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我に栄光の道を!  作者: 無職無能の素人


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第4話 セレネリア

 花の精霊か。まぁなんでもいい、戦う力さえあれば何とかなるだろう。


「今日はもう寝るぞ」


「え?」


「ん?精霊って寝ないのか?いや、最初寝てたな」


「あれは気絶してたんだけど……え?」


「まぁ何でもいいや、寝るわ」


「え?えっと……」


 まるで置いてきぼりを食ったような声。だが俺はそれ以上気にせずに部屋へ戻った。俺は精霊のお世話係じゃないのだ。


 精霊はしばらく俺を見つめていたが、やがて消えた。消えたというより、俺の中に戻っていったのだろう。妙に静かな気配だけが残った。


 ――何か様子がおかしいな?

 だが、俺は眠気を優先した。


     ◇◆◇◆◇


 翌朝。イリーナと共に食事の用意をする。僅かなパンと薄いスープだけの食事だ。

 院長も一緒に同じ食事を摂る。大人には辛いんじゃないか?

 食卓に座ると、さっそく騒ぎが始まった。


「最近、食い物が減ってるよなぁ?」


 まずはレオニスが不満を垂れる。


「だよな!余計な奴が増えたからだ!」


 ラグナルも同調。二人の視線が俺に刺さる。分かりやすいことだ。


「そんな言い方ないでしょ!」


「落ち着きなさい。静かに食べるように」


 イリーナが怒り、院長のグレタが宥めるが、二人は聞く耳を持たない。


「お前のせいで腹減ってんだ!」

「食うだけの口はいらねぇんだよ!」


「レ、レオンは悪くない」


「ユイ、大丈夫だよ」


 ユイが庇おうとするがそれを止める。

 二人がひとしきり言いたいことを言った後に、テオが話し始めた。


「みんな立場は同じだよ。みんなここに預けられて育ててもらっている。誰かを責めてもそれは自分も同じだ」


 正論だ。だが、二人はそういう話がしたいんじゃない。ただ不満を俺にぶつけているだけ。そこに正しさも解答も無い。


「ふ、二人とも、リリアのパンを食べて。ね?」


 リリアが自分のパンを2つに分けて両方を差し出す。だがそれはグレタに止められていた。


 騒ぎ続ける二人と、俺を庇って怒るイリーナをよそに、俺は冷静だった。反論する気もなかった。


 ――俺が入ったせいで増えた負担なんて、せいぜい食事一人分だ。服や部屋をもらったわけでもない。元から孤児院は困窮していた。金が無ければ稼げばいいだろう。


 ちょうどアテが思い浮かんだ俺は、黙って朝食をやり過ごした。




 食後、年長組は「奉仕活動」と称して街に出かけた。

 稼ぎにもならない仕事をする意味が俺には分からない。もし働いて金を持ち帰るなら、こんなに困らないはずなのに。何をやっているんだろう?


 ……まあいい。俺は俺で考える。盗みや悪事はやらない。真っ当なやり方で金を得る。


 目をつけているのは孤児院の畑だ。小さな畑だが、少しずつ収穫できるように上手く作られている。新鮮な野菜はここでの贅沢品である。


「精霊、精霊出てこい。おーい」


 呼びかけてみるが返事はない。何度も呼ぶと、ふてくされたように光が現れた。


「……何の用」


「畑の野菜を早く育てろ」


「無理」


 即答だった。精霊はきっぱりと言い切った。


「花を咲かせるって言ってただろ」


「蕾を咲かせることは出来る。けど早く育てるのは無理」


 肩透かし。期待外れだ。花を咲かせるって本当に咲かせるだけかよ。


「役立たずだな」


 精霊は沈黙したまま俺を見つめ、それから無言で俺の中に戻っていった。

 なんだ、つまらねぇな。しょぼくれやがって。


 この後も何か稼ぎは無いかと考えたのだが浮かばない。俺はまだ6歳だ、外で働いて金を得るのは難しい。盗みが早いが、それじゃここに来た意味がない。


     ◇◆◇◆◇


 その日の夕食も、ラグナルとレオニスの文句で嫌な空気になった。俺は黙々と食べ、早々に席を立った。


 夜。部屋を抜け出して庭で座っていると、テオが近づいてきた。


「考え事?」

「うん。どうすればお金を稼げるか」


 テオは少し考えてから教えてくれた。

 孤児院の子供は「奉仕」の名目でしか働けない。荷運びなどの仕事を子供が奪えば、孤児院が子供を使って大人の稼ぎを奪うことになる。だから許されない、と。


「……なるほど」


 単純に稼ぐ方法を考えていたが、大人の稼ぎを奪うなら、大人が潰しに来るわけだ。大人の稼ぎの邪魔をしないで稼ぐなんて無理だろう?

 つまり俺にできる仕事はない。話がそこで詰まった。


 テオは困ったように笑って、「こんな時はお茶でも飲みたいね」と呟いた。


「お茶?」


「知らないの?乾燥させた草や葉をお湯に入れて、香りを楽しむ飲み物だよ」


 俺は初めて知った。

 乾燥した草や葉か。精霊なら何か知っているかもしれない。


「僕はもう少しだけここにいるよ」


「そうかい?あまり遅くならないようにね」


 テオは部屋に戻っていった。体力の無いテオに夜更かしはきついだろうに。


 一人になり、精霊を呼び出した。


「香りのいい植物を知っているか。お茶にする」


 しかし精霊はスンとした顔で、ぷいと横を向いた。


「お前は最低限の礼儀がなってない。私を何だと思っているのかしら」


「……礼儀だと?俺は聞いているだけだ。花の精霊ならそれくらい分かるだろう」


「ナマイキ!精霊を何だと思ってるの!?許せないわ!」


 なんだコイツ。生意気なのはお前だ。生意気精霊、チビ精霊、無能精霊。

 心の中で悪態をつきながら、ふと気付いた。


「お前、名前は?」


「遅い!!」


 精霊が爆発した。うるさいな、お前だって俺の名前聞かなかっただろ。一方的に不満をぶつけられるのはムカつくぜ。


「私はまだ生まれたての精霊。名を持たないわ。出会った者が名付けるのが当然なの」


 なるほど、そういうことか。俺は少し考え、ひとつ名を与えた。


「……今日からお前は――ハナだ」


 精霊がパッと顔を上げた。


「ハナ!いい名前ね!花の精霊だからハナね!って雑すぎるでしょうが!ダメ!」


 うるせぇな……。


「じゃあセレネリア、セレンでどうだ」


「セレン?どういう意味?」


「テオに教わった物語に出てくる美しい月の女神の名前だぞ。お前にピッタリだな」


 その月の女神はデカイ狼に食われて死んじまうんだがな。まぁ、わざわざ伝える必要はないだろう。


「そうね!セレン!いいわ!わたしくは花の精霊、セレンですわぁ!」


 なんか嬉しそうにクルクル回っている。名前なんかでそんなに嬉しいのか?俺の名前なんて5秒で考えた適当な物だぞ。


「俺はレオンハルト。未来の大英雄レオン」


「わたくしはセレネリア。偉大なる花の精霊セレンですわ」


 改めて互いに名乗り合った。すると、あれほどむくれていた精霊が素直に口を開いた。


「人間のお茶なんて物は知らないけど、香りのいい植物なら分かるわよ。私の言葉に従いなさい!」



 俺は頷いた。怒らせると面倒なので、とりあえずこいつは乗せておこう。

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