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白猫シュトラと旅の記憶  作者: 肉球ぷにぷに
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見習い魔女と機械仕掛けの人形


見習い魔女の不器用な日々


エリナは、森の奥深くにある古びた塔の見習い魔女だった。彼女の髪は陽光を浴びた麦のように金色で、目は好奇心に満ちた緑色だったが、いつも少し自信なさげに揺れていた。十四歳のエリナは、師匠である大魔女リリアナのもとで魔法を学んでいたが、どれだけ努力しても魔法は思うように使えなかった。


「エリナ、集中が足りないのよ。魔法は心の力なんだから」と、リリアナはため息をつきながら言った。彼女の声は厳しかったが、どこか温かみがあった。


その日、エリナはまたしても簡単な浮遊魔法に失敗し、木の枝に引っかかったまま宙吊りになっていた。彼女のローブは泥だらけで、長い金髪は乱れていた。「うぅ…また失敗…」と呟きながら、彼女は地面に降りようともがいた。


そのとき、塔の窓辺に一匹の白猫が現れた。白い毛並みは月光のように輝き、尾は銀色にきらめいていた。蒼い目はまるで星空を閉じ込めたようで、エリナをじっと見つめていた。エリナは猫の視線に気づき、驚いて叫んだ。「わっ、猫! どこから来たの?」


猫は答えず、ただ静かにエリナを見つめていた。その存在は不思議な静けさを放ち、まるでこの世界のものではないようだった。エリナは「シュトラ」と名付けたその猫を不思議に思いながらも、魔法の失敗に気を取られ、すぐに忘れてしまった。


機械仕掛けの人形


その夜、リリアナはエリナを呼び出した。「エリナ、いい加減に上達しないと、この塔に住む資格はないわよ」と言うと、彼女は埃だらけの箱を差し出した。「これをあげる。少しは助けになるはずよ」


箱の中には、精巧に作られた機械仕掛けの人形があった。人形は少女の姿をしており、銀色の髪と琥珀色の目を持ち、関節には細かな歯車が覗いていた。リリアナは言った。「この子は『ルナ』。私の古い友人が作ったものよ。魔法を補助してくれるわ」


エリナは目を輝かせた。「ルナ! よろしくね!」 ルナは無表情だったが、エリナの手を取ると、かすかに歯車が動く音がした。エリナはルナを相棒に、魔法の練習を再開した。


ルナは驚くほど賢く、エリナの魔法の失敗を補うように動いた。火を起こす魔法が暴発すれば、ルナが素早く水をかけて消し、浮遊魔法が乱れれば、ルナがエリナをそっと支えた。エリナはルナのおかげで少しずつ自信をつけ、魔法の精度も上がっていった。


ある日、エリナが森で薬草を集めていると、シュトラが再び現れた。白猫は木の枝に座り、銀色の尾を揺らしながらエリナとルナを見つめていた。エリナは笑顔で話しかけた。「シュトラ、また会った! ルナを見てよ、すごいでしょ?」 シュトラは無言のまま、ただ蒼い目で二人を見守った。その視線は、まるで二人の未来を予見しているようだった。


魔女狩りの影


エリナとルナの生活は順調だった。エリナは簡単な治癒魔法や風を操る魔法を習得し、ルナはいつもそばで彼女を支えた。だが、平和な日々は長くは続かなかった。


ある朝、森に不穏な気配が漂った。遠くから馬の蹄の音と金属の擦れる音が聞こえてきた。エリナが塔の窓から覗くと、黒い甲冑をまとった騎士団が森を進んでいた。彼らは「魔女狩り」を掲げ、魔法を使う者を捕らえるためにやってきたのだ。


リリアナはエリナに言った。「エリナ、逃げなさい。ルナを連れて、森の奥へ!」 エリナは震えながらもルナの手を握り、塔を飛び出した。二人は森の奥深くへ逃げ込んだが、騎士団の追跡は執拗だった。


森の開けた場所で、騎士団に追い詰められた。リーダーの騎士が剣を振り上げ、叫んだ。「魔女め、覚悟しろ!」 エリナは恐怖で魔法を唱えられず、ただルナの手を握りしめた。


