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第12話 下級冒険者

 夜。孤児院の大部屋で寝付けずにいた。


 セレンはとっくに静かになっているが、目を瞑るとあのザイラスを打ち倒し、人々に称賛される自分の姿が浮かび上がってくる。

 俺はこんなに浮かれた馬鹿だったのか?英雄を目指してはいるが、それは夢物語としてじゃない。もっと堅実な物のはずだ。


 ザイラスを打ち倒すってなんだ。あいつは嫌なやつだがそれだけ。倒して称賛されたとしてもすぐに牢にぶち込まれるだろう。

 そもそもあいつは俺より強い……と思う。俺は最近になってやっとまともな魔物を数匹ずつ倒しているだけ。あいつはダンジョンに通ってるんだ。


 セレンの話では魔力溜まりがダンジョン化し、完全に魔力が滞留するという。魔力があるならそこにいるだけで精霊は成長する。魔石も売ってるんだから当然魔物も倒している。

 今の俺では無理無理。犯罪者でも無いんだから、どこかで襲って精霊だけ奪えばいいんだよ。無闇に精霊を外に出すやつだから、その隙に魔力を吸収できるかも知れない。


 …………それでもやっぱり倒したい。

 なんだこの感情は。セレンが何かやってるんじゃないだろうな?


 俺は悶々とした夜を過ごした。それは、早く英雄になりたい自分を抑え、汚い手で目の前の勝利を掴もうとする戦い。

 そんなもの、いくら考えたところで答えは決まってるじゃないか。


          ◇◆◇◆◇


「ええ!?下級冒険者になりたい!?」


 俺は冒険者ギルドで申し入れをした。最低限の成果は既に出していると考えてのことだ。一番頭が緩そうなセラという女の窓口を狙った。


「早すぎるよぉ、13歳未満は見習いって知ってるでしょ?」


「はい。なので特例を申請しています。僕はほぼ毎日スノーファングを納品しています。最低限の力と貢献は証明済みだと思います」


「でもねぇ。レオンくん9歳でしょ?下級になって依頼を受けても、依頼主さんが怒っちゃうかも。やめとこ?ね?」


『なんなのこいつ!ねえ!何とか言い返しなさいよ!』


(ちょっと黙ってろ)


「下級になればダンジョンに入れますよね?僕はダンジョンに入りたいだけなんです。下級が駄目なら、ダンジョン立ち入りの許可だけでも」


「そっちの方が無理だよぉ。下級になって勝手にダンジョン行っちゃったならまだしも、見習いにダンジョン行っていいよなんて……」


 やはり無理か。どうする?忍び込むか?そう言えば知られていないダンジョンも結構あると聞いたことがあるが……。


「なんだ坊主。お前もザイオスと同じか?ギルドのルールに従えないってなら、冒険者なんて辞めてチンピラでもやってろ」


 オルセンが現れて口を挟んできた。言ってることは分かるが、その正論で済まないから話に来てんだよ。

 だが丁度いいかもしれん。受付の女たちと違ってこいつなら煽りやすそうだ。


「オルセンさん。決められたルールが例外なく正しいと思いますか?例えば、中級冒険者より、ギルドの戦闘指導員より強い見習いがいるかもしれないとは考えませんか?」


「ほう……。俺より強いって言いたいのか」


「そうです。まさか自分より強い相手に見習いを押し付けたりしませんよね?」


「……上等だ。馬鹿なガキに身の程を教えてやるよ」


「オルセンさん!?」


 ちょろいな。だがそれだけ自信があるんだろう。

 腕の方もチョロければいいんだがな。


「訓練場に行くぞ」


「はい」


「ちょっとぉ!?」


 ギルドの訓練場に入るのは初めてだ。訓練場といっても、実際は裏手の広場に過ぎないが。


『やったわね。これであいつに勝てばダンジョンにいけるってことよね?ほほほほっ、私が負けるわけありませんの!ダンジョンですわぁ!』


(戦うのは俺だ。精霊武装は出すなよ)


『分かってるわよ。でも、私に出来るのがそれだけだとは思わないことね』


(なん――)


「武器を選べ、どれでもいい」


 オルセンは既に木剣を持って立っていた。

 端の方に訓練用の武器がカゴにつっこまれている。全部木製なので斬られる心配はないが、頭をぶん殴られたらどうなるか分かんないな。


「オルセンさん!駄目ですって!支部長に見つかったらカンカンですよ!?」


「少し教育をしてやるだけだ。それが俺の仕事だからな」


 そうだ。今更やめるなんて無しだぜ。


 訓練武器にはあまり種類は無かった。剣・槍・弓・盾・棒だ。大剣もナイフも無い。

 俺の選んだのは棒。剣術も槍術も学んだことはない。それなら棒の方がマシだろう。


「手加減は無い。俺に勝てたら正規の下級冒険者として俺が保証してやる。いいな?」


「いいわけないです!」


「はい。お願いします」


 当然だ。死地に行こうと言う人間の力を見るのに加減をしてどうなる。ここはこいつに打ち勝つしかない。

 棒の構えなど知らない、相手の動きも予想できない。ただ自分の身体能力で押し切るだけだ!先手必勝!


