第10話 早く寝ましょう
「えー、皆さん。明日はいよいよ体育祭本番です。忘れ物や寝坊がないように、準備はしっかりしておきましょう」
担任の落ち着いた声が、教室に響く。
普段なら静かなこの時間帯だが、「体育祭前日」という言葉のせいか、いつもより少しだけ盛り上がりがっていた――はずだった。
「せんせー! 体育祭のおやつにバナナは入りますかー?」
その空気を、あっさりぶち壊したのは、うちのクラスの天然担当――天空神だった。
しかもふざけた様子は一切なく、きらきらした瞳で本気の質問を投げかけている。
教室が一瞬、静まり返る。
「……バナナはフルーツなので、入ってません」
先生は一拍置いてから、淡々と答えた。
余計なツッコミも感情も一切なし。その冷静さが、逆にシュールだった。
クラスのあちこちから、くすくすと笑いが漏れる。
***
その夜。
「ふっ、たいくさいなんて子供のお遊びジャマイカ」
そう前髪をかけあげながらフルーツとお菓子を詰める。楽しみそうだ。
お菓子を持ってバンッと勢いよくドアが開く。
次の瞬間、天空神がベッドの上に飛び乗った。
「おーおー、そうだな……って、ちょっと待てぇぇい! 俺のベッドの上でジャンプすんな! 壊れるだろ!」
翔が慌てて声を張り上げる。
「大丈夫! 私、神だから! 重さゼロだもーん!」
そう言い切った直後――
ギシィィィィ……。
嫌な音が、はっきりと鳴った。
「めっちゃ音してんじゃねぇか! そのベッド、今にも逝きそうだぞ!」
「うるさーい! 体育祭の準備しないと!」
天空神はまったく気にする様子もなく、くるっと向きを変える。
「はいはい、やりますよーっと……。まずは必要な持ち物をチェックだな」
翔は半ば呆れながら、学年通信を広げた。
「何が必要だっけ?」
「学年通信に書いてあるだろ。水筒、筆記用具、はちまき、ゼッケン……」
「おっけー、持ってくるー!」
そう言うが早いか、天空神はドタドタと階段を駆け上がっていく。
その足音は、どう考えても“神”のものではなく、完全に元気な小学生だった。さっき「ふっ、たいくさいなんて子供のお遊びジャマイカ」って言ってたヤツとは思えん。
数分後。
「翔ー! あったよ! これで予定合わせできるねー!」
満足そうな声とともに戻ってくる天空神。
「予定合わせって何だよ……ていうか、そもそも合わせる気ないだろ、お前」
翔は即座にツッコむ。
その時ガラッ!という音と共に襖が勢いよく開いた。
「なに騒いでんのよ、あんたたち」
姿を現したのは、我が家のもうひとりの問題児――聖夜神だった。
腕を組み、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべている。今日はアイスくじが外れたらしい。
「体育祭の準備だよー」
天空神が、やや面倒くさそうに答える。
「へぇー。変なイベントだよねぇ、人間って。猿の運動会?」
「こら聖夜神! 猿じゃない、人だよ!」
「私からしたら大差ないわよ」
「侮辱のレベルがすげぇ!」
「……あ、ごめん翔。あんたは人間だったっけ」
「ごめんの一言で済む暴言じゃねぇ!」
翔は思わず天を仰いだ。時刻はすでに22時を過ぎていた。
「わー! 明日早いんだった! 寝なきゃ! スヤァァァァァ!!」
宣言と同時に、天空神は布団にダイブする。
『いや早いって!』
珍しく、翔と聖夜神のツッコミがぴったり重なった。
「猿と同じこと言うとか、マジで終わってるわね」
「俺、なんか今日めちゃくちゃ侮辱されてない……?」
***
深夜3時――
「翔ーーっ! 翔ーーっ!!」
耳元で響く声に、翔は半分寝たまま目を開けた。
「……今度は何だよぉ……」
「寝れないー! 目がバッキバキー!! どーしよーっ!」
「知らねぇよ……起こさないでくれぇ……」
「翔のバカーーー!!」
「なんで俺が怒られてんの!?」
理不尽にもほどがある。
***
そして朝。
「翔、起きてー。もう8時だよ」
妙に落ち着いた声で起こされ、翔は飛び起きた。
「は? 集合って何時だっけ!?」
「8時」
「ぎゃああああああああ!!! 間に合わねぇぇぇ!!」
翔は慌てて布団を蹴飛ばす。
「てか、なんでお前がまだ家にいるんだよ! ほぼ神様のせいだからね!」
「寝坊ー♪」
「余裕すぎるーっ!!」
こうして始まる、ドタバタな朝。
果たして、体育祭は無事に始まるのか――?
――燃えろ! 神々の体育祭!(※個人の感想です)
理不尽の化身。翔可哀想




