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第11話 脅えた精霊とわがまま精霊

(精霊を見せびらかすなんて、頭がイカれてるのか?)


『馬鹿なやつねぇ。でもチャンスだわ!』


 ギルド職員のオルセンが言うには、ザイラスは精霊憑きであり、それを見せびらかしているらしい。


 チャンスか……。精霊の吸収ってどの程度力が増すんだろうな。まぁその為にはやつを倒して精霊を抜き取る必要があるんだが。


「あいつはカスだが実力は本物だ。とにかく目がいい。視野が広く、俊敏で攻撃も重いんだ。技術はないが、こちらの技を見切って対処してくる」


「オルセンさんは戦闘指導員なんですよ。レオンくんも一度見てもらったらどうですか」


「おー。でもオルセンさんは厳しいからねぇ、怪我しちゃうかも」


「いいんじゃない?レオンくんは魔物も狩ってるんだし、怪我しないうちにきちんと訓練を受けた方がいいよ」


「僕はまだ見習いですから。下級になれたらぜひお願いします。それより今はラグナルが心配で」


「ザイラスと一緒に行動してるなら、魔石を納めに来るんじゃないか?」


「そうですね。ザイラスさんは数日おきですが琥珀洞から魔石を採取しているようです。時間はレオンくんが帰った後くらいが多いと思います」


「ありがとうございます。少し時間をずらしてみます。僕から声をかけるので、このことは言わないでください」


「ガキは心配されるのを嫌がるからなぁ。坊主、よくわかってんな。ガキらしくないやつだ」


「よく言われます」



 礼をしてギルドを後にした。

 その後、今日は始まりが遅くなったので、そのまま全ての作業を後ろにずらした。

 今日もスノーファングを狩り、いつもより遅い時間にギルドに戻ってしばらく待機したが、ザイラスの姿はなかった。


 琥珀洞から魔石を獲ってくると言っていた。琥珀洞はこの街の近くにあるダンジョンの一つだ。魔力が滞留し、大量の魔物が生まれる状態になった場所。セレンが行きたがっている場所でもある。


 そこで活動しているってことは、俺より遥かに魔力を集めていることになる。倒して精霊を奪うどころか、向こうが完全に格上だ。厄介な話だな。


          ◇◆◇◆◇


 ザイラスも厄介だが、ラグナルも面倒くさい。

 助ける方法は分かったが、だから助けてやると言って素直に従うか?絶対に拒否するに決まってる。

 あの馬鹿は自分で何とかすると意地になるだろうし、ザイラスが健在であればなおさらこちらの話なんて聞かない。

 どうやって説得する?金を出してやるからやり直せ、ただそれだけなんだが……。


 わからん。これは難題だ。大体ラグナルのことなんて考えたことも無ければどうなったっていいってのが本音だ。

 どうでもいいクズの心を慮るなんて、できるかよ。


 諦めてテオに相談することにした。


「テオ、少し話をいいかな?実はラグナルを見つけたんだけど、よくない状況になってるみたいで」


「ラグナルっ!な、なにかあったのかい?」


 テオにラグナルの現状を話した。

 魔力の活性化というのができておらず、苦境にいること。スラム出身の悪い噂のある男とつるんでいること。ギルドからも悪い意味で目をつけられていること。

 ラグナルを救う方法はある。だが、そのためにはラグナルを説得しなければいけない。


 それまで真剣な様子で聞いていたテオは、突然両手で俺の腕を握った。


「ラグナルの説得は僕に任せてくれ!僕が絶対になんとかする、してみせる!だから、ラグナルを救って欲しい……!」


「テオ……?」


 明らかに様子がおかしい。以前にもこんな感じだったことがあるな。二人は出来ていたとか?まさかな。


「テオ。どうしたの?何か特別な理由が?」


「ああ、いや……なんでもないよ。」


 言わないか。少し気になるが……。


「レオン、ここにいたのね。」


「あぁリリア。もう戻るよ」


 相変わらずリリアの相手にもウンザリだ。もうラグナルのことはテオに任せてしまおう。どこかで捕まえてテオの前に連れてくればいい。それで駄目だったとしても俺はちゃんとやったことになる。

 これ以上あんな奴の事を考えたくない。


          ◇◆◇◆◇


 それから三日後、今日も収穫を終わらせてから冒険者ギルドで時間を潰していると、スラムで見た一団が入ってきた。


 周囲のざわめきがピタリと止まる。場の空気が凍ったみたいになった。

 みなが忌々しげに視線を下げる。


 ザイラスだ。取り巻きの四人とラグナルも連れている。

 ラグナルも含めた取り巻き達は、貧相な格好で年齢も体格もバラバラ。冒険者に登録しているのかもしれないが、あのザイラス以外はまともな力など無いだろう。なぜお山の大将なんかやってるんだ?


