第七章:清算の刻
マサキの肉体から、輝く粒子となって「資産」が剥ぎ取られていく。隠匿されていた金、不動産、株券の価値が、コイズミの展開した術式によって次々と数字に変換され、国庫へと強制送還されていく。
コイズミは「マタイ」をホルスターに戻すことなく、冷徹に計算結果を突きつけた。
「……お前の資産価値、および生命エネルギーの換算査定が完了した。査定結果は、48億6千700万」
マサキは床に膝をつき、自身の肌が土色に枯れていくのを絶望の目で見つめていた。かつての実業家の威厳はどこにもない。
「このうち、滞納額と重加算税、および延滞税を合わせた45億4千2百79万を、今この場で強制徴税する」
「……あ、ああ……」
マサキの口から、魂が漏れ出すような声が漏れる。部屋中に積み上げられていた高級家具、壁に飾られた名画、そして彼自身の「若さ」までもが、術式の光に飲み込まれて消えていく。
「クソっ、クソっ……! 俺が、俺がどれだけ苦労して積み上げてきたと思っている! 俺の財産を持っていくな……やめろぉ! やめてくれぇっ!」
プライドをかなぐり捨て、床に這いつくばって見えない金を掴もうとするマサキ。その姿は、かつて多くの下請け業者や従業員を食い物にしてきた怪物とは程遠い、惨めな老人のようだった。
コイズミは、もはや虫のように震えるだけの男を、冷たく、そしてどこか哀れむような目で見下ろした。
「……次からは、期限内に、正直に払うことだな。そうすれば、これほど余計な痛みを味わわなくて済む」
コイズミは懐から一通の紙片を取り出し、荒れ果てたデスクの上に静かに置いた。それは、この凄惨な「戦い」の結末を記した、あまりに事務的な書類だった。
『領収証書』
そこには、今しがたマサキの命から削り取ったばかりの「4,542,790,000円」という数字が、揺るぎない筆致で刻まれている。
コイズミは、隣で震えながら夫の変わり果てた姿を見つめるセト・ヨウコを、氷のような視線で一瞥した。
「……ご協力、感謝する」
言葉を残し、コイズミは背を向けた。
硝煙と血、そして崩壊した「富」の残骸が散らばるオフィスを、特例徴収官の孤独な足音が規則正しく刻んでいく。夜の帳が降りる街へと戻る彼の背中には、国家財政を担うという巨大な天秤の重みだけが背負われていた。