その瞬間、ルナがエリナの前に立ちはだかった。騎士の剣が振り下ろされ、ルナの体に深く突き刺さった。歯車が砕け、琥珀色の目が光を失った。ルナは動かなくなり、地面に崩れ落ちた。


「ルナ!」 エリナは叫び、ルナを抱きしめた。騎士団はエリナを捕らえようとしたが、突然の風が吹き荒れ、彼らを押し戻した。リリアナが現れ、強力な魔法で騎士団を退けた。「エリナ、早く逃げなさい!」 リリアナの声に押され、エリナはルナの壊れた体を抱えて森の奥へ逃げ込んだ。


壊れた絆と師匠の言葉


森の奥で、エリナはルナの壊れた体を前に泣き崩れた。歯車は散らばり、ルナの美しい銀髪は泥にまみれていた。エリナは必死に修復魔法を唱えたが、魔法は失敗に終わった。「お願い、ルナ、戻ってきて…!」 彼女の声は森に響き、涙が地面を濡らした。


そのとき、エリナの視界に白い影が映った。シュトラだった。白猫は静かにエリナを見つめ、銀色の尾をゆっくりと振った。その蒼い目は、まるでエリナに何かを伝えようとしているようだった。


エリナはふと、リリアナの言葉を思い出した。「魔法は心の力よ。信じる心がなければ、どんな呪文も意味をなさない」。エリナは目を閉じ、ルナとの日々を思い出した。ルナが支えてくれたこと、笑顔で魔法を練習したこと、共に過ごした温かい時間。彼女の心に、ルナへの深い思いが溢れた。


エリナは涙を拭い、ルナの体に手を置いた。「ルナ、君は私の大切な友達だよ。もう一度、一緒に歩きたい」 彼女は心の底から魔法を唱えた。すると、散らばった歯車が光を放ち、ゆっくりと元の形に戻り始めた。ルナの琥珀色の目が再び輝き、彼女は静かに立ち上がった。


「ルナ!」 エリナはルナに抱きつき、涙を流しながら笑った。ルナは無表情だったが、エリナの手をそっと握り返した。


空を翔ける魔女


それから数年が過ぎ、エリナは見習い魔女ではなく、立派な魔女として成長していた。彼女は風を操り、星々の声を聞き、森の生き物たちと語らう術を身につけていた。ルナは変わらずそばにいた。彼女の歯車は時折きしむこともあったが、エリナの魔法でいつも元通りになった。


ある日、エリナはルナを連れて丘の上に立った。風が彼女の金髪を揺らし、ローブがなびいた。彼女は魔法の箒を手にし、ルナに微笑んだ。「ルナ、行こう。空を飛ぶよ」


エリナが箒に跨ると、ルナもそっと隣に浮かんだ。二人は風に乗って空を舞い、雲の間を抜けた。エリナの笑顔は、かつての不器用な見習い魔女のものではなく、自信に満ちた魔女そのものだった。


丘の下では、シュトラが静かに二人を見上げていた。白猫の蒼い目は、まるでこの瞬間を永遠に刻むように輝いていた。シュトラは尾を一振りすると、ふっと姿を消した。彼女は別の世界、別の時間軸へと旅立ったのだろう。だが、エリナとルナの物語は、シュトラの心に確かに刻まれていた。


シュトラの視点


シュトラは無口で、ミステリアスな存在だった。彼女は無数の世界を旅し、時間軸を越えて物語を眺めてきた。エリナとルナの物語も、彼女にとって数多の物語の一つだった。だが、シュトラの蒼い目には、ほのかな温かみが宿っていた。エリナの成長、ルナとの絆、リリアナの教え。それらは、シュトラが傍観者として見守る価値のある瞬間だった。


シュトラは干渉しない。彼女はただ見つめ、記憶する。だが、エリナがルナを修復したあの瞬間、シュトラの尾がわずかに揺れた。それは、彼女が感じた微かな感動の証だったのかもしれない。


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