 彼らは受付の列に向かい、並んでいた冒険者を突き飛ばす。反撃しない冒険者を無視して進み、窓口で袋を放り投げ、何が面白いのかゲラゲラと笑いだした。

 他の冒険者は関わらずに距離を開けているようだ。窓口の女達も腰が引けている。 なるほど、ザイラスはあいつらを選んだんじゃなく、あいつらしか子分に出来ないんだ。馬鹿なやつ、あんな風に振る舞って何の意味があるんだ。


 人の影に隠れてそれを盗み見ていると、隣の冒険者に突然掴まれて引き寄せられた。


「坊主やめとけ。見てると因縁付けられるぞ。関わるな」


 優しいおじさんじゃねぇか。コクリと頷いて後ろを向いておく。


「おいぃ!なんだその目は!」


 ザイラスが喚き出した。やばい俺か?慌てて振り返ると、奴は別の冒険者に絡んでいた。


「俺は最年少中級冒険者!しかも精霊を持っている未来の英雄だぞ!」


 突然大声で自己紹介を始めた。昨日聞いた通りではあるが、ある意味で聞いていた以上だ。


「あいつはいつもああやって自慢してるんだ、誰も聞いちゃいねぇがな。そもそも最年少なのはこの街だけの話だ」


 なるほど馬鹿なんだな。

 おじさんは舌打ちをして冷めた目で見ている。周囲の冒険者も似たような反応だ。


「精霊出てこい!おい!」


 ザイラスが呼びかけると、首元からこぼれた光が、まるで花びらのように舞い――小さな人影を形作った。

 精霊だ。見た目はセレンと近い。小人のような姿で、何の精霊かは分からないな。

 精霊はふわふわと浮き上がるが、その顔はずっと下を向いている。脅えている?


「どうだ!これが精霊だ!お前らには一生縁が無いだろうがな!」


 そんな様子の精霊とは逆に、ザイラスは得意満面といったところだ。精霊の姿には周囲の冒険者たちも息をのんで見入っている。


 ひとしきり精霊を見せびらかしたところで満足したのか。報酬を受け取ってザイラス達は帰っていった。


 冒険者たちもようやく息を抜き、窓口の対応も回りだした。相当嫌われているな、スラム以外では話をする相手すらいないんじゃないか?


(どう思う?)


『魔力は私より溜め込んでいるわね。ナマイキだわ。あなたがチマチマやっているせいかしらね』


 やはりそうか。

 俺達より何倍も効率的に魔力を集めている。戦闘能力も高いという。

 明らかに格上。


 だが愚かだ。

 人々に嫌われてスラムの連中しか取り巻きに出来ない。精霊持ちを隠しもしない。敵が多すぎるだろう。実際に彼の行動は注目され、ラグナルを引き込んだことまで把握されている。


 思いがけずに精霊まで見ることが出来たが、やはり正面からは戦えない。精霊を見せてくれとか言って盗むか?

 帰路につきながらそんな事を考えていた。


『ねえ、ダンジョンに行きましょうよ』


「ダンジョンに?それは考えてはいたが、あれは見習いには許可がでねぇんだ」


『なんとかしなさいよ、無理なら忍び込めばいいじゃない。ずっと我慢してきたけど、あれを見たらもう駄目だわ。私もダンジョンで魔力を吸収したい』


「無理を言うな。それに、今からダンジョンに通ったからってあいつを倒せるわけじゃない」


『ダンジョンダンジョンダンジョンダンジョンダンジョンダンジョン!』


 うぜぇぇぇぇえぇぇぇ!


「いい加減にしろ!」


 ダンジョンに行きたいと駄々をこねるセレン。俺だって行きたいが、そこに至るまでは順序がある。あの野郎は搦め手で倒すか、騙して精霊を奪う方法を考えるんだ。


 だが――俺は確かに夢想していた。

 あの愚か者を正面から叩き潰し、精霊を奪い取る瞬間を。その英雄的姿を見せつけたいと。

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