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武装徴税官コイズミ  作者: 原田広


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第三章 金庫番の嘲笑

廊下の突き当たり、ひときわ重厚なマホガニーの扉を蹴破り、コイズミは室内に踏み込んだ。

部屋の主は、混乱する部下たちを下がらせ、デスクの後ろで悠然と待ち構えていた。

株式会社金英社・総務部長、セト・ヨウコ。

社長の妻であり、この組織の「金庫番」としてすべての裏金を差配する女だ。

高級なシルクのブラウスに身を包んだ彼女は、血の匂いを纏って現れたコイズミを、射るような鋭い眼光で睨みつけた。その瞳には、並の男を震え上がらせるだけの狂気と、冷徹な計算が宿っている。

「……野蛮な徴税人ね。宮殿に土足で上がるような真似をして」

ヨウコはデスクの上に置かれたクリスタル製の灰皿に、細い煙草を押し付けた。その指先には、滞納された税金で購入されたであろう大粒のダイヤが輝いている。

「ここはあんたたち公務員が、ハンコ片手に頭を下げに来る場所じゃないの。金が欲しければ、しかるべき筋を通して、数年かけて裁判でもやってから来なさい」

コイズミは無言で歩みを進め、ヨウコのデスクの真ん前に立った。返り血が、彼の端正な横顔を赤く染めている。

「セト・ヨウコ。法律の講釈を聞きに来たのではない。今この瞬間から、この部屋にあるすべての資産、帳簿、電子データを差し押さえる。……お前の命も、だ」

コイズミは「マタイ」の銃口を、迷いなくヨウコの眉間に向けた。

「ふん……。撃てるものなら撃ってみなさいよ。ここは国税庁の管轄じゃない。私の『王国』よ」

ヨウコが嘲笑と共にデスクの隠しスイッチを押した瞬間、部屋の壁がスライドし、黒服の狙撃手たちが銃口を突き出した。しかし、コイズミの表情は、冬の海のように凍りついたままだった。

「マタイは言っている。……『取税人たちが、あなた方より先に神の国に入る』とな」

「マタイ」の銃口をヨウコの眉間に向けたまま、コイズミの視線だけが鋭く動いた。

スライドした壁の奥、闇に潜む四人の黒服。彼らが構えるサブマシンガンの銃口が、コイズミの頭部と心臓を完全に捉えている。室内の空気は極限まで張り詰め、ヨウコの嘲笑だけが歪に響いていた。

だが、コイズミは撃たなかった。

「……撃たないのかい? 勇ましい言葉の割には、震えているのかしら」

ヨウコが勝ち誇ったように唇を吊り上げる。しかし、コイズミの瞳に宿っているのは恐怖ではなく、獲物の急所を見定める猛禽類のそれだった。

コイズミはリボルバーを構えたまま、周囲の黒服たちを、一人ひとり品定めするようにゆっくりと見渡した。その視線に射抜かれた男たちの指先が、わずかに微震する。

「勘違いするな、セト・ヨウコ」

コイズミの声は、驚くほど静かだった。

「俺が銃を抜くのは、あくまで『徴収の障害』を排除するためだ。だが、お前たちの命にそれだけの価値があるかどうか……。俺の弾丸は、一発につき国民の血税が数円分、無駄になる。今の貴様らに、そのコストを払う価値があるのか、計算しているところだ」

コイズミは「マタイ」を構えたまま、一歩、また一歩とヨウコのデスクへと歩を進めた。狙撃手たちが引き金を引きかけるが、コイズミから発せられる圧倒的な殺気が、彼らの本能を金縛りにしていた。

「……ふん、屁理屈を」

ヨウコの額に、一筋の汗が流れる。

コイズミは彼女の鼻先数センチまで銃口を突き付けると、空いた左手でデスクに置かれたハードディスクを、無造作に掴み取った。

「計算が終わった。貴様らは、まだ死ぬことさえ許されない。まずは……その腐った王国が崩壊する音を、特等席で聴いてもらう」

コイズミは黒服たちの銃口を無視し、ヨウコの眼前に「差押」と刻印された赤い封印シールを叩きつけた。

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