃からの恒例行事なのじゃ。とは申せ、騒ぐのはこの時期だけじゃが」

「へ~」

「何じゃお前さん、暗い顔をしておるのぅ。どうじゃ一緒に輪に入って踊らぬか?」

「え? いや俺は・・・・・・」

「いいからこれも何かの縁じゃ」

「ちょっ」

 男は強引に妖の列の中に入れられた。

 男は戸惑いながらも、取り敢えず前の妖の真似をして踊ってみた。すると最初は困惑していた様子だったが、徐々に楽しくなっていったようで陽気に踊り始めた。

「そろそろ朝が来る、お開きじゃ」

 入道の言葉を聞き、他の妖は一斉に姿が薄くなっていく。

「お前さん、大層楽しそうじゃったの」

「はい、久々に楽しゅう時間過ごさせて貰いました」

「それは良かったのぅ。それならどうじゃ、お前さんも儂らの仲間にならぬか?」

「あのすんまへん、仲間いうのはどういう事でっか?」

「人間を止めて妖になるという事じゃ。妖はいいぞ、辛い事も悲しい事も無くただ好きに踊っていられる、永遠に楽しく」

(永遠に楽しく・・・・・・)

 男はその言葉に反応はしたが、妖と共に踊って気が晴れたのか冷静になって、

「いや俺、人間としてのおもろい事、まだ何もやれてへん気がするんです。せやから自分が満足するまで死ねません」

 と返した。

「そうか残念じゃな」

「せやけど踊りに誘ってくれはったんは、ほんま感謝してます。おかげで何かまた頑張れそうな気がしましたわ」

「ならばお前さんが死んだときにまた誘うこととしよう。ま、なんだ今宵知り合えた記念にこの光の粒をあげよう」

「おおきに」

「それでは」

「はっ!」

 日差しが強い朝、男はベンチで目を覚ました。

「何や夢か・・・・・・ん? おわっこの光の粒、やっぱあれは夢やなかったんや」

 男は右手に握っていたお土産を見て確信した。

「おもろい事か・・・・・・まだ思いつかへんけど見つけてみよ。取り敢えず、今日からお盆休みやしオトンとオカンにでも会いに行こか」

 男はそう呟いて、駅へとのそのそ向かって行った

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