第33話 楽しい事
天空神はリュミエを取り押さえた後、翔を亜空間から取り出した。
翔の視界が緑髪の少女から空になる。
「あれ? ここは……?」
まぶたが重い。視界が白くぼやけ、焦点がうまく合わない。
頭の奥がぐらりと揺れ、身体の感覚が鈍い。背中にはひんやりとした地面の感触。どうやら屋外らしい。
風が木々を揺らす音が、やけに遠く聞こえる。
そして何より――記憶が曖昧だった。
自分はさっきまで何をしていた?
どうして倒れている?
「翔、大丈夫?」
すぐ近くから声がした。
翔の顔を覗き込んでいるのは天空神だ。
いつもは堂々としている彼女が、今は明らかに焦った様子でこちらを見つめている。
その顔を見た瞬間、途切れていた記憶が一気に繋がった。
白神山地。
森の奥。
そして――マリネ。
「あ! マリネどうなった!?」
上体を起こそうとするが、身体が思うように動かない。天空神が慌てて支えた。
「それについて話さないといけないことがある。聞いてくれる?」
声音が、いつもよりずっと静かだ。
「もちろん」
素早く返事を返す翔。
その迷いのない言葉に、天空神は小さく息を吸い込み、起きた出来事を包み隠さず打ち明けた。
森で起きたこと。
自分の判断。
そして、その結果。
すべてを聞き終えた翔は、少しだけ空を見上げ――
「そうか」
とだけ言った。
責めるでもなく、驚くでもなく。ただ受け止める声だった。
「翔、ごめんね。私が森行きたいって言ったから行ったのに、こんなことになっちゃって」
天空神の肩は小さく落ちている。
普段は天界最強クラスの神である彼女が、今はただの少女のように見えた。
そんな天空神に、翔は微笑む。
「いや、いいよ。夏休みはあと一ヶ月以上あるんだ。今日のことは、もっと楽しい思い出で塗り替えよう」
そう言って、自然な動作で彼女の頭を撫でる。
普通の女の子なら赤面してもおかしくない距離感だ。
だが天空神は自責に駆られ、それどころではなかった。
少しの沈黙のあと――
「あ、そうだ」
空気を変えるように、翔はポケットからスマホを取り出す。
画面に映っていたのは、青く透き通る海と白い砂浜。
太陽の光がきらきらと反射している、いかにも“夏”という風景だ。
「クラスのやつらで海行くって言ってたんだけど、神様くる? 海と言ったら夏の代名詞だろ!」
明るく言う翔。
その言葉に、天空神は一瞬だけ視線を泳がせる。
そして下唇を思いきり噛み、顔をしわくちゃにして言った。
「水に触れると神力使えなくなるから無理」
ぽつり、と落とすような声。
夏の代名詞終了のお知らせだ。
「入んなければいいんじゃね?」
翔は軽く言うが、天空神の表情は晴れない。
翔を見ているうちに、思い出してしまったのだ。
数百年前。
好奇心に負けて水遊びをしたこと。
その結果、神力を失いかけ、創造神にこっぴどく怒られた日のことを。
冷たい水の感触と、叱責の声がよみがえる。
「んー、じゃあさ、ボートは?」
「ぼーと?」
「ボートの中なら水に触れないし、海も近くで見られる。窓越しだけどな」
その提案に、天空神の目が少しだけ輝いた。
口角がゆっくりと上がり、ぱっと表情が明るくなる。
「ボート乗りたい!!」
先ほどまでの沈んだ空気が嘘のようだった。
――そしてこの会話から二日後。
彼らは海へ行ったことを、後悔することになる。
◆
海当日の朝。
空は快晴。雲ひとつない夏空が広がっている。
集合場所にはクラスメイト計10人が集まっていた。
海の匂いと潮風。
テンションは自然と上がる。
「じゃあ私たち着替えてくるねー」
桜がそう言い、天空神たちは更衣室へ向かった。
その瞬間、男子陣がざわざわと騒ぎ始める。
「なぁ翔、正直宙さんの水着なんだと思う? ビキニも似合いそうだけどフリルも捨てがたいよなー」
にやにやとした顔で聞いてくる友人。
翔は即答した。
「何馬鹿なこと言ってるんだ? あいつは多分ゴーグルとかつけてくるぞ」
間髪入れずツッコミを入れる。
――そして数分後。
更衣室の扉が開いた。
現れたのは天空神。
頭には水泳帽。
目にはゴーグル。
足元はサンダル。
水色のラッシュガードに、茶色の短パン。
完全防備である。
男子たちの期待を、見事に粉砕する装備だった。
彼女は――想像の斜め上をいっていた。
「なぁ神様、あいつらが可哀想だからせめて水泳帽とゴーグルは外そう!それにちょっと格好がアレだ、ボートまでビーチにいるんだろ?」
翔の言うあいつらとは多分、天空神の水着を予想していたやつらだった。さすがに水泳帽とゴーグルでメンタルが削れてしまったらしい。
「しょうがないなぁ〜」
そう言って天空神はゴーグルと水泳帽を脱ぐが天空神はとても美少女なためゴーグルを外した瞬間金色に輝くオーラに包まれた。