「行きます!」


 身体強化を全力で発動する。セレンの魔力も混ざり、高速の踏み込みで大量の土が舞い上がる。


「だあ!」


 突きは駄目だ、一番躱しにくい中段の振り払い。鋭い踏み込みと棒の長いリーチにより回避をさせない。


 ガン!硬い音がして木剣に防がれる。だがそのまま押し切って振り抜き、オルセンの体勢を大きく崩した。予想外の力でたたらを踏むオルセン。チャンスだ!


「ドラァ!」


 振り下ろし。オルセンは崩れた体勢から見事に体を捻って回避した。今度は俺が振り抜いた後の隙を晒す。

 だがこれが回避されるのは予想通りだった。振り下ろしはすぐに力を抜き、オルセンが右に回避するのを見ると同時に左足を踏み込んでいた。


「もらった!」


 踏み込んだ左足を踏ん張り、落としかけた振り下ろしの向きを変える。振り下ろしに見せた振分けだ!


 勝利を確信した一撃。だが、オルセンはその攻撃を予測していたかの様にしゃがみ込む。

 振り抜いた棒はしゃがみこんだオルセンの髪を掠め、土埃を裂いて線を描いた。


「なに!?」


 経験の違いか、それともただのセオリーだったのか。俺には分からない。オルセンは当然の様な顔で次の攻撃の流れを作っていた。


 伸び切った腕を狙う、小さな動作の攻撃。なんとか片腕を棒から離すことで回避した。

 そのまま流れを止めずに踏み込んでくる。もう棒の間合いじゃない。片腕で棒を引き戻す暇すら無い。


 目前に迫る壁の様な体。それが捻られて薙ぎ払いが――


 ドンッ!


「ぐっ!」


 突然オルセンがよろめいた。まるで何かに押し込まれる様に1歩2歩下がる。


『今よ!』


「ふんっ!」


 引き戻した棒を夢中で突いた。腹の中心に命中するそれの力を抜けたのはギリギリだ。


「ぐふっ!」


「おぉー!勝負アリです!」


『やったー!おほほほほ!当然ね!』


 勝った!だがまぁ、内容的には負けだな。


「やられちまったか……。あのガキにもやられたし、俺ももう歳だな」


「いえ、凄い技術でびっくりしました。オルセンさんが受けに回ってくれなかったらすぐに潰されていたと思います」


「はぁ。こんなガキに慰められちまうとはな。最後の攻撃はなんだったんだ?」


「すみません。夢中でよく覚えていないんです」


「……そうか」


 聞くな。手の内を晒さないのは当然だろう?


「すごかったぁ。息をするの忘れてたよぉ。戦ってるときのレオンくん、荒っぽくてちょっとかっこよかったよ」


「セラさん、下級冒険者登録、よろしくお願いします。オルセンさん、無礼な態度を取ってすみませんでした」


「あぁ、分かってたよ」


 オルセンは腕を振って先に去っていった。

 実力では確実に俺の負けだ。セレンの力を借りて身体能力を無理矢理に引き上げ、それでも技術の差で負けた。だが勝負に勝ったのは俺だ。


(さっきのは魔法だな?)


『もちろんよ。私もかなり魔力が成長してるんだから。武装を出さないなら魔法くらいヨユーヨユー』


 魔法。いいな。

 魔法だけじゃない、剣術や体術も学ばなきゃいけない。もちろん知識面もだ。

 魔力を集めるだけではしゃいでいては、英雄など夢のまた夢。


「それじゃあ、下級冒険者証を作ってくるね。オルセンさんの責任で!オルセンさんの責任で!」


「お願いします」


 窓口に戻り、少し待つとセラが戻ってきた。


「はい!下級冒険者おめでと~!9歳での特例はボク聞いたこと無いよぉ」


「そうなんですね。間違いだったとならないように頑張ります」


 デカい声で言うので周りに丸聞こえだ。だがそれでいい。


「9歳で正式な冒険者に?貴族か?」

「最近毎日スノーファングを納品してるガキだ」

「オルセンと奥に行っていたが、まさか勝ったのか?」


 そんな囁き声が聞こえてくる。幻聴じゃないと思う。たぶん。いや幻聴かもしれん。



 とにかくこれでダンジョンに入る権利を得たわけだ。


『早速行くわよ!』


「残念だったな。馬車が朝と夕方しか出てないんだ」


 ある程度の情報は既に集めてある。セレンはぎゃあぎゃあ騒いでいるが、まぁ明日になれば何とかなるだろう。


 やっと自分の世界が広がった気がする。門の外に出た時も感動したが、これからは危険なことにも挑戦できるんだ。作業じゃない、挑戦だ。



 ここはカルデア王国、地方都市ドラーヴェン。2つのダンジョンを抱える内、俺が向かうのは、不人気ダンジョン「琥珀洞」だ。

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