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第38話 リアルサバゲー

「ねぇ翔」


夜の海の上で、天空神がぽつりと声をかけた。周囲には暗い海がどこまでも広がっており、波に揺られながら二人の体はゆらゆらと浮かんでいる。星明かりだけがかすかに水面を照らし、遠くにはもうクルーズ船の灯りすら見えなかった。


「なんだよ」


翔は疲れたように答えながら、浮き輪に腕を引っかけたまま海面を見つめていた。冷たい海水に体温を奪われ、顔色はすでにかなり悪い。それでも気力だけでどうにか浮いているという状態だった。


「私たちここで死ぬのかな」


天空神は夜空を見上げながら、まるで世間話でもするかのような口調でそう言った。だがその声には、わずかに疲労と不安が混ざっている。


「縁起でもないこと言うな!!」


翔は思わず声を張り上げる。波に揺られて体がぐらりと傾きながらも、必死に浮き輪にしがみついた。


真夜中の海を、二人はただぷかぷかと浮いていた。静かな海、満天の星、ゆっくりと揺れる波だけを見れば、ある意味ロマンチックな光景とも言えるだろう。だがそれは、船の上から眺めている場合に限った話だ。今の二人は海のど真ん中で漂流している当事者であり、そんな余裕はどこにもなかった。


しばらく沈黙が続いたあと、天空神が再び口を開いた。


「てか眠くないの翔」


海面に顎を乗せるようにして聞く天空神の声は、どこかぼんやりしている。


「この状態で寝る方が不思議だろ」


翔は呆れたように答えながらも、疲れきった目で海面を見つめていた。波の揺れに体を任せながら、ただ浮いているだけの時間が延々と続いている。


そんな感じで――


気がつけば、二人は10時間も海の上で漂っていた。


夜の間ずっと波に揺られながら浮き続けていたせいで、体力はほとんど残っていない。冷たい海水に長時間浸かり続けたことで体はすっかり冷え、指先も少しずつ感覚が鈍くなってきていた。さすがの二人も、さすがにこの状況では本気で死期を悟りかけていた。


だが、そんな状況の中でも二人はなぜかくだらない会話をしていた。


「ねぇ翔、指スマしよう」


天空神が突然言い出す。


翔は一瞬、何を言われたのか理解できず、怪訝そうな顔をした。


「指スマ?これいっせのーせじゃないの?」


「違うよ指スマだよ」


「同じだろそれ」


「違うって」


そんな、どうでもいい言い合いをしながら時間を潰していた。寒さと疲れで頭がぼんやりしてきているせいか、二人とも妙にテンションがおかしくなっていた。


そしてやがて、遠くの水平線がうっすらと明るくなり始めた。


夜の闇が少しずつ薄れていき、空の色が深い青から淡い青へと変わっていく。波の上に浮かぶ二人の体も、徐々に朝の光に照らされていった。


「……」


翔と天空神は同時にその光景を見つめていた。


やがて太陽がゆっくりと顔を出す。水平線の向こうから昇る朝日が海を金色に染め、冷たい夜の空気を少しずつ暖めていく。


その光景を見た瞬間、天空神の顔がぱっと明るくなった。


「よし!明るくなればどこかに島あるかも!」


翔も太陽の方を見ながら小さく息を吐いた。


「とりまクソ寒いから暖かくなりたい」


二人はそんな会話をしながら、必死に周囲を見回した。夜の間は暗くて何も見えなかったが、明るくなれば何か見つかるかもしれないという希望が湧いてくる。


そして――


太陽が完全に昇ってからしばらくした頃だった。


天空神が突然目を見開く。


「見て!翔!島だ!」


遠くの海の向こうに、小さな陸地の影が見えた。緑色の木々が並び、確かにそこには島が存在している。


翔の顔にも一気に生気が戻る。


「神様の身体が乾けば帰れるー!」


二人はほとんど同時に手を上げて万歳した。十時間も海を漂っていたせいで完全にテンションがおかしくなっており、疲れきっているはずなのに妙にハイになっていた。


それから二人は必死に泳ぎ続けた。浮き輪を頼りにしながら、何度も波に飲まれそうになりつつ、それでも島を目指して泳ぎ続ける。腕は重く、体は思うように動かないが、それでも陸地が見えているというだけで気力だけは残っていた。


そうして――


五時間ほど必死に泳ぎ続けた頃、ようやく昼近くになった頃に、二人はその謎の島へとたどり着いた。


砂浜に体を投げ出すようにして倒れ込みながら、天空神は荒い息を吐いた。


「翔……私たちは生きるよ!?」


信じられないというような顔で笑っている。


翔も砂浜に仰向けになりながら空を見上げた。


「あぁ……あのまま流れてたらとっくに死相出てたわ」


二人はしばらくそのまま動けず、ただ砂浜に転がったまま荒い呼吸を繰り返していた。

もうリアルサバゲーみたいな感じである。


とりあえず――


生き延びたことだけは、間違いなかった。

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