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第9話 神々と下民とウォシュレット

天空神さん天然炸裂ぅぅ

「なんでデート券ダメなのぉ〜?」


 間延びした声と一緒に、天空神が不満そうに頬を膨らませる。

 その様子は年相応の少女のようにも見えるが、発言内容が完全にアウトだった。


「俺は物じゃないんだよォ! 神様!」


 翔は反射的に声を荒げる。

 冗談半分とはいえ、自分が“景品”として扱われている現実に、どうしても納得がいかなかった。


「翔イケメン? らしいから大丈夫でしょ〜」


 天空神は悪びれる様子もなく、首を傾げながら言う。


「なんで“イケメン”に疑問形ついてんだよ! 普通つかないだろ!」


 翔のツッコミに対し、天空神は「え?」という顔で瞬きをする。


「クラスの子が言ってたよ〜。翔って、舐め回すような視線送られてるからって〜」


 その言葉に、翔の背筋がぞわっと粟立った。


「お前、それ褒めてんのか!? あと、あいつらの真似だけはやめろよ。悪影響しかないからな!」


 語尾が荒くなるのを自覚しつつも、止められなかった。

 天空神は、そんな翔の剣幕にも動じることなく、考え込むように視線を上へ向ける。


「え〜? 真似してないよ。たぶん?」


「たぶんってなんだよ……」


 翔は深く息を吐き、こめかみを押さえる。

 この会話だけで、すでにかなりの精神力を消耗していた。


「ちゃんとしてくれよ……」


 そのときだった。


「……何やってるんだ、下民(げみん)共が」


 空気を切り裂くような低い声。


 翔の肩がびくりと跳ね、反射的にそちらを見る。

 そこに立っていたのは、腕を組み、冷ややかな視線を向ける聖夜神だった。


 その目には、はっきりとした侮蔑が宿っている。


「翔はまだしも、私は下民じゃないでしょ」


 天空神は、いつもの調子であっさりと言い返した。


「神だし。だいたい、あんたの方が私より弱いんだから下民でしょ」


 一瞬、時間が止まったようだった。


 聖夜神の表情から、すっと感情が消える。

 そして、静かに一歩前へ踏み出した。


「……は?」


 低く、凍りつくような声。


「誰に向かって口きいてんの?」


 圧が、じわりと空間を満たしていく。

 翔は無意識に息を詰めた。


「一応言っとくけど、私、あんたと同じ神だから」


 聖夜神の視線は、まっすぐ天空神を射抜いている。


「散々なこと言ってるけど――私が本気出せば、あんたなんていつでも消せるのよ」


 言葉のひとつひとつが、重く、鋭い。


「消さないだけありがたく思いなさい」


 その言葉を受けても、天空神は――

 微笑みを崩さなかった。


 それどころか、ふわっとした、いつもの表情のまま立っている。


(……あ)


 翔は、背中に冷たい汗が伝うのを感じた。


 空気が、重い。

 まるで見えない重力がかかったかのように、胸が圧迫される。


 これが、五大神の“本気”。

 天空神が意図せず放っている圧力だった。


(あいつ……普段あんななのに……)


 翔はごくりと喉を鳴らす。


(やっぱり、本物の神なんだな……)


 ――しかし。


「消滅とか、さすがにナイナイ〜」


 次の瞬間、すべてを台無しにする声が響いた。


「そもそも、あんた激弱じゃん〜」


 天空神は、にこにこと笑いながら続ける。


「一応これでも五大神で、創造神に1人で太刀打ちできるのは私だけだし〜」


 先ほどまでの重苦しい空気が、一気に崩壊する。


「あんたは互角すら怪しいから、そんな心配いらないわよ〜」


 ――軽い。とにかく軽い。


(なんなんだこの神……)


 翔は頭を抱えそうになった。


 威圧感のあとに、この温度差。落差が激しすぎて、逆に怖い。


『俺の部屋やばいしアイス食お〜』


 次の瞬間、翔は自分の口から声が出ていることに気づいた。


「……え?」


 しまった、と思った時には遅い。


 天空神と聖夜神が、ぴたりと同時にこちらを見た。


「……」


 完全に、ハモっている。


「……なんか、あんたと話してるとバカバカしいわ」


 聖夜神はため息をつき、立ち上がった。


「トイレ行ってくる」


『そっちかよ!』


 今度は、翔と天空神の声が重なった。



 しばらくして。


「ふぅ〜、スッキリしたー!」


 何事もなかったかのように戻ってきた聖夜神が、堂々と言い放つ。


「この家、ウォシュレット弱すぎない?」


「デリカシィィィィィ!!」


 翔の叫びが、家中に響く。


「てか、ウォシュレットってなに?」


 追撃のように、天空神が無邪気に尋ねる。


「説明しなきゃダメなの!? いや、もう説明するけど! 人としてな!!」


「人ってそういうものなの?」


「お前ら神だろォォォ!!」


 翔の精神ゲージは、とうに限界を超えていた。


「まあ、そんなのどうでもいいじゃん」


 聖夜神は肩をすくめる。


「下民のこだわりでしょ?」


「またそれ!? 今だけでも忘れてくれ!!」


「私の辞書には“下民”って単語が太字で載ってるわよ?」


「その辞書、燃やしていい?」


 翔の悲鳴をよそに、天空神が手を挙げる。


「あ、じゃあさ〜。“デート券”の代わりに、“翔の一日しもべ券”つくってみよ〜っと!」


「無償で!?」


「うん。だってクラスの女子、翔の笑顔に惚れてるって言ってたし〜」


「俺の!? 俺の笑顔が!?」


「しもべっぽい笑顔ってことじゃない?」


「褒めてねぇぇぇぇぇ!!!」


 その横で、聖夜神は当然のように冷蔵庫を開けていた。


「ねぇ、アイスどこ? 下民ってこういうとこ気が利かないよね〜」


「勝手に開けるなあああああ!!」


 翔の絶叫が響く午後三時。


 天然な創造神と、毒舌な神。

 そして、それに振り回される一人の少年。


 この家の日常は、今日も変わらず――

 騒がしく、そして平和(?)だった。


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