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 呪いを治療できるのはあたしだけ? ~忌み嫌われた災厄の黒魔女ですが、世界初の呪い治療専門の聖女になります~  作者: 鏑木カヅキ


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31話 未知との遭遇

 目の前に現れたのは人影。

 人の形をした影。

 異形の存在。

 それがベロニカの前に現れると、ベロニカの身体は突然震え始めた。

 さっきまで灯っていたはずの覚悟の火が一瞬にして消えてしまった。

 

(……な、何が起きて……こ、これは黒魔術……?)


 激しく動揺しつつも、思考は働いていた。

 非現実的な現象は間違いなく、黒魔術。

 ベロニカは目の前の人影を見上げる。

 人影はちらっとベロニカの方を見たが、なぜかすぐに目を逸らしてしまった。

 それがなぜかベロニカの心を少しだけ落ち着かせる。


(今の……何か既視感が……)


 そう思ったのも束の間、複数の足音が天幕へと迫り、そして天幕の入り口が開けられた。

 襲撃者の仲間たちが集結している。

 男たちが天幕内の異常な光景に気づくと叫んだ。


「しゅ、襲撃だ! く、黒魔女だ!!」


 一人の男が叫んだ瞬間、天幕に火が点けられた。

 煙が天幕内を満たし始める中、ベロニカの縄がいつの間にか解かれていた。

 咄嗟に後ろを向くと、短剣のような影が巨大な影の中へと消えていくのが見えた。


(やはり、わたくしの味方。助けてくれるの……?)


 煙が視界を覆い始める。

 そんな中、人影がベロニカに振り向く。


「伏せて」


 男か女かわからないくぐもった声だった。

 人間とは思えない声だったが、なぜか恐怖心はなかった。

 最初に感じていたはずの動揺も怯えも薄れていた。

 ベロニカは人影の言葉通りに、すぐにその場に伏せた。

 その瞬間、地面を覆う影から巨大な腕のようなものが現れ、拳を振り回した。

 天幕は一瞬にして吹き飛ばされる。


「な、なんだぁ!?」


 驚愕の叫びを放つ襲撃者たち。

 すでに天幕を囲うように集まっていたようで武装状態だ。

 数は六、七十人ほど。

 あの村を襲うことを考えるとかなり多い。

 間違いなく聖女見習いや聖騎士見習いがいることを想定した数だ。

 ベロニカは確信した。

 彼らの狙いは教会関係者である自分たちだと。

 襲撃者たちは人影と地面を覆う影を見て、ぎょっとしていた。


「ひ、怯むな殺せ!」


 襲撃者の中の一人が叫ぶと、全員が一斉に人影へと迫る。

 次の瞬間、ベロニカの身体が地面の影に飲み込まれ始めた。


「な、なんですの、これ!?」


 先ほど、影に飲み込まれた男二人の姿が脳裏をよぎる。

 慌てて影から逃れようとするもまったく動けない。

 まるで沼にはまってしまったかのように抗えない。

 ベロニカの身体は影に飲み込まれた。

 目を閉じ、息を止めていたベロニカだったが、不意に気づく。

 水中で感じる全身を覆うような感触はなく、鼻の入り口に空気がとどまっている感覚もない。

 恐る恐る目を開けると、そこは完全な闇だった。

 怖気を感じ、思わず口を開くと、なぜか呼吸ができた。

 液体の感覚はなく、ただそこには空間があるだけ。

 まるで黒い空に浮かんでいるかのようだった。

 下の方には気を失っている男たちが浮かんでいる。

 あれは最初に襲撃してきた男たち。

 それにさっき飲み込まれた二人の男も気絶していた。

 ベロニカは咄嗟に身構えたが、何も変化はなかった。

 むしろ適温だし、体はあまり重さを感じない。


(もしかしたら……わたくしを守るために?)


 危害を加えられている様子はない。

 あの人影はやはり味方だったのだ。

 見上げると、人影の姿が見えた。

 外の音もちゃんと聞こえている。


「うわああああ!」


 襲撃者たちの悲鳴が聞こえる。

 人影はその場から動かず、ただ佇んでいた。

 だが、周囲の影から現れる幾つもの巨大な腕が襲撃者たちを吹き飛ばしていた。

 人がいとも簡単に宙を舞っている。

 非現実的な光景だった。


「な、なんだよこれ! この腕は!? ぐわあああ!」

「か、勝てるわけがねぇ! 黒魔女に人間が勝てるはずがねぇんだ!」

「ひ、怯むな! お、おい、逃げるな!」


 阿鼻叫喚。

 人影はその場から動かず、周囲の影から生まれた複数の腕が暴れ回っているだけだった。

 腕は襲撃者たちを吹き飛ばし、投げ飛ばし、殴り飛ばしていた。

 襲撃者の数はすでに半数まで減っている。

 気絶した襲撃者は地面に倒れ、影の中に飲み込まれていった。

 ベロニカは影の空間に落ちた襲撃者を遠巻きに眺める。

 襲撃者はそのまま影の空間の下の方で止まった。

 ベロニカがいるのは影の空間の上部で、襲撃者たちは下部にいる。

 何人も何人も襲撃者が影に飲み込まれては落ちていった。

 まるで作業だ。

 ゴミを片付けて、ゴミ箱に放るような。


(すごい……これが黒魔女の強さなの?)


 ベロニカは好奇心を抑えきれない。

 聖女や教会にとって黒魔術や黒魔女は禁忌。

 触れてはならず、関わってはならず、知ってはならない存在。

 それは知っている。

 だがベロニカは夢中になって見てしまう。

 圧倒的な強さ。

 自分の意志を貫く力。

 悪党を簡単になぎ倒すその姿に。

 ベロニカは憧れた。


「そこまでにしてもらおうか」


 そんな時、暗がりから女の声が聞こえた。

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