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天上の海に
狼は行ってしまった
天上の海へと
飛び立ってしまった
地上を駈けた狼は
己が仔である白狼を
背負いながら
地上でほそぼそと
生きていた
誰に害することもなく
ひっそりと
でも、確かに
見守るように生きていた
異界に伝わる鏡の翼を
幼子のための御伽噺を
動物たちの話を
水たまりの中に入れながら
ただ、ひっそりと
でも、確かに
生きていた
突如、地上に放たれた
一本の白羽の矢が
狼のもとに飛んできた
栄誉をもたらす白羽の矢
それに伴ったのは
妬みや不満を
批判や不幸を
二つの境界を割る
連刃の言刃
愚かしき言葉の海に
狼と白狼は
心を晒され続かされた
相違という事実を無視し
悦楽に浸った者たちから
逃れるために
狼と白狼は
天上へと
星の海へと
飛び立っていった
地上に残してしまった人々に
別れを告げて
狼は白狼は
新たな世界へと
旅立った
地上で天上を見上げて
男は祈る
「新たな世界で
貴方の心が
癒されますように
そして、天上で
地上を見下ろしながら
闇に抗い続ける者たちを
見守ってくださるように――」
《終》




