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 呪いを治療できるのはあたしだけ? ~忌み嫌われた災厄の黒魔女ですが、世界初の呪い治療専門の聖女になります~  作者: 鏑木カヅキ


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21話 才能

 シスタークレアが心配そうにテレジアの顔を覗き込んでくる。


「テレジアさん、あなた呪いの治療方法はわかっていますか?」

「この呪いは単純な進行型の呪いですが、呪いの糸の細さ、濃さ、形、性質などから、呪い自体は大したものではないことがわかります。術者、あるいは呪物はそれほど強い呪いを持ってはいないようです。糸のような呪いは徐々に伸びていく形式なので、単純に縮めればいいはず。ですので呪いの糸の先端から治せば問題ないかと思います」

「……やはり、あなたには呪いの知識があるのですね」


 シスタークレアは渋面を浮かべていた。

 清廉潔白なはずの聖女見習いが黒魔術に詳しい上に黒魔力を持っている。

 これは明らかに問題だ。

 テレジアもそれには気づいていたが迷いはなかった。

 目の前で苦しんでいる人を助けたい。

 今はそれだけ考えている。


「シスタークレア。あたしは黒魔術の知識がありますが、白魔術の知識は少ないので教えていただけますか? 白魔術は呪いそのものも正しく元に戻す力がありますか?」

「ええ、もちろん。呪いにも作用します。すべての呪いは治療する順番が重要ですが、あなたの言う通り、呪いの進行部分から治せば問題ないかと思います。私が補助しましょう」


 シスタークレアにコクリと頷くテレジア。

 その合図を皮切りに、テレジアは治療を開始する。


「集中し、いつも通り白魔力を放出してください。ただし怪我を治すように大量の白魔力を出す必要はありません。むしろ量を多くすると危険です。想定以上に呪いが進行する可能性がある。呪いの大きさに合わせて調整するのです」


 シスタークレアの指示通り、テレジアは白魔力を手のひらから生み出す。

 それは非常に小さな光。

 小指の先の十分の一程度の大きさ。

 呪いの糸と同じ細さ。

 じっと見つめても光っていると気づくのが難しいほどの光量だった。

 テレジアはこの三か月、ずっと白魔力を放出する修練を続けていた。

 白魔力の量は大して増えなかったが、白魔力の出し方は染みついている。

 量を増やせはしないが、減らしはできる。

 それは黒魔女として長い間、黒魔術を使い続けたおかげで身についた魔力操作力であった。

 黒魔力も白魔力も魔力は魔力。

 性質も用途も違うが、やり方は同じだ。

 

「……素晴らしい」

「なんて精緻な魔術操作……!」


 感嘆の声を上げるシスタークレアとベロニカ。

 聖女と聖女を志す者であるからこそ、その技術の高さが伝わる。

 特にベロニカは衝撃を覚えていたようで、驚きから目を見開き、テレジアをまじまじと見つめていた。

 テレジアは白魔力を患者である少女の胸部へと移動させる。

 今もなお蠢く呪いの糸。

 その先端は心臓の周囲を回り、キリキリと締め付けていた。

 呪いは厄介な黒魔術だ。

 正しい順番で治療しなければ呪いが強くなったり、暴走したり、あるいは治療者に呪いが移ることもある。

 正しく元に戻すという性質がある白魔術が正しくない順序で呪いに触れると、呪いが溢れ出し、危険な状態になるのだ。

 それはテレジアも知っていた。

 テレジアは白魔力を操作し、呪いの糸の先端に触れさせた。

 固唾をのんで見守るベロニカとシスタークレア。

 黒い呪いの糸は白い光に触れるとその姿を薄れさせる。

 まるで影が光に飲まれるように、先端の黒い糸が僅かに消えた。

 浄化だ。

 まだ患者の少女は苦悶の表情を浮かべているが、治療で悪化している様子はない。

 治療は進められそうだ。

 ほっと胸をなでおろすベロニカとシスタークレア。

 ユリウスと父親は何が起こっているのかわからないという顔をしているが、緊迫感は伝わっているようで、険しい顔つきをしている。


「……続けます」


 テレジアは短く言うと治療を継続する。

 心臓の周りを細く黒い糸が何重にも巻かれている。

 恐らく数百回は巻かれており、繭のようになっているため、少しでも間違えば先端以外の部分に白魔力が触れてしまう。

 たった一度の失敗で、下手をすればここにいる全員が呪い殺されるかもしれない。

 テレジアは集中力を高めた。

 慎重に白魔力を動かし、呪いの先端だけに触れさせる。

 治療は進む。

 少しずつ少しずつ。


